そうなると、幼いマデュラと初めて顔を合わせた人間がレイリーからガープに変わる、というのが無難ですね。
結局センゴクさんの胃が死ぬことに変わりはなさそうな気もしますけど。
大監獄インペルダウン、LEVEL6。
様々な理由から存在を抹消された程の罪人が収監されている、この“存在しないはずのフロア”は、今。
かつてないほどの緊張感に包まれていた。
「あん……? てめェ、ロジャーんとこにいた若造じゃねェか。ガハハハハッ!! ざまあねェ! 姿を見ねえとは思っていたが、無様に捕まっていやがったか!」
「……うるせェ。てめェこそ、どこで何していやがった。黒狼鳥」
元ロジャー海賊団戦闘員にして、現役時代の“冥王”シルバーズ・レイリーと並ぶ程の強さを誇ると言われた程の男。
“鬼の跡目”、ダグラス・バレット。
彼一人を捕らえるために発動されたバスターコールの前に敗れ、こうしてインペルダウンに収監されていたのだ。
そんなバレットを嘲笑うのは、LEVEL6のバカどもに舐められないため、怒ってもいないのに珍しく黒狼鳥へと変身しているクック先生ことガルルガ。
古き時代の怪物である両者は、まだ海賊王が存命だった時代に面識があった。
「おれか? おれはな。この歳になってようやく、このおれが全身全霊で支えたいと思える人間に出会った! 知ってるか? 巷じゃ蛇王龍って呼ばれてる可愛い女の子なんだが。っとあァ、すまねェ!! こんなアナグラに閉じ込められてるマヌケなてめェが知ってるわけも無かったな!!」
「はァ? てめェがか……? それも女だと!?」
冥王や英雄ガープ、そして白ひげと比べるとさすがに若干知名度に差があるものの、“黒狼鳥”の名は大海賊時代が到来する前の海を生きた伝説として知られているビッグネームだ。
そんな大物中の大物があのダグラス・バレットと会話している様を、凶悪な囚人たちが興味深そうに見守り、聞き耳を立てている。
未だ若いエースにはピンと来ていないため、ぶっちゃけ彼だけが周りから取り残されている状況である。
ああ、そう。“火拳”のエースはまだインペルダウンに収監中だ。何せ、護送する間もなく蛇王海賊団が襲撃してきたので。
「なァ、ジンベエ」
「なんですかいの、エースさん」
「あいつら、誰だ?」
「……わしもあまり詳しくはないんじゃが、あの黒い怪物の方は、伝説に謳われる賞金首“黒狼鳥”……。あっちの捕まっとる男は、海賊王の元クルーじゃ。双方共に、海賊王ゴールド・ロジャーが生きた時代を知る古強者たちじゃの」
「……!!」
「それに、まさかあの“黒狼鳥”が蛇王海賊団の下におったとはのう……政府は知っとるんじゃろうか?」
「妙に騒がしいとは思ったが、蛇王海賊団がこのインペルダウンにやって来たって事かよ……」
「……じゃろうのォ」
こんな感じで、ジンベエに解説してもらってようやく飲み込めたぐらいだ。
「おいおいクソガキ、女だからって侮辱するなよ? もしもそのつもりなら、こんな檻なんぞぶち壊して、てめェをぶっ殺してやるぜ」
「カハハハハッ!! 男か女か、そんな細かい事はどうでもいい!! そいつぁ……強いのか?」
「あァ、強い。所詮ただの人間だったロジャーなんぞとは比べ物にならねェぐらいにな。そうさ、丁度いい。意地汚く聞き耳を立てていやがる、檻の中のガキ共も、よく聞きやがれッ!!」
世界中を荒らし回った暴れん坊たる、あの黒狼鳥が認める強者、蛇王龍。
とてもではないが信じられないようなその存在に、強い興味を抱くバレット。
彼と同じく、「ロジャーや白ひげに勝てなかっただけで涙をのんだ“銀メダリスト”たち」……つまりはこのLEVEL6に収監されている囚人たちも。
「無様な敗北者であるてめェらが、今度こそ時代を獲りたいってんなら!! 遠慮なく挑んで来やがれよッ! 二年後に開催される、最高の祭りでなァ!!」
「カハハハハ……上等だァ……!! このおれの強さは、このおれのためだけにある……!! いいぜ、ノッてやるよ」
「クハハハ……白ひげの首を獲るチャンスが来るってだけじゃなく、世界を獲るチャンスまで来るってえのか。そいつはさすがに血が騒ぐ……」
「「オウ、オウ!! 面白そうな話してんじゃねえか!! ノッてやるからさっさとおれらを檻から出せやァ!!」」
バサリと両翼を広げて叫ぶガルルガ。
不敵な笑みを浮かべて了承するバレット。
ちゃっかり自己主張するクロコダイル。
そしてその他の皆様。
──ちなみに。
「……フフフ、こいつぁおれも脱獄するべきだな。インペルダウンなんつー小さな世界に留まっていたくはねえ」
このインペルダウンの看守長という要職についていながら、その残虐性から収監されていた“雨のシリュウ”も便乗する気満々だった。
なんというか、コスい。
そして……。
ガルルガが蹴りで起こした風圧によって海楼石製の檻は破壊され、ダグラス・バレットとクロコダイルを含めたLEVEL6の凶悪犯たちが、脱獄した。
閉鎖的な空間であるインペルダウンで無類の強さを発揮するマゼランを避けるためか、クロコダイルはちゃっかりとガルルガについて行っていたりする。
──奇しくも、それから僅か数分後──。
「これは……!!?」
「……遅かったのう、マゼランよ。他のバカどもならつい先程脱獄していきよったぞ」
「くそ、蛇王龍の仕業かッ!!」
(少し違うが……まぁ別にいいか、言わんでも)
(おいジンベエ、少しは動けるようになったんだろ? なんとかおれを解放してくれねえか)
(機会を待つんじゃ。ここでマゼランと戦うのはさすがに無謀じゃぞ、エースさん)
(くそっ! あの鳥野郎、おれたちを置いていきやがって……!)
幸か不幸か、職員用の大型リフトでLEVEL6へと降りてきたマゼラン。
彼は、階段を上っていったガルルガたちとはすれ違いになったようだ。
もし脱獄現場に居合わせていたら、集団リンチに遭っていただろう事を考えると、如何に地獄の支配者たるマゼランといえど命拾いしたと言えるだろう。
尚、エースは海軍本部まできちんと護送されてくれないとガルルガも困るので、放置された。
ジンベエもまた、そんなエースを放っておけずに居残り組である。
ジンベエに関しては、ガルルガが色々と破壊していったおかげで脱獄しようと思えばいつでも脱獄できるようになった、というのも大きいが。
そんなこんなで、大人しくマゼランが帰っていくのを待つジンベエ。
ゲリ野郎が消えたら、ある程度時を置いて、ガルルガの破壊行為でゆるゆるになった鎖を破壊してエースを解放し、脱獄するつもりである。
確実に脱獄して白ひげの元にエースを送り届けるためにも、LEVEL6の元囚人たちは分散して各フロアで大暴れしてもらった方が都合が良い。
「そら、署長殿。動けんわしらなんぞに構っている暇があるのか? さっさと脱獄犯どもを追った方がええと思うがの……って、おい……?」
「…………あれだな」
あれっ。
マゼランさん、どこ行くんすか。
そんな事を思うジンベエとエース。
視線の先を辿ってみると……。
「あれは……」
「たしか、特別房……じゃったか?」
はて。
そういえば、ガルルガも他の囚人たちも、あの特別房には見向きもしていなかった。
フロアそのものが特別房と言えるこのLEVEL6で、特別扱いされる程の囚人とはいったい……?
(すまんエースさん。わし、判断誤ったっぽい。さっさと脱獄しておくべきじゃった……)
(おいィ、親分ンンンン!?)
冷たい汗がジンベエとエースの背中を流れる。
そして、その嫌な予感は──。
「で、出てきたぞォ!!」
「ラージャン……アレが……!!」
「お、おい! 急いで“火拳”のエースと“海侠のジンベエ”を護送するぞ! 副署長がお待ちだ!!」
「お、おう! 睡眠弾用~意!!」
(あっ)
(親分ンンンン!!)
「「ぐぅー……」」
陰からわらわらと湧いてきた職員たちに睡眠弾を撃たれ、脱獄する間もなく爆睡するエースとジンベエ。
ジンベエ親分、ここに来て渾身のうっかりである。
大急ぎで運ばれる二人。
職員たちも死にたくないので必死の形相だ。
そして──。
「ウホォ……?」
のそりのそりと現れる怪物。
というか、まんまゴリラ。
「ごふっ……い、行け、ラージャン!! きちんと仕事をすれば好きなだけバナナを食わせてやるッ!!」
「!!」
背後から現れたボロボロのマゼラン(案の定起きるなりラージャンにぶん殴られた)をチラ見し、また眠らされてはたまらんとばかりに飛び上がり、天井を破壊してLEVEL5へと移動するラージャン。
今ここに──伝説の怪物が、動き出した。
ちょうどその頃、LEVEL5でとうとうイワンコフと顔を合わせたマデュラもまた、変わった気配を漂わせるラージャンの存在に気付き、首を傾げて床を見る。
「ウホォゥッ!!」
「わっ。なに、サル? ゴリラ??」
首を傾げて眺めていた床から突然生えてきたゴリラに驚き、思わず声を上げるマデュラ。
それを見たイワンコフは……。
「ま、ま、まさか……!! ラージャン!? なんてこっチャブル!! ちょっと蛇王ガール! そいつはやばすぎるわッ!! 急いで脱獄しましょう!!」
「ラージャン? このゴリラのこ──」
震えた声を出すイワンコフの元にくりっと振り返るマデュラだが……。
「蛇王ガールッ!!」
「マ、マデュラがっ!?」
「「キャウン!! わんわんっ!」」
「ウホォ……♪」
隙あり、とばかりに振り抜かれたラージャンの拳がクリティカルヒットし、マデュラの身体が凄まじい速度で飛んで行った。
世にも珍しい光景に、目を見開き驚愕するハンコック。
悲鳴を上げ、消えていったマデュラを慌てて追いかけるワンコロ……もとい、軍隊ウルフたち。
やったぜ、と得意げな顔をする、ラージャン。
しかし──。
「ウホォ!?」
「やったなこのやろー」
お前はピカピカの実の能力者か? とでも言いたくなるぐらいのスピードで戻ってきたマデュラが、今度は逆にラージャンを殴り飛ばした。
壁にめり込むゴリラ。
それをのんきに眺めるLEVEL5の解放囚人たち。
そんな事をすれば当然……。
「え? ギャッ!?」
「ウホォッ!!」
「その手は食うかっ」
むんずと掴まれ、ラージャンに投げられる解放囚人。
それを上へ蹴り返すマデュラ。
天井に突き刺さる囚人。
一連の流れを見たイワンコフたちは察した。
「……キャンディたち……」
逃げるよォォォーーーッ!!
ここに居たら、死ぬ。
当然の結論に至ったイワンコフは、非常に猛々しい声で絶叫した。
こうして、インペルダウンの怪物ラージャンと、大海原の怪物マデュラの戦いが、始まった──。
ついでに。
これからが本番だ、と拳と拳で殴りあったラージャンとマデュラの一撃が衝撃波となってフロア全体を走り、辛うじて残っていた牢屋の大半が崩壊した。
インペルダウン壊す気かよ、お前ら。
イワンコフ&ニューカマーたちは革命軍御用達の、全身を覆うローブを着用してはいますが、その下はあの格好です。限界ギリギリを攻めすぎだ。
ついでに、ボンちゃんはラヴィたちと一緒にLEVEL4へ到達した辺りなので、まだイワンコフやマデュラとは会っていません。
※モンハンを知らない人のための補足
デカいゴリラことラージャンは、基本的に古龍>>その他の種という力関係であるモンハン世界においては珍しく、古龍でもないのに古龍級(要は災害そのもの)の力を持つという設定の強モンスターです。
非常に凶暴で、とにかく他の生物を見ると暴れまくります。
通称はサイヤ人です。
理由は、まあ色んな意味でサイヤ人の大猿そっくりだからですね。