メールで何度も更新マダー?と催促されたり、モンハンライズでハンター生活したり……。
そんなこんなで、とりあえず続きますぞ。
インペルダウン編の途中ですが、皆様も気になっていただろう“彼ら”のその後です。
──時系列は蛇王海賊団にブルックが参入し、無事に影を取り戻したあたりにまで遡る──。
水の都、ウォーターセブン。
かの街の中央に聳える造船会社、ガレーラカンパニーのドックで激しく自己主張する蛇王海賊団の海賊旗。
それを、複雑な心境で眺める二人の男がいた。
「……その、なんだ。あー……ルフィの容態はどうなんだよ?」
「お前が想像している以上だ。クソマリモ……いや、“ゾロ”が残していった手紙をぼーっと……そう、ただぼぉーっと毎日毎日ずっと見つめてやがる。チョッパーやナミさんも、そんなルフィにかける言葉が見つからない様子でな……」
「………………」
「聞いて驚けよ。あいつ、もう何日もまともに食事をとってねェんだ。一応、思い出したように時々口にはするから、命には別状はねェけどよ」
「は、はは……笑えねえ冗談はよせよ……」
「冗談ならどんなに良かったか……あァクソ、おれまでこんなザマじゃクソジジイに呆れられちまうな」
「サンジ……」
麦わらの一味のコックを務める海の料理人サンジと、少し前に船長であるルフィと大喧嘩し、一味を抜けた元狙撃手ウソップ。
すっかり接点の無くなっていた彼らだが、街で「麦わらとかいう海賊が蛇王海賊団に喧嘩を売って、結果的にクルーを一人奪われたらしい」という噂を耳にし、いてもたってもいられなくなったウソップの方から、街を独り歩くサンジに接触してきたのだ。
元々群を抜いて仲間想いなウソップだ。
喧嘩をした相手であるルフィ本人とはまだ顔を合わせる勇気が出なくとも、かつての仲間が暗い顔で街を歩いていたので、つい声をかけてしまったのだろう。
「その、ゾロが残していった手紙ってのは?」
「ん?」
「いや、“部外者”のおれには漏らせねえってんなら全然いいんだけどよ! すこし、すこぉーしだけ、内容が気になったからな!」
「……ああ。ったく、お前も素直じゃねェな」
「う、うるせえ!」
船長も含めた全員が沈み込む麦わらの一味の中で、一番精神的ダメージが少ないのがサンジだ。
特段彼が薄情というわけではない。そうではなく、赫足のゼフという大海賊に育てられた経験故に、「こういう事が自分たちの身に降りかかる」と想定できていた、言うなれば“覚悟”ができていたから。
逆に、ナミとチョッパーはルフィを心配する事に手一杯でメンタルが完全に崩れる手前で踏み止まれている、とでもいった状態だ。
元々どこか受け身というか、一味との間に“線を引いている”節があったロビンは、時折遠くを眺めて考え事をしている。
そんな風に、変わってしまった日常。
その中にあって、こうしてまるで以前のように明るく振舞ってくれるウソップに、サンジは確かに救われていた。
「あの野郎の字で“世話になった”と一言。あとは蛇王海賊団の連中からの煽りじみた文言ばかりさ。まるでタチの悪い寄せ書きだな」
「うわ、性格悪いな!? いや、海賊らしいっちゃらしいのかもしれないけどよ!」
「とは言っても、連中の煽りは特別問題ってわけじゃねェんだ。たぶん、ルフィの中ではゾロからの短い別れの言葉がトドメになってる」
「……そうなのか?」
「たぶんな」
そう呟き、サンジはタバコに火をつけた。
……限られた資金を節約するためにも、しばらく禁煙した方がいいかもしれない。
しかしそれはそれでルフィが気に病みそうである。
今の船長はそれだけネガティブになっている。
「ゾロの奴は元々、他所で海賊をやるつもりは無いと言ってたんだ。それが移籍するとなると、そんなのもう……おれたちの“命の担保”として取られたって事しか有り得ねえだろ」
「…………自分が弱いせいでゾロが奪われた、とでもグチグチ悩んでんのか、ルフィの奴」
「だろうな」
「…………あの野郎」
「ウソップ?」
実際、目が覚めて状況を理解したルフィは「おれは、よわいっ!!」と叫んでいたので間違いない。
それはそれとして、何やら顔を顰めているウソップをサンジは訝しげに眺めた。
長っ鼻のこの顔は、怒っている時のそれだ。
ずっと仲間として共に旅してきたのだ、それぐらいすぐに分かる。
「サンジ」
「なんだよ」
「ルフィの所まで案内しろ!」
「は? おい、引っ張るな。分かった、分かったって」
果たしてウソップはルフィに対して何をするつもりなのか?
なんとなく、予想できないことはないが。
一味に加わって以来、常に「自分の弱さ」に悩んできたウソップに仄かな希望を見出し、薄く笑いながら共に歩くサンジ。
──雨が、止みそうだ。
麦わらの一味が宿泊する「暫定アジト」という名のただの宿屋、その一室にて。
「たのもー!!」
「……え?」
バタァン!! と豪快にドアが開き、何事だ、と顔を上げたナミ。
続いて「ルフィの身体に障る」と苦言を呈しかけたチョッパーが気付く。
「…………う、ウソップ? ルフィ! ルフィッ!! ウソップが来てくれたぞ! なぁ!!」
まるで決闘をしたあの日のように険しい表情を浮かべるウソップを見て、しかし歓喜の声を上げるチョッパー。
だが、呼びかけられたというのに、ルフィは相変わらずベッドでぼぉーっと「ゾロからの手紙」を眺めている。
それを見たウソップは、状況が読めずに目を丸くしているナミを無視し、ズンズンとルフィの元に歩いていく。
そして──。
「ふんッ!!」
「ッ!?!?」
「「えェー!?」」
一切躊躇する事なく、ウソップは全力の頭突きをルフィにお見舞した。
いきなり何するんだこいつ!? と驚きの声を上げるナミとチョッパー。
ちなみに、ロビンは不在である。
「ちょ、ちょっとウソップ!? いきなり何するの……ってサンジ君?」
「待った、ナミさん。ここはあいつに任せてみよう」
「でも……」
「いいから」
ゴム人間であるルフィにはただの打撃など通用しないが、痛みなどなくとも不意の一撃には驚く。
その証拠に、彼の表情に少しだけ光が戻った。
「…………ウソップ? お前、なんで……」
「おれがなんで今更来たのか? んな事ァ今はどうでもいいんだよスカタン!!」
「スカ……」
飽きることも無くずっと手紙を眺めてばかりだったルフィが口を開くのは、随分と久しぶりな気がする。
ようやくサンジの企みが理解できたナミとチョッパーは、とりあえず静観してみる事にした。
「聞いたぞ!! お前、身の程知らずにも蛇王海賊団に挑んで、そんで無様に負けてゾロを奪われたんだってな!?」
「う……な、なんだよ!! お前にはもう関係ないだろうが!!」
「おおそうさ、関係ねえ!! だけど、だけどよ!!」
まるであの大喧嘩の再現。
思わず止めようとするナミだが、やはりサンジに制止された。
というか、そもそも蛇王海賊団に挑む事になったのは元はと言えばウソップがボッコボコにされたからであり、その彼がどうこう言うのは違う気もする。
まあ、そこを今突っつくのは野暮というものだろう。
「勘違いしてんじゃねェよ!!」
「“お前”が! “お前だけ”が弱かったから負けたんじゃねェ!! “おれたち”が弱かったから!! あのバケモン軍団が文字通りの“バケモン”にしか見えねェぐらい弱かったからッ!!」
「だから、負けたんだ!! お前一人で!! 戦ったわけじゃねェだろうが!!」
「……………え?」
きょとん、と目を丸くするルフィ。
大声で叫んだ後、少し恥ずかしげに顔を逸らすウソップ。
「まあ、おれが言うことじゃねえってのは百も承知だけどよ。でも、船長だからと言って、敗戦の責任までお前が全部背負う必要はねェだろ……あー、くそ! 情けねェ顔してんじゃねえよ! 心配、させんじゃねェよコノヤロー!! お前は、いつも無駄に自信満々なぐらいで丁度いいんだよッ!!」
「う、ウソップ……おれ、おれは……」
尚、水を差すようでなんだが。
麦わらの一味は相変わらず、フランキー一家が蛇王海賊団の下部組織だと勘違いしたままである。
それどころか、ガレーラカンパニーの造船ドックに堂々とはためく蛇王海賊団の海賊旗を確認した事で、勘違い度合いがより面倒な事になっている。
とりあえず、なんやかんやあって船長ルフィがメンタル的な意味で復活を果たしたはいいものの、「船が無い」という点に関しては好転するどころかその逆。
「そもそもガレーラカンパニーが信用できない」という新たな問題が麦わらの一味の前に立ちはだかった。
彼らは本当に、この先の航海をどうするのだろうか?
イイハナシダナ-(ただし船は無いしあてもない)
たぶん、メリー号はウソップだけが見守る中、人知れず沈没しました。
無常ですが、どうしても時期的にそうなります。