各自、妄想力を働かせるんだ……!
だってよー、この時点でカタクリ兄貴と戦うようなもんよ? 無理ゲーに決まってるでしょう。
前回のあらすじ:ルフィパイセン、蛇王海賊団の幹部に喧嘩を売る
「く……か……!」
「…………ふん、タフネスだけは褒めてやる。だが、喧嘩を売る相手は選んだ方がいいぞ、小僧」
一面に広がる砂漠に倒れるルフィ。
ガロアが殺してしまわないようにものすごく手加減した甲斐あって、意識だけは辛うじて残っているものの、指一本すら動かせない程に衰弱しており、一刻も早く治療しなければ命に関わる程の重傷を負っていた。
「う、ウソ……! いくらなんでも、あのルフィが手も足も出ないなんて……! しかもあいつ、船長でもなんでもないんでしょ!?」
「そだよー。ま、ガロアは一応ウチの幹部だけどね。あ、これおいしい。クック先生も食べてみ」
「ふむ。確かに、なかなかに美味だね。これは君が作ったのかい? コックくん」
「あ、ああ。お褒めに預かり光栄です……って、そうじゃない! 早くルフィを助けねえと!」
そんなルフィを余所に、モンスターズの面々に命じて天候を変え、快適な気温で優雅にオヤツをつまむマデュラ。
よほど気に入ったのか、背を預けていた“大怪鳥”クックにもそのオヤツを直接与えるほどだ。
ちなみにこれを作ったのは麦わら海賊団が誇る“海のコック”、サンジである。
マデュラはちょっとサンジの事が欲しくなった。
そんなサンジは、自分たちの船長が今にも死んでしまいそうな程の傷を負って倒れている事に動転し、いつものラブコックぶりを発揮しないほど慌てている。
「おいチョッパー!! 何ボーッとしてやがる! 早く行け!!」
「……あっ!! ご、ごめん!!」
当然、ルフィを慕って海に出た船医のチョッパーも例外ではなく、自身が医者だという事すら忘れてしばらく呆然としていた。
しかし、ゾロに怒鳴られた事で慌ててルフィの元に走っていく。
……何故かマデュラもトコトコとついてきた。
「……酷い傷だ。こ、ここまでする事ないだろ!!」
「知るか。こいつが弱いのが悪い。む、どうされました? マデュラ船長」
「へー、これでも一応意識だけはあるんだね。たしかにタフネスだけは一流かも」
「……か……か……!!」
「しゃ、喋っちゃダメだよルフィ!! ……ちょっと治療するから退いてくれ!」
「ああ、ごめんごめん。喋るトナカイかあ、面白いね」
まだ海賊として未熟であるチョッパーは、兄のように慕っているルフィが半殺しにされた事に怒り、見ている方がハラハラする態度でマデュラを──正しくは彼女の背後に立つガロアを──睨みながら、人型に変身してルフィを抱きかかえ、船に戻ろうとした。
しかし。
「──どうせならデービーバックファイトにすればよかったかな?」
「……ひっ!?」
おぞましい“蛇の眼”に変化したマデュラに睨み返された事で、思わず失禁してしまう。
「今から申し込みますか?」
「ううん、いいや。火拳に怒られそうだし。ほら、早く行かないとそいつ死んじゃうよ? ガロアの爆破アタック食らったんだし」
「……あ、ああ。うん……」
格の違いを思い知らされ、とぼとぼと歩いてゾロたちの元へ戻っていくチョッパー。
そんな彼を見て、マデュラはくすりと笑った。
「? どうされました?」
「ううん、可愛いなって思って。美味しそう」
「ご命令とあらば奪ってきますが」
「いやいや、今はいいって。火拳に悪いでしょ。目の前で弟の仲間が丸呑みにされたら怒るよ普通」
「御意に。しかし、準備はしておきます」
「うん、お願い」
美女のマデュラが言うとアレだが、“物理的に”美味しそう、という意味である。
決して性的な方ではない。
残念ながら、チョッパーは食糧としてしか見られていなかった。
そんなマデュラに近付く影が一つ。
「おい、蛇王龍」
「ん? どうしたの、火拳」
「もう満足しただろう? これ以上弟に手ェ出すな!」
海賊である以上、いつ死ぬかもわからないし、ルフィが自分自身の判断で死んだのならば、所詮そこまでの男だったというだけの話。
そう割り切れればよかったのだが、エースは大事な弟を目の前で傷付けられて黙っていられるような性分ではなかった。
瞳に炎を灯しながら、マデュラを強く睨みつける。
「……白ひげと戦争するのも面白そうだけど、どうせなら他の四皇とか海軍の奴らも巻き込みたいから。今はやめとく。その方が楽しいでしょう?」
「……そうかよ」
「おい火拳。マデュラ船長を睨みつけるとはいい度胸だな。次は貴様が相手になるか?」
「なんだとぉ……?」
正直に言うと、あの白ひげを何の脅威とも認識していない様子のマデュラに、エースは得体の知れないモノを見ているような不気味さを覚えた。
もしかしたらこいつは、この世界すらも遊びで壊すようなイカれた奴かもしれない、と。
そして、挑発してきたガロアを睨み返すが──。
「──おい、ガロア」
「……!! も、申し訳ありません!!」
「ふん。そういえばさ、あいつらはなんで失踪したはずのこの国の王女を連れてるの?」
「……さあな、ルフィの仲間に聞けよ。少なくともおれは知らねえ」
盲信するマデュラに叱られ、しょぼーんと落ち込むガロアを余所に、いきなり別の話題に飛んでいく。
そして、「そっか」と一つ呟いたマデュラは、エースの言葉通り麦わらの一味の元へと向かっていく。
あのマデュラがアラバスタ王国の王女の顔を知っている事を意外に思うかもしれないが、彼女は元賞金稼ぎである。故に、各国の王族ぐらいはきちんと記憶しているのだ。その割に天竜人については全く覚えていないが。
どうでもいい相手や嫌いな相手に関しては極めてドライなのだ。
そして、表情を強ばらせたままの麦わらの一味から無理やり話を聞き出し、クロコダイルの暗躍を知ったマデュラは──。
「ふーん……。クロコダイルって誰だっけ。クック先生、知ってる?」
「本当に話を聞いていたのかい? 王下七武海の一人だって言っていただろう。しかし、国の英雄と名高いあのクロコダイルが、まさか国盗りなんて事をねえ」
「しちぶかい……ああ、あの。へー、そうなんだ。どうして?」
「え? ど、どうしてって……」
話を聞いていなかったのか、肝心のクロコダイルについてピンと来ていない様子のマデュラに、再び彼女の背もたれと化したクックが目を細めて呆れる。しかしきちんと教えてあげるあたり、さすがは先生。
しかし、いきなり質問されたビビは、答えに詰まる。
どうしてクロコダイルはアラバスタ王国を陥れようとしているのか……。
そんな事は分からないのだ。答えようがない。
「……分からないんです。ただ、あの男はかなり昔から周到に準備していた事ぐらいしか……」
「なんで?」
「な、なんでって……?」
「なんで分からないの? クロコダイルが国盗りをするのはついででしょ? 海賊が王様になって、余は満足じゃ~で終わると思う? その先に彼の目的があって、国盗りはあくまでそのための手段でしょう」
「……それは……」
思わずハッとするビビ。
言われてみればその通りだ。
大体、クロコダイルは巨大なカジノをも経営している事から金銭に困っているわけがなく、憎たらしい事に国民からの信頼も得ている。
今更国王になって何がしたいのか。
理想国家を作る、というのが彼が支配する犯罪会社バロックワークスの最終目的とされているが、ではその「理想」とは何なのか?
「…………クロコダイルの、目的……」
「なんだ、本当に知らないんだね。じゃあこっちで調べてみようかな。この国は結構広いから私も皆も伸び伸びできそうだし」
「は、はぁ……そうですか……」
この人、大規模な反乱が起きているこの国をリゾート地か何かと勘違いしてらっしゃる?
ビビはこんらんした。
そして。
本当に、蛇王海賊団は何処かへと去っていった。
ルフィを完膚なきまでに叩きのめしたり、かと思えば目を輝かせてルンルン気分になったり。
大海賊“蛇王龍”って、怖いところもあるけどいまいち掴みどころがない人だなぁ。
ビビは、素直にそう思った。
尚、数時間後に起こった大地震が、まさかその“蛇王龍”が引き起こしたものだとは思いもよらない。
アラバスタ王国が物理的に消滅してしまわない事を祈るばかりである。
山の一つや二つは普通に消えて無くなるだろうが、国そのものが無くなるよりはマシだ。
どうしよう、医者っぽいモンスターがいない……!!
だ、誰かいたっけ……?
※いたァーーー!!
タマミツネ、船 医 決 定
妙な時間の投稿となったのは明日……というか日付が変わったので今日? 夜勤だからです。
蛇王海賊団まめちしき:
ガロアはどこかの不思議猛獣を仕留めてその骨を奪って触腕に装備しており、爆発させたり雷を生み出したり炎を操ったりできる。
要は原作のオストガロアと同じ。