執務室に案内するといわれてついて行ったまではいいが、そこからが問題だった。
何もないのである。そもそも鎮守府といったら大きな建物を創造していたが実際は二階建てのプレハブ小屋だった。
「これってどういう事なの?」
前の提督の情報によると、それはもう立派な建物があったと写真付で説明があったがそのようなものは一切ない。
僕は違う鎮守府に来たのかと思ったが。どうややらここであっているらしい。
「前任の提督が逮捕された際、横領などの罪で資材は全て没収されました。また建物は妖精さんたちが力を失ったため破壊されました。今この敷地に残っているのは資材倉庫、工廠、食堂、入渠場、我々が寝ている建物のみになります」
妖精さんの力は噂には聞いていたが、ここまで影響するとは思ってもいなかった。情報だけを鵜呑みにした結果がこれである。
「提督が着任すると聞いて業者が1ヶ月ほど前にこのプレハブ小屋を建てました。急な着任だったためこのような形になりましたがご容赦ください」
髪をサイドに結った、青い方が答える。
「それにしたってここまで酷いとは思わなかったよ」
十畳程の部屋に会議用テーブルが二つ並べて置かれている。そして事務椅子。部屋の隅にゴミ箱。申し訳程度に壁に掛かっている時計。これがこの鎮守府の司令部だ。
「まあ仕方ないか・・・・・・」
考えたところで何かが解決するわけではない。そもそも解体予定だった鎮守府とも聞くしこのような事態になっていてもおかしくはない。
「ところで君たちの名前を聞いていなかったけどちょっとした自己紹介をしてくれないかな?」
そういえば忘れていた。さっきから事務的な口調で話している青い方と、髪の長い赤い方。区別はしやすいが名前があるならそれで呼んだほうがいいだろう。
「私は加賀です。航空母艦です」
青い方が加賀ね。航空母艦。
「私は赤城です。同じく航空母艦になります」
赤い方が答える。
「加賀と赤城ね。覚えた」
航空母艦、所謂空母か。
執務室がこんなのでは仕方ない。私物をトラックに積んでいるのでまだ助かった。
「これから荷物が来るからそれを片付けて次の仕事だ。一三〇〇時にグラウンドでいいのかな?この鎮守府にいる全艦娘に集合するように伝令をお願い。ちょっと大変な作業だけどがんばってね」
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新しく着任した提督はそう言うと執務室を出て行きます。軽く自己紹介が終わったところでいきなり仕事だそうですが、彼もまた前の提督と同じく、私たちに酷い事をするのでしょうか?隣にいる加賀さんも彼を見定めるかのような目つきで見ています。
「加賀さん、新しい提督は何を考えているのでしょう?」
「わからないわ。それでもこの執務室を見て私たちを怒鳴り散らして罰を与えなかった時点で前の提督よりも十分に人間性があると思えるわ」
確かにそうです。前の提督ならこのような不備があった場合、感情的過ぎるほどに私たちを叱り付け、懲罰室に連行していると思います。
「とにかく今は彼に従うしかないわ。もし逆らったら何をされるかわからないもの」
加賀さんはそう言うと執務室から出て行きます。加賀さんも前任の提督にいろいろと酷い事をされていたと言うのに切り替えが早いです。私はそこまでの強さはありません。
しかし考えたところで結果は変わらないので加賀さんの後を追っていきます。
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加賀さんの後を追うと提督がプレハブ小屋の前で煙草を吸っていました。
「ねえ、君たちは僕の事をどう思ってるか知らないけど、そんなに偉い人間でもないし、人格者という訳でもない。前の提督の事を忘れろというのは無理な話だろうけど気長に気楽にやっていきましょう」
気の抜けた声に調子が狂う。加賀さんを見ると怒っているみたいだった。
「失礼ですが提督、我々は兵器です。そのような感情で任務を疎かにするわけにはいきません」
「兵器だけに平気って……、これはなかなか」
提督は加賀さんの感情を読み取ろうともせず飄々と話しています。
「それにしても本当に何もないね。ここまで更地だといろいろとできそうだ」
提督は加賀さんに答えるわけでもなく言います。煙草を消して携帯灰皿に捨てるとすたすたと歩いていきます。
「ちょっと道案内を頼むよ。この鎮守府の建物くらいは把握したいからさ」
そう言って彼はまた歩き出します。人の事を考えず適当に話、適当に行動する彼の考えは私にはわかりません。しかし、ついていかなければ何をされるかわかりません。選択肢はあってないようなものです。
加賀さんもそれをわかっているようで、彼の後ろをゆっくりと追いかけます。案内してくれといわれたのに先頭を歩いていては意味がないと思います。
私も彼と加賀さんの後を追いかけます。
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「ここで最後になります」
加賀さんがそう言って資材倉庫を案内します。
「わかってはいたけど資材庫って言っても何もないから意味がないね」
前任の提督のせいで資材はほとんどありません。
「もういいや。そろそろ時間だし門まで行こうか」
彼はそう言って歩き出します。
私たちも彼の後を追いかけます。
門に着くとちょうどトラックがコンテナを引っさげやってきました。
彼は運転手と話し、礼を言ってこちらに帰ってきます。
「とりあえず直ぐに仕舞わないと駄目なものは僕たちで運ぼう。こっちのコンテナに入ってるらしいから三人で手分けしてね。」
「わかりました。しかし、提督自ら動かなくても雑用であれば私たちが片付けます」
「いいんだよ。今日ぐらいは働く。楽をするのはその次から。それより早く運ぼう」
彼はそう言ってダンボールを持ち上げました。
「一週間分は確保したからそれがなくなってから考えようか」
独り言を言いながら彼は歩いていきます。それを見て私たちもダンボールを持ち上げ彼についていきます。
「これはどこに運ぶのでしょうか」
私は気になり彼に問いかけます。
「食堂だよ。腹が減っては戦はできぬってやつだよ」
彼はそう言うとまた歩き始めました。
「加賀さん。もしかしてこれはご飯ですか?」