場所はどこだっただろうか。草木が生い茂る森の中、褐色の少女を抱えた青年と、それに続く初老の男性が必死に走っていた。二人の険しい表情から何かから必死に逃げているであろうことがうかがえる。
「いたぞ!こっちだ!」
「クソッ」
遠くから聞こえてくる声に青年は思わず悪態をつく。このままではいずれ追いつかれる。しかし現状を打開するにしても手が足りない。それでも走る速度を落とすわけにはいかず少女を抱えながら青年は走る。
「君はその子を連れて先に行ってくれ!このままでは我々二人とも追いつかれておしまいだ!」
「悪いがそれはできない。依頼主に死なれてはただ働きになる」
「だがここで彼らに捕まって死んでしまうよりはマシだろう」
確かに男性の言うとおりだ。彼を囮として使えばいくらか時間は稼げる。その間に逃げ切れる可能性はゼロではない。
「それに、貨幣ではないが払えるものはある。これだ」
「それは……」
立ち止まり、男性が差し出したのはリングのようなものに持ち手がついたアイテム。彼らが追われている理由のうちの一つだった。
「だがこれは誰にも使わせるわけにはいかないものだとお前自身が言っていただろう」
「確かにその通りだ。しかし君ならいいだろう。この力を悪いようには使うまい」
「どうだかな。オレは自分のために力を使うぞ。今までとやることを変えるつもりはない」
「それでいい。君は君の思うようにすればいい」
言葉を交わし終えた男性は、リングを青年に押し付けるように渡し、後ろを振り返る。
「行きなさい!!!」
吠えるように、力の限り荒げた声に青年は静かに頷くとそのまま走り出す。
息を切らせながら走る彼の前に飛行機のような乗り物が見えてきた。それが彼らのゴール。あれに乗って飛び出せれば勝ちである。
しかしそうは問屋が卸さないらしい。突如後方から巨大な何かの咆哮が聞こえた。
それは、絶望の呼び声。
それは、巨大なるもの。
それは、人では太刀打ちできないもの。
「怪獣兵器…! 奴ら、それまで出してきたか!」
青年のいら立ちを他所に大地が揺れる。そしてはるか後方に現れたるは巨大な獣。
しかし、しかしだ。今彼はそれと戦う力を持っている。そう、先ほど手に入れたリングだ。
このまま走っていてもあの怪獣からは逃げられない。ならばと彼はリングを天に掲げ、紫色の輝きが彼を包んだ。そしてーーー
◆◆◆
「おいトルテ、ゲームばっかやってないで少しはやることやれ」
「ええ、やることって何よザイトー。目的地の星につくまでまだ時間あるんでしょー?」
褐色の少女、トルテ。リングを手にした青年、ザイトは宇宙船を走らせていた。彼らが出会ってどれほどの時がたったのだろうか。少なくともこうして打ち解ける程度の時間は経過しているようだった。
「お前は本当に自分の過去を見つける気あるのか?」
目的地にはある程度自動で向かうのか、操縦席に座りながら操縦桿からは手を放して本を読んでいる。しかし話かけたためか今は後ろのスペースでなにやら画面とにらめっこしている褐色の少女に向けられていた。エメラルドグリーンとも水色ともつかない淡い色の髪に白いワンピースを着ている彼女はだらしなく体を大の字にして彼の問いに答える。
「ないよ。だってボク今の暮らし好きだもん」
なんてふざけた返答にザイトは少し眉を動かすが、そんなものどこ吹く風といった様子で彼女は話をつづけた。
「なーんて嘘だよ。ボクだってなんであんなところで薬漬けにされてなきゃいけないのか知りたいし、そうなる前のボクは一体どこで何をしていたのかなんて気になるに決まってるよ」
「だったら普段から少しは思い出す努力をしろ。手がかりなんてないも同然なんだ」
そんな軽口をたたきあう二人を他所に、時間は着々と過ぎていった。
「そろそろ着く。仕事の準備を始めておけ」
「はいはーい。仕入れた特殊金属を依頼主に渡すんだよね?」
「そうだ。分かっていると思うがこれは非合法、というより独占されているものを横流しするものだ。当然邪魔される可能性もある」
「もちろん。ボクだってこの仕事の手伝い初めてそれなりに経ってるんだし少しは慣れてきてるって」
「………」
ザイトの心配をよそにトルテはとん、と軽く自身の胸を拳で叩いて自信をアピールする。その様子を眺めている彼からすると何とも頭の痛い返しだった。目を覚ました彼女は記憶を失っており何に対しても怯えているような子供であったのだがいつの間にこんなにやんちゃになってしまったのか。それともこれが彼女の元々の性格なのか、生憎とそれは誰にも分らない。
しかし今はそれでいいのだろう。彼女がそれを理解するのはこれからだ。そもそも自分が何者であるかなど記憶があったところでわかるものではないのだから。
「とりあえず準備してきたよー」
目的地が見えてきたころ、トルテの報告がザイトにと届く。
「いいか、今回の仕事はこれを渡して終わりじゃない。俺たちはあくまで仲介役に渡すだけだ」
「分かってるってば。すごい念の入れようだよね」
「まあな。運び屋と仕事はそこまで、その後は輸送船の護衛だ。はっきり言ってその間が一番妨害の可能性が高い」
「うん」
淡々とこれからの動きを説明していくザイトの言葉にトルテは頷く。彼らは中継の中継に過ぎないのだ。それほど重要なものなためか、彼らとしても特殊な金属ということ以外詳しいことは知りえない。
それでもこの依頼を受けたのは単純に払いがよかったの一言に尽きる。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「りょーかい!」
彼らの宇宙船、かつて地球で開発されたというペンドラゴンの名を持つ船の改造船である。とある事情から格安だったのだが今その話ははいいだろう。
黒と銀に塗られたそれがたどり着いた惑星は生命のいない荒野のような星だった。生命のいない、というよりは絶滅したが正しいのだろう。生物の痕跡がないわけではない。荒れ果てた陰気な場所だった。
「人目にはつかないが、こんなところだとはな。お前は物を準備できたら中で待機していろ」
「わかったよー」
彼らに運ばせたのは必要分のほんの一部だろうが、それでもそれなりの量ではあった。動力を備えた台車で中から運ばれてきたのはもともと輸送船であったスペースペンドラゴンの最大積載量ギリギリの鉄塊である。コンテナの中にぎっしりだ。
これのせいで船のどこかが不調をきたしていなければいいのだがなどと考えているところに、どこからともなく黒服の異星人が複数人現れた。今回の取引相手だろう。
「依頼されていたものだ。確かめてくれ」
ザイトの言葉に彼らはただ小さく頷くとそのままコンテナの扉を開け、中身に機械を向け、鉄塊をスキャンする。
「不純物許容範囲、特に水増ししているということはないな。いいだろう、成立だ」
「そんなせこいことはしない」
黒服の言葉にザイトは少しムッとしたように言葉を返す。どうやら変に勘繰られたことが不服らしい。
相も変わらず黒服の男たちは表情を変えないが、どこからか取り出したトランクケースをこちらに差し出してきた。どうやらこれの中身が今回の報酬らしい。
「確かに受け取った」
トランクを受け取り中身を確認したザイトは相手を見据えて一言だけつぶやく。これで完全に取引成立である。
その瞬間だった。それの飛来を感知したのは。
『ザイト、この星に何か近づいてる!』
「なに?」
『これは、円盤生物…!』
黒服の男たちもざわつき始める。どうやら間違いないらしい。
『数は二機、到着は……早い、後一分ほど! これじゃあ逃げ切れない。ここで迎撃するしかないよ!』
「どこかでつけられたか情報を嗅ぎつけられたか。まあいい、とにかく今は!」
報酬をもってすぐさまペンドラゴンに乗り込んだザイトはすでに準備を終えているトルテを横目に操縦席へと滑り込む。
「円盤生物とやらの種類は!?」
「そんなのボクが知るわけない!」
「この船のデータベースには!?」
「カメラで捉えてからじゃないと照らし合わせられない!」
発進準備をしながらうだうだしていると、青白い光弾が空から放たれ、黒服の男たちが急いで運んでいたコンテナに直撃し、爆発した。やはり目的は取引の妨害と。
「俺たちを殺す気か……!」
「やっぱりー!!?」
トルテの慌てたような声をしり目にザイトはペンドラゴンを離陸させる。それと同時にもう一つ宇宙船が離陸を始めた。おそらく黒服たちのものだろう。
「円盤生物は2機と言っていたな」
「うん、だからあいつらに相手させてるうちにっていうのは無理だと思う」
実際ただ雇われていただけのザイトの優先度は低いはずだ。しかしそれでも確実を期すためにわざわざ2機も用意してきたのだ。よほど奪われたくないものだったのか。分かってはいたことだがどおりで報酬もそこそこのはずだ。
「それよりも来るよ!」
トルテの言葉とともにそれは現れた。円盤形の生物兵器。趣味が悪いこの上ないものだとザイトは考える。
瞬間、青白い光弾が連続でペンドラゴンへと放たれた。この星にとどまっているわけにもいかない。右へ左へ機体を動かしながら空を目指す。しかし宇宙に出ても追跡は止まらなそうだ。ペンドラゴンより一足早く宇宙へ飛んだ黒服たちの宇宙船もあの円盤生物にまだ追い掛け回されているらしい。もしあいつ等が撃墜されればもう1機もこちらへ来るだろう。そうなる前にこのうっとうしい円盤を破壊しなければ。
腕はともかく飛行性能は相手の方が上らしい。後ろにつかれて引きはがせない。先手を取られてしまったのが非常にまずかった。
「トルテ! 船を任せるぞ」
「んー! 行ってらっしゃい!」
そう言って操縦桿のコントロールがザイトの席のものからトルテの席の下へと移り変わる。シートベルトを外し席を立った彼は懐からあのリング、オーブリングNEOを取り出し、掲げる。するとあの時と同じように彼の身体は紫色の光に包まれペンドラゴンの中から円盤生物へと一直線に向かっていった。
接触した光と円盤生物。大きく火花を散らした円盤生物はそのまま勢いをなくし光とともに地面へと墜落する。大きな地響きを上げながら落ちた円盤生物と、舞い降りるように地面に着地した光はそのまま人型へと変化し、その全貌をあらわにした。
黒と銀の身体に、青く光る胸の輝き。その姿は、ウルトラマンオーブに酷似していた。しかしその肉体に赤はなく、黒く染まっている。オーブダーク。そのさらに亜種。オーブダークツヴァイ。それがこの姿の名だった。
『円盤生物の識別名ヒット! 出るもんだねえ。というわけであれはロベルガー。人型に変形するから気を付けて!』
追跡を一旦振り切れたからか少し余裕のあるトルテの声が響く。それと同時に、彼女の言う通り人型へと変形した先ほどの円盤生物、ロベルガーが姿を現す。オーブダークツヴァイはその姿を見据えると構え、戦闘を開始した。
ちなみにオーブダークツヴァイ本文でもありますが、言ってしまえばオーブダークの複眼やカラータイマーの色をすべてオーブオリジンの通常色にしただけです。
彼らのこれからの旅をよろしくお願いいたします。
次回未定!!!!!!!!