ORB-DARK-CHRONICLE   作:とりっぷ

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ザイト、砂糖なしのラテが好き。


スクランブル

「ねえねえザイト!あそこでちょっとお茶しない?」

 

 次の日、繁華街を歩いていたザイトに隣のトルテはふと喫茶店を指さす。

 

「ちょうど小腹もすいてきたし、寄って行こう!」

「お、おい!」

 

 そのまま有無を言わさず彼女はザイトの腕をつかむと引きずり込む様に店の中へと向かっていった。拒否権など、初めからないのである。

 『Leiria』と書かれた看板を通り過ぎ、扉を開ける。店内は普通の喫茶店のようだ。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 と、可愛らしいソプラノトーンの声が響く。これは明らかに子供のものだ。何気なく声のした方へ顔を向けるとそこにはトぴょこんとアホ毛が二本生えた茶髪の少女が一人。トルテよりも幼いだろう。しかしそれよりも目を引くのは彼女から生えている狐のような尻尾だ。アクセサリーではなさそうなところを見ると人間寄りの獣人なのだろう。そこは気にするところではない。

 

「え?何々?君ここで働いてるの?ちっちゃいのにえらいね!」

 

 などと言いながら少女の下へ向かっていくのは当然トルテだ。どうやら愛らしいこの少女に見惚れたらしい。

 

「え?あの?はい。一応、このお店のお手伝いをさせてもらってます」

 

 詰め寄ってくるトルテに若干困惑しながらも少女は律義に答える。というか年不相応の仕事をしているのはお前も一緒だろうなどというツッコみは余計めんどくさくなるだけなのでしないが吉である。

 

「おい、冷やかしに来たなら帰るぞ」

「ちょっと待ってって!」

 

 適当に空いているテーブル席に座ったザイトを追うようにトルテも彼の向かいに座る。そしてすぐさまメニューを取り出し楽しそうにそれを眺め始めた。

 

「んーと、やっぱりこういうの見るのも楽しいよねー。ザイトは何にする?」

「ラテ。ノンシュガーのな」

「いつも通りってことね。じゃあボクはっと……決めた!」

 

 そう言ってトルテは軽く手を上げながら店員を呼ぶ。少ししてやってきたのは先ほどの少女だ。

 

「ノンシュガーのラテと、後ココアと、梨のパイ!」

「分かりました。少々お待ちください」

「はーい!」

 

 特に特筆することもなく注文を終えたトルテとザイトは厨房へ消えていく少女を見送ると、視線を窓の外へと向けた。惑星ではない小さなターミナルであるここはすべてが人工物であり、空を眺めても宇宙が広がっているだけである。宇宙を旅する彼らにとっては見慣れた風景だ。むしろ青空を見ることの方が少ないといえる。

 

「ねえザイト。ウルトラマンオーブってさ、どんな人なのかな?」

「どうした突然に」

「だってザイトの力の元になったウルトラマンでしょ?気になるじゃんぬいぐるみだって買っちゃったし」

 

 ぬいぐるみがどう関係してくるかは知らないが、と前置きもせずにザイトは軽く質問に答える。

 

「さあな。オレも会ったことはないからな。詳しいことは知らん」

「そうなんだ。やっぱり同じ力の持ち主だからザイトと似てたりするのかな」

「それはないだろう」

「……どうして?」

 

 ウルトラマンオーブの変身者と彼が似ているのか、という質問をザイトは強く否定する。会ったことはないという割にはっきりと否定したザイトの言葉に違和感を覚えたトルテは少しどもりながらもさらに問いを投げる。

 

「オレは彼の力のを模したものを盗んだに過ぎない。彼は正しく戦士の頂に挑戦し、その意思とやらに認められたのだろう。すべて俺がやらなかったことだ。似ているはずがない」

「そうかなあ……」

 

 若干納得いかないように首をかしげるトルテだったが、話をつづける前に注文した料理が運ばれてきた。

 

「お待たせしました!ノンシュガーラテとココアと梨のパイになります。注文は以上でお揃いですか?」

「うん!」

「では何かあったらまたお呼びください」

 

 そう言って少女は席を離れる。昔からこういったことをしていたのだろうか。ずいぶん慣れたものだった。

 

「おいしそうー!いただきまーす!」

 

 そう言ってトルテはパイを口に運ぶ。

 

「んー!おいしー!やっぱり甘いものはいいね」

 

 嬉しそうに言うトルテを眺めながらザイトも運ばれてきたラテで喉を潤す。きめ細やかなブレンドでザイトは思わず驚く。かなり好みの味と言っていい。意外なめぐりあわせに思わずこの店を選んだトルテにうっかり感謝しそうになってしまうほどだった。

 

「でさ、話の続きなんだけね。ボクはウルトラマンを見たことないからよく知らないんだけどそれでもいえることがあるよ」

「言えること?」

「うん。少なくともボクを助けてくれたのはウルトラマンじゃなくてザイトだったってこと。その事実だけは絶対に変わらないよ」

 

 まっすぐにザイトの目を見つめてトルテは言う。それが偽りのないトルテの本心だった。

 

「だから自分をあんまり過小評価しないで。少なくともボクはザイトのこと尊敬してるし凄いと思ってる」

「……、そうか」

 

 そんなトルテの言葉にザイトは一呼吸おいて小さく頷く。

 少し恥ずかし気にザイトはラテを口に運ぼうとカップに手を付けた瞬間にそれは起こった。

 

「……警報!?」

 

 赤いサイレンの輝きと共にけたたましい警告音があたり一面に鳴り響く。唐突な事態にザイトとトルテの顔がこわばる。ほかの客と違って無駄に慌てないのは普段から危険と隣り合わせの仕事をしているからだろう。

 

「ザイト、これ」

「まだわからない。誤報の可能性も残っているはずだ」

 

 ウエイトレスの少女が慌てた様子で厨房の奥へと消えていく。状況の確認をしに行ったのだろう。彼女、もしくはこの店を仕切っている大人から話を訊くのが一番早そうだ。

 それまでに少しでも情報を得ようと店の外を見る。慌てた様子の旅人たちの姿がちらほら見えるだけで火事や事故のような気配は見られない。

 

「何か……」

 

 トルテが何か言おうとした瞬間に追い打ちをかけるようにあたりに響いたのはビーム兵器の発砲音。この施設の防衛設備だ。つまるところここは何者かに責められていることを意味する。

 

「攻め込まれてる?」

 

 困惑したようにトルテが言う。確かにおかしな話だ。ここは辺境の小さな施設。襲ったところで収穫は少ない。労力に見合った報酬があるとは思えないのだ。

 

「そうみたいだな。だが、誰が何の目的で?」

 

 そんなトルテの思考を肯定するようにザイトも小さく首をかしげる。そうこうしているうちに防衛設備を破壊されたらしくビームの発射音とほぼ同じ距離から爆発音が聞こえてくる。

 

「不思議そうな顔してるね」

 

 不意に聞こえてきた声にザイトはそちらに意識を向ける。厨房の方にいた黒髪の女性だ。

 

「そうだな。ここが攻められる理由がわかない」

「そうだねえ」

 

 焦っている様子を見せずあっけからんとしている女性にザイトは若干警戒しながらも言葉を返す。

 しかしそれすらもどこ吹く風といった様子の女性にウエイトレスの少女が慌てて制止しにやってくる。

 

「に、ニュイさん。お客さんですよ」

「ん、そだね。ま、いいじゃない?」

「……」

 

 特に悪びれる様子もないニュイと呼ばれた女性に少女は小さくため息をついた。

 

「でさ、提案があるんだけど。ここの防衛、賊に突破されそうなわけ」

「……雇いたいと?」

「そ。これは私じゃなくてここの管理者の意思。どする?」

「……」

 

 女性の言葉にザイトは思案する。これは信用に足る依頼か。

 

「迷うのはいいけどあんまり時間ないわよ。他のあなたたちと同じ人種はもう了承して準備しているところ。緊急だしなるべく早くね」

「ザイト」

 

 女性が言い終わると同時にトルテが彼の名を呼ぶ。ザイトは少し思案した後、答えを返した。

 

「いいだろう。不明瞭なところはあるが事は一刻を争う」

「そゆこと。話が早くて助かるわー!」

 

 臆面もなく笑うニュイと呼ばれていた女性を一瞥したザイトはペンドラゴンへ向かうべく席を立った。

 

「トルテ、予定変更だ。いいな?」

「ま、しょうがないか」

「今回お代はつけとくからまた次きたときにでもよろしくねー」

 

 店を出ていく背中にニュイが気の抜けた声を向ける。

 

「あの、ニュイさん、本当によかったんですか……?」

「まあね。そこはココアが考えるところじゃないから平気。私に任せな」

 

 その背中を見送った少女、ココアが不安げにニュイと言葉を交わす。遠くで聞こえる爆発音と銃声が、より鮮明に聞こえた気がした。




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