ややこしいことしてすみませんでした!
「準備オーケー。いつでも飛べるよ!」
ペンドラゴンのコックピットでトルテが準備を終えたことを隣の座るザイトに声をかける。備蓄が入っている場所は一時的にパージしてここに置いていく。勝って戻れば何事もなく回収できるだろう。
「よし、飛ぶぞ」
格納庫から勢いよく宇宙に飛び出したペンドラゴンは、そのまま一目散に戦場へと向かっていく。
ターミナルから数キロほど離れている戦場は一言でいえば混沌としていた。すでに壊滅状態のターミナルの警備兵と自分たちよりも早く出ていた味方の傭兵たち。
賊と味方を識別するコードはすでに送られているが、お互いに統率がとれていなさすぎる。寄せ集めが右往左往している状態だ。
「思ってたよりひどいな」
「こんなの味方の流れ弾に当たりかねないし、ボクたちの攻撃も同じ。困ったなあ」
ザイトとトルテが感想を口々に告げる。しかしいつまでも傍観をしているわけにもいかない。雇われたからにはきっちり仕事をしなければ。申し訳ないが自分の身は自分で守ってもらうほかない。
「標準ロック、ワイバーンミサイル発射!」
ザイトの操縦で捉えた複数の敵の戦闘機に向けてトルテがミサイルを発射する。そのミサイル群は次々と戦闘機を捉え、破壊する。
「よし、命中!」
小さくガッツポーズをするトルテとに対して、少し神妙な顔をしているザイト。何か不満があるのだろうかと彼女がザイトの方を見る。
「どうかした?」
「いや、こんな戦力いったいどこから持ってきたのかと思ってな」
「うーん、何かがバックにいるかもってこと?それはどうだろう」
「いや、まだ違和感程度で何もなければそれでいい。こいつらを片づければそれておしまいだ」
そんな会話をしながらも攻撃の手は全く緩めない。緩めはしないが苛烈とも言い難い。敵だけではなく味方の攻撃もこちらを掠めかねいのだ。攻撃ばかりに集中もしていられない。しかし戦況的にはこちらが巻き返してきているようだった。このまま戦えばとりあえずは勝てるだろう。
「おーし、とりあえずこいつら倒せばいいわけだよね!」
「目下の所はな」
途中で考えるのが面倒になってきたのかトルテは宣言するように声を張り上げると、ザイトはそれに小さく言葉を返した。
しばらく同じような戦闘が続く。敵の数が減っており、このままいけば先ほどの読みの通り戦いはこちらの勝利で終わるだろう。
「ザイト!これ見て!」
「これは、」
不意にトルテに呼ばれたザイトは彼女の促すままにレーダを確認する。そこには戦闘機とは一線を画す円盤の反応があった。
「怪獣兵器かもしれない。一応ペンドラゴンのデータベースにアクセスしておけ。場合によっては変身する」
「分かった。もうすぐ目視できる距離だと思う」
少しして正体が見えてくる。味方を蹴散らしながら迫ってくるそれは、黄金に輝いていた。
「データと照合、ヒット!あれは宇宙竜ナース、円盤型と龍の姿を持つ侵略兵器みたい。あれに巻き付かれたらこの船はアウトだと思って」
「了解した。そうなったら変身する。だがそうなる前に倒すぞ」
情報を確認した二人はそのままナースを見据え、突撃していった。
こちらの存在に気づいたナースはとぐろを巻いた円盤型の姿から龍の姿に変わる。名前は竜、ドラゴンだがこのシルエットは龍に近いだろう。
「クソ、すばしっこい!ペンドラゴンじゃ厳しいかも!」
トルテが悪態をつく。その蛇のような胴体は何とも捉えがたい上に何かと素早くトリッキーな動きをする。
「文句を言う前に手を動かせ!」
「動かしてる!何か考えないと!」
「だったらこいつをここから誘導するぞ!操縦をそっちに移す!」
「了解、任せて!」
言葉を交わした二人の目の前の操縦桿のコントロールが切り替わる。どうやら変身せずに倒すというのは難しそうだ。
「2時方向にあるデブリ群の中に突っ込む!」
「ガッテン!」
ザイトはミサイルをナースに向けてばらまく。当たりはしないが牽制にはなるだろう。そして牽制こそが目的だ。
「よし、食いついてきた!」
トルテがペンドラゴンを最大加速させてナースに捕まるのを防ぎながら誘導する。
しかしデブリ帯に入ってからが問題だ。障害物が多いこの場所ではスピードは出せない。何より細いナースの方がペンドラゴンよりもずっと有利だ。
「ザイト、いつでもいいよ!っていうかもうヤバい捕まる!」
トルテの叫びを背に、席を立ったザイトはそのままオーブリングNEOを構えオーブダーク・ツヴァイへと変身した。ここなら戦闘になってもあまり目立たずに済む。ウルトラマンの似姿をした存在など噂になれば厄介だ。宇宙は広いため情報の拡散にはそれなりに時間はかかるがそれでも進んで目立とうとは思わない。自分は中堅の傭兵で十分だ。
そんな考えの下彼はこうして人目を気にして変身しているのだ。しかし気づいているだろうか。本当にそう思っているのならそもそもこんな力、必要ないのである。
『シェア!』
オーブダークが近くのデブリに着地したと同時に光弾を手のひらから発射する。ペンドラゴンに狙いを定めていたナースには不意を突く形となりこちらの攻撃は命中する。これであの龍の標的はこっちへと移行するだろう。彼は構え敵の出方を見極める。
蛇行しながらこちらに向かってくるナースにオーブダークは光弾を更に放つ。
しかしその不規則に動く細い胴体を捉えるのは難しく接近を許してしまう。そのまま横なぎに払われた尻尾の攻撃を腹に受け、吹っ飛ばされる。
『―――ッ!?』
どうにか体制を立て直しながら追撃に備えオーブダークだがナースは再び宙へ舞い上がりオーブダークと距離をとってしまった。これではこちらから中々手が出せない。
「ザイト、どうするの!?」
少し離れている場所で待機しているペンドラゴンから声が届く。確かにこれを繰り返されてしまったらたまったものではない。打開策が必要だ。
トルテの問いに答えずにオーブダークはナースを見据える。ただ突っ立っているわけではない。移動しながら、けん制の光弾を放ちながらだ。
それをするりと避けながらナースは再びオーブダークへと向かう。
『ダークオリジウムソーサー!』
接触する直前、彼はリング状の光輪を放ち、光輪はナースを切り裂くべく向かっていく。
しかしこの攻撃は当たらずにかわされ、ナースはそのままオーブダークへと巻き付いた。
「ザイト!」
『来るな!』
それを見ていたトルテが慌てて行動を開始しようとする。しかしザイトがそれを制止した。何か策はあるのだろうか。彼を信じトルテはそのまま動くことはしなかった。
それが正解だということに気づいたのはそのすぐ後の出来事を見てからだ。
先ほどはなったダークオリジウムソーサーがまるでブーメランのように弧を描きオーブダークへと向かっていく。
「これって…!」
オーブダークへと戻ってきたそれは正確にナースの胴体を分断する。拘束が緩んだオーブダーク二つに分かれたナースを掴み、それを同じ方向へひとまとめにぶん投げた。そして
『ダークスペリオン光線ッ!!』
放つ光線はオリジウム光線とはまた別のもの。オリジナルのオーブがウルトラマンとティガの力を使って放つ技。一部ではあるが、オーブダークもその力を引き出せるのだ。
直撃したダークスペリオン光線はナースをそのまま爆発させる。塵となったナースを見届けたオーブダークは光の粒子となり、ペンドラゴンの中へと戻っていった。
「やったね!ナイスザイト!」
いえーい、とハイタッチを求めてくるトルテを軽くスルーしたザイトはそのまま操縦席へと戻る。
「もー、ノリ悪いなあ」
「戻るぞ。向こうがどうなっているのか気になるからな」
そう言ってザイトは船のコントロールを自分の席のものへと戻す。そうして戻った先で見たのは、こちらの勝利の光景だった。切り札であったナースが敗北したのだ。勝ち目はないと引き下がったのだろう。残存していた敵もいそいそと撤退していく。
「一件落着、かな?」
「とりあえずはな」
とりあえず目の前の脅威は去ってくれたようだ。それを確認した彼らはそのままターミナルへと向かっていった。
◆◆◆
「どういうことだ!こんなこと聞いてねーぞ!!」
どこかの場所、ザイトたちのいる場所からそれなりに離れているだろうか、先ほどターミナルを襲っていたらしき族の長の男が青年に詰め寄る。
「ん?何が?」
とぼけたように黒髪に白いメッシュが特徴的な青年は言う。
「しらばっくれんな!!あの巨人だ!ありゃウルトラマンじゃねーか!あんなのいるなんて話げちげーって言ってんだよ!」
「話も何もオレはアンタらにあそこの情報を与えたでしょ?金目のものがあるって。ほんで防衛設備の情報と怪獣兵器まで与えた。あのウルトラマンらしき巨人はあのターミナルの防衛設備じゃないしこっちに聞かれても困る。というかさ、あそこまでしてやったのにあんなさびれたターミナル一つ落とせないってどうよ?」
「て、テメェ!言わせておけば!!」
青年の言葉に激昂した男は青年の胸ぐらをつかみ、そのまま殴りかかろうとする。瞬間、青年の持っていた筒状の道具から黒いエネルギー弾が放たれ、それが男の胸を貫いた。
「ガッ!?」
「あーあ、別に殺す気なかったのに。ま、先に手を出してきたのそっちだし、弱っちいの悪いね」
そのまま地面に倒れこんで絶命した男を一瞥した青年はどこからか通信用の端末を取り出し、その電源を入れた。
「ハロー、こちらディズ。大方終わったって」
『そうか。ご苦労。ではデータを』
「もうそっちに送ってる最中。生憎オーブダーク・ツヴァイの戦闘データは少量しか採れなかったよ」
『データ自体はあるんだな?なら構わない。泳がせているうちはいくらでもチャンスはあるんだからな』
「そういうことで。あ、そうだ。あんたに貰ったこれ、使うチャンスなかったわ。また次回かな」
『そうか。それの戦闘データも欲しいことには変わりない。チャンスがあれば存分に使ってくれ』
「はいよ」
その言葉と共に青年、ディズは通信を切る。
「さてと、新しいおもちゃは上々。これからが楽しみだ」
不敵な笑みを浮かべ、ディズはその場を後にした。
新キャラ登場!でも本格的に物語に絡むのはまだ先の模様……。