「ででーん! な、な、なんと! 実はレッドの正体は私だったんだよ! 嘘ついてごめんね!」
「いやみんな気づいてたよ赤松ちゃん。逆に隠せてるつもりだったの? あんなで騙されるのは百田ちゃんくらいだよ! 百田ちゃんをバカにしないでよ!」
「おめーだよ! つーか、俺だって気づくわあのくらい! どう見ても赤松だったろうが!」
「ええっ! レッドさんは赤松さんだったの!? 赤松さんじゃないって言ってたから、てっきり別人かと思ったよ!」
「ゴン太は相変わらず素直じゃのう……」
先日の演奏会が終わってから、赤松さんは自分のクラスメイトにレッドの正体をバラしていた。大切なクラスメイトを騙したままでいたくなかったのだ。もっとも、ほとんどの人にはバレていたが。
同様に七海さんもクラス内でセブンの正体をバラしていたのだが、こちらのほうはいよいよクラスメイト全員にバレていたので特に関係なかった。
「赤松さん素敵でした! 残りの女子もかわいくてまるでアイドルみたいで……あれはどちらの方なんですか!?」
「内緒だよー」
そして相変わらず律儀にも、赤松さんは苗木くんのことは内緒にしている。プリクラに写っていた子だとは仄めかしたが、詳しい説明はするつもりは無いようだ。
また一応、気づいた人がいないか赤松さんなりに探りを入れておく。
「最原くんは? 探偵だけど正体を見抜いちゃったりしちゃった?」
「うーん、一人は七海さんだと思うけど、もう一人は分からなかったかな」
「お?」
横で超高校級の発明家・入間美兎が、童貞原は七海で見抜きしたって? とか言ってるけど無視した。
無視されて入間さんは勝手に落ち込んでいた。無視しないでよぉ。
「そうなんだ。78期の探偵さんにはバレてたみたいだよ」
「霧切さんには? さすがだね……」
それよりも、と最原くんが言う。赤松さんのほうは大丈夫?
最原くんは、先日あれだけ騒ぎになったので赤松さんを心配に思ったのだ。
さすがに本校者のクラスにまでおしかけてくる輩はいないようだが、昨日のアレで赤松さんは確実にファンを増やしたに違いなかった。
「うーん、まあ今日は用事があって、学園からは早めに出ていくから大丈夫じゃないかな」
「そうなんだ。用事ってなにか訊いてもいい?」
「他の人には内緒だよ? えーっとね……」
数時間後。というか放課後。
最原くんは、霧切さんと舞園さんと、それに加えて日向くんとともに、山の上の公園までピクニックにいっていた。
学園からはそう離れた場所というわけではないので、四人の息はさほど乱れていない。ただ、最原くんは精神的な意味で少し疲れていた。
「最原くんは尾行がとても上手ね。さすが、超高校級の探偵に選ばれただけあるわ」
「そうなんですね、私は尾行のうまさとかは分かりませんが……って、霧切さんも探偵じゃないですか」
「一口に探偵と言っても得意とする分野はそれぞれ違うのよ。テロや賭博、誘拐……インターネットの不正アクセスなんかを得意としている探偵もいるわね。最原くんはペット探しや浮気調査が主な仕事内容みたい」
「おお、それはなんだか探偵っぽいな。で、霧切が得意としてる分野ってなんなんだ?」
「殺人よ」
「お、おおう……」
どうしてこの四人という不思議な組み合わせかというと、赤松さんの放課後の予定が原因だった。
赤松さんと七海さんと苗木くんは、先日の演奏会の打ち上げとして、三人で公園までピクニックに行くと約束していた。
打ち上げと聞くとどこかのお店で乾杯する様子を想像するが、このようにさわやかな打ち上げというのがあってもいいだろう。三人らしい選択と言える。
放課後になりいそいそと帰り支度を始める苗木くんを見て、霧切さんは違和感を覚えた。
なぜならこの曜日にいつも苗木くんは、校内に残って何かをしているからだ。奇しくも今日は音楽室に集まる曜日と同じだった。
事件とは、普段と違うイレギュラーなことが原因で引き起こされる。探偵的な勘が働いた霧切さんは、苗木くんの様子をうかがうことにした。
すると同じく苗木くんの様子をうかがっていた舞園さんと、七海さんの様子をうかがっていた日向くんを発見した。
三人で一か所に集まりなおも様子をうかがっていると、偶然最原くんに見つかってしまう。せっかくなので巻き込んで、四人で尾行することにしたのである。
おそらく一人ひとりでは尾行を続けるなんていう発想は無かっただろう。人数が集まると行動力が出てくるあたり、四人もまだまだ高校生なのだった。
観察対象の苗木くんたちは、公園に着くなりピクニックらしく、シートを広げてお弁当を取り出し始める。
苗木くんが大きめのお弁当を取り出したので、これを三人で食べるのだろう。
実はあのお弁当、苗木くんの手作りである。赤松さんや七海さんが指を切ったりしたら駄目だろうと、自分から作ると名乗り出たのだった。ええ子や。
「すごーい! 苗木くんは料理できるんだね! 美味しそう!」
「妹にいろいろ作ってあげることがあって……でも、七海さんのクラスの料理人さん……花村クンにはかなわないかな」
「うーん、花村くんの料理は確かにすごくおいしいけど……苗木くんのお弁当もとってもおいしい……と思うよ?」
「七海さんもう食べてる!? いやでも、そう言ってもらえるならよかったよ」
お弁当を食べている三人を観察して、四人はお腹が空いてくる。
霧切さんは探偵らしく携帯食料を持っていたので、舞園さんに分けていた。
あと日向くんも、どこに持っていたか分からないが、ミネラルウォーターや菓子パンなど食料をたくさん持っていたので分けてあげた。
日向くんすごいね、とムシャムシャとパンを頬張りながら四人は観察を続けている。こちらもこちらでピクニックを楽しんでいるようだった。
そうそう、以前苗木くんと出かけるときはスキャンダルを気にしていた舞園さんだったが、今回は霧切さんもいるし四人だしで、友達と遊んでるような感じなのであまり気にしてはいなかった。
それでも悪意のある写真などを撮られると困るので、できるだけ霧切さんの隣をキープしているわけだが。
「それにしても、七海は他のクラスにも友達がたくさんいるだろうと思ってたが……予備学科だった俺にも普通に接してくるしな。しかしこの三人はどういう集まりだ?」
「赤松さんは誰と仲良くても違和感は無いんだけど……考えてみれば不思議な組み合わせだよね。赤松さんと七海さんと苗木くん」
「……あなたたちは気づいてないの? この前のピアノコンサートしてた三人よ」
「えっ」
「えっ」
こちらも話が盛り上がっている中、苗木くんたちはお弁当を食べ終わっていた。
苗木くんがお弁当を片付ける横で、七海さんは代わりにゲームを取り出している。
でも、さすがにピクニックに来て外でゲームってどうなん? みたいなことをやんわり伝えて話した結果、三人でポケモンG○をすることになった。外でするゲームなのでちょうどよかった。
チュートリアル終了済み、ボール三十個が手に入っているポケG○のデータが入っているスマホを三台、七海さんが用意していたので、それを使う。
三十分でそれぞれ何匹モンスターをゲットできるかの勝負をすることにした。リアルサファリゾーンだった。
三人は公園内をそれぞれ分かれてモンスターを探し始める。
いろいろ歩き回っているうちに、七海さんが尾行四人衆を発見した。なんか普通に見つかった。
「あれ、日向くんだ」
「よ、よぉ七海、奇遇だな」
奇遇でもなんでもなく、七海さんをつけていただけである。
「日向くんたちもピクニック? 私もね、赤松さんと苗木くんとピクニックなんだー。それで今モンスター探してるの。私が一番捕まえてみせるよ!」
「そうなのか」
モンスター? と四人の頭にクエスチョンマークが浮かんだ。ポケG○のことを知らない四人にとっては、七海さんが不思議なことを言い出したように感じたのだった。
「そういうことだから、じゃあまた学校でね。みんなもまたね」
ばいばーい、と手を振る七海さん。その様子は、日向くんたちが尾行していたという発想なんてまるでないほど純粋だ。
「……独特の空気を纏ってるけど、七海さんっていい子なのね」
霧切さんの呟きに、残りの三人はコクコクと何度も頷いた。