苗木くんと七海さんと赤松さんと   作:佐藤秋

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12 苗木くんたちとシェアハウス

 

 次の日。

 苗木くんの家に泊まった赤松さんと七海さんは、苗木くんを含めた三人で仲良く学校まで登校していた。

 先日のピアノ演奏会の影響で赤松さんと七海さんは結構注目の的であり、それが苗木くんという男子と一緒に登校してきたので、周囲は結構ザワザワとなっていた。

 

「……なんか私たち、やけに見られているような気がしない?」

「うん。ボクもそう思ってた」

「……え、そうかな?」

 

 そんな三人の前に、一人の男が朗らかな様子で現れ話しかけてくる。

 霧切パパ、もとい学園長であった。偉い立場の人なので苗木くんたちは一瞬緊張したが、若い見た目の男性なのでそこまで慌てることはしなかった。

 

 学園長は三人を学園長室まで連れて行くと、注目されていた理由について説明する。さすが学園長だけあって、生徒たちのことに関してはよく知っているのだ。

 その上で、学園長は一つ提案をするのだった。

 

「……えっとそれはつまり、私と赤松さんが……」

「いま住んでる学生寮から出ていかなきゃいけない……ってことですか?」

 

 赤松さんと七海さんの人気が出過ぎたため、学園内の寄宿舎に住むのは危険である。だからほとぼりが冷めるまで二人は別のところに住んではどうか、というのが学園長の提案だった。

 都合よく学校の近くに使っていない家があるのだと言う。

 

 実のところ、この話のほとんどは嘘だった。

 学校近くに赤松さんたちが住める家があるというのは本当だが、それ以外はすべてでたらめだった。

 

 学園長の考えはこうである。

 

 歴代の超高校級の生徒の中でも特に個性的な人たちが集まったと言われている例のクラスを、まとめあげてしまった赤松さん。

 どうして彼女にそんなことができたのか。それは彼女の価値観が、他の生徒に比べて一般的だったからに他ならない。もちろん、持ち前の性格などもあったのだろうが。

 

 それで次の年、一般的な価値観の生徒を導入することでクラス融和を促せないかと、試験的に超高校級の幸運という制度を導入する。

 結果訪れたのはこれまた違った価値観を持つ生徒だったが、代わりに七海さんが77期生たちの仲良くなる原因を与えてくれた。

 

 かつてこの希望ヶ峰学園で、彼女たちのクラスほど結束力が高いクラスが誕生したことは無かった。

 そりゃあ仲良くなる生徒たちは当然何人もいたが、クラス全員が互いに信頼し合っているというのは初めてだった。

 

 そこで、赤松さんと七海さんを強制的に仲良くさせる、今回だと同じ家に住まわせることで、クラス内の結束がクラス外まで波及しないかと考えたのだ。

 

 都合のいいことに、彼女たちを同じ家に住まわせる建前がつい最近できた。これを機に計画を実現できないかと、学園長は二人に提案したのだった。

 

「……えーっと、ボクはこの場にいても良かったのかな……?」

「ほんとだ。私と赤松さんだけに向けた内緒の話っぽいのに、苗木くんは普通に一緒に聞いてるね?」

 

 ついでに、学園長にはもう一つ企みがあった。

 それが、78期生の中心的立場になりつつある苗木くん。彼もその家に住まわせてしまおうという考えだ。結束が深まる人数が多いなら多いに越したことは無かった。

 

 だが、やはり性別の問題というものがある。学園長なので生徒が嫌がることを無理にやらせるということはできない。

 ということでこちらに関しては、赤松さんと七海さんの二人の了承が取れればという条件付きであった。

 

「えっ、ボクもですか? わー……学園長にもボクの女装はバレてたんですね……恥ずかしい……」

「それに私たちの正体もね。さすが学園長……生徒のことをよく見てる……ってことかな? ゲームでも校長先生みたいな偉い人はそんな感じだよね。クラス受け持ってないのになんでだろ」

「そう言えば江ノ島さんが言ってたね、学園長は霧切さんのお父さんって。まさか私もバレちゃってたとは。さすが探偵の育ての親だね」

「いや二人は割とそのままだったよね? えーっとそれで……ボクも二人と同じ家に?」

 

 苗木くんもピアノ演奏会をした一人だったことを理由に、シェアハウスを勧める学園長。

 なお苗木くんの女装を見抜けたのは普通に学園長の実力である。学園長らしく生徒一人ひとりをちゃんと観察していたのだった。

 

「苗木くんならいいですよ!」

「うん、大丈夫……だと思うよ?」

「えっと、二人がこう言ってくれるなら、ボクも反対する理由はありません」

 

 結果は快諾。赤松さんも七海さんも、嫌な顔一つすることなく頷いた。

 

 ということで、三人はシェアハウスをすることになった。一応、建前のため周囲には内緒ということにしたが、仲のいいクラスメイト達には話してしまうだろう。むしろその方が都合がいい。

 

 さっそく、今日の放課後から三人は同じ家だ。展開が早くて学園長も助かるのだった。

 

 

 

 放課後である。 

 新しく住む家を紹介された赤松さんと七海さんは、希望に目を輝かせていた。

 現状を逃れるために急遽用意されただけの家かと思っていたら、予想以上に立派な建物だったためだ。

 

「すごい……私たち三人の個室以外に、ピアノが弾ける部屋まであるよ! しかも防音!」

「図書館ならぬゲーム館まである……。それに居間に大きいテレビがあるから、これで苗木くんたちとゲームもできるよ! うおー!」

 

 内部施設も充実していて、二人のテンションは今までにない以上に最高だった。

 二人の肩書きにぴったりの、まるで二人のために用意されたような設備だが、それも当たり前でこれは二人のために用意された設備である。

 この家は偶然残った空き家ではなく、赤松さんと七海さんを住まわせるために学園が用意したものなのだから当然だ。

 まあ逆に、苗木くんのために用意された部屋なんかは無いのだけれど。

 

「才能に合わせた個室なんて、まるで研究室をもらったみたいだね」

「……研究室?」

「研究室って、大学の?」

「あ、二人はまだ分からないか。あのね、希望ヶ峰学園では、学年が進むと個人の研究室がもらえることがあるんだ。私のクラスにも何人か自分の研究室を持ってる人がいるよ」

 

 赤松さんの学年から、希望ヶ峰学園にはそういう制度があった。一定以上の功績を残した生徒には研究室という名称で、己の才能を伸ばすために必要なものを集められた個室が校舎内に増設されるのだ。

 

 なお、一定以上の功績とは、単純にお金のことである。

 在学中に、学園の協力で得たお金を還元することで、それを研究室増設への費用へと充てられるのだ。

 断じて、予備学科に通う生徒から法外な授業料を巻き上げているからではない。

 

 そもそも予備学科とは、大きな才能を近くで観察することを目的に作られた学科である。

 社会に出れば、その大小に差があるとはいえ、才能を持つ者などいくらでもいる。

 学生時代にそういった人物を間近で見ておくことにより将来的に才能を持つ者の支えになることができる、というのが予備学科の基本理念であった。

 

 もっとも日向くんのように、学園から変な計画を持ち込まれることもあるのだが……あくまでそれは特殊な例である。

 

「……二人とも、ピアノやゲームは後だからね。まずはここで生活するうえでのルールを決めないと」

「むう。まあ仕方ないね。お風呂の時間とか決めとかないと、うっかり脱衣所で鉢合わせ、っていうお約束の事態とか起きちゃうし」

「いや大浴場とかじゃないんだからそれは注意してたら防げるよ七海さん……。ボクが言ってるのは、お風呂掃除とか、洗濯とか、ゴミ捨てとか。そういう役割分担を決めておこうってことだよ」

「あ、それもそうだね。寄宿舎じゃないから東条さんには頼れないんだ」

 

 当然ながら、超高校級のメイド・東条斬美などはいないため、身の回りのことは基本的に自分たちでする必要がある。

 シェアハウス一日目は、それらをローテーションでやるか担当制でやるか、はたまた個人で勝手にするかなど、相談して終わりになりそうだ。

 

 一通り話し終わった後は、三人でいつでも連絡が取れるように、LINEグループが結成されることになった。

 グループ名は、「幸運のピアノ同盟」。七海さん要素が欠けてる気もするが、アイコンは三人で撮ったプリクラなので問題ないだろう。

 

 実はこのときになって初めて、赤松さんと七海さんの連絡先を知った苗木くんだった。 

 

 

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