苗木くんと七海さんと赤松さんと   作:佐藤秋

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14 苗木くんたちとパーカー

 

 この間から始まった、赤松さん七海さん苗木くんの三人によるシェアハウス。

 料理の担当は苗木くんに決まったが、洗濯のかかりは残りの二人が交互に行うことになっている。まあ、女性の服もあるので当たり前だ。

 つまり逆を言えば、赤松さんと七海さんは、いつでも苗木くんのパンツをゲットできる立場にいるわけだ。レアアイテムである。これは是非とも欲しいところ。

 

 冗談はさておき、赤松さんに洗濯してもらった服を着て、苗木くんは今日も仲良く三人で学校へ向かう。

 同じく登校しているのは、大抵が予備学科の、寄宿舎を利用していない生徒たちだ。その中に一人、元予備学科の生徒が混じっていた。

 

「よう、七海に苗木。おはよう」

「……あ、日向くん。おはよー」

「おはよう日向クン。最近朝は冷え込むね」

「ん……? おお、そうだな。っと、赤松先輩もおはようございます」

「うん、おはよう!」

 

 声をかけてきた日向くんは何やら違和感を覚えたようだが、正体がよく分からなくてそのまま会話を続けた。

 

「共同生活にはもう慣れたか? ……って、三人で一緒に登校してる時点で良好だよな」

「あれ、日向クンは知ってるんだね」

「そりゃあ、七海がいろいろ教えてくれるからな。苗木くんが毎朝朝ご飯を作ってくれるんだーとかさ」

 

 日向くんは、三人のシェアハウスを知っている人物の一人である。

 というか、三人のクラスメイトの中でそのことを知っているのは現在日向くんだけだった。苗木くんも赤松さんも、積極的に隠しているわけではないが敢えて他言もしないので、意外にも事実が広まるのは遅かった。

 寄宿舎を利用していない日向くんだから、三人が一緒に登校している様子を見ているというのもあるだろう。

 

「だが、男が一人というのは大変だろう。いろいろ気を使うこともあるだろうし。七海が迷惑をかけてないか?」

「むう。迷惑なんてかけてないよ。そりゃあ、朝は起こしてもらったりしてるけど……」

 

 頬を膨らませた七海さんは、そのあと考え込むような表情をしつつパーカーのフードをかぶる。

 いつもこうすると現れるフードの猫が、どういうわけだか今日は行方不明だ。日向くんは納得のいく顔をした。

 

「あ、そうか。さっき何か違和感があると思ったんだが、逆だったんだな」

「? 何の話?」

「さっき苗木たちに挨拶したとき、苗木だと思ってた相手が七海で、七海だと思ってた相手が苗木だったんだよ。一緒に声をかけたし、一瞬だったから気づかなかったんだけどな。で、なんで二人を見間違えたかだけど、お前らのパーカーが入れ替わってるせいだ」

「えっ。あっ、ほんとだ!」

 

 自分のパーカーのフード部分を見て、猫になっていることに気づく苗木くん。

 他にも袖の部分がいつもよりぶかぶかだったりと細かい差異はあるのだが、今まで苗木くんは気づかなかったようだ。観察力のある苗木くんにしては珍しいミスである。

 シェアハウスにまだ慣れきっておらず無意識に緊張していたのか、あるいは慣れてきて油断していたのかもしれない。

 

「これ、誠くんのパーカーだったんだ。洗濯のときに入れ替わったのかな」

「そうだろうね。いま気づけてよかったよ。じゃあ千秋ちゃん、ボクの着てるのと交換を……」

「でもまあ、今日はもうこのままでいいよね。今さら戻すのも面倒だし」

「千秋ちゃん!? 面倒のハードルが低すぎるよ!」

「苗木。嫌がる女性の服を無理やり脱がそうとするのは感心しないな」

「二対一!? っていうか日向クンも、誤解を招くような言い方しないでよ!」

 

 日向くんと七海さんがふざけていると……あ、七海さんは素だと思われる……今度は赤松さんがこっそり背後に近づいて、苗木くんにフードをかぶせていた。

 

「あはは。誠くんかわいい」

「ちょ、楓さん!? 言っとくけど、入れ替わってたのは二人のどっちかのせいだからね!?」

「ごめんごめん」

 

 素直に謝られたのだから、これはもう許すしかないだろう。これ以上は何も追及できない苗木くんである。

 

 結局パーカーの交換は行われず、今日一日苗木くんはこのままで過ごすことになった。しかしまあ、頭にかぶせなければ特に気づかれることは無いだろうと、苗木くんは自分を納得させるのだった。

 

「おはよー!」

「あ、苗木、おはよー! 今日のランニングも気持ちよかったね!」

「苗木くんおはよう! はっはっは、朝の挨拶をしっかりすると実に気持ちがいいな!」

 

 教室に入る苗木くん。ほら、やっぱりかぶっていなければパーカーの違いに気づく生徒なんてそういない。

 

「おはよう。あら苗木くん。今日はいつもとパーカーが違うのね」

「うっ……」

 

 なお、霧切さんに一瞬でバレた。さすが探偵だけはある。異性の些細な変化に気づける霧切さんはきっとモテるだろう。そんな気がする。

 

「……制服を着てくればよかったよ」

 

 ちなみに今さらだが、希望ヶ峰学園には制服が存在する。特別な行事があるときはそれを着用するが、平常の授業があるときなどは私服も許可をされている。個性的な生徒がそろうこの学園では、生徒の服装を縛るのは難しかった。

 

「そのときは私とおそろいだね」

「ボクは男子だから、おそろいっていうのは違うと思うよ戦刃さん……」

 

 苗木くんのクラスで制服を毎日着ているのは、地味に戦刃さんだけだった。石丸くんは風紀委員なので制服とはまた違った恰好をしている。 

 

 入学当時、周囲から距離を置いていた霧切さんと戦刃さん。その二人に苗木くんが加わって三人で話している姿は、今ではそんなに珍しくはない。のかもしれない。

 

「そう言えば苗木くん、学園の近くに引っ越したって言ってたね。それにはそんな事情があったんだ」

「……そこに苗木くんが含まれる理由はよく分からないけど、あの人の考えていることは昔からよく分からなかったわね」

「まあ、きっと学園長には学園長なりの考えがあるんだよ。少なくともあの人は、ボクら生徒のことは大切に考えてくれているとボクは思う」

「……それで苗木くんは、間違えて七海さんのパーカーを着てきたのね。ふふ、結構うっかりな一面もあるじゃない。七海さんのマイペースなところがうつったのかしら」

 

 シェアハウスのことを知る、二人目三人目の誕生である。

 この二人も口は堅いほうなので、そのことを周囲に知られるのはまだまだ先のことになりそうだ。

 

 そして今はシェアハウスのことよりも、猫のパーカーを着ていることのほうを口止めしておく苗木くんだった。

 

 

 

「ちょっといいかしら、にゃえ木く……失礼、苗木くん」

「わざとやってないよね霧切さん!?」

 

 

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