苗木くんと七海さんと赤松さんと   作:佐藤秋

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16 苗木くんたちと春川さん①

 

 ある日のこと。

 七海さんのクラスでは日向くんが、苗木くんのクラスでは霧切さんと戦刃さんが、それぞれシェアハウスのことを知っているわけだが、ついに赤松さんのクラスにもそのことを知る人物が現れた。

 

 それが春川さんである。春川さんは赤松さんに誘われて、こちらの家に連れてこられたのだった。今日はうちに遊びに来てよ、みたいな感じで。

 

「ただいまー、誠くん」

「おかえり楓さん……と、お友達も一緒?」

 

 家に帰ると、先に帰っていた苗木くんが出迎える。七海さんはまだ帰ってきていない。

 

「うん! クラスメイトの春川さん! 超高校級の保育士だよ!」

「初めまして、苗木誠です。いらっしゃい春川さん、ゆっくりしていってね」

「誠くんはねー、私たちの二つ下! 才能は、超高校級の幸運だって!」

「超高校級の幸運……?」

 

 軽い紹介を終えたのち、苗木くんはいそいそと奥へと引っ込んだ。

 同居人の友人が遊びに来て、それに混ざるというのは少数派だろう。邪魔しないように空気を読んで下がったのだった。

 しかし苗木くんの気の遣いっぷりはそれだけにとどまらず、飲み物とお菓子の準備を始めていた。さすがに手作りするのはおせっかいすぎるので、買っていたものをいくつか見繕って出すだけだが。

 

 苗木くんが下がるのを見届けてから、春川さんは怪訝な表情になる。

 

「……赤松って男と同居してたの?」

「うん、あと一つ下の千秋ちゃんともね。ゲーマーの七海千秋ちゃん。この前急に学園長から、三人で一緒に住むよう言われたの」

「ああ、あのアンタと一緒にピアノ弾いてた……でも、同じ家になんていきなりじゃん。大丈夫? 男と一緒だよ」

「誠くんはいい子だから大丈夫だよ!」

「確かに無害そうな雰囲気だったけど」

 

 どうやら純粋に赤松さんを心配しているようだった。

 血のつながりのある弟とかならまだ大丈夫だろうが、年下とはいえ苗木くんは男である。超高校級の合気道家・茶柱転子ほどではないにせよ、男を警戒するのは当然だった。

 

 春川さんの心配もなんのその、赤松さんは春川さんを居間に案内する。

 と、ここで赤松さんの携帯が鳴り始めた。

 ごめんね、と春川さんに一言かけた後、対応のため部屋からいったん離れる赤松さん。

 まるでその隙を狙ったように、苗木くんがお茶菓子を持って登場する。

 

「楓さん、よかったらこれ二人で……ってあれ、春川さん一人?」

「電話してる」

「そうなんだ。春川さん、飲み物は紅茶で大丈夫? ロイヤルミルクティーとかならボク淹れられるよ」

「なんでもいい」

「そう? じゃあ紅茶、ここに置いとくね」

「うん。ありがと」

 

 人畜無害な笑顔を見せる苗木くんに、春川さんはそっけない。

 でも今さら苗木くんはそんなことではめげたりはしない。霧切さんだって初めて話したときはそっけなかったし、十神くんなんてめちゃくちゃ冷たかった。

 反応を返してくれる春川さんの対応など優しいもので、苗木くんはさらに言葉を紡いだ。これが希望の力である。

 

「ねえねえ、春川さんは超高校級の保育士だったよね」

「そうだけど……何? 似合わないって言いたいの? それとも、どうして保育士なんかになったか訊くつもり?」

 

 鋭い眼光を返す春川さん。

 肩書きについては、話す相手話す相手ほぼ全員が、性格に合っていないと口にした。言葉に出さなくても、そう思ってる態度だとすぐに分かった。

 だから春川さんは、苗木くんもそうなのだろうと考えた。わけであるが。

 

「いや、そうじゃなくてさ。せっかくなら相談に乗ってもらおうかなって」

「は? 相談? ……さっき初めて会ったばっかの相手に?」

「うん。あれ、変かな?」

 

 どうしてそこで首を傾げる、と春川さんは考えた。首を傾げたいのはこちらのほうだ。

 いくら肩書きが保育士と無害そうだからって、実際の自分を見て構わず話してくるということは理解に苦しむ。

 自分の無愛想なところは春川さん自身が一番よく分かっていた。性分だから、今さらなおす気もなおせる気もしないのだが。

 

「えっとね、いつでもどこでも寝ちゃう子が知り合いにいるんだけどー……」

 

 苗木くんは一方的に語りかけてくる。

 

 それを聞き流しながら春川さんは、こいつ赤松みたいにぐいぐいくるなと考えていた。一人だけでもうっとうしいのに、二人になったらいよいよ面倒くさすぎた。

 といっても春川さんは、なんだかんだ話しかけてくる赤松さんにいつの間にか根負けして、逆に心を許せるようになっていたりする。赤松さんに似てると思った苗木くんも、少しだけ気に入りだしていた。

 

「春川さん待たせてごめんねー! なんか学校から電話だったよ」

 

 そのうち赤松さんが、電話を終えて戻ってくる。

 何の電話だったのかというと、王宮からおかかえのピアニストにならないかと言う相談が来た、みたいなことを知らせる学園からの伝言だった。

 

 返事はすぐじゃなくてもいいと言っていたが、赤松さんはすぐに断った。赤松さんのピアノは、みんなを笑顔にするために弾いているからだ。誰かの専属になどなる気はない。

 

 それはさておき、戻ってきた赤松さんは早々に顔をほころばせる。

 

「あれ、春川さんと誠くん、二人で話してたの? よかった、帰ってきたとたんに電話来るんだもん。二人がすぐ仲良くなってよかったよ」

「なってない」

 

 苦笑いをする苗木くん。春川さんのデレはまだ遠い。

 

「それより赤松。何の用事で私を呼んだの?」

「え、春川さんともっと仲良くなりたいなーって。それに、誠くんと千秋ちゃんの紹介もしたかったし」

「意味わかんない。それ、私じゃなくてもよかったんじゃない」

「だって、クラスで一番仲良いの春川さんでしょ。だから最初に知ってほしかったんだー」

「……ふーん」

 

 実のところ、春川さんは赤松さんのクラスの中では一番といっていいほどの常識人なので、二人の仲はかなりいいほうだった。

 もっとも、春川さんはそれを(おもて)には出さないのだが。今だって、赤松さんの中で一番仲がいいという宣言に心を打たれていたが、何でもないような顔をしていた。

 

「とにかく! 春川さんとはいろいろお話したかったし」

「学校でたくさん話せばいいじゃん」

「それに、誠くんと千秋ちゃんの紹介もしたかったの!」

「学校で紹介すればよかったじゃん」

「……それもそうだね!」

 

 春川さんが赤松さんを論破していると、七海さんが帰ってきた様子。

 玄関の靴で来客を察していたのか、ひょいと顔だけ居間に入れてくる。

 

「ただいまー。……お客さん?」

「うん。私のクラスメイトの春川さんだよ!」

「ふーん……」

 

 七海さんは春川さんに目をやると、じーっと春川さんの目を見つめ始める。

 目と目が合う二人。春川さんも見つめ返すものだから、その場を沈黙が支配する。

 

「……なに」

 

 根負けしたのは春川さんだった。七海さんが何を考えているのか分からなくて、ついに春川さんは声を出す。

 

「七海千秋って言いまーす。好きなゲームのジャンルは……何でも好きでーす」

「……なにそれ」

「得意なゲームのジャンルは……オールジャンル行けるよ」

「さっきから内容が無いんだけど」

「うーん……」

 

 自己紹介を始めたと思ったら、七海さんは突然眠ってしまった。どうやら帰り着くまで眠いのを我慢していたらしい。先ほどの沈黙も、眠気のせいで思考のローディングに時間がかかっていたのだった。

 

 千秋ちゃん、このタイミングで寝ちゃだめだよ! と苗木くんが声をかけつつ七海さんを支える。

 

「……苗木が言ってたどこでも寝る子って」

 

 こいつのことか、と春川さんは気づくのだった。

 

 

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