苗木くんと七海さんと赤松さんと   作:佐藤秋

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19 苗木くんたちとこたつ

 

 季節は冬。太陽が昇っている時間も短くなり、日に日に冷え込んでいく今日この頃。三人のシェアハウス内の居間のど真ん中には、いつの間にかこたつが置かれていた。

 

 現在のこたつの中には、七海さんと赤松さん。七海さんはいつも通りゲームをしていて、赤松さんは参考書を広げて勉強をしている。

 暖房も完備された個人の部屋があるのだからそこでやってもいいのだが、二人は敢えてここでしていた。こたつの魔力というのはすごいのだった。

 

 ここで言うこたつは一般的なもので、四角い形に足が四本のもの。つまり座る場所が四か所存在するわけだ。詰めて座ればその限りではないが、あえてそう座ることもないだろう。

 

 その四つの場所において、七海さんの座る場所は、テレビの真正面だということが当たり前になっていた。もちろん、そこが一番ゲームのしやすい位置だからだ。

 

 ずっと七海さんだけが座るので、その一画はもはや彼女の居心地がいいようにセッティングされている。

 目の前にはコントローラー、背後には柔らかいクッション。そしていつぞやのゲームセンターで苗木くんがプレゼントしてくれたウサギのぬいぐるみが横に置いてある。

 このウサギには七海さんから名前がつけられていて、ウサ()くんと呼ばれている。

 当然この″木″は苗木くんの″木″なのだが、耳で聞いてもウサギにしか聞こえないので、苗木くんはそのことに気づいていなかった。ただただ、そのまんまなネーミングだなあと考えていた。

 

 七海さんの位置が固定な以上、赤松さんの座る場所も残り三つに限られてくる。

 しかしながら七海さんの正面となると、テレビに背を向けることになる。ついでにゲームの邪魔にもなるということで、実質二択になっていた。

 

 赤松さんの定位置は、七海さんの右側であった。

 そうなると残った七海さんの左側が苗木くんの定位置である。そこはキッチンに一番近く、作業を終えた苗木くんが真っ先に入りやすいようになっていた。赤松さんが七海さんの右側を選んだ理由はこういうわけだ。

 もしかすると単純に、ピアノの部屋に一番近い位置を無意識に選んだだけかもしれないが。

 

 さて、本日もまたそのような定位置で二人は個人の作業をしている。

 すると後からやってきた苗木くんが、遅れながらも余った自分の定位置へと入り込んだ。今日もまた冷え込むのであった。

 

「ふう~、寒い寒い。千秋ちゃん、今日もこのゲームやってるんだ」

「うん、タイムアタックに挑戦中。毎回冒険内容が変わるから飽きないよ」

 

 七海さんがやっているゲームは、携帯ゲームではなくテレビにつないだ据え置き型のゲームであった。コントローラーを持った手がこたつに入れられるので、こちらのほうが指先が冷えないのである。ちなみにハードはスーパーファミコン。

 メリットは冷えないだけではなく、テレビという大画面でゲームができるので、苗木くんや赤松さんに上手なプレイを見せつけることも可能である。

 もっとも、苗木くんはともかく赤松さんはプレイの上手さが分かるほどゲームをしたことが無くて、何より今は勉強しているため画面を見てはいないのだが。

 

「あ、死んだ」

「む……そこに睡眠罠があるとはツいてない……」

「眠ったら攻撃されても起きないんだね」

「5ターン経つまで強制行動不能だね。あー、ちょっと休憩しようかな」

 

 そう言って七海さんは、ゲームを消さずにそのまま後ろに倒れこんだ。クッションとともにウサ木くんがつぶれている。むぎゅっ。

 頭の下からウサ木くんを救いだし、両腕に抱える七海さん。

 

「あ、千秋ちゃん休憩? じゃあ私も休憩しようかな」

 

 赤松さんがそれを見て、勉強をいったん中断させた。うーん、と背伸びをした後に力を抜く赤松さん。そして目の前のみかんに手を伸ばし、皮をむいて食べ始める。

 ちなみにこのみかんとは果物のみかんであり、超高校級の保健委員・罪木蜜柑は関係ない。

 

 みかんを食べていたら、こたつの中で七海さんがもぞもぞと身を揺らしているのが目に入る。

 食べたいのかな、と思い赤松さんはみかんを差し出したが、どうもそうではないようだ。口元に持っていったみかんには食いついた。

 

「どうしたの千秋ちゃん?」

「誠くんの足が無い」

 

 衝撃の事実、苗木くんは幽霊だった。

 

 なんてことは当然なくて、赤松さんが訊いてみたところ、どうやら七海さんは苗木くんの足を探していたらしい。おそらく上に自分の足を乗せるためであろう。七海さんには苗木くんの足を使うことでリラックスする癖がある。

 

 苗木くんは七海さんのその癖について、まあ自分に気を許している証拠なのかなと考えて、許容していた。

 しかしながら自分から七海さんに触れるのはまだ抵抗があり、こたつに入るときはいまいち足を伸ばしづらい苗木くんだった。

 これが苗木くんの足が無い事件の全貌である。苗木くんは幽霊ではなかった。

 

「誠くん、足伸ばしてもいいんだよ?」

「そう? でも大丈夫だよ楓さん、このままでも十分あったかいから」

 

 苗木くんの中にはまだまだ二人への遠慮があるようだ。こたつの中という見えない場所で、誰かの足を蹴ってしまうということを避けたいらしい。

 もっとも、苗木くんは男子で二人は女子。遠慮というよりかは当然の気遣いのような気もするが。

 

「あ、じゃあさ……こうしちゃえば誠くんも足伸ばせるよ」

「そうだね。……じゃあ私もそっち行こうかな!」

 

 しかしながらこの女子二人に、男子である苗木くんの苦悩は伝わらなかった。

 一旦こたつから抜け出して、苗木くんのいる一画へ改めて入りなおす二人である。

 しかも両側から挟むように座られたのもだから、これには苗木くんもかなり照れた。二人はもう少し自分の性別を考えたほうがいいと苗木くんは思った。

 

 唯一の救いは、こたつが結構大きかったことだろうか。かなり近いが、うまくやれば密着するほどではない。学園がわざわざ準備してくれたこたつだけあって、大きさは普通以上だった。

 

「結構広いねこのこたつ。これなら何人か友達が来ても一緒にゲームできるよ」

「また春川さんとか日向くんとか呼んじゃおうか。っていうか、まだその二人しか来たことないね。千秋ちゃんも誰か友達呼んでいいんだよ?」

「そう言えば日向くんは誠くんが呼んだんだっけ。じゃあ今度は私が日向くんを呼ぼうかな」

 

 苗木くんを挟んで赤松さんと七海さんが会話をする。

 足は伸ばせるようになったけど、楽になったとは言い難いこの状況。割と本気で、同性である日向くんが来てほしいなと苗木くんは考える。

 

「まあ、呼ぶとしたら冬休みに入ってからだね、冬休み前にはテストあるし。あ、一緒に勉強するって名目なら呼んでもいいかも」

「へ、へー、楓さんの学年はテストがあるんだね。ボクの学年は特に何も無いみたいだけど」

 

 現状に戸惑いつつも、だから赤松さんは勉強していたのだなと納得している苗木くん。

 すると七海さんから意外なセリフが飛んでくる。

 

「確かテストはどの学年もあるはずだよ。定期テストっていうより模擬試験みたいなものだから、テスト範囲とかの発表もなくて唐突なんだよね」

「え、うそ!?」

「ほんとだよ。私も去年やられてびっくりした」

 

 希望ヶ峰学園は、特殊な学校とはいえ基本的には学校なのだ。当然ながらテストが存在していた。

 とはいえ告知もなくテストがあるなどとは思わなくて、苗木くんも驚いている。

 

「……えーっと、ちなみにテストっていつか分かる?」

「さあ。去年と同じなら再来週あたりだと思うけど」

「多分それであってるよ。冬休みに入る一つ前の週からだね。まあ当然予定が合わない人も出てくるけど、そういう人は別の日に追試ができるみたい」

「ええ……少し余裕はあるけど、急だなあ……」

 

 だが、驚いてばかりではいられない。知った以上は情報を集める。苗木くんは前向きなのだった。

 

 三十点未満は赤点で、そうなると補習に出なければならず、冬休みの日数が減ってしまうことなどがわかった。

 

「教科は、五教科?」

「確か十教科はあったような……。情報のテストで良い点とった記憶があるし」

「最低限受けなきゃいけないのはそのくらいだね。でも希望すればもっと受けられるよ。理科は選択二科目だけど、地学とか受けたい人は受けてもいいんだって」

 

 こちらはあまり嬉しくない情報だった。時間に余裕があると思ったが、教科が多いとなると案外そうでもないのかもしれない。まあ、当日になっていきなりテストと告げられるよりかはマシだろう。

 

「……ボクも勉強しよ。楓さんは何を勉強してるの?」

「英語だよ! 誠くんも一緒にする?」

 

 ありがたい申し出ではあったのだが、こたつで隣に入られたせいで、並んで勉強するとうまく集中もできそうにない。苗木くんは、赤松さんとは別の教科、今回は数学を勉強することにした。

 

 そんな苗木くんの様子を見て、赤松さんも元の位置に戻って勉強の再開をした。

 二人が勉強を始めたので、間に挟まれた七海さんもまるでオセロのように勉強を始めた。なんとなくゲームを再開できるような空気ではなくて、だからといってこたつから離れるのも面倒に思えて勉強することにしたのだった。

 

 根はまじめな三人なので、静かな環境のまま自習は進む。

 一時間ほど経過し、三人の集中が切れるまで、勉強会は続いたのであった。

 勉強が終わって早々七海さんは、苗木くんにちょっかいを出していた。

 

「えい」

「つめたっ!?」

「うわびっくりした! どうしたの誠くん?」

「た、多分千秋ちゃんの手だと思うんだけど、ボクの足首に……」

「勉強してたら冷えちゃった。ごめん、こたつであったまろうとしたら触っちゃったね」

「いや今、えいって言ったよね!?」

 

 こたつの中で足を伸ばしにくい理由が、さらに増えた苗木くんだった。

 

 

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