急いで苗木くんが駆けつけると、そこでは赤松さんたちが軟派な男たちに絡まれていた。チャラそうなだけじゃなくて、ちょっと不良さも混ざった厄介そうな男たちだった。
赤松さんの腕が男たちの一人に掴まれているのを見て、苗木くんは間に立ち塞がる。
女性を守るかっこいい場面のはずだが、着替える前に来たので苗木くんは女装のままだ。
新たなかわいい子の登場に、男たちのテンションはあがっていた。その反応で苗木くんのテンションは下がった。
「赤松さん、大丈夫? それに七海さんも」
「私は大丈夫だよ。急に触られて驚いちゃった」
二人にひとまず怪我などは無いようで、ほっと胸を撫で下ろす苗木くん。
七海さんにいたっては、絡まれているという自覚が無いというほど冷静だった。それでも赤松さんが掴まれたときは、ムッとした表情にはなったようだが。
「ごめんね。この人たちから遊ぼうって誘われたんだけど、今日は赤松さんと遊ぶつもりだったから断っちゃったんだ。それで怒らせちゃったみたい」
大方、へい彼女俺たちと一緒に遊ぼうぜ的なことを言われたので言葉どおりに受け取ったのだろうが、遊ぶの意味が違うと思われる。
いやまあ過程として遊ぶかもしれないけど、それはあくまでも過程であって目的ではない。男たちは遊び相手が欲しかったわけではないのだから。
正直な話、大神さんや戦刃さんとトレーニングしている苗木くんにとっては、こいつらを相手にすることなんて容易いことだ。
だが、平和主義の苗木くんには自分から手を出して追い払うという発想がない。それに今はかわいい恰好なものだから、男たちにも侮られている。普通の恰好でも侮られただろうということは置いといて。
無視して去るのが理想的だなと考えつつも、諦めない男たちが邪魔で苗木くんたちは逃げあぐねていた。
しかしそこに一人の男が登場して、現状は打破されるとこになる。
「……おいオメェら! そうそうそこのオメェらだよ。テメェらそこでなにしてやがる? まさか、嫌がる女に無理やり手ぇ出そうとしてんじゃねえだろぉなぁ!?」
現れたのは苗木くんのクラスメイト、超高校級の暴走族・大和田紋土その人だった。
どうして彼がゲームセンターにいるのかという説明は後にして、急にあらわれたリーゼントの不良に、ナンパ男たちはそりゃあもうビビりちらかした。
結果、態度を変えて敬語になった連中は、そのまますごすご引き下がる。特にセリフもなく奴らの出番は終わった。単なるモブの描写に時間を使うのも面倒なのだった。
あまりの急展開に、何が起こったか頭がついていかない赤松さんと七海さん。え、なんか怖い人が助けてくれたんだけど本当に助かったのかな?
一方で苗木くんは無警戒で大和田くんに近づいていく。しかも人懐っこそうなニコニコした顔で。
「大和田クン!」
「あん? なんで俺の名前を知ってやがる」
「知ってるよ。超高校級の暴走族、大和田紋土クン。絡まれててちょっと困ってたんだ。助けてくれてありがとう」
「そいつはいいんだが……お前、俺とどっかで会ったことあんのか? ちっこい女のくせに俺を見て怖がらねえってのは……」
「分からない? ボクだよボク。苗木だよ」
「は? な、苗木!? オメェ、なんつー恰好してやがんだ!」
思わぬ正体に大和田くんは大声を出すも、苗木くんは変わらずニコニコしている。クラスメイトである大和田クンを信頼しているためだろう。
その笑顔が、不覚にもかわいいと思ってしまった大和田くんだった。超高校級のプログラマー・不二咲千尋を思い出して、自分のクラスメイト、女より男のほうがかわいげがあるってどういうことだと考えた。
「あはは……まあ、恰好には深く突っ込まないでもらえると嬉しいかな」
「そ、そうだな……」
不二咲くんのこともあり、女装するのはそれなりの事情があるのだろうと大和田くんは理解を示す。
それで落ち着いて周りを見てみたら、ここはプリクラコーナーで奥に更衣室もあった。
苗木くんは小柄で大人しい性格だ。おおかた面白半分で着替えさせられたのだろう予想した。
「……苗木、今日は遊びでゲーセンか? ツレの女共とはどういう関係だ?」
「あ、そうだ、紹介するね! 同じ希望ヶ峰学園の先輩で、赤松さんと七海さんだよ。それぞれ超高校級のピアニストとゲーマーなんだ。二人とも、こっちはボクのクラスメイトで、超高校級の暴走族の……」
「大和田くん……ってさっき苗木くんが呼んでたよね? 名前は知らなかったけど、学園内で見たことあるよ」
大和田くんのリーゼントや特攻服は個性的な人が多い希望ヶ峰学園でも目立つ恰好だったらしく、二人とも見覚えがあったようだ。
礼儀正しく二人とも、助けてくれてありがとうと言った。ついでに苗木くんにも今言った。
「お、おう。そうか、センパイだったか。まあ苗木は、よくわかんねーヤツともいつの間にか親しくなってやがるからな。考えて見りゃ、他のクラスとか、俺の知らねーヤツとも知り合いなのは当たり前か」
「よくわかんねーヤツって……確かにセレスさんとか、初めて話したときとかは何考えてるのか分からない人だったけど」
「十神とかな。いやまあ、それはいいとしてだ」
鋭い眼光で苗木くんを見ながら大和田くんは続きを言う。
「苗木。もしお前が、こいつらに無理やりこんな恰好させられて困ってんなら、遠慮なく俺に言え。俺は女は殴らねーが、代わりに説教してやる。センパイだとか関係ねー。ダチだからな」
男らしく、頼れてかっこいい発言に、苗木くんは目をパチクリした。
その後すぐに笑みを深めると、ありがとう、でも大丈夫だよと口にした。赤松さんたちはそんな人じゃないから、大和田くんが心配する必要なんてないのである。
でも好きでこの恰好をしてるわけでもないから悪いけど着替えてくるねと、苗木くんは大和田くんを残して更衣室に向かう。
残された大和田くんは手持ち無沙汰になるどころか、意外にも物怖じせず話しかけてくる赤松さんと七海さんによって冷やかされることになった。苗木くんと仲良しだねとか、かっこよかったよとか。
実際のところ冷やかしではなく二人は本心を述べただけなのだが、苗木くんをいじめているのではないかと疑ってしまった手前、大和田くんには冷やかされているように感じたのだった。
「ったくよぉ、女でこんなに遠慮のないヤツそうそういねえぞ。お前ら俺が怖くねえのか」
「怖くないよ? クラスメイトに極道もいるし今さらかな。九頭龍くん、私より背が低いけど」
「私のところにも悪の総統がいるなあ。ほんとかどうか分からないし、こっちも背は小さいけど」
「なんだそりゃ……肩書きと見た目が合ってねーんじゃねえか? 俺は見た目通りだろーが」
「大和田くんも大きいけど、弐大くんには勝ててないね。あ、もしかして、キノコを食べると巨大化する体質だったりする? もしそうなら勝てるけど」
「ゴン太くんも多分大和田くんより大きいかな? 二人ともパッと見た感じは怖いんだけど、どっちもいい人だって知っちゃってるし」
なんて会話をしていると、苗木くんが帰ってくる。
そう言えばなんで大和田くんがゲームセンターにいるのか訊ねてみたところ、乗車型のバイクレースゲームをやりにきたらしい。
舎弟にゲームの存在を聞き、少し興味が湧いて訪れてみたところ、迷ってここまで来たのだという。
ならせっかくだし大和田くんも一緒に遊んで行こうよと苗木くん。
いいのかよと訊き返そうとしていたら、その前に七海さんがバイクのゲームはあっちだったねと歩き始めた。さっき絡まれたのをもう忘れたのかと呆れつつ、大和田くんは七海さんの後を追う。
苗木くんと赤松さんは、それを微笑ましそうに見るのだった。
「なん……だと……?」
「ぶい。勝利」
なお、バイクゲームは対戦も可能なようで、大和田くんは七海さんに負けていた。
「大和田くん、仲間仲間。私も七海ちゃんに、自分が得意なはずのジャンルのゲームで負けたんだ」
「赤松もか……。ちっ、ゲームとはいえ俺がバイクで負けるとはな。しかも女相手に」
「ちなみに私は、二回目のチャレンジでは七海ちゃんに勝ったよ!」
「なっ……! おい七海、もう一発だもう一発! 負けて黙ってられっかよ!」
「ふふん、挑戦は何度でも受け付けるよ?」
ゲームでの勝負はこの後も続き、この日は四人で仲良く遊んだのだった。