日本国召喚1965   作:スカイキッド

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まさか本作が日刊ランキングに掲載されるとは思わなんだ。

いや、読者の皆様にはホントに感謝しています。勢いで投稿した本作ですが、お陰様でお気に入り数45、総合評価140ポイントを達成致しました。それもこれも読者である皆様のお陰です。今後とも、本作の応援よろしくお願いします。

今回は初の異世界側視点混ぜです。


第三話

 

 

 

 ――4日前――

 

 

 中央暦1639年1月21日 クワ・トイネ公国 北東海上

 

 とある世界の小さな大陸、ロデニウス大陸。その東部に存在するクワトイネ公国の北東には、大東洋と呼ばれる大海が広がっていた。海上には透き通るような青い空。雲ひとつない快晴の空の中には一つの影の姿があった。

 猛々しい体、金属のような鱗、一対の大きな翼と、ワニのように獰猛な顔。現代人が見たらドラゴンと言うであろうその生物は、『ワイバーン』と呼ばれる飛竜である。クワトイネ公国を初め、各国の軍隊にて空戦/支援兵器として採用されてるポピュラーな航空戦力だった。

 

 そのワイバーンの背中に取り付けられた鞍の上には、竜騎士用の軽装甲冑と風防ゴーグルを身につけた1人の男がいた。そのゴーグルとバンダナで隠れた頭部に覗く顔は、まだ若々しい。

 彼の両腕にはクワトイネ公国軍の所属を示す腕章が身につけられていた。

 

「良い天気だな」

 

 クワトイネ公国軍第6飛竜隊の竜騎士、マールパティマは、愛騎に跨がり大東洋公国沖海域の上空を哨戒飛行していた。青空を見上げた彼は、ただただ綺麗すぎるその空の様子にひとりごちた。だが内心では、少なからず物足りなさを感じていた。

 

「まったく、今日も今日とて異常なし。いっつも平和すぎて嫌になっちまう」

 

 彼は嘆きを吐くかのように、呟く。

 クワトイネ公国の北東、大東洋には何もない。大海である大東洋には大陸も島もほぼなく、青い海が広がっているだけだ。マールパティマはこれが嫌だった。まあ要するに、何も無さすぎてつまらないから嫌だったのである。彼が先ほどのような嘆きを漏らすのも仕方なかった。

 

(まァ、むしろ今は平和な方が良いのかもな)

 

 しかし現在、クワ・トイネ公国は隣国のロウリア王国と緊張状態が続いており、何もない北東方向からのロウリア王国軍の奇襲も十分に考えられた為、こうした哨戒任務も発生している。ロウリアは野蛮な国だ。しかし戦争になればこちらの敗けはほぼ確定してるし、敗けた後この国がどうなってしまうかなど、考えたくもない。

 

(さて、そろそろ交代の時間だな。引き返すか)

 

 とはいえど、いつ戦争が始まるかなど分かりゃしない。今日も何もなく、平和なまま哨戒任務が終わる、そう思っていたマールパティマの視界に、何かが入る。

 

「ん…?」

 

 彼は何かを見つけた。付近に友軍騎はいない筈だから、公国軍騎ではない――つまり未確認騎――ということになる。よく目を凝らし、それを見る。双方が真っ直ぐ近づいている為、接近は速い。

 

「? 羽ばたいていない?」

 

 飛竜とは、羽ばたかなければ空を飛ぶことは出来ない。空気を掴めなければ落ちるのは常識だからだ。しかし真正面から向かってくるそれは、一切羽ばたいていない。

 少なくとも公国軍は翼の羽ばたかない飛竜など保有していないので、つまり、あれは味方ではない。

 

 彼はすぐに通信用魔法具(通称、魔信)を懐から取り出して司令部に報告する。

 

「我、未確認騎を発見。これより要撃を開始し、確認を行う。現在地――」

 

 高度差は殆どない。マールパティマは反転し、前方より距離を詰める事を選択する。未確認騎はワイバーンよりもデカイようで、視界の中で大きくなり続ける。

 その数十秒後、未確認騎は彼の予想よりもだいぶ上回る大きさとなっていた。

 

「でかいな……」

 

 彼はワイバーンの手綱を引き、反転する。未確認騎は大分速いのか、並走するマールパティマ騎にみるみるうちに接近した。

 未確認騎は、マールパティマ騎を追い抜くか、という所で速度を落とし、マールパティマ騎と並走するように飛行を始めた。

 

「ワイバーン……では、ないな」

 

 彼は並走し始めた未確認騎を観察する。胴体は白と紺色で塗り分けられており、羽ばたかない翼には風車のようなものが二つ、高速で回転している。そして胴体と翼には、デカデカと目立つように赤い円のマークが描かれていた。

 

「まずいな……これ以上進まれたら領空侵犯だぞ」

 

 既に視界の中では、祖国の土地が近づきつつあった。このまま領空侵犯をされたら、後始末が大変である。未確認騎を追い返すべく、彼は未確認騎の後方に回る。後方から追撃し、誘導して洋上へと追い返すためだ。

 ところが、これが不味かったようである。

 

「なっ!?」

 

 マールパティマ騎の行動を見た未確認騎は、あろうことか加速し始めた。ものすごい加速である。既に両者の速度は200km/h以上、ワイバーンの最高速力を遥かに越える速度で、未確認騎はマールパティマ騎から逃げ始めた。

 実際、マールパティマが後方に回ったのは不味かった。航空機にとって自機の後方とは死角、つまり後ろに敵機が回り込んでくれば、自機は撃墜されかねない。未確認騎は自衛のため、当然の行動に出たまでだった。

 

「に、逃がすか!」

 

 マールパティマは愛騎に指示を出し、加速。未確認騎を追いかける。しかし、すぐにマールパティマはその行動を諦めざるをえなかった。

 

「くっ……追い付けない!!」

 

 未確認騎は、ワイバーンの出せる最高速力235km/hを遥かに凌駕する高速――目算で400km/hでの飛行を行っていた。マールパティマは必死に追い掛けたが、瞬く間に彼我の距離は3km以上にまで及んでしまった。

 

「なんなんだ、あれは!」

 

 彼は悪態をついた。

 すでにマールパティマの視界の中で粒状にまで小さくなった未確認騎は、一度クワトイネの領空を侵犯したが、すぐに大きく旋回し、もと来た方向へ帰っていった。

 

「帰っていったか……しかし、何なのだ?いったい……」

 

 

 

 クワトイネ公国軍第6飛竜隊所属の竜騎士、マールパティマは、領空侵犯した日本国海上自衛隊の哨戒機P2V-7を要撃するも、彼我の速度差により取り逃がしてしまった。

 

 

 

 

 

 中央暦1639年1月24日

 

 クワトイネ公国の政治代表者が集まる、政治部会。そこでは四日前にマイハークの北側海上方面から現れ、少なからず領空侵犯を行ってきた謎の飛行物体に関して討論が行われていた。

 

 四日前に現れたその物体は、報告によると紺と白の二色で、胴体と翼に赤い円が描かれており、翼は羽ばたかず、にもかかわらずワイバーンを凌駕する速度で飛行したという。追撃を行ったワイバーンは、速度差により追撃を諦めたとのことだった。

 

 さらに翌日には、クワトイネの経済主要地である貿易港、マイハーク港の在するマイハーク市に、鉛筆のように尖った形状の未確認騎が二騎と、それより一回り小さい未確認騎の一騎が、奇妙な高音を上げながら襲来、同地上空を何度か旋回したのち、帰っていったとのこと。

 

(彼らは知る由も無いが、前者はP2V-7対潜哨戒機、後者はF‐104J戦闘機とRF‐86F偵察機の三機編隊によるものである)

 

 それら未確認騎に共通する特徴は一つ、胴体と翼に描かれた赤い円のマークである。おそらく所属国を示しているのだろうが、政治部会の中に、所属表示として赤い円のマークを用いる国を知るものはいない。

 

 この日、会議は難航し、結局結論に至ることはなかった。

 

 

 

 

 

 翌25日 

 

 この日もまた政治部会では、先の領空に侵犯した未確認騎の正体に関する討論が行われていた。だが会議開始から半時間、突如として一人の公国軍幹部が政治部会会場に飛び込んできた。

 

「緊急事態です!」

 

 彼は報告を行った。要約すると、以下の通りになる。

 

 午前8時ごろ、公国海軍第2艦隊所属の軍船「ピーマ」率いる3隻の哨戒艦隊が、クワトイネの北側海上にて見慣れぬフネが2隻、マイハークへ向けて航行しているのを発見。

 

 軍船ピーマは所属不明船二隻に接近し、船長他二名の臨検部隊が二隻のうち白い船体の方へ乗船。調査を行ったところ、同船には「ニホン国」という国の特使が乗船しており、クワトイネとの国交開設のための会談場を設けるよう求めた。

 

 更に、ニホン国は他の世界から突然転移し、元の世界との関わりが完全に断絶されたため、周辺の状況を把握すべく航空()を飛ばして付近の様子を調査しており、その際、クワトイネの領空を侵犯してしまった、そのため深く謝罪する、と言ってきたのである。

 

「国ごと転移など、信じられるかぁ!!」

 

 勿論、政治部会はこの報告を受けて、荒れに荒れた。態々領空侵犯を行うという敵対行為を行い、力を見せつけてきた後に国交開設を求めてきた事が、彼らの堪に触れた。

 

「そんな無礼者など、とっとと追い返してしまえ!」

 

 そんな意見も出た程だった。しかし、クワトイネ公国首相、カナタの鶴の一声により

 ――曰く、

 

「謝罪を申し出てきているのだし、せめてそれの受け入れのための席だけでも設けよう」

 

 ――、公国首脳部とニホン国特使との会談は行われる事になった。これを受け、ニホン国特使の乗るフネ、「アキツシマ」と「ソウヤ」の二隻は、公国のマイハーク港へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 一時間後 マイハーク沖合

 

「まるでタイムスリップしたみたいだな」

 

 最初にでてきた感想がそれだった。

 ミサイル護衛艦「あまつかぜ」艦長の秋元一佐は、艦橋からクワトイネ公国の港、マイハーク港を眺めていた。今、マイハーク沖合いに停泊しているこの護衛艦は、港の様子をよく見渡せる位置にいる。

 マイハーク港は日本の主要港と見比べると、ひどく貧相なもので、小さい。

 

 といっても、それは仕方のない話である。この艦橋から見渡すだけでも、マイハーク港内にいるフネは全て歴史の教科書に出てきそうなほど設計の古い木造帆船、港付近の町並みもまるで中世ヨーロッパそのものである。

 

「昔の世界にいったら、こんな建物とか船とかよく見る事になるんだろうなぁ」

 

 何て風に秋元は呟く。

 実際、港と付近の町並みの風景は現代のそれではなく中世である。

 つまり、クワトイネの文明レベルは地球における中世程度、現代日本からしたら大昔も大昔なレベルの国だったのだ。

 そのため、時代的にタンカーや大型客船など無くて当然だし、当然そんな大型船舶の寄港を想定していないマイハーク港は、必然的に小さくなったのである。

 

「お、ヘリが上がるな」

 

 港から、「あまつかぜ」同様に沖合いに停泊する巡視船「宗谷」へと視線を移した秋元は、「宗谷」のヘリ甲板からHSS-1Aヘリが飛び立とうとしているのを見つけた。

 あのHSS-1Aには、公国側首脳部と会談を行う予定の外交官らが乗っていた。

 

 クワトイネとの交渉にあたり若干ながら問題となったのは、「宗谷」に乗る外交官ら外交使節をいかにして会議場へと移すかだった。日本側からしたら早く会談がしたいため、出来る限り早く会議場に外交官を送り届ける必要があった。

 会議場はマイハークからいくらか離れた公都クワトイネ。これは公国側首脳部が政治部会のため公都から動けなかったからだ。しかし文明レベルが中世程度の公国の移動手段は、帆船と馬車くらいしかないため、通常マイハークから会議場につくまでは半日かかる。すぐの会談など出来ない。

 

 そこで、外交官らは公国側に許可をとった上で、ヘリを用いてフネから直接会議場へと向かう事にしたのである。流石にヘリ単独だと(文字通りの意味で)迷子になるため、途中まではクワトイネのドラゴン――ワイバーンが先導を行う予定になっている。

 

 

 やがてHSS-1Aが「宗谷」から発艦する。それを先導するための公国軍ワイバーンがヘリの前方にやって来た。

 

「それにしても」

 

 秋元はワイバーンを見ながら思う。

 

 

――ホントに日本は転移しちまったんだな。

 

 

 相手の言葉が通じたり、あまりに事がトントン拍子に進むので今まであまり実感が湧かなかった。

 

 だが、ヘリを先導する飛竜や、中世染みた異界の街を眺めながら、何となく実感が沸いてくる――秋元はそんなことを思い浮かべていた。

 

 

 

 

 三時間後、日本側の代表外交官とクワトイネ公国首脳部との会談は無事に終了、近日中に公国側から実務者協議のための使節を日本へ派遣する事で決定した。

 

 

 

 


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