エピローグの反対、つまりプロローグ
人間は非常に貧弱な生き物である。
息ができなければ死ぬし、食べることができなければ死ぬし、心臓を刺されれば死ぬし、自動車に轢かれても死ぬ――因みにここで覚えてほしいことは、今挙げた四つの例はあまりにも多すぎる死因の中のたった四つでしかないことである。
……人間って弱すぎない?
と。
何故このような厨二病を拗らせたかのような難しい話をしているのかというと聞かれれば、今まさに僕が死にかけているから、としか言い様がない。死ぬ前には思考が活性化する、という話はどうやら迷信ではなかったようだ。こうやって呑気に思考していられる辺り、間違いはないだろう。
こうして将来の夢が一切無かった僕は『人の“死”について考察する職』という新たな道を示されたのだった。めでたし! 僕はもうすぐ死ぬけどな!
……どうやら、死の直前はテンションも可笑しくなるらしい。
ただ、僕が
……さて、死にかけているはずなのだけれど、どうも意識が遠ざからない。聴覚とかは機能してないんだけど……むむぅ、だんだん暇になってきた。
することがないし、折角である。僕がどうして死にかけているのか。その理由を、僕自身に説明でもしてみようか。
僕が死にかけている理由――んと、確か、今僕の目の前で大声を挙げていると思われる東風谷 早苗さんを助けたから、だったはずである。彼女は何を血迷ったのか信号無視を実行し、そのせいで丁度走ってきていたトラックの進路上に出てしまったのだ。
で、その近くに居た僕も僕で何を血迷ったのか、早苗さんと同じく信号無視(全力疾走していたからスタイリッシュ信号無視と言えなくもない気がする)を実行。なんとか早苗さんの近くに辿り着くと同時、持てる力の全てを乗せて早苗さんを押した――勿論僕は逃げることが出来ずに轢かれた。
うん。本当に、何を血迷ったんだろう。
どうして、自分の命を捨ててまで早苗さんを助けたんだろう。
あれかな、僕が“お人好し”と呼ばれる人種だからかな――そうかもしれない。というか、それしか考えられない。だってほら、僕、友達からよく「想也ってほんとお人好しだよな。聖人みたいな奴だよ」ってよく言われてたし。うんそうだそうに違いなーい。
可愛い女の子を命を賭けて救うだなんて格好良い! 流石お人好しだ!
楽しい自己暗示を行ってみたところで、本格的に眠くなってきた。
これが巷で噂の“お迎え”と呼ばれるモノなのだろう。凄い、とても可愛い天使が見えてきた。緑髪で、蛙の飾りを付けていて、制服姿の可愛い天使――いやこれ早苗さんじゃん。
あぁ、泣かないでおくれ早苗さん。せめて泣くんだったら巫女服で泣いておくれ。そっちの方がそそるから。
「(……死にたく、ないなぁ)」
と、思ってみたけれど、流石に助からないだろう。というか助からない(断言)。
完全に諦めてしまった僕は、目の前で泣いている早苗さんになんとか遺言を伝えようとして、でも結局力尽き、目を瞑った。
こうして、僕の短い人生は静かに終わりを告げたのだった。完。
◆◆◆
「……筈だったんだけど」
先程までに起こったはずの出来事を思い出し、頬を掻きながら呟く。
……いつの間にか、全てが白い世界にいました。
訳が分かりません。
いや、これは流石に、明らかに可笑しい。
どうして、死んだ筈なのに、僕はこんなところにいるのだ。こんなの、どう考えたって可笑しいだろう。あれか? 生への執着心的なもので夢でも見ているのか? 僕は。死ぬ直前に? ここまではっきりした夢を?
「――be cool. 冷静になれ」
下手に焦っても、何も出てこない。
ここはしっかりと落ち着いて、改めて状況を考えるべきだ。もう一度、今度はゆっくり、それでいて短く今までのことを振り返り、そうした上で、今の状況を確認するべきなのだ。そう、大切なのは落ち着くこと。いつも冷静沈着に、それが僕のスタイル『落ち着き使い』(適当)である。
さぁ、振り返り二回目。今度は簡潔に纏めよう。
早苗さんを助けた。
代わりに轢かれた。
人生が終わった。
起きたら変な空間に居た。今がココ。
うんごめんやっぱり何も出てこないよパトラッシュ。
……いや、正確には、一つ。
思い浮かんだことには、思い浮かんだんだけれども。
「…………」
二次創作の小説とかでよくある『神様転生』
それが行われる際、大抵はこういう空間にいきなり飛んで、神様が突然土下座して、お詫びに転生させちゃる、という流れがよくある。稀に『神様(まぁこの子格好良い……///)』なんて思わず「いやなんでやねん」とツッコミたくなるパターンも有り。
……いや、そんな馬鹿な。
それは二次元だけのお話だ。現実でそう都合良く起こりうることではない。いや本当は早苗さんが“現実”に存在していること自体二次元のようなお話ではあるけれど、でもやっぱり、これは僕が生への執着心で見ている夢……。
「それは違うよ!」
「わぁ!?」
後ろからいきなり、某論破ゲームの主人公の台詞みたいなモノが発せられた。
その声はまだ幼さが残っている――言ってしまえば小さい女の子のような声だった。どうしてこんなところに、なんて疑問に思いつつも、僕は後ろに振り返る。
「わっ」
眩しい、というのが一番初めに出た感想だ。
同時に、幼い女の子の姿をした神様って本当に居たんだ、と少し驚く。
「幼女言うな! 気にしてるんだぞ!」
いや言ってねーよ。幼い女の子としか言ってねーよ。
思った瞬間、先ほど心を読まれたらしいことに気付く。神様に失礼な口を叩いてしまった子とにも気付き、少しだけ怖くなる。
「んじゃ、謝罪しろ謝罪!」
「あ、はい。幼女って言ってすいませんでした」
言ってないけれど、謝らないよりは謝った方が良いだろう。
本当はこういうことを心の中で考えない方が良いのだろうが、まぁ、ジト目で見られる位で済んだので問題はない……と思いたい。
「……さて、早速本題に入ろう。君、黒橋 想也くんがここにいる理由なんだけど……まぁ、俗に言う『神様転生』をするからだ」
「ちょっと待てそんな馬鹿な!?」
予想はしていたとはいえ、流石に驚かずには居られない。
「えっ、マジですか!? でも、何で僕を? 神様のミスですか!? 小説みたいにっ!?」
言いながら、先ほど気紛れで考えた僕専用のスタイル『落ち着き使い』はどうやら僕には備わっていないことに気付く。
気紛れで考えた時点でそんなモノ備わってる訳ないじゃん! とツッコミたくなったが、自分自身にツッコミをするという行為が相当虚しい行為であることについ先ほど気付いていたので、寸前で踏み留まることに成功した。
そういう理由で、僕は意気揚々と、神様からの返答を待つ。
「落ち着け……あんなミスする奴はまず神になれないから。夢の見すぎだよ。君が転生する理由はね?」
「り、理由は……?」
神様の言葉を繰り返しながら、僕は「早く言って!」と期待の眼差しで神様を見つめる。そんな僕を見て、神様はにやにやと微笑むと、「どうしよっかなー」とでも言いたげに僕を焦らし始めた。心の中に少しずつ苛立ちが溜まっていく。
「……いくら温厚な僕でももう許さねー!」と、僕の苛立ちが爆発しそうになったその時、神様はようやく理由を述べた。
「私が君の勇気に感動したからだよ!」
「……はぁ? どういうことですか?」
意味が理解できず、神様の前で「はぁ?」とか言ってしまう。
後から考えればとてつもなく失礼な行為だったが、特に触れられなかったため、よしとしよう。
「いや、君さ。東風谷早苗を助けて死んだじゃん?」
「そうですね」
僕の記憶が正しいのならば、その通りのはずである。
僕は自分が通っていた……何高校だっけ? なんでもいいか。高校の帰りに轢かれかけている早苗さんを見て、思わず爆走。早苗さんの身代わりになった。先ほどから何回も思い出していたから、それで間違いはないはずだ。
と、自分自身の記憶に間違いがないことを確信した直後、神様は、僕に【事実】を突きつけた。
「実はさ。あれ、何もしなくても東風谷早苗は助かったんだよね」
「……え?」
ぐわーん、と軽く視界が歪む。ちょっと状況が飲み込めない。
……いや、それは先程からも同じなんだけれども。一体、どういうことなんだ――何もしなくても、早苗さんは助かった?
「本当は大ケガで済むことだったんだけど、君が助けたことによって東風谷早苗が無傷で済んだ代わりに、君が死ぬことになったんだ」
「……え?」
なんだよそれ、と、言葉を失う。それほどまでに衝撃が大きすぎるカミングアウト。
じゃあ、まさか、僕は完全に無駄死にだったって言うのだろうか。
「いや、違うよ。君が死ぬ代わりに、東風谷 早苗は無傷で済んだのさ」
「はぁ……?」
ふざけんな、と叫びたくなる。僕をあの世界に戻せ、とか、そんな考えが脳内に沸き上がる。
これは理不尽な怒りだ。
そもそも、僕が死んだのは今目の前でにこにこと微笑んでいる神様のせいではなく、完全なる自業自得である。
……まぁ、どうやら、その程度のことに気付く位には冷静な頭だったらしい。神様に怒りをぶちまけることはなかった。やっぱり、『落ち着き使い』は備わっていたのかもしれない。そろそろあるのかないのかハッキリしたいところではある。
脳内でそんな感じの思考を繰り広げていた僕に向かって、神様は言葉を続けた。
「で、私は自分を犠牲に人を助けた君の勇気に感動した。だから、君を転生させてあげることにしたんだ! わかった?」
わかるわけないだろう。
正確には、分かりたい訳がないだろう。
僕はただの
繰り返す。
僕は人間だ、僕は
「……わかりました。で? 『僕』は何処に転生するんですか?」
あれ。
あれ、あれ、あれ。
あれれれれれれれれれれれれれれれれれれ。
「ふっ、それは勿論決まっているじゃないか。東風谷早苗といったら?」
ちょっと待ってよ僕はまだ転生するなんて一言も言ってないその質問の答えは勿論分かるけどその前にこっちの話を――。
「東方project……ですね」
「大正解! 君には特典を付けて東方の世界に転生させてあげるよ!」
おい、話を聞けよ。
ていうか、なんで口が勝手に動いてるんだ。
「特典というのは?」
「いいところに目を付けたね想也くん! 今回はなんと、君の望む能力をあげるよ! 更に更にぃ、転生する時代を選択可能なんだ! すごいだろ?」
知らねぇよどうでもいいよこっちの話を聞けよ話をさせろよ。
どうして身体が言うこと聞かないんだよ。
「じゃあ、能力は『事実を反対にする程度の能力』で、転生する時代は八意 永琳が産まれた1年後。後、良ければ永琳の家の隣の家の子供として産まれたいです。子供からの付き合いの方が、後々接しやすそうですから」
待て頼む止まってくれよ僕。
僕に話をさせてくれよ。
「ふむ、わかった。そうしよう。じゃあ、そろそろ送るよ。私も暇じゃあないからね」
「……はい。ありがとうございました」
いやあんた絶対暇だろホントに忙しかったら僕に構いなんてしてねぇだろ。
「うん。まぁ、楽しんで来なよ。第2の人生をさ」
「はい。楽しんで来ます」
なに勝手に話を進めてるんだまだ僕の話は終わってない。
これじゃあまるで会話のドッチボールだろうがあぁでもボールが届いてすらいないのかって別にそんなことはどうでもいいんだよどうでもいいから話を聞けよ。
「よし! じゃあ送るよ。目を閉じて」
僕は何やってんだよ言われるがまま目を閉じてるんじゃねぇよ目を開けろよ僕の言うことを聞けよねぇねぇねぇ。
「お一人様、東方世界へご案内!」
そう聞こえた瞬間、光に包まれた。
それまで感じていた様々な疑問も、その光に溶けるかのように消えていった。