僕の目の前で、少女が泣いている。
僕の目の前で、少女がごめん、ごめん、と謝り続けている。
僕の目の前で、少女ーー諏訪子は、泣きながら、約束を守れなくてごめん、勝てなくてごめんーーなんて、謝罪し続けている。
彼女は、どうやら、自分が消えるのが嫌で泣いているのではなくて、僕との約束を果たせなかったのと、民の皆とこれからも笑っていられないのが嫌で、泣いているようだった。
どうして。
どうしてどうしてどうして。
諏訪子が謝る必要はないのに。そもそも、僕だって約束を守れなかったのに。僕は、勝てなかったのを隠しているのに。卑怯者なのに。
どうして僕は謝らない。どうして彼女に謝らない。「僕も勝てなかった、ごめん」の一言なのに、どうして言えない。
ーーそうだ。
諏訪子に嫌われたくないからだ。
……幸いにも、どうやら、天照は僕に恐れていたようだから、きっと、何か、奇跡的なことが起こって、僕は某人造人間アニメよろしく暴走でもしたのだろう。……それなら、端から見れば僕が月夜見を倒したことになる。嘘にならない。
僕は嘘をついてない。
……そう、言い聞かせろ。
「……お疲れ様」
こうして僕は、自分を偽った。
卑怯で、臆病で、最低な僕は、諏訪子に嫌われたくないが為に、自分の都合よい形に、全てを持っていくことにした。きっと、多分、この嘘はバレないだろうけれどーーそれでも。
やっぱり怖いから、これを【事実】にしてしまおう。後で後悔しないように、僕自身の記憶も消してしまおう。そうすれば、証拠隠滅。僕はチート能力で格好良く月夜見に勝って、格好良く諏訪子を慰めてる。
それでいいよね。
【僕が月夜見に負けた事実】【僕が月夜見に負けてからの記憶をなくさない事実】を反対に。
「……勝ったのか、月夜見に」
神奈子が僕に聞いてくる。
僕がここに居るってことはつまりそういうことだろうに。……まぁ、僕は人間だからな。人間が神に『勝つ』なんてこと、信じられないのだろう。
「……えぇ。これが人間の力です」
と、言っても。
恐らく、神奈子には勝てないだろう。僕は諏訪子に勝てないのだから。諏訪が勝てない相手には、どう足掻いても勝つこそは出来ない。……少なくとも、今の僕では。
「……まぁ、どの道、貴様が勝ったところで何が変わる訳でもない。私は洩矢神に勝った。約束通り、信仰は渡してもらう」
「……うん」
諏訪子は指を握りしめ、悔しそうに唇を噛む。
……結局、結末は変わらないのだろうか。諏訪子は敗北し、神奈子に信仰を奪われそうになって……。
……ん? 『奪われそうに』なって……続きは確か。
「我らはお前なんかを信仰せぬぞぉぉぉ!」
『オォォォォォォ!!』
民が嫌がる。
……民が嫌がる! そうだ! 諏訪子は消えない! 原作の流れをすっかり忘れていた! そうだ、祟り神である諏訪子を信仰しなくなれば祟られる、と判断した民達は、神奈子を信仰することを拒否する。
困った神奈子と諏訪子は、おたがいの妥協案として、とある案を出した。恐らく待っていればその案は出ると思うけれど、……まだ二人は困っているし、ここは僕に言わせてもらおう!
「二人共。僕に、良い案がある」
その案はすぐに受け入れられ、洩矢神社は守矢神社となった。これで、きっと皆ハッピーだ。
諏訪大戦編、一見落着ってとこかな。
◆◆◆
「いやっほー! 飲めやお前らー!」
「最高にハイってやつだぜ!」
「そこのお前、やらないか」
気付いた時が遅すぎた。
何なんだろう、コレは、と、思った時には手遅れだった。……ちょっと前にも同じようなことあったよ。
まさにデジャブって奴じゃねぇか!
……状況がわからない方々に説明しよう。
あの後、諏訪子と神奈子の馬鹿が『宴会、しようぜ!』と、何処かのサッカー大好き少年のような台詞を言いやがり宴会をすることになった。先程のシリアスムードはどこへやら、あっという間に和解している。
そして前回の宴会と同じような行動をして(つまりは同じ過ちを繰り返したということ。学習しようぜ僕)宴会が始まってしまったのだ。
……仕方無い、と言わせてほしい。忘れてたんだ。諏訪大戦が無事終わって嬉しかったから。
……そして現在。
前回と同じ過ちを繰り返した僕の左右には、まぁ、案の定というか、お察しの通り、二人居る訳だ。
「そうや、のめよ~」
「そうだぞ、そうや。わらひたちのさけがのめないとはいわせないぞー」
見事に酔った諏訪子と神奈子。右側諏訪子で左が神奈子である。
デシャブですね、わかります。
……うん、これ、どうしようか。正直ヤバい。逃げられない。お酒飲まされちゃう。
「さぁ、のむんだそうや!」
「だが断る。諏訪子は僕が酒飲んじゃ駄目って知ってるでしょ?」
冷静を装って、返答。
……まぁ、今までの経験上、こんな説得は意味がないってのはわかってるんだけれど。これが今の僕に出来る最大限の抵抗なんだよね。
「えー、なんでー? わすれひゃったー。とりあえずのめー!」
案の定である。後ろに飛んで逃走を開始しようとするも、左手を神奈子に掴まれ、ぐぎぃっ、と嫌な音が響いた。いたぁ!? なんて悲鳴を上げる。
「ちょ、くっ! 離してよ神奈子!」
「やだ」
そう言うと、神奈子はその馬鹿力(きっと神様パワー)で僕を引っ張ると、羽交い締めにしてしまう。力強すぎ、痛い痛い!
あ、神奈子でいいって許しは貰いました。
「痛いよ神奈子! しかも胸! 胸当たってる! 離して!」
「ん? なにかいったか? ……まぁいいか。すわこ、やれー」
と、言うと同時に、僕の口が諏訪子に向けられる。諏訪子はラリった目で酒瓶を持つと、掛け声と共に斜め後ろに跳躍。からの、酒瓶投擲。
それは、真っ直ぐ、ストライクゾーンに向かってくる。
「いっけぇえええ!!」
「ちょ、馬鹿! それは死ぬって……おげっ!? が、がぼぉっ……」
喉に突き刺さる酒瓶。そこから溢れ出す熱い液体(『意味深』なんてつかない)。あれ、どこかで感じたことある感覚だーーと、何かデジャブを感じながら、僕は前と同じように意識を投げ出すのだった。
◆◆◆
「知らない天……いや、だから知ってるって」
あー、くそ。頭痛い。何から何まで全部、前の時と同じじゃないか。ふざけるな、どうなっている。
「……とりあえず起きよう。そして二人を叱ろう。そうしよう」
そう言うと、僕は反動をつけて寝てる状態から一気に立ち上がる。ズキィン、と耳鳴りがやばかったけれど、気合いでどうにかした。
さて、あっという間に居間到着。居間には諏訪子と神奈子がいた。お早い起床だねぇ、ほんっとに。
「はろぅ、諏訪子、神奈子。よくも昨日はやってくれたね」
「あ! おはー想也! やっぱり想也は酔うと面白いね! いやー、中々に積極的だった。ねー神奈子」
「あぁ。まさかあんなことまでしてくるとはな。……責任は取ってもらうぞ? ……なんてな」
「あはは! 神奈子はやっぱり私と気が合うね! 冗談の言い方まで私にそっくりだ!」
「あぁ! 私も諏訪子とは気が合う! これからも二人楽しくやってくぞ!」
「…………」
二人で話しを進めてて、僕の入る隙間がない。なんだ、僕は酔ってる間何をしているんだ。そして何故二人は意気投合しているのだろうか。……分からない。
……僕は諦めて、居間を出ていった。