東方事反録   作:静乱

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第17話 疑問

 生きてた。

 いや、そもそも、姫崎に僕を殺す意思なんか、最初から無かったのかもしれない。元々、あの勝負は姫崎を楽しませる為、大天狗様が強制的に仕組んだものであって、決して命を賭けた勝負ではなかったのだからーー流石の姫崎も、手加減というものは出来るようだ。今回ばかりはあいつに感謝しておく。

 

 さて、ここは見た感じ、大天狗様の館の一室……ぽいのだけれど。

 どうして、僕はここで寝かされていたのだろうか? 治療するくらいのアフターケアはするよ、ってこと? アフターケアって、病気の後の手当てとか保護って意味だぞ。……いや、それはこの際どうでもいいか。

 しかし、考えてもみれば、天狗達に僕を治療する理由なんて、全くないように思えるーー僕は人間であり、あちらは天狗なのだから。天狗は人間を嫌っているのだから。

 ……そのトップ、大天狗様は例外だけれども。

 

「……あぁ」

 

 分からん。

 色々と考えてみたけれど、僕の残念な発想力では、僕が何故ここで治療されているのか、という理由を理解することは出来なかった。ここでうだうだ考えているよりも、本人達に聞いた方が遥かに早いのではないか……というより、絶対早いだろ。

 ガバッ、と上半身を起こす。ズキィッ、と様々な部位が軋み、痛む。

 

「つぅ……【僕の骨が折れている事実】を反対に」

 

 の、一言だけで。

 僕の肉体は、いつも通りの正常。異常なんてどこにも存在しない、いつも通りの僕に戻る訳だ。本っとに便利な能力である。何でも出来るよな、コレ。我ながら、素晴らしき能力を思い付いたものである。

 

「……んー?」

 

 あれ?

 本当に僕の発想力で、こんな能力を、思い付くことが出来たのか?

 僕の発想は比較的堅い。柔らか頭塾を一年やってもプラチナメダルを一枚も取れなかったくらいには。そんな堅い脳みそで、僕は【事実を反対にする力】をどうやって思い付いた?

 僕のことだ、なんか能力やるよ、なんて言われれば、もっと簡単な、例えば『何でも出来る程度の能力』とか、その辺りを所望するはずである。なのに……どうして『事実を反対にする程度の能力』なんて、少し複雑なものを欲した?

 

 どうして僕は……。

 

 ……いや、これこそ簡単だ。

 ただ単に、その時僕は偶然にも、頭が冴えていた。それだけ。

 他の可能性よりも、これが一番自然で、しっくりくる。他のどんな可能性よりも、この線が、一番普通で無難だ。難しく考える必要はないーー死ぬ直前は頭が冴えるとか言うし、きっとそれが、あそこでも作用しただけ。そう考えよう。

 

「よし! とりあえずこの部屋出るぜ!!」

 

 ハイテンションを取り繕いつつ、ばしっ、と襖を開け、いざ未開の地(天狗の館内部)へ! れっつごぅ!!

 

「…………」

 

「あ、椛さん。おはようございます」

 

 こちら想也。犬走 椛に見つかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ちょ、想也さんっ。隠れて下さいっ!!」

 

「うぇっ!?」

 

 無理矢理部屋に押し込まれ、そのまま部屋にあったタンスの中に押し込むと同時、椛さんはあろうことか、自分自身も入ってきやがった。タンス内はかなり狭い。つまるところ、僕の理性があばばばば、となる。

 

「(な、なな、なんで自分も入ってくるんですか!?)」

 

「(静かに! 来ますっ……)」

 

「(何が来……っ!?)」

 

 言いかけた瞬間、ドタドタドタドタッッ!! と、激しく誰かが走ってくる音が聞こえる。その音は部屋の前で止まると、バシィッ!! と襖が壊れるのではないか、と思われるまでの激しい音が響いた。

 

「黒坊はここかぁあぁぁ……?」

 

 僕の呼び方から察するに、この部屋に入ってきたのは姫崎のようだーー見渡した限り、僕の姿はなかったからか、どんどん叫びが小さくなる。

 

「……なんじゃ、いないのか?」

 

 ちぇっ、と呟きながら、姫崎は部屋の中を白み潰しのように歩き回る。足音が近付く度、どくん、どくん、と僕の鼓動が早くなる。

 ……主に椛の控えめなバスト的な意味で。

 

「……お?」

 

 しかし、姫崎がそう呟いたことにより、僕の鼓動が、違う意味で早まっていく。足音はすぐそこまで迫って来ているーーこれは、不味いのではないだろうか。

 

「……ほぅ、ここだなっ!?」

 

「(ーーっ!!)」

 

 心の中で息を飲む。

 ……ちきしょうっ、もう駄目か! 今までご愛読ありがとうございました! 僕の物語はこれでおしまいっ! サヨナラっ!!

 

 ガラッ、と何かが開く音。

 

「……む」

 

 あ、これ、開けられたのこの上だ。あぶねぇ、超危ねぇ!! ……否。しかしながら、まだ危機を抜けきった訳ではあるまい。上の段に居ないと分かった姫崎は、確実に下の段ーー僕と椛が入っている場所も確認するはず。

 ……つまりどの道、追い詰められている、ということには、全く違いはない。このままでは見つかってしまう。確実に、確定的に。

 

「……ふむ、ならばここか!」

 

 と、今度こそ姫崎は、僕らが潜んでいる段に手をかけた。さーっ、となる。同時に、終わった……と諦めムードが漂う。

 タンスの中に光が入ってくるのを見て、僕は目を瞑った……!

 

 

 

「あれ? 姫崎さん、何してるんですか?」

 

「おぉ、文か」

 

 思わぬ人物の介入により、姫崎のタンスを開ける手が止まった。……止まったには止まったが、危機を乗り越えた訳ではない。結局は同じ、僕らは捕まってしまう……。

 

「あはは、姫崎さん。流石にそんなとこには居ませんよぉ。猫じゃあるまいし」

 

「……ふむ、そうだな!!」

 

「そうです! さぁさぁ、想也さんを探しに行きましょう!」

 

『おー!!』

 

 そんな感じの会話の後、姫崎は僅かに開いたタンスをそのままに、部屋を出て、またドタドタと走っていった。射命丸 文をパーティに加えながら。はぁぁ……、と、椛は深い溜息を吐きながら、器用に中からタンスを開く。

 

「危なかった……。想也さん、大丈夫でしょうか?」

 

「あっ、はい。危なかったですけど、大丈夫です」

 

 二つの意味でな。

 

「……それにしても、一体どうなってんですか? この状況」

 

 大体察しはついているけども。

 まぁ、間違っていない確信はないのだから、聞いておくに越したことはないだろうーー知れる情報は、知っておくのが吉である。

 

「それがですね……。貴方が寝てる間……約二日間なのですが、姫崎様と文様が、想也さんを婿にする! ……と聞かないのです」

 

「……わっつ?」

 

「わ、『わっつ』?」

 

「あ。あぁ、どういうこと? って意味ですハイ」

 

 椛に英語を教えつつ、この状況を飲み込むことが出来ず、激しく混乱する。一体何がどうなっているのだーーあの二人が僕を婿にするなどと。好意を向けられていい気持ちがしない、という訳ではないが……流石に急過ぎる。

 

「姫崎様は黒坊は強いからな! 強い者は好きだ! と。文様は想也さんと居るとネタが尽きそうにないので! ……だそうです……」

 

「少々意味が分からないでおじゃるよ」

 

 おじゃる丸面白いよね、なんて場違いなこと考えつつ。

 

「……え? なんで、僕逃げてんの?」

 

「寝ている間、一度貴方は襲われかけました。だからこそ、大天狗様の命として、私達天狗一同は、貴方を逃がす為に奮闘中なのです」

 

「何だソレ!!」

 

 あの人達、そこまで危ない人達だったのか!

 なんてことだ、天狗さん達のサポートがなければ、僕は今頃、呪われた装備を外され、酷いことになっていた。まさに恐怖。恐ろしいことこの上ない。

 

「また、一部の鬼達も、貴方を逃がす為に奮闘しております。そして今、とりあえず天狗の館から逃がす役目を持っているのは、鬼の四天王ーー星熊 勇儀さんと、伊吹 萃香さんです」

 

「お、おう!?」

 

 あまりにも頼もしい逃がし役である。

 あの二人がいれば、正直逃げるのはかなり楽なものだろう。素晴らしき人選だぜ!!

 

「お二人が居る場所までは私が案内します。さぁ、行きましょう」

 

「了解!!」

 

「静かに」

 

「はぃ」

 

 隠密行動第一。

 僕と椛はひそひそと、天狗の館を進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

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