和解した。
これから何回にも及ぶ凄まじきリアル鬼ごっこが始まるのだと思っていた。
だがそんなことはなかった。
意外とあの人達は物分かりがよかったのだーー本当に意外にも。追い詰められたものだから、苦し紛れに「せめてお友達から! お友達からにしようぜ!!」と叫んでみたら、あらビックリ。
『それもそうだな!(そうですね!)』
自分自身の耳を疑った。
逃走をサポートしていた萃香や勇儀も、相当疑っている様子だったーー主に文を。うん、だって、鬼って嘘嫌いだものね。いこーる、姫崎は嘘ついてない、ってことに繋がるものね。
逆に言えば、文は疑わしいことこの上なさ過ぎるんだよ。文の性格的にも、これまでの言動から考えてみても、文が嘘をついてないとか、思えなかった。
が、やはりこの考えも間違っていた様子で。
なんというか、恋愛に関しては正直に行く、というのが文のポリシーであるらしいーー何だかとても要らなそうなポリシーだけれど、少なくともこの状況においては、あってよかったと思う。
つまるところ、僕は危機を脱した、という訳だ。常識を持ってはいないけれど、理解の持っている人(妖怪)でよかった。さぁて、僕もそろそろ、旅に戻るとするかなぁ……。
「あぁ、黒坊。その代わり。暫くこの山に住むのだぞ」
「住むとこは僕が決めますね」
そんなことはなかった。
逃げるのはどうせ不可能だと思ったので、せめて暮らすところは。暮らすところだけは僕の自由にさせてもらうことにした。
却下されそうだったけれど、大天狗様の素晴らしき説得により、その案は受け入れられたのであった。
◆◆◆
さて、住むところの目安として、まず第一に気にするべきは家賃である。この時代この場所にそんなシステムがあるのかは甚だ疑問ではあるけれど、見ず知らずの人間を住ませてもらうのであれば、それくらいは必要だろう。
僕としては、月額四万位を目安としているーーというか、それくらいがいいかなー、と思っている。と、いう訳で、仮に人間を住ませるとして、どれぐらいの金額を望むか? という趣旨の質問を大天狗様にしてもらった。
その質問に対する返答が、今、僕の持っている紙に書いてあるのだけれど……結構困っていたりする。
「……あぁー。そりゃ、人間と暮らしたくない、っていう方が、圧倒的に多いよなぁ……」
見た限り、返答用紙の9割方は『住ませたくない』というものであった。これは流石に計算外。
……しかし、希望がない訳でもない。
一応、住ませてもいいよ、という妖怪達が存在していたのだーーかなり条件がキツいが。
まず一つ目、川城 にとりさん……原作キャラじゃん。
条件『作ったものの実験台になること、胡瓜栽培を手伝うこと、将棋の相手をすること、家主の命令は絶対である』……このにとりさんドSですわ。最後の一文が、それを見事に表している。
二つ目、鬼達。
条件『酒に強いこと、実力があること』……後書はまぁいいにしても、前書は致命的である。僕の酒の弱さは異常だ。これも無理。
三つ目、姫崎 陽炎さん……却下。
四つ目、射命丸 文さん……同じく、却下。
その他モロモロ……条件は決まって『非常食になること』等々。無理だ、死んでしまう。
「……だ、大丈夫か?」
このままでは姫崎と暮らすことになってしまう、と真っ青になっていた僕を心配してくれたようで、大天狗様が覗き込んできた。よく見ればこの人も綺麗なお顔である。
……待てよ。そうさ、天狗の館に住んでいる天狗さん達は、寧ろ僕と仲が良い方ではないか。普通に話せる相手である。
つまるところ、天狗の館に住んでしまえば良いのだ。そうすれば万事解決。優しい大天狗様や椛、天狗さん達が守ってくれる。嗚呼、何故僕は、この素晴らしき案を最初に思い付かなかったのか。
脳内にて希望を見出だした僕は、大天狗様に頭を下げた。
「ここに住ませて下さいな!!」
「すまない。姫崎が毎日荒らしに来るのは勘弁だ」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
微笑しながら、やんわりと断られた。
僕のガラスのハートが無惨に砕け散った気がした。
……もう駄目だ。
心の中で、僕は泣きながら絶望した。
あと数日も立てば、住む家の見つからない僕を心配(建前)して、妾の家に住めばよい! と姫崎が、私と一緒にスクープ書きましょう! と文が、二人揃って飛んでくる。そうに決まっている。
そうなれば僕は終わり。希望が見えていた世界に暗雲が立ち込め……。
「……想也? これ、重なっているぞ」
「えっ?」
そう言うと、大天狗様はにとりからの返答用紙を手に持って、すっ、と手を滑らす。ぺらり、と、一枚紙が剥がれた。
「ほら」
「……お、おおぉ」
まだだ。まだ、僕の人生は終わっていなかった。
『希望はあるよ、どんな時にもね』
その言葉は正しかったよカヲルくん!! ありがとうっ!! シンジくんと槍を抜いて世界をやり直しといで!!
返答用紙一枚追加。
『古明地 さとり』
◆◆◆
今日からお世話になりまっす!
「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします……」
いやー、一時はどうなるかと思いましたが、さとりさんみたいな優しい人が居てよかったですよ!
「……私は、貴方みたいな物好きな人が来るとは思っても見ませんでした。私達を『覚り妖怪』と知りながら、それでも尚、ここに居候しようとするのですから」
いやいや! だってさとりさん優しい人じゃないですか! 本っと僕、二次創作とかのさとりさん優しいなー主人公いいなー! とか思ってて! 覚りなんて全く問題じゃないですよ、可愛いし!!
「……嬉しいのですけど、何だかその発言、ずっと前から私を知っていたような言い方ですね」
あっ。
「図星ですか」
あぁ……。
◆◆◆
「ふむ。つまるところ、貴方は『東風谷 早苗』という人物を助け一度絶命し、転生したと。ついでに、貴方の世界では、私達は『とうほうぷろじぇくと』と呼ばれる作品のキャラであったと」
「はい。その通りでございます」
「相当驚きましたが、こうやって私は生きています。これは現実であり、変わりようのない事実。貴方が嘘をついているようにも見えませんし、受け止めましょう」
流石さとり様である。
やはり地霊殿の主だから、頭の回転も早いし、理解力もあり、そして割り切るのもお早い。そして何よりも可愛い。『とうほうぷろじぇくと』の発音とかぐっ、と来たね。
「……私が心を読めるの、忘れているんですか?」
「忘れてませんよ、可愛いさとり様!」
「……口説いてるんですか?」
「さとり様ガード堅いなぁ……」
いや、まぁ、口説いているつもりはないのだけれども。
しかし、だ。やはり、こうやって現実にさとり様と出会えた以上、こうするのが当然の真理であり、寧ろ僕はまだ抑えている方だろう。
本当の紳士はさとり様を襲うんですよ。
「……貴方の住んでいるところが酷いところだということはよく分かりました」
「この世界の未来がソレなんですぜ?」
にやり、と不適に言ってみた。
にやりと上げた口角を、後ろから誰かに引っ張られた。
「……ふっ、わひゃったぞ、ひみはだれにゃのかほ!!」
「アハハ、何言ってるか分かんなーい」
そう言って無邪気に笑うこいし様。
うへへ、可愛いなぁ、なんて思っていると、さとり様からの視線が冷たいものとなってきた。やめっ、やめてっ。冷たいっ。
「やめませんっ」
「……そうか嫉妬か!!」
「愉快な思考回路をお持ちのようで」
「君のお姉さんはね、『ツンデレ』って言うんだ」
「そうなの?」
「うん」
「止めてください!!」
『ツンデレ』がなんたるものか。
僕の心を読めるが故に、さとり様は頬を赤らめ、それを否定する。それが僕の作戦、さとり様の可愛らしいお顔を見るが故の策略ッ……!
全国の紳士諸君ッ! 今こそ、今こそ……。今こそ欲望を解き放てぇぇぇぁぁぁッッ!!
頭部を全力で叩かれた。
仮にも彼女は妖怪である。全力で人間の頭部を叩けば、幾らほぼ人間を止めている僕であろうと、意識を狩り取ることが出来るのだ。
お、おやすみなさい。さとり様。
「起きなくていいですよ」
ふえぇ。このさとり様ツンデレだよぉ。
「さっさと気を失って下さい」
これはきっと照れ隠しなんへぶぅっ。