「今日もありがとな黒橋!お前のお陰で、最近は陰陽師に怯えることもなく豊かに暮らせるよ!」
「あはは!楽しく暮らせてるようで嬉しいよ!じゃね。」
今日も妖怪達に食料提供を終えた僕は、帰り道で今日言われた感謝の回数を数えていた。
毎日の日課だ。ノルマ10回。今日は18回かな。
うん、今日もノルマ達成!この分皆が笑顔になったね。これで合計回数は…3万は越えたかな。我ながら頑張ってるものだ。
「明日も頑張るぞー!っと……ん?」
ふと気がつくと、数百m先のとある場所に、強い妖力発生していることがわかった。
あの位置は確か………!
僕は走り出した。
~~~~~~~~~~~~
彼女、村紗水蜜は浮かれていた。それはそうだろう。自分の慕う聖白蓮と同じ、妖怪を守る人間(聖は魔法使いだが)がいることを知ったのだから。
きっとその彼は、聖に共感して妖怪を守るのを手伝ってくれる。聖も喜んでくれる。だったらその彼を早く見つけよう。
そう考えた彼女は、妖怪の友達から彼の居場所を聞き出した。その場所を目指す際、先述していた通り彼女は浮かれていた。
だからこそ、彼女は自分がとある妖怪の領地に入っていたことがわからなかった………
「わっ!」
「グギガァアァアァアアッッッ!!」
都に近いとある場所。其処では強大な妖力を持った妖怪が少女ーー村紗水蜜を襲っていた。
その妖怪の名は土蜘蛛。この山の妖怪の中でも最上級の力を持っていて、しかも自我と呼べる物がほぼ存在しない。ある考えはただひとつ、領域に入った者を喰らい尽くす。それだけ。
領域にさえ入らなければ問題は無いのだが………勿論、村紗も土蜘蛛の存在は知っていて注意は常にしていたが、しかし今日、浮かれていた彼女は運悪く領域に入り込んでしまった。
「あ…あ…」
恐怖で体が震え立ち上がれなくなる村紗。その思考は後悔の念でいっぱいだ。何故自分は注意をしなかったのか。その考えが頭の中を駆け巡る。
そんな村紗に容赦なく、土蜘蛛は自身の爪を突き刺した………
~~~~~~~~~~~~
「………あ、れ?私、生きて……」
まだ、生きていた。どうやら爪を突き刺されそうになった際に気絶してしまったらしく、その後の記憶は全く無い。
それにしても、此処は何処だろう?冷静になった村紗は此処が命連寺ではないことに気付く。どうやら何処かの小屋のようだが……
そこまで思考したところで、扉がガチャリと開く。音をした方を向くと、優しそうな顔をしている少年がいた。
「あれ。起きてたの?良かった良かった。怪我は無い?」
彼は安堵したような声で言った。彼が自分を助けてくれたのだろうか?村紗はそう考える。もう一度彼の方を向くと不安そうな顔をしていた。
「えっと………もしかして喋れない?困ったな…」
「あ、ごめん。喋れるよ。」
村紗の返答に少年は多少びっくりしたような顔をしながらも、また、安心したような顔をした。
「良かった。喋れたんだね。それにしても、どうして土蜘蛛の領域になんかいたの?彼奴、自分の領域に入る奴には基本容赦ないから落ち着かせるの苦労するんだよ?」
「あ、ごめんなさい…ちょっと浮かれてて………」
彼の言葉に反省する村紗。それはそうだ。危うくあの山さえ崩壊する恐れがあったのだ。怒られて当然だろう。
「まぁ、君が無事で良かったよ。僕は人間、妖怪問わず、誰にも死んでほしくないから。さ!このお粥食べなよ。お腹、空いてるでしょ?」
しかし彼はこう言った。なんと心優しい少年だろうか。彼に感謝しながらお粥を食べようと身体を起こそうとする………が。
「痛っ!」
「大丈夫!?…あちゃー。これは骨が軽く折れてるかな?どうしよ…」
少年の考察通り、村紗の骨は数本折れている。おそらく、土蜘蛛の攻撃を避けた時だろう。その時に当たりどころが悪かったのだ。
村紗がどうしようかと迷っていると、少年は村紗に負担がかからないようにゆっくり起こして、
「はい、あーん。」
とスプーンを差し出した。
「……………え?」
「ん?ほら、あーん。」
「えぇ!?」
思わず赤面する村紗。それはそうだろう。本人は全く気にしていないが、一応彼ーーー想也の容姿は上の中ぐらいの美形である。そんな少年にいきなり恋人同士がするであろう『はい、あーん』をされようものならどんな女性であろうとほぼ確実に赤面する。
「いや!いやいやいや!なんで!?」
「え?いや、だって腕も骨折してるじゃん。自分じゃ食べれないよ?だからほら、あーん。」
「うぐぐぐぐ……」
結局村紗は、お粥を食べ終わるまでずっと、羞恥心と戦っていたのだった。