あれから数年たった。曖昧な描写をしなくても充分に数えられる数だけど、数年たった。……それにしても、本当にこの一年は地獄だったよ……。
……え? 永琳と同居しているのにどう不満があるんだって? あぁ、確かにそう思うだろう。かくいう僕だって、二次小説にあるようなかんじの生活が始まるんだ……って目を輝かせていたから。
でも、本当はそんな夢見てはいけなかったんだ。現実を見て、心が痛むから。
……聞いてくれ、この数年、僕がどのようにして生き延びてきたかを。
◆◆◆
「……あの。助手、と言われてましたが、僕がすることってあるんですか」
「そうね……。正直、人手が足りないって訳じゃなかったから、いなくてもどうでもいいのよね。どうしましょうか」
「いや、僕に聞かれましても……」
目を覚まして数十分。気になったので聞いてみた訳だが、どうも僕の存在意義は無いに等しいらしい。……やばくないか? このままじゃあ、僕どっかに捨てられる。
「……そうだ。私じゃできなくて、貴方ならできること。あったわ」
「え?」
僕は、そんなことあったんだ、と首を捻る。
僕の中では、永琳はなんでもできる万能医者さんだ。強いて漫画のキャラと比較すれば、お金を取らないB○である。そんな人ができなくて、僕ならできること。……これ、僕の顔をたてる為の嘘じゃねぇよな。
首が折れ曲がりそうなほど首を捻っていると、永琳さんはその『何か』を教えてくれた。
「そんなに教えてほしいなら、教えてあげる。ずばり、……薬の実験台よ」
「……あぁ?」
あぁ、実験台かぁ。うふふ、なんて素晴らしい響き。これから毎日実験台をやれるなんて、光栄だな……。
「……なんて言うかと思ったかぁぁあ! なに? なんなの? 僕を殺す気か!? 薬の実験台ってなんだよテメー、それってつまり、『効果の分からないちょっと危険な薬』ってことだろあぁん!? 僕に死ねと言ってるのか八意ぉぉおぉ!!」
「概ねその通りかも。正直、あまりお金使いたくないのよねー。薬の材料沢山必要で、食費は最小限に抑えたいの。貴方がいると貴方の分もご飯作らないといけないから面倒。こんなところで貴方に初めて、あげたくないしー」
嘘でも否定してくれたら、まだ収まりようがあっただろうに。
「その通りなのかよ! そこは嘘でも「そんなことないわよ」……とか言ってくれたっていいじゃないか傷ついたわ! ていうか、襲わねぇよ年増女!」
「あぁんですってぇ!? 聞き捨てなりないわよ今の台詞っ! もう怒ったわ、待ってなさい。私が作った薬で一番危険な物持ってくるから!」
「……え」
ここで僕は、大変なことをしてしまったことに気づく。もう引き返すことはできない。
しばらくすると永琳は、清々しいほど毒々しい色の液体が入ったビンを持ってきた。身体を震わせながらも、敬語で聞いてみる。
「な、ななな、何ですか、ソレ……」
「見ればわかるでしょ? 私が作った薬の、失敗作よ」
と、堂々と言った。
恐怖に声を震わせる。
「え、あの、僕が悪かったんで、止めていただけますか?」
「嫌。貴方が悪いのよ、私を怒らせるから」
ゆっくり、ゆっくりと、永琳さんが僕に迫る。この状況で迫られても全く嬉しくない。
「さぁ、飲ませるわよー」
「止めてお願い止めてください」
「……口移しならどう?」
永琳さんは自らの唇に手を当て、ぺろり、と舌を出した。僕も一応男な訳で、いきなりそういうこと言われると、どうしても視線が唇にいってしまう。
そんな僕を他所に、永琳さんは腕を僕の首に回し、顔を迫らせてくる。
「え、や、その、あの、……えぇ!?」
永琳さんは超美形なので、ここまで迫られると滅茶苦茶やばい。頬が熱くなっていくのが分かる。
あぁ、なんかいい匂いしてきた……、口移ししてくれるんなら、別に飲まされてもいい気がする……。
そんなこんなで、僕と永琳さん。お互いの唇の距離が数センチメートル以内まで縮んだ。僕はもうどうでもいいや……と目を瞑って……。
……あれ? 永琳さん、薬を口に含んでたっけ。
思った頃にはもう遅い。
「ま、此方の初めても渡す気はないから♪」
その日、僕は瓶とキスをした。
舌で感じた味は『ファーストキス (なんていったっけ。したことないからわかんね) の味』なんてものじゃなく、生ゴミを無理矢理飲み物にしたみたいな汚物の味であった。
◆◆◆
……まぁ、そういう訳でね。ほぼ毎日失敗作を飲まされてたんだ。死んだわ、僕。これは流石に、天国とは言えねぇよ。
え? 天国? 貴方はMなのか?
……さて、現実逃避はこの辺までにしとこうか。
今僕がいる場所は森。永琳さんに頼まれて薬草を取りに来たのだ。
そして無事、薬草を採取。帰り道を歩いていた。やっと帰れると思って気を抜いていたら……。
妖怪に、囲まれたんだZE☆
……うん、笑えない。
妖怪は今にも飛びかかって来そうだ。殺気立っていて、鋭い眼で僕を睨む。トラウマがぶり返してきた。
「(……どうしよ)」
残念なことに、僕に戦闘能力ってのは皆無だ。能力の練習は軽くしたけど、それ以外は全く手付かず。正直起きている時間より、気絶している時間の方が多かったからな……。
「……逃げます!」
叫んでから、一匹の妖怪に向かって全力でダッシュ。自らの鋭い爪を僕に刺そうとする妖怪の攻撃を、僕は屈んで避け、そのまま横を抜ける。
慌てて追いかけてくる妖怪達。そこに合わせて、僕は門番さんから貰ってきた煙玉を投擲。着弾と同時に煙が噴出、視界が悪くなる。これでは先が見えない……けど。
「(持っててよかったハイテクゴーグル)」
予め貰っておいた、『どんなに視界が悪くても目の前がよく見えるゴーグル』。略して、『ドシワメゴーグル』があれば全く問題はない (ネーミングセンスにはとんでもない問題がある)。
そういう訳で、僕は無事、妖怪から逃げきることができたのだった。