「月移住計画?」
そんな話が出てきたのは、僕が永琳の助手(という名の実験台)になって相当な時間が流れた頃だった。
月移住計画……確か、妖怪の脅威と寿命を気にしなくていいようにするために月に移住する計画だっけ。あまり覚えてないけど、うん。確かそうだったはずだ。
「ええ。月移住計画。明日決行日なのよ」
がくん、と頬杖を付いていた僕の腕が落ちた。明日って! もっと、早く言ってくれ! 唐突過ぎる!
……いや、まぁ。
「行きませんけどね、月」
「そう。なら……はぁ? 何でよ。貴方、ここに一人残ってどうするの? 何かしたいことでもある訳?」
「まぁ、そんなところです」
諏訪大戦、見たいから。月に行ったら、地上に戻ってこれるのは一番遅くて月面戦争時、早くても輝夜のときだ。それはつまらない。密かに楽しみにしてたから、何がなんでも見てやるんだ。
「したいことねぇ……。まぁ百歩譲ってその辺りは無視するけど、次の問題は? 貴方、一人で生きていけるの? 妖怪と戦ったこともないのに、これから先、兵器もないんじゃ、貴方終わりよ? それに、ここの電力供給が終われば、妖怪に襲われる前に寿命でアウトだわ」
「あ。……まぁ、修行でもすれば大丈夫じゃないですか?
「ぐっ……。あれは悪かったわよ。まさか失敗作だと思ってたはずの薬が、
……蓬莱の薬。
世界の誰もが一度は夢見た、不老不死の作用を持った、薬。
しかし、この薬を作成するのは『月の頭脳』、八意 永琳であっても難しい。今だって永琳はこの薬の作成を目指して、薬を作っている。
……しかし数年前、失敗作処理を任されていた(強制)僕が飲んだ薬が、
『半分』と称してはいるが、大した意味はない。普通のものと同じだ。
「ま、確かにそうですね。あまり責めるのはやめておきます。……じゃ、寝ますね」
「ちょ、想也、まだ話は……」
無視無視。僕は明日のことに対して、考えないといけないんだ。
◆◆◆
……人妖大戦。月移住計画実行前に、大量の妖怪が都市に攻めてきた時の出来事だ。その数は、おおよそ十万は超えているだろう。つまり、ほぼ人間に勝ち目はない。此方ができるのは時間稼ぎだけ。
さしあたって月に行かない僕は、皆がロケットで飛ぶまで時間を稼ぐ必要がある。兵士さんが無理する必要はない。死ぬことのない、僕が行くべきだ。
……いやまぁ、人妖大戦とかただの二次設定だし、実際に起こるのかはよく分からないのだけれども。既に僕というイレギュラーな存在が居るわけだし、僕が知る“原作”とは多少のズレが発生していても可笑しくはないだろう。
さて、人妖大戦が起きると仮定するとして、問題になるのは二つ。まずは、僕の戦闘能力の無さだ。今の僕は、能力が使えるだけのただの人間、妖怪(十万以上)を相手にしたら、一秒も持たない。
次に問題になるのは鬼子母神。原作では知らないけど、二次創作だと大抵いるんだ。……この世界でも、いるだろう。
いた場合、時間稼ぎ(一秒)が時間稼ぎ(一瞬)に変わってしまう。……参ったよな……?
「……待てよ。解決法あるじゃないか」
そう呟いて、僕は能力を発動する。
◆◆◆
「じゃあ、永琳さん。機会があったら、またいつか」
「ええ、またいつか。……なんでそんな、ボロボロなの?」
苦笑いで誤魔化して、握手。その後永琳さんは家を出た。
……さーて、いきますかね。
◆◆◆
「……ワーオ」
予想より何倍も――いや、何百倍も多い。この数を止められるのか、僕だけで。
……いやいや、止められるかじゃあない。
「……止める。絶対」
僕に優しくしてくれた都市の皆さんへの恩返し、しなきゃだろう?
そう決意した瞬間、妖怪達が僕に気付いたようで。
「人間がたった一人で何のようだ?」
と、喋れる妖怪が言って来た。僕はこう返す。
「君達を倒しに来たんだ。まぁ、あまり自身無いけどね」
言った瞬間妖怪達が笑い始める。ムカっとしたが、僕が妖怪の立場だったら同じように笑う気がするから、ぐっと言葉を飲み込む。
「笑いたいのは分かるけど、生憎、こちらは本気なんだよ」
「人間がたった一人で俺達に戦いを挑むなんてな! 面白ぇじゃねぇか!」
うん。見事に舐められてるね。……やってやらぁ、潰す。頑張って増やした霊力を全開にする。
「これでも無理なんて言える?」
「……ほう、人間にしては中々――だが届かねぇなぁ!!」
その妖怪の叫びと同時に妖怪達が向かって来る。僕は能力で剣を出して、構え。
「いっくぞぉ!」
そう僕は叫び、一人で妖怪達に向かっていく。
戦いの、始まりだ。