東方事反録   作:静乱

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Extra 狂気の吸血鬼

 僕の腕に激痛が走る。このまま放っておく訳にもいかないので、とりあえず【僕にダメージがある事実】を反対にした。

 それを視認したようで、フラン(仮)は此方を向いて言う。その顔は笑っているように見えたけれど、その裏は狂気に塗れていた。

 

「あれ? 私、貴方を破壊したはずなのに、どうして破壊されてないの? もしかして、壊れないの?」

 

 やったー! と言いたいかのように、一見純粋そうな笑みを浮かべその場でぴょんぴょんと跳ねるフラン。しかし、そんな彼女を見ても、僕は微笑ましい気持ちになれなかった。

 言うなれば、あの子の笑い方は『狂喜』だ。

 

「壊れないお兄さん、遊ぼ? ねぇ、遊ぼうよっ!」

 

「っ! 逃げなさい!」

 

 フランが手を僕の方に向けた瞬間、吸血鬼ちゃんが叫ぶ。僕自身もただならぬ悪寒を感じたため、即座にバックステップする。が、その行動に意味はない――再び右腕が消しとんだ。

 

「~~!?(嘘だろ!?)」

 

 声にならない悲鳴をあげる。その悲鳴を聴いたフランはクスクスと笑いながら、大声で言った。

 

「すごいすごい! ほんとに壊れないんだね!じゃあ、もっと遊ぼう? 楽しいよ?」

 

「くうっ!?」

 

 突然の強襲。遠くにいると思っていたフランは、次の瞬間、僕の目の前にいた。彼女はその手に持った灼熱の剣(見た目的には杖に近い)で僕に斬りかかる。左腕の想刃で向かい打つが、想像以上の力で想刃が弾き飛ばされ、追い討ちで掌底も叩き込まれた。

 吹き飛ばされるが、これ幸いと右腕の回復だけは済ませておく。

 

「フランッ、やめなさい!」

 

「何言ってるのお姉さまぁ。お姉さまもやってたじゃない……!」

 

「違う! 私達がやってたのは弾幕ごっこよ、あなたが今やっているような殺しあいじゃ……」

 

「嘘つき!」

 

 吸血鬼ちゃんの言葉を全て無視して、僕に突っ込んで来るフラン。やばい。傷は再生できたけど、体勢は整えられてないよ!

 

「(しかも想刃が手元にねぇぇぇ! よく見たら真逆の方向にあるじゃんかぁぁ!)」

 

 考えながらできる限り体勢を整える。ほぼ無意味。寧ろ中途半端に整えたせいで、もっと受けにくくなった。いや、これは本気で不味い!

 

「あはははは! いくよぉ!」

 

「なっ! ぐぅ……!?」

 

 僕の後ろに回り込み、両腕で叩き落された。背中を強かに打ち、息がしにくくなる。苦しみの表情を顔に出すが、フランはそれを面白そうに眺め、笑い。踵落としを放ってきた。流石に食らう訳にはいかないためクロスガード。腕ごと割られた。

 

「いっ、てぇ……! くそっ、ごめんよ!」

 

 受け続けるのは負けを認めるのと同じだ。腕を再生させ反動をつけながら跳ね起き、フランの顎を蹴りで打ち抜いた。脇腹に痛みが走る。

 激痛が走った個所を見ると、杖のような物が見事に貫いていた。焼けるような痛みも感じる。

 

「【僕にこれが刺さっている事実】を反対に! っこの!」

 

 そのまま殴りかかる。しかし、突如フランの身体が四つに分身。とりあえず目の前にいる奴を攻撃する……が、外れ。僕の攻撃は不発で、残り三人に袋叩きされる。

 

「ちょ、くぅっ!」

 

 瞬間移動でその場を離脱。傷を回復させ体勢を整え……。

 

(られねぇぇ!? はっや!)

 

 無理だった。あまりの素早さに攻撃力はない高機動型なのかも……とあるはずもない希望(という名の願望)を見出だしてみるが、効果は得られない。寧ろ隙ができてしまった。仕方ない!

 

「ちょ、そこの皆さん! 援護頼みます援護!」

 

「っ! 了解っ」

 

「同じく! 私の力を見せてやるぜ!」

 

 紅白巫女さんと白黒エプロンさんが、僕とフランの間ぎりぎりに向けて弾幕を発射。フランは一瞬動きを止まる。

 彼女たちが作ってくれた隙を逃してはいけない。即座に身を翻し、想刃の元へダッシュ! スライディングしながらそれを拾うそれっぽい動きを披露しながら空中へ飛翔し、フランへ向かって弾幕を発射してから、吸血鬼ちゃんのところに飛んだ。足止めは二人がやってくれるはず。

 だから、僕はフランに背を向けて、吸血鬼ちゃんに聞いた。

 

「あの子は、君の妹ですよね? あの子、今までどうしてたんですか?」

 

 こんなことを。

 というのも、これを知っていないとこの後の対話が難しくなる。場合によっては方法も変えないといけないし。

 それに対し吸血鬼ちゃんは。

 

「……」

 

 と、沈黙。何か言いにくい理由でもあるのだろうか。……しかし、黙ってもらってちゃ困る。ちらっと後ろを見てみれば、援護を頼んだ二人が結構押されてる。早く戻らないといけないので、説得を続ける。

 

「言いにくい理由なら尚更言ってもらわないと困るんです。あの子を救いたいんですよね?」

 

「っ! 救えるの!? あの子を!」

 

「救える、とは言い切れませんが、僕がやれることはやります」

 

 僕がそう言うと、吸血鬼ちゃんはもう一度迷うような顔をした後「わかったわ……」とゆっくり語り出した。

 

「……あの子は、最初から気がふれていたの。それを理由に、私はあの子を此処の地下室に閉じ込めた。そんなことしちゃいけない、っていうのはわかってたわ。それに私だって、本当はあの子と一緒に暮らしたい。だけど……方法がなかったの」

 

 顔を伏せながら呟く吸血鬼ちゃん。

 ふむ。方法がない、ねぇ……。

 

「何かしたんですか?」

 

「……え?」

 

「何かしたのかって聞いてます。あなたは方法がなかったって言いましたけど、果たして本当に方法はなかったんですか?」

 

 そう問いかけると、吸血鬼ちゃんは僕の胸倉を掴んだ。彼女の顔からは、怒りの感情が感じ取れる。

 

「ふざけないでっ。あなたまさか、私が、私たちが、何もせずにフランをどうにかすることを諦めたんじゃないかって、そう言いたいの!? そんな訳ないじゃないッ!!」

 

 吸血鬼ちゃんは言う。

 

「試したわよ、思いつく限りなんでも! 狂気をなくす方法を探したわ。それが見つからなかったから、次は少しでも和らげる方法を探した。ここにある書物も全部読んだ、フランを救えるならと思って、必死に探したわ!!」

 

 吸血鬼ちゃんは、叫ぶ。

 

「……でも、見つからなかったのよっ。どれだけ探しても、どれだけ考えても、フランを救う術は、道は、なかったのよ!! それなのに、お前は……突然ぽっと湧いてきた人間風情が、わかったような口をきくな!! 何も知らないくせに、何もわかってないくせにっ。殺されたいのかッ!?」

 

 吸血鬼ちゃんの悲痛な叫びが、辺りに響く。

 ――あぁ、そうだ。そうだよ。僕にはわからない。

 

「……あなた、名前は?」

 

「……はっ? れ、レミリア・スカーレット……」

 

 だから僕は、言う。

 吸血鬼ちゃんに――レミリアさんに言う。

 

 

 

 

 

 

 

「レミリア・スカーレットさん。本当にどうしようもないんですか? そうやって決め付けてるから、何も変わらないんじゃないんですか?」

 

「っ!? お前、まだ……っ!」

 

 レミリアさんは顔を歪め、手元にグングニルを出現させた。

 構わない、僕はそのまま続ける。

 

「まだやれることはあるでしょう?」

 

「黙れっ! お前に何がわかる!? 私ですらわからないフランのことを、お前はわかると言えるのか!?」

 

 レミリアさんは激昂し、僕にグングニルを突きつけた。凝縮されたエネルギー体が首筋に当たり、少しだけ血が出る。でも……知らない、無視だ。

 

「言えませんよ。僕には、あの子の考えてることはちっともわからない。……わかる可能性があるのは、あなただけなんですよ! レミリアさん!」

 

「っ!?」

 

 意味がわからない、とでも言いたげな表情を浮かべるレミリアさん。彼女は僕に突き付けていたグングニルを引っ込め、俯いた。

 そんな彼女に、僕は作戦を告げる。

 

「今言った通りです。僕は、あの子の気持ちがわかりません。わかってあげられません。だから対話することもできませんが……レミリアさん。あなたなら可能性があります。あなたが心を開けば、あなたがしっかりとフランと話せば、あの子はきっと心を開いてくれるはずです。……僕とあの二人でチャンスを作ります。だから、その後は頼みますよ」

 

 それを聞いたレミリアさんは。

 一瞬だけ迷うような素振りを見せた。

 

「……フランの意見なんて聞かずに、自分の意志だけであの子を閉じ込めた。そんな私の話をあの子は聞いてくれるかしら」

 

「聞いてくれます。だって姉妹なんですから」

 

 そう言うと、レミリアさんはクスリと笑ったあとに、力強く答えた。

 

「……えぇ!任せなさい!フラン、貴女を救ってみせるわ!」

 

 レミリアさんの決意を聞いた僕はにっこりと微笑んでフランの元へ飛んだ。

 

「すいません!遅くなりました!」

 

 足止めを頼んだ二人に謝罪しながらフランに蹴りを入れる。それに驚きながら二人は。

 

「遅い!」

 

「私達からすれば楽だったが、もう少し早く来てほしかったぜ!」

 

 と供述しておりますが、結構ぼろぼろ。十中八九見栄を張っています。とりあえず今はぐだぐだ話してる場合じゃない。僕は二人に作戦を告げた。

 

「……それ、大丈夫なの?」

 

「結構厳しいんじゃないか?」

 

「フランを救うにはこれしかないです。やりますよ」

 

 まぁ仕方ないか……、とため息をつきながら吹き飛んだフランの方を見据える。既にフランは起き上がっていて、再び四人に分かれ手に持った杖を振り上げていた。僕は二人に指示を出す。

 

「分身は一番右、同じく左、そして右から二番目っ!頼みますっ」

 

「「了解!」」

 

 能力で分身を見切り二人に報告。分身三体は二人に任せ、僕は本体の隙を作る!そうしないとレミリアさんが対話できない!

 

「あれぇ?なんで解ったの?やっぱり、貴方すごいね!」

 

「そいつはどうも!だけどまだまだぁっ!」

 

 想刃でフランの杖(仮)を受け止める。受け止めるだけじゃ駄目だ。そのまま蹴りを放った。

 先程までの戦いから蹴りがくるとは思ってなかったらしい。そのまま吹き飛ばされるフラン。しかしすぐに体勢を整え、その手に持った杖を投擲。僕は見事に不意をつかれ、ぎりぎり反応はできたものの脇腹を掠める。

 それによる痛みに耐えながらも、即座にその場から移動する。その場を見ると、既にフランが通過。空を切った音が聞こえたから、恐らく腕で僕を貫こうとしていたのであろう。危機一髪だ。

 

 ここで隙を見せる訳にはいかない。そのまま想刃を構え突進!

 

「あっはははは!」

 

 いつの間にか持っていた杖により想刃が叩き落される。それにより発生した一瞬の隙をつき、フランは僕の顔面に回し蹴りをぶちかました。

 すさまじい激痛が頭部に走り、紅魔館の屋根に頭から落とされた。がらがらと紅魔館の屋根が崩壊する音が聴こえる中、僕は脳震盪だろうか。思考がうまくまとまらない。とりあえず能力で回復……。

 

「て、とりあえずとか言ってる場合じゃねぇ!くっ!?」

 

「わぁ!よく避けたねぇ!あははははは!」

 

 転がって回避。また先程いた場所に杖が突き刺さった。それを刺さったまま横にがががっ、と僕に向かって持っていく。くそ真剣に強い!

 

「こんのぉっ。らぁっ!」

 

 両腕を組み、地面に叩きつける。足場が崩れフランに隙ができた!今だっ。

 

「【フランが動ける、攻撃できる事実】を反対に!」

 

「……あれ?」

 

 フランの動きが停止する。これで対話する隙はできた!後はレミリアさんのやりよう次第!

 僕が合図をすると、レミリアさんはフランの目の前に降りてきた。

 

 

 

「……お姉さま?」

 

「フラン!話を聞いて!」

 

 レミリアさんはフランに語りかけた。

 

「貴女は、どうしたい?」

 

「……?」

 

 フランはレミリアの言っていることが理解できない様子だ。レミリアはそのまま続ける。

 

「私は貴女の意見も聞かずに、一人で貴女を幽閉することを決めた。貴女はきっと、それがとても辛かったわよね。生まれてすぐに閉じ込められて」

 

「……!嫌っ。やめて!」

 

 耳を塞ぐフラン。レミリアはそれでも聞こえる位置まで近づいて言う。

 

「当然だわ。私だって辛いもの。だけど、私はそんなことを、貴女にしてしまった。ごめんなさい」

 

「っ!やめて!やめてよっ!」

 

 レミリアは優しくフランを抱き締めた。フランの拒絶がぴたりと止まる。

 一瞬間をおいたあと、レミリアはにっこりと微笑みながら言った。

 

「だから、これからは幽閉なんてしないわ。貴女は少し気がふれているけれど、本当は優しい子だもの。そんなことしなくても大丈夫よね。今日から、一緒よ」

 

「……あ、あぁ。お、ねぇ、さま……」

 

 

 

 

 

 ポロリ、と。

 フランの眼から涙が零れた。

 その眼は、先程の狂気に染まったような色ではなく、とても清んでいて。

 

 ……フランは、我慢することもなく、思いきり泣いた。声を殺すこともなく。大好きな姉に抱き締められながら。

 レミリアも眼に涙を浮かべながら、フランを優しく抱き締めている。

 

 二人の姿はまさしく、仲の良い姉妹だ。

 

 

 

 

 

 幻想郷を覆っていた紅色の霧が、役目を終えたかのようにうっすらと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 sekkyouシーンの主人公がゴミ過ぎたのでちょっとだけ修正しました。修正前よりはマシになった気がしますが、それでもかなり酷いですね
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