……『精神と時の部屋』。
大人気漫画『ドラゴンボール』にて登場した、神様らが住む神殿の中にある、修行に適した部屋だ。
地球の重力の十倍、差の激しい気温。更には、この部屋の中では時間が進むのが、通常より早い。確か、普通の世界の一日で、精神と時の部屋では一年。より短い時間で力を高めることができる訳だ。
んで、何故戦闘前の僕がこんな話をしているのかと聞かれれば、察しは付いているだろうが『精神と時の部屋を作ったから』である。部屋は作った。元から小さいものを出したりすることしかできなかった為に滅茶苦茶疲れたけど、成功したからよしとしよう。ちなみに、作ったものは精神と時の部屋(強化版)である。一日一年、なんて物じゃなく、一時間一年にしてやった。しばらく吐き気が止まらなかった。
そんなこんなで、回復した後は修行、修行、修行。ただがむしゃらに剣を振ったり、霊力弾を出したり、能力の練習したり。体感三年は修行したから、比較的強くはなれたはず。
さて、現実に戻るとするか。
「いっくぞぉ!」
そう叫んだ僕は【この場所に剣がないという事実】を反対にして剣を出す。
それとほぼ同時に真上へ跳躍。落下中に某ゲームの『メテオ』という名前の魔法を思い出しながら、思い切り叩き付けた。
「隕石剣『メテオソード』!」
厨二っぽい技名を叫びながら。
後で冷静になって考えて見れば、すっごい恥ずかしい名前な訳だが、今はそんなこと考えてる余裕も無い。
隕石剣『メテオソード』を食らった妖怪達は後方に吹き飛び、その後ろにいた妖怪に激突する。その光景はまさにドミノ。どうでもいいけど。
警戒心を高めた妖怪の懐に素早く入り込み、一閃。妖怪は真っ二つになった。……うぇぇ、気持ち悪。
自分でやった癖に吐き気を感じる僕は、ここで左右から妖怪二人が迫ってきていることに気付く。不味い、屈んで回避し、霊力弾をぶつけて吹っ飛ばした。
「次っ」
叫び、近くにいる妖怪に斬りかかる。呆気なくその妖怪も倒れ、なんだ、妖怪って大したことないじゃん! と油断したのが馬鹿であった。
「あがぁっ!? ぐ、ぐぅ……!」
突然腹部に激痛。足が地面から離れる。何事か、と僕を殴った相手を確認。
どうも、先程僕を笑った、リーダー格妖怪っぽい。やべぇ、こいつは予想外。気配すら感じなかったぞ……?
「残念だったな、人間。中々やるようだが、あくまでお前は人間だ。根本的な差があるんだよ」
その通り。幾ら僕が不老不死で、三年修行をしていても、この妖怪はそれ以上の年を生きているし、元々の性能が違いすぎる。少なくともこのままじゃあ、僕は勝てない。
「……げほっ。そいつは、どうも。弱点を教えてくれてありがとう……」
「どういたしまして。だが、これを知ったところで、お前はもう終わりだ。お早い退場だったな」
と、妖怪さんは僕を地面に叩きつけ、首を絞め始める。苦しい苦しい、死ぬ死ぬ死ぬ。いや死なないけど。さて、どうする。このままじゃあ本気でやばいぞ。どうする!?
……あ、能力使えばいいじゃんか?
「……あ? お前、いつの間に俺の拘束から抜け出した?」
「今」
能力で、【僕が妖怪さんに拘束されている事実】を反対にした。ただそれだけのことで、僕は拘束を抜けられる。……そうだ、人間の力だけじゃ妖怪に勝てないっていうのなら、能力の力を使えばいい。
「【僕の身体能力が妖怪並みじゃない事実】を反対に」
「……お前、今何を……」
妖怪さんが僕に問う。そのままの意味です、と心の中でだけ返してから、言った。
「すぐわかります♪」
瞬間、妖怪さんは息をしなくなった。勿論、僕が斬ったから。……うわぁ、コントロール難しいな。以後はこれ使うの止めよう。
「さて、他も叩きのめすよ。邪魔をさせる訳にはいかないんでね」
ぐぎゃあ、ぐぎゃあ、と吼える妖怪軍。どうも、いわゆる大妖怪はあの妖怪さんだけのようだ。じゃあ、あとは楽だよね。
「心壁『心の壁』」
僕が腕を振るうと、どこかで聞いたことのあるSEと共にバリアみたいなものが出現。同時に、僕の目の前にいた妖怪達が全て爆散した。
「よし! 次だ……?」
とまで言いかけて、あんなにいた妖怪が全滅していることに気付いた。
「……まさかもう全滅しちゃった? まだ始まったばかりなのに」
呟く。返答はない。
どうやら本当に全滅したようだ。やった!
「よっしゃぁ! 僕はやったぞ! ……さて、とりあえず都市に戻ろ……」
そこまでいいかけたところで、何かを忘れている気がした。
僕が警戒していた、もう一つの危険。何だ、何だった、思い出せ……!?
「しまった……!」
瞬間、何者かに殴り跳ばされた。
「~~っ!?」
気付いた時にはもう遅かった。僕は地面を跳ねる。
あまりの激痛に一瞬混乱するが、瞬時に冷静になり能力を発動。【僕にダメージがある事実】を反対にする。
これによりダメージが無くなった僕は、体制を立て直して地面に着地した。
「誰だ?」
額に角を生やした女性に、問いかける。女性はにやり、と笑って、僕の問いに答える。
「大体予想はついておるのじゃろ? ま、一応名乗っておくとするか。妾は、『鬼子母神』姫崎 陽炎じゃ。お主、中々やるのぅ……」
だろうね、と頷く。あぁ、くそ、マジでいたのかよ……。ていうか、戦闘技能を褒められても、全く嬉しくない。
「鬼子母神……ね。んで、その鬼子母神様が、僕になんのようですか?」
「鬼は戦いが好きなんじゃ。という訳で、いざ勝負!」
「っ!」
鬼子母神さんがそう叫んだと思ったら、陽炎さんが目の前にいた。
(うわ、速ぇ!)
既に鬼子母神さんは殴るモーションに入っている。防御は間に合わない。
そう判断した僕は【僕がこれからダメージを受けるという事実】を反対にする。鬼子母神の攻撃をまともに食らって、まともに意識を保てるはずじゃないからな。この選択はあってるはず。
腹部に直撃し吹き飛ばされるが、能力を発動していた僕にダメージはない。無いには無いが……。
(……どう考えても、勝てないよな。いや、でも、僕の仕事は時間を稼ぐことであって、決して敵を倒すことじゃ……)
そこまで考えた瞬間、幸運にも、ロケットがどんどん飛びたっていった。この時点で、僕が戦う意味は無くなった。
(……逃げるか)
情けないけど、これが一番だろう。能力を使えば速さ勝負で逃げる必要もないし、確実に逃げられる。僕はよし、と頷き、能力を使おうとして……。
何かが落ちてくることに気付いた。あれは、爆弾?
頭の中が真っ白になる。忘れてた。
「鬼子母神、この勝負お預け! 爆弾きたから、今は逃げて! おーけー!? えすけーぷ!」
「……? と、とりあえずわかった!」
そういう会話を交わした後、僕と鬼子母神は違う方向に駆け出した。しかし、ここで問題だ。
(……どこに逃げろって言うんだ?)
僕には行く場所がない。それに気付いた僕は急いで【ここに強力な結界がないという事実】を反対にする。なんとかそれが完了した瞬間、爆弾が爆発した。凄まじい衝撃が、僕を襲う。
「――っ! 持ってくれよ、結界……!」
ビシ、ビシ、といった効果音と共に、結界にヒビがはいってくる。本気でやばい。能力で、補強をし続けた……。
「……終わった……?」
どれだけ時間がたっただろうか。ようやく爆発が収まったようだ。もう、結界にヒビがはいることはない。
「……うあー。疲れたー……」
恐ろしい程の脱力感。明らかに能力の酷使が原因だろう。……無理、しすぎたなぁ。
「……眠るか……」
僕は結界の中で眠りについた。危険だろうけど、今は動く気力すらない。
◆◆◆
「……何故。何故、爆弾を落としたのですか。月夜見様」
「何故……かって? あれを残したら、穢れた妖怪達が技術を持ってしまうじゃないか」
……確かに、そうだが。
「だからって……。あそこに想也が残っているのは、月夜見様だって知っていたはず……」
「知っているが、それがどうかしたのか。どうせあの者は、既に妖怪に殺されている。爆弾で死のうが、同じことだろう。それに、あの者も光栄じゃないか? 月の英雄として、これから永遠に語り継がれるのだから」
「っ!? ど、どういう! 想也が、妖怪と戦ったとでもいうのですか!?」
あの頼りない少年が? どうやって、兵器もなしに?
「そうだが? あの者は私達が飛び立つまで、進行する妖怪達を足止めしたのだよ。命をかけてな」
「……な……! し、知っていたなら何故「援護にいかなかったのか、といいたいのか?」……そうです」
「あんな馬鹿な奴を、利用しない手は、ないだろう? ハハハ!」
……私は反射的に殴りそうになるが、想也の言った言葉を思いだし、踏み留まった。
「……そうですか」
そう言って、その場を後にする。
(想也、必ず生きているのよ……)
そう、思いながら。
超未来都市の反対、つまりは超古代都市編 終
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