「えっと、ソレ、なんですか?」
美鈴さんが、ぎょっとした表情で、僕に聞いてきた。
無理はないだろうが、ソレ呼ばわりは可哀想だ。止めてあげて、と注意してから説明。
「見てわかる通り、るみゃに、チルのんに、大ちゃんですよ~」
「なんですかそのあだ名は。あと、なんでそんな、でれっとした表情してるんですか……」
美鈴さんは、僕の表情を見て、とても引いているようだった。
……まぁ、でも、正直無理はないと思う。今の僕は頬が緩みまくっていて、威厳の欠片もないかんじなのだから。
桃色に染まった思考の中、もやもやと思い出す。数十分前に起こった最高の出来事を。
◆◆◆
「あー、この前美味しかった奴だ! いただきまーす!」
「うわぁ!?」
道中。
昼間なのに薄暗い森の中でルーミアと遭遇。この前の一件で僕は美味しいご飯といったような評価を受けたようで、了承を得ることもなく、飛びかかってきた。
右腕を前方に持ってきて、なんとか身体をかじられる事態は回避。どの道痛いが。
「がむがむ……。う~ん、美味しい~~っ!」
とてつもなく良い笑顔で、ルーミアが言った。これを見ると、もう腕なんて幾らでもあげていいや……というような気分にもなってくる。
出かかっていた文句が再び引っ込んでいって、不思議と笑顔になり、数分後。気づけば僕は、ルーミアの表情を眺めるマシンと化していた。思考がルーミア一色に染まる。
「はぁー♪ 幸せー♪」
「そっかぁ、そっかぁ」
うんうん、と相槌を打って、優しく頭を撫でる。ルーミアはそれにも反応してくれて、僕に「もっとやってー!」とねだってきた。
もう駄目だ、全国のロリコンさんの気持ちが今分かった。この愛くるしい生き物は最高だ。抱きしめたい、抱きしめよう。
ちょっと酷いかもしれないけど、無理矢理腕から引き離して、ぎゅうっと抱きしめた。
「ぎゅー」
「え? いきなりなにー? ……あったかい~」
結論:この子もうマジ最高だわ。
本当っべーわ、マジっべー。繰り返すようだけどマジべーわ。ちょっと本気でやばい超可愛い。なんなん、なんなん、マジでなんなん。うっわ。
「ぎゅぅ~~」
「……えへへ。ぎゅー!」
しかも向こうから抱きしめて来ましたよ!? ちょっとちょっとちょっと破壊力やばいよ。もう離したくないんだけど。これ以上やってるとやばいって、引き返せなくなるって!
「……は、はい終わり」
半ば無理矢理に理性を戻して、ルーミアの温もり的なものを惜しみつつ、ばっ、と離れた。それと同時に今までの奇行を思い出して、頬が熱くなっていく。よく考えたら今の、モロ変態がする行動じゃないか。
「えー? あったかかったのにー」
止めてください理性が保てなくなります。だからルーミアさん、「もっとやってー」なんていうような視線を止めましょう。腕をあげるから。
「うん、僕は紅魔館に行くんだ。残念だけどここで君と遊んでいる訳にはいかないんだよ。だから、終わり。じゃーね……」
と、一方的に理由を押し付けてこの場の離脱を試みたが。ふわふわとルーミアが背中に乗ってきて、一言。
「私もついてくー!」
「おっけぃ一緒に行こう!」
結果として、僕は負けた。
◆◆◆
ルーミアときゃっきゃうふふしながら数分、霧の湖にてチルノちゃん&大ちゃんに遭遇した。
チルノちゃんは僕に勝負を申し込んできたのだが、僕とルーミアが遊んでいるのを見て、「アタイもっ」と混じり、状況は更に混沌へ。
結果的に僕の装備は右腕チルノちゃん、左腕大ちゃん、背中にルーミアというものになった。なんだこの楽園。
この時点で既に、僕の頬は緩みまくっている。
何この子達本当可愛いんだけど、もう他のこととか正直どうでもいいわ。あぁー、自分が何を考えているのか、だんだん分からなくなってきたー……。
「あ、あの、黒橋さーん?」
「あぁ? はーい、なんでしょーかぁ?」
「(駄目だこの人……)」
美鈴さんが無理矢理三人を引き離し、僕にビンタをかます。緩んだ頬が引き締まるくらい、痛かった。
「な、ななな何するんですかー! この子達を引き離すどころか、僕にビンタするだなんて!」
「いやいやいやいや!? 貴方当初の目的を忘れてますよね! 思い出してください!」
……え? 当初の目的? なんぞそれ?
……あー、何かあったような気がする……。
「ってああああああ!! すっかり忘れてたけど、そういえば僕は紅魔館に用事があったんだった! ぁぁぁあ! くそっ!」
「ええええ!? な、なんで地面でのたうちまわってるんですか!」
やべぇめっさ恥ずかしい! 先程までの僕はどうかしていた! いや、三人が可愛いってことに違いはないんだけれど、流石に度か過ぎている! 何やってんだよあんなの犯罪じゃねぇか僕よ!
「わ、忘れてっ! 忘れてください! で、では入らせてもらいますよ! じゃーねみんな!」
「えぇ! は、はい! お気をつけてー!」
『ばいばーい(あ、ありがとうございましたー)!』
頬が熱くなるのを感じつつ駆け足で紅魔館に入り込む。バタン、と中に入って、少しでも気を落ち着かせようと深呼吸を始めたところで……。
「……見てました?」
「見てました」
「ぁぁぁああああ!!」
メイドさんに遭遇。先程の奇行も目撃されていたという。落ち着くはずが、更に熱くなった。
「改めまして、『十六夜 咲夜』と申します。どうぞ、お見知りおきを。『ロリコンさん』」
「その呼び名だけは止めてぇぇぇぇ!」
その絶叫は、図書館まで届いたそーな。だけど、今はそんなこと知らず、メイドさん改め咲夜さんの案内についていった。
色んなことを話しながら歩いていく。主に僕がロリコンなんですね、という話だけど。泣いていいはず。
「……さて、着きましたよ。どうぞ」
「あ、ありがとうございました」
感謝の礼をすると、咲夜さんは一礼して消えた。うーん、どういうタネなんだ? ……まいっか。
ドアノブに手をかけて、捻る。
「こんにち『見て分かる通り、るみゃに、チルのんに、大ちゃんですよ~』は……え?」
呆然とした声が出る。部屋の中にいたのはレミリアさんとフラン。僕を見据えて、にやにやと笑っている。その手には録音機的な物体が。
「……プッ、クスクス。まさか、貴方が、ロリコンだったなんてねぇ! 笑っちゃうわ! ね? フラン♪」
「うん、お姉さま! こんな『変態』が私とお姉さまが仲良くなれたきっかけだなんて、此方が恥ずかしくなっちゃうね♪」
仲良くなったなぁ、よかった。……て、そんなこと思ってる場合か。言いたい放題じゃねぇか。否定できないのが困る。
……っていうか、マジで? レミリアさんや、フランにも聞かれてたの?
「え……あ……?」
「ふふ、フラン。まだ飲み込めてないようだから、一緒に言ってあげましょうか!」
「うん! せぇーのっ」
耳を塞ぎたい訳だが、呆然としすぎて動かない。止めてくれ。頼むから。
しかし、無情にも、二人の発言は止まらない。
「「私達に寄るな! 『ロリコン』の、『変態』さんっ♪」」
「……あ、……う」
その日。
「う、う、ううう」
僕は。
「う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」
精神を、崩壊させた。