東方事反録   作:静乱

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STAGE-2 焦り

「ここだ……!」

 

 目の前に立ち塞がるのは、途方もない段数の階段。この先にあるのはあの時僕が【死んだ】場所。

 

 『白玉楼』。

 

「はぁっ、はぁっ……。い、いきなりなんなんですか……! なんとか追い付けたからいいものの……!」

 

 咲夜さんは息を切らし、僕に話しかけてくる。

 説明もなく着いてこいとだけ告げて飛んでしまったのは悪かったと思うが、しかし説明する暇なんて、残されていない。事態は、一刻を争う状況まできているんだ。

 

「突然すみません。だけど、早くしないと、この幻想郷は終わる。そんなの嫌でしょう」

 

「何を……!?」

 

 言い終われば、僕は階段を駆け上がり始める。足が縺れて転ぼうと、足が鉛のように重くなろうと、気にしない。そのまま、そのまま、ただひたすらに。

 今回ばかりは――否、今回こそは止めないといけないから。

 

「なっ……、ま、待って……!」

 

 待てない。待たない。待てるはずがない。今は時間が惜しいんだ、いち早く上まで着かなくちゃ。

 この世界を終わらせちゃいけないから、……幽々子さんを死なせちゃいけないから。

 

 もっと、早く。

 もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと、早く、走らないと……!

 

「……!?」

 

 目の前に白髪の少女が見える。……刀を構えているところを見ると、敵。

 僕は想刃を取り出して跳躍。叫びながら降り下ろした。

 

「邪魔を……するなぁぁ!!」

 

「それは此方の台詞だっ!」

 

 久方ぶりに聞く、甲高い金属音。それが休む暇もなく鳴り続ける。

 

 埒があかない、と感じた僕は、悪いと思いながらも両足で蹴りを入れ続ける。しかし、少女はもう一本の剣を取り出し蹴りを上手く防ぐ。

 蹴りが入らないことで、苛立ちが募る。そのせいでワンパターンになってきていた蹴りを見切った少女は、僕の蹴りを弾いた。バランスが崩れ、宙に足が浮く。

 

「(しまっ……!?)」

 

 思った頃にはもう遅い。飛翔するタイミングも体勢を整えるタイミングも、両方逃してしまった。

 

 ……頭に浮かんだのは、『敗北』の二文字と、自分への失望。

 

 視界が異様に回転し、身体全体に激痛が走る。階段の角が頭部に直撃して、脳がお家師くnっ佗幾が死た。

 

 亜、咲く八さn拿。刹メiしな位デ碁めん菜サイ。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 十六夜 咲夜は転がり落ちていく黒橋 想也を見て、まずは前方に存在するであろう敵に向かって大量のナイフを投擲した。上の方ではそのナイフを弾くような、金属と金属がぶつかり合う音。自分の推測は間違いではない、と咲夜は肯定するように頷く。

 

 次に咲夜は駆け上がって来た階段を下り始める。案外終点は近く、ものの数十秒で終わりが見えた。そこには、血塗れの想也の姿も。あまりの惨状に咲夜は目を反らしたくなったが、そうは言っていられない。

 想也は確かに幻想郷で最高クラスの実力者であり、彼に太刀打ちできる者などそうはいない。……が、あくまでも彼は『人間』である。妖怪より永く生きていようが、これからもずっと生きていこうが、その事実は彼自身が【反対】にでもしない限り変わりようがないのだ。

 

 その為、想也は普通に傷つくし、普通に悲しむし、普通に悩む。想也自身には悪いが、先日の宴会での一件がいい例であろう――彼は寧ろ、永く生き過ぎているせいで常人より精神面的に弱い。称して、『黒橋 想也の弱点 その一』と言ったところか (……と言っても、普通の人間だって同じように悩みはするだろうが……)

 

 そして、『黒橋 想也の弱点 その二』に当たるものが、今のこの状況だ。

 

「(……受け身を取った形跡はあるのですが……。やはりこの方……)」

 

 『ダメージに弱い』。

 

 それが『黒橋 想也の弱点 その二』に当てはまる、戦闘における致命的な欠点。

 

 人間は元々、とても貧弱な人間である。その為に、ある程度痛みには強いよう身体が作られているはず……なのだが。

 想也の場合、ダメージを受けた瞬間にそれを【反対に】している為、痛みへの耐性が少しずつ失われてしまっていた。勿論、一度それを実行した程度では基本問題はない……が。

 ……『塵も積もれば山となる』、彼は数億年も生きていて、その分の戦闘をこなしていた。

 

 それに加え、先日の紅霧異変時にて彼は、フランドール・スカーレットの破壊能力や『レーヴァテイン』を受けてしまっていた。その破壊力は凄まじく、一撃で想也の身体の一部を粉砕する。

 それを何度も食らったのだ、反動は通常より大きい。

 

 結果として想也は、通常よりダメージに弱い特殊体質を身に付けてしまっていた。だから今回のように階段を転げ落ちるだけで (だけ、というのは少々可笑しいところがあるが) 気絶してしまう。

 

「あぁっ、もう。手間をかけさせないでくださいよ。ちょっと格好つけても、これじゃあ台無しですよ?」

 

 咲夜は語りかけながら治療を始める。医療器具を持ってきていた訳ではないので、持ち合わせのもので代用。かなり難度は高いはずだが、咲夜の治療は驚くほどに的確だった。

 流石に限界はあるものの、敵が下に降りてくるまでにはこの場所でできる処置を全て終えていた。

 

「……。貴女も、幽々子様の邪魔をするのですか」

 

「……その『幽々子様』とやらがどなたなのかご存知ありませんが、その方がこの異変の元凶なのならば、懲らしめに行きますよ。それに、一応のツレが酷い目に会わされたので、借りを返さないといけません」

 

 そう言って咲夜は、ナイフを構え臨戦態勢に移行する。白髪の少女――否、魂魄 妖夢もまた、二振りの剣を構えた。

 

「……」

 

「……っ!」

 

 お互いはほぼ同タイミングで地面を蹴り、咲夜は一本のナイフを、妖夢は右手に持っていた剣を振り下ろした。ガキィン――と甲高い音が響く。

 咲夜はそこから更に追撃をしようとしたが、リーチの差で届かない。搭擲という選択肢もあるにはあるのだが、この至近距離では若干のリスクも孕む。その為咲夜は、自らの能力を行使した。

 

「私の、世界へ」

 

「――」

 

 妖夢は何かを言いかけたが、その言葉が発せられることはないだろう。その時には既に、妖夢の言葉は疑問の言葉から、驚愕の言葉に変わっているだろうから。

 

「――っ!? な、なんだ、コレは!」

 

「……幻符『殺人ドール』」

 

 動き出した妖夢の視界に映ったのはナイフの軍勢。先程まで咲夜は自分の目の前にいたのに……、妖夢は理解ができない。できないながらも、二振りの剣で『殺人ドール』を弾いてゆく。

 しかし、それをただ見ているほど咲夜は甘くない。更に追い討ちをかけるべく、ナイフを逆手に持って跳躍。そのまま致命傷にはならないであろう部位を狙って振り下ろした。

 

「くっ……! そう簡単に、食らうかぁぁぁ!」

 

 妖夢は『殺人ドール』を躱しながら咲夜のナイフを弾く。それにより体勢を崩された咲夜に向かって、妖夢は剣を向けた。着地点に合わせて剣を振る……。

 

「……!」

 

 ぎりぎりのタイミングで、咲夜は浮遊に成功した。妖夢の剣は咲夜の背中すれすれの位置を通過し、咲夜はゾク、と寒気を感じる。

 感じながらも、素早く妖夢から離れ、追撃を避ける。もう少しあの場所に浮遊していれば、自分はあの剣に切り裂かれていただろう。咲夜はゴクリ、と唾を飲んだ。

 

「……っち! 『ルミネスリコシェ』」

 

 舌打ちを打って次のスペルを宣言する咲夜。大量のナイフが妖夢向かって飛んでいく、しかし、妖夢もまたスペルを宣言した。

 

「くっ……! 人符『現世斬』」

 

 短い方の剣をしまい、腰を落とす妖夢。『ルミネスリコシェ』はどんどん迫っていく、咲夜は何がしたいのか分からない。

 

「(――ここだっ!)」

 

 ――瞬間。

 『ルミネスリコシェ』の全弾が全て一直線に重なるタイミングを見極め、妖夢はナイフを剣一振りで叩き落とした。咲夜の表情が驚愕に染まる。

 

「(『ルミネスリコシェ』が一直線に重なる、実質一秒にも満たないタイミングを見抜いて、全て叩き落とした……!? ……中々、腕のある剣士さんのようで……)」

 

 一方の妖夢も、咲夜のスペルを凌ぎはしたものの、相手の実力をは自分とほぼ同格であるとわかり、考える。

 

「(この相手、どう倒す……? 遠距離から沢山の弾幕を放てるあちらと違い、私は遠距離攻撃より接近戦が主体。……分が悪い。加えて、未だに『博麗の巫女』が来ていない。もうすぐ来るのだろう。……となると、私の勝利は大分厳しいものとなる。早めに決着をつけたいが……、そうなると話が戻る。どうやってこのメイドを……)」

 

 そこまで考えたところで。

 妖夢は、想也に視線を移した。

 

「(……狙うは、あちらか)」

 

 妖夢は、地面と咲夜に向かって弾幕を発射した。着弾した際に砂塵が発生し、視界が悪くなる。咲夜は突然の奇作に動揺しながらも、弾幕を冷静に対処する。

 ……しかし、それこそ妖夢の思うつぼであった。そもそも砂塵が発生した時点で……。

 

「くっ……! ようやく視界が……!?」

 

「……この者の命が惜しかったら、大人しくすることですね」

 

 既に妖夢は、勝利の一歩手前にいる。砂塵の発生を止められなかった時点で、咲夜の敗北は必至だ。咲夜は知り合いに対して、非情になどなれない。

 

 だから、咲夜は大人しく降参して、想也を受け取り踵を返すと、来た方向に戻って……。

 

 

 

 

 

 

「……行くと、思いましたか?」

 

「っ!? な、いつの間に……!?」

 

 ――勿論、咲夜に能力が無ければの話だが。

 

 咲夜の能力は『時間を操る程度の能力』。人質を使われたところで、時を止めている間に助け出せば、それは意味を成さないのだ。

 ……もっとも、今ここで解説したところで、妖夢が知ることはない。妖夢からすれば正体不明の力だ、これの種を見極めない限り、少なくとも彼女に勝機はない。

 

 加えて。

 

「……おはようございます。手間かけさせました、咲夜さん」

 

「少し遅いですね。『早起きは三文の得』です、早寝早起きを心掛けましょう」

 

「はい」

 

 想也が目覚めてしまったことで、状況は更に悪くなる(勿論、妖夢の状況が)。この時点で、妖夢の敗北は確定したと言っていいだろう。

 

「さて、君。仕返しをする気はないけど、邪魔をするんだったら倒しますよ。……あ、ここで僕らを止めるのが幽々子さんのためになるかと言ったら、『否』としか言い様がない。西行妖を満開にしたら、それこそ幽々子さんは『消える』」

 

「……。消えるって、一体どういう……」

 

 混乱し、想也に意味を問う妖夢。想也は「説明はあとです、早く行きましょう」と駆け出し、咲夜も後に続く。

 妖夢も、それを追いかける形で、駆け出した。

 

 

 

 

 

 ……『西行妖』満開まで、あと三時間。

 

 

 

 

 

 

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