あれから何時間経っただろうか。いや、何時間なんて単位じゃないか? いや、でも、ようやく夜が明けてきているくらいだから、やっぱり数時間程度か。
もう死にそう。
「……ねぇ。もしかして、死んじゃった?」
「…………」
生きています。なんとか。
でも、口に出して返事をする余裕はない。
「んな訳ないか。想也は不老不死らしいし。まぁ殴っとけば意識戻るよね♪」
一応筋が通っているけれど、最後の一文は可笑しいと思う。『殴れば治る』って、僕はテレビじゃないんだから。
いや、まぁ、心の中で何か言ったところで、全く意味はないんだけれど。
「よーいしょっと♪」
「ガフッ……!?」
「やったぁ。想也、おはよう」
とても「おはよう」と返せる気分じゃない。
「……返事した方が身のためだけど」
「うぐぅっ!?」
妹紅は僕を脅し始めた。殴りながら。……脅すというより、尋問ってかんじじゃね、コレ?
……うん、駄目だ耐えられない。返事をしなくちゃ。
「お、ゲホッ!? おは、ガフッ! よう……あがっ!」
「アハハ、よく言えました。じゃあ、ご褒美に殴ってあげるよ」
止まらない暴力。僕がマゾヒストであったなら確かにご褒美になり得ただろうが、生憎なことに僕はノーマルである。ただの苦痛にしかならない。
「ゴホッ、ゴホッ……。うぐ、あがぁっ……!」
「あーあ、血なんて吐いちゃって、汚いなぁ」
汚いのは一応認めておくけれど、僕が血を吐いたのは君に原因があるんだよ、妹紅。文句を言うつもりはないけれど、ちょっと理不尽じゃないかい?
……文句、言ってんじゃん。
「掃除しなくっちゃ。道具は……そうだな、想也の顔面でいっか」
「っつぅ!?」
妹紅は僕を地面に落とす。調整が妙に上手く、血溜まりの真上に顔面が落ちた。気持ち悪い。
僕が何とも言えない嫌悪感を抱いていると、追い討ちの如く。何かが僕の後頭部に直撃し、地面に叩きつけられた。超、痛い。
そしてぐりぐりと押し付けられる。あー、これ、足か。僕の頭部、妹紅の足に踏まれてるのか。……うん、このシチュエーションで興奮できる人って馬鹿じゃないのかな。
「よっと」
がしっと僕の後頭部を掴み、適当に放り投げる妹紅。着地地点には竹が。……適当にとか、嘘だよね。
「……っぅ……!」
鋭利な竹の破片が、僕の腕とかその辺に突き刺さる。内臓とかには刺さっていないからまだマシだけれど、それでも激痛には変わりない。
「おー、中々綺麗になったじゃん。想也はなんでもできるねぇ」
「……あり、がと」
「どういたしましてー」
褒められても全く気持ちが高揚しないが、感謝を言わないとまた殴られる気がしたので早めにしておいた。なんとなく妹紅が顔を歪めたので、多分予想通りだったんだろう。危ない。
「……って、あれ? あちゃあ、明るくなってきちゃったよ。参ったなぁ、今日は慧音と会う約束があるんだよね。流石にこんな格好では会えないな」
そりゃ、返り血とかで真っ赤ですからね。
というかこの子は、僕を殴りまくった後爽やかに友人と会う気だったのだろうか。僕にはできっこない。紫との件がいい例である。
……次はいつ、フランと会話できるんだろう。……あー、思い出しちゃったじゃないか。
「うーん、まだ復讐終わってないんだけど……。やっぱり慧音には恩があるし、すっぽかすのは人としてあれだよなぁ……」
ちょっとだけ可笑しい気がするぞ、今の台詞。……あ、別に可笑しくないか。
「……よし、決めた。想也への復讐なんていつでもできるし、今は慧音との限りある時間を楽しく過ごそう!」
いつでもできるって。確かにいつでもできるけどさ。ちょっとあんまりじゃないか。
「そういう訳だから、じゃーね! 想也。今度は……、そうだな、慧音が死ぬ頃に来てよ。私はここで待ってるからさ」
その慧音さんを知らない以上、僕にはその時が分からないんだけれど。どうすればいいのだろうか。
「返事は?」
「は、い。わ、かり、……まし、た」
「ん、そう。それじゃ」
その言葉を最後に、妹紅はスタスタと去っていく。僕ほったらかしかよ。慧音さんとやらにちくってやろうか先程までの行為全て。
同意(?)していたんだから敗訴確定じゃないですかーヤダー。
さて、そんなこんなで、竹林の中である少年が一人、血塗れで倒れているという、奇妙な状況が出来上がった。因みにその少年は僕である。知ってるか。
……どうしようかなぁー。
「(まず、能力で傷を治すっていう選択はない。これは復讐の証だから。自然治癒以外ではあまり治したくない。……)」
ここで、他の選択肢が出てこなくなった。自分の発想力の無さを呪ってみるが、全く意味がないどころかなんだか鬱な気分になってきたので数秒で止める。
「(……寝よう)」
死ぬかもしれないのに、って思ったけれど、僕死なないじゃん。正確には死んでも生き返るじゃん。
よって、寝てれば傷は回復するだろうし、きっとご都合展開で誰かん家の布団で目覚めるんだろう、という謎理論で、僕は睡眠をとることに決めた。
流石僕! 発想の天才! キャー、抱いて! ……虚しいよね、こういうの。
オヤスミー。
◆◆◆
夢から覚めた僕がまず目にしたのは、例の如くというか、紅色の壁であった。誰が運んだんだよ。ツッコんでみるが、心の中にボケ役はいないのである。全く意味はなかった。
さて、さてと区切りをつけたはいいもののすることがないという問題にぶち当たった。というのも、身体が一切の反応を示さないのである。どうしよ。考えるまでもなく先程(?)の傷のせいだろうが……。
「口も動く。さっきまでなかったはずの感覚も回復している。だけど身体だけが動かない。……しばらくは無能な人間だな」
僕の残念スペックはここまで浸透していたのか、と溜め息をつく。ある程度戦えるなんてレベルじゃない。どうなってるんだこん畜生。不老不死だろどうにかしてくれ。……おっと、僕の不老不死はあまり信用していいものじゃなかったんだったぜ。
「参ったなぁ。なんの作用か能力まで使えなくなってるし、人も呼べないぞ。本当どうするんだよ」
本当にただの人間じゃないか。テレパシーすら使えない。……とりあえず、待ってみたいところなんだけど。
「……寝返りをうちたい」
子供か、とツッコミがきそうだけど、今周りにツッコミ役はいないから全く問題はない。違う意味で問題はある。まさか寝返りをうてないってのがこんなにも辛いとは予想していなかった。あうあうあうあう。
「誰かー、助けてー! 割とマジで助けてー!」
助けを求めてみる。咲夜さんが通りかかってくればどうにかなりそうだけど、どうもそこまで運はよくないらしい。来る気配がないぞ。
ここで一句。
助けがさ
来ないんだよね
ホトトギス
訳がわからねぇよ。ガチャリ。
……んぇ? 目だけをぎょろりと動かし、どうにかして音の発生源を視界に入れる。
「……」
「……」
フランがいた。
とても不機嫌そうなフランがいた。
羽をいつものように動かさずだれーん、と下げているフランがいた。合計三カメ。
「……おはよう、想也」
「お、おはよう……」
とんでもなく気まずい。
「お姉さまがボロボロの想也を見つけた時は……少しビックリしたけど、どうやら大丈夫みたいだね。安心したよ」
「あ、えっと、うん。ありがと……」
先日の件のせいでいつものように会話ができない。フランは割と気にしてないようだが、いや、ないだろ、と首を振りたいけど無理だった。身体が動かないんだった。……まぁ、兎に角、フランは気にしていないようで不機嫌だということを言いたいんだ。僕は。
「じゃぁ、また来るよ。いつでもいいから遊んでほしいな」
「えっ。あ、その、わかったよ」
僕がぐるぐると思考を巡らせていると、フランはそう言って部屋を出て行く。……え、これ、どうなの。許してもらえたの? え、でも、フランめっちゃ不機嫌そうだったよ。……どういうことなのかな。
全くもって意味が分からない。様々な疑問を残しながらも、とりあえず僕は、また眠りについた。駄目だ、へたれ過ぎる僕。