東方事反録   作:静乱

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幻想郷での生活 二
part1 『ただの人間』


 僕は何の為に力を得たのか。

 思考の海に沈む。

 

 

 

 『事実を反対にする程度の能力』。その気になれば世界を滅ぼすことだってできる能力だ。

 そんな力を、僕は何の為に得た?

 

 人を守る為? 強くなりたかったから? ……違う。そんな主人公みたいな理由じゃない。もっと、違う……。

 

 ……そうだ。特典を選べと言われたから、なんとなく、強そうな能力を選んだんだ。

 

 この世界で、無双したいと思ったから。

 新たな世界で、強くありたかったから。

 その為に、僕はこの力を手に入れた。

 

 

 

 ならば、『合成する程度の能力』はどうだ? なんの為に得た?

 

 ……迷うことはない。これこそ単純で明快である。『西行妖』を倒す為だ。更に細かく言えば……あの子を守る為。

 あの子を失いたくないから。ずっと笑っていたいから。ここで世界を終わらせないように、僕は新たな力を得た。そして、『西行妖』を倒した。

 『合成する程度の能力』は、正当な理由で得た力……と言えるだろう。多分。

 

 ……だが、『事実を反対にする程度の能力』はどうだ? あれを、自分の力と言えるのか? ……本来なら、言えるはずがないんだ。本来なら。

 

 何が転生だ、何が特典だ、何が特別だ。あれは神様が授けてくれた力だ。僕の力なんかじゃない。自分の力と言い張るな。調子に乗るな。そもそも何が『正当な理由』だ。『事実を反対にする程度の能力』があったからこそ、『合成する程度の能力』を得ることができたんだ。なら、これも自分の力なんかじゃない。

 自分は元々、ただの人間だ。たまたま神様が僕を見ていて、たまたまそのタイミングで僕が死んで、その死に様が面白かったから運良く神様の興味を引けて、それで転生できただけだ。

 

 自分は特別なんかじゃない。運が良かっただけなんだ。

 

 

 

『一部、『僕』の自己解釈が混ざっておりまぁす。真実と違うところがあるのでご注意くださぁい。バイ『ボク』でしたー』

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お嬢様。お茶をご用意しました」

 

「ありがと、咲夜」

 

 ――紅魔館、テラス。

 驚く程綺麗な満月の夜に、紅魔館の主レミリア・スカーレットは、優雅に外の様子を眺めていた。

 紅茶を用意した十六夜 咲夜に感謝しつつ、砂糖を入れ、一口飲んでみせる。

 

「……中々ね。美味しいわ」

 

「ありがとうございます。モンターニュブルーをヒントに頑張って青くしてみたんですが、どうですか?」

 

「……人が触れまいとしてるところをつかないで。斬新だとは思うけれど、どっちかって言うと紫色よ……」

 

「中々難しいものですね」

 

 クスクスと笑う咲夜。レミリアは溜息をつきながら、「それよりも」と話題を切り替える。

 

「想也の容態はどうかしら?」

 

 あれから数月、まだ歩けるようにならないの? と問う。咲夜は苦笑する。

 

「駄目ですね。一行に良くなりません。目立った外傷は無いようですが、身体は依然として動きませんし、能力も使えないようです。まるでただの人間のようですね」

 

「ただの人間……ね」

 

 レミリアは表情を曇らせ、首を捻る。『ただの人間』というワードが、なにやら引っ掛かったようだ。

 

「……どうも感覚が鈍っている気がするけれど、そうよね。本来ならば、『ただの人間』というカタチが、『人間』の筈なのよ」

 

「……と、言いますと?」

 

「やっぱり貴方も鈍ってるわよね。……まぁ簡潔に説明するけれど、元々、人間『が』能力を持ってることなんて、基本は無いのよ。霊夢は博麗の巫女だし、魔理沙は魔法使い。貴女も特別な存在であったから、例外だとして……。……そうね。咲夜、『外来人』知ってるわよね」

 

「勿論」

 

 『外来人』は、幻想郷に住んでいる者なら誰でも知っている存在である。

 大抵は妖怪に喰われ死ぬか博麗の巫女によって返されるかの二つに別れるが、稀に人里に住み込む者もいて、そのような者が出た場合、暫く幻想郷はその話題で持ちきりになる。その規模、射命丸 文の『文々。新聞』がその時に限り売り上げが上がるほどだ。

 

 そんな『外来人』を、咲夜が知っていない理由がない。

 

「『外来人』が、何か?」

 

「大したことじゃないけれど、今まで能力を持った『外来人』を見たことがある?」

 

 レミリアの問いに咲夜は少し考えた後、首を振る。

 

「……いえ、ないですね」

 

「そう、私もないわ。そして、人里でも特別な血筋の奴でもない限り、能力持ちの奴はいないのよ」

 

「……ふむ、そうですね。稗田家の書物を回覧させてもらったことがありますが、そんなことは基本ないようでした。ごく稀に能力持ちが生まれることもあるようですが、精々物を動かすくらいしかできなく、物心がつく頃には消失しているとか……」

 

「えぇ。本来、人間が能力を持つなんてことは有り得ないの。能力を持つ器が、人間にはないわ。大きすぎる力は、やがてその身を滅ぼすのよ。普通の人間は能力を持つことを許されていない。

 逆に妖怪は能力を持つことを許されている……というより、義務付けられているのかしらね。どんな弱小妖怪であろうと、能力がいらないほど強かろうと、大抵は能力を持っている。能力を持てるだけの器がある。人間のように例外もいるんだけど……ま、それはいいわね」

 

 沢山喋って疲れるわー、と紅茶を口に含むレミリア。咲夜はそれを眺めながら、頭上に? を沢山浮かべていた。

 

「え? あの、お嬢様。つまりどういうことなんでしょうか……?」

 

「あら、わからなかった? ふふ、意外と物分かりが悪いのね」

 

 その言葉にも、申し訳ありません! と謝罪する咲夜。レミリアはいいのよ、と微笑み、もう一度、今度はしっかりと結論を言う。

 

「咲夜、想也はただの人間じゃないと思ってるわよね」

 

「え? はい……。逆に、想也様の何処が普通なのかと思いますが……?」

 

「そう、そうなのよ。誰だって思うわ、想也は普通の人間じゃないって。

 永い時を生き、妖怪と同等以上に渡り合い、全てを超越できるレベルの能力を持つ。何処をどう見ても普通じゃない。

 ……でも、今の想也は、ただの人間そのものよ」

 

「……! たし、かに……。でも、それは負傷の影響では?」

 

「いえ、違うと思うわ。私は、あの状態が本来の(・・・)想也なんじゃないかと思うの。能力なんて持ってない、それが本当。動けないのは……そうね、力の代償かしら? ……ま、そうだと断言できる確信はないんだけどね」

 

「は、はぁ……」

 

 理解出来たようで、なんだかよく分からない咲夜。たまにお嬢様は私には解らないような難しいお話をするよなぁ、と思いつつ、もう一つ用事があったことを思い出す。

 

「そうだ! お嬢様、パチュリー様からの伝言です。『話があるから、ちょっと来て』……と」

 

「急激に話題が変わったわね……まぁいいわ。そう、わかったわ。行きましょう」

 

「はい」

 

 そう言うと、レミリアは紅茶を飲み干し、立ち上がる。テラスから出て、廊下を歩きながら咲夜に話しかけた。

 

「……一月前、だったかしらね?」

 

「そう、ですね。ちょうど一月前です」

 

 九尾が突然来た時は何をしにきたのかと思ったわ、と苦笑するレミリア。咲夜もそれに釣られてクスリと笑う。笑いながら、その時のことを思い出した。

 

 

 

 

 

「貴女のようなお強い妖怪ならば、必ずめぼしい物を見つけてくれると、私達は考えているのですよ」

 

 ちょうど一月前。紅魔館に八雲 紫の式、八雲 藍が訪問した。当初は黒橋 想也の見舞いと考えていたレミリアであったが、どうも要件は別にあるらしい。そこで、レミリアは客間にて咲夜、パチュリーと共に藍の話を聞くこととしたのである。

 藍はにやりと笑みを浮かべながらレミリアに言った。それに対し、レミリアもまた不適な笑みを浮かべる。

 

「へぇ? 中々面白そうじゃないの」

 

 にこりと微笑みながら、藍は返す。

 

「月の都には幻想郷とは比べ物にならないほど珍しい物や技術があります。それを盗み出して、妖怪や人間の技術に生かしたいのです。

 紫様は停滞してしまった幻想郷に住む人々の、生活向上を目指しているのですよ」

 

「……馬鹿みたいね」

 

 しかし、それに対するレミリアの回答は厳しいものであった。レミリアは冷たく、藍を見つめる。

 

「第一、どうして今更、そんなこと持ちかけてくるの? 知ってるわよ。数百年前、『不慮の事故』だとかなんとかで、失敗したんでしょ?」

 

 藍は表情を崩さない。感情的にならず、じぃっとレミリアを見据える。

 

「しかも、その『不慮の事故』の内容が笑えるわ。月の民にコテンパンにされて逃げ帰ったとか? もしかして……今なら勝てるとか思ってるのかしら」

 

「……えぇ。あの頃に比べ妖怪の数も増えました。みんなが協力してくれれば、負けることはありません。

 そして、私達が一番期待しているのは貴女なんですよ。レミリアさん」

 

「……ふん、まぁいいわ。どんな計画?」

 

 レミリアの返答に、藍は満面の笑みを浮かべた。ニコニコと作戦内容を告げる。

 

「今年の冬、湖に映った幻の満月と本物の満月の境界をいじり、湖から月に飛び込めるようにします。

 ……結界は紫様が見張っているので、レミリアさんはその間に、月の都に忍び込んでいただきたいのです」

 

 藍は、不適に言った。

 

 

 

 

 

 紅魔館地下室。その大きいスペースを利用し、パチュリーはレミリアに任された『ロケット』の製造を進めていた。

 しかし、その姿はボロボロのはりぼてにしか見えない。

 

「……見てわかると思うけれど、まぁ資料不足ね。これじゃどんだけ頑張っても無理よ無理」

 

「……あらまぁ。困ったものねぇ」

 

 二人揃って溜息をつくレミリアとパチュリー。幸運が逃げて行きますよ、と咲夜が言うが、レミリアはそんなのは迷信よ、と笑った。

 そんなことはないんですけどねぇ……と頬に手を当てる咲夜だったが、こんなことに拘る必要ないわと思い直した。

 

「これじゃ、『先に月を征服して紫をぎゃふんと言わせる作戦』を実行できないじゃないの」

 

「……その作戦、大分無理があると思うわよ」

 

 苦笑しながら指摘するパチュリーだったが、レミリアはなんとかなるって、ときかない。

 溜息をつきながら、パチュリーは案を出す。

 

「……そうね。資料不足がネックなんだから、外の世界のロケットに関しての情報があれば、どうにかするわよ」

 

「……情報、ね」

 

 顎下に指を当て考え込むレミリア。うぅーん、と声をあげた後に、そうだ! と顔を上げる。

 

「咲夜。なんでもいいわ、資料を集めてきてちょうだい。命令よ」

 

「……了解しました。適当に当たってみることとしましょう」

 

「頼んだわよ」

 

「はい」

 

 次の瞬間、咲夜は消える。彼女自身の能力『時を操る程度の能力』を行使したのだろう。

 咲夜の消えた地下室で、レミリアはパチュリーに問うた。

 

「フランは?」

 

「未だ機嫌がいいのか悪いのか分からないわ。ここはもう、想也頼みね」

 

「……そう」

 

 レミリアは何度目か分からない溜息をついた。本当に幸せが逃げちゃうかもしれないわ、と思いながら。

 

 

 

 

 

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