STAGE-1 山の上の神様
「よぅ、『ただいま』」
何もなかった僕の夢の中で、唐突に『ボク』が出現し、なんか言いやがっている。
「……『ただいま』って、なんだよ。お前は『僕』であって『ボク』なんだろ? だったら、僕の中から消えるはずがない」
「どうかなぁ? 『ボク』は確かに、今まで居なかったぜ。今帰ってきたんだ。ちょいと用事があってな」
「…………」
用事なんてある訳がない。恐らく虚言だ。
……だけれど、何故だか、本当のことのような気もしてくる。どうして?
「それは『ボク』が『僕』だからだ。『僕』と『ボク』は一心同体、相手の言ってることが嘘か真か。簡単に解ってしまう。……もっとも、『僕』は解らないようだけどね」
「……そりゃ、そうだ。僕はお前を、『僕』だなんて認めていないから。お前は『僕』の形をした『何か違うモノ』だ」
僕が言い切ると、『ボク』はにやり、と口角を持ち上げる。持ち上げて、「何を根拠に」と呟いた。
「根拠も何も。お前と僕は、何かが決定的に違うんだよ」
「……決定的に違う、ね? 笑えるぜ、何を言ってるんだよ『僕』」
『ボク』はそう言うと、僕に目を合わせる。その瞳は、澄んでるような濁っているような、よく分からない黒色で……。
何だか吸い込まれそうだったから、僕は目を反らした。
「『僕』は『ボク』で、『ボク』は『僕』。それはそう定められたモノであって、抗いようのない『事実』なんだ。これは、『僕』がどれだけ頑張ろうとも、覆ることはない」
「…………」
それが事実だと言うのならば、僕が反対にしてやる。
そう思ったけれど、どうすることもできなかった。そして、夢が覚めたら、忘れてる。
◆◆◆
「秋だ! 秋といったら読書!! 今日もインドア万歳!」
「そうも言ってられないぜ?」
「……何だよ霧雨さん」
あれから暫く経ち、漸く能力も使えるようになった。しかしながら外に出る必要性を感じなかったので、僕は図書館に引き込もっていたのだが、霧雨さんが変なことを言ってきた。
「霊夢の神社が乗っ取られそうなんだ」
「……神社を、乗っ取るぅ?」
そんな物騒な。どこのどいつだよ、んな馬鹿なことを考えているのは。
「あぁ、正確に言えば、「神社をあけ渡すか潰すかどっちかにしろ」っていう話らしい。山の上に神様がいるらしくてな? そこの神様の巫女が言ってきたらしいんだ」
「巫女? 博麗さんでなく?」
「あぁ。服装は霊夢みたく脇を出していて、緑色。髪も緑色の派手な奴ーーって霊夢が」
「……ふぅん?」
紅白の博麗さんも充分派手だと思うのだけど、そこはツッコまない方が良いのだろうか。ていうか、ここでは脇巫女さんが流行っているのか? 脇フェチさんには堪らないだろうけれど、僕はどちらかというとロリコンである。
……自分で言ってて悲しくならないのかな、僕は。
「私は霊夢の神社が乗っ取られようが乗っ取られまいが構わないんだが」
「そこは構おうよ霧雨さん」
「言うな言うな! で、構わないんだが。山の上の神様ってのが何故だか気になる。面白そうだ。てー訳で、お前も着いてこい!」
「どういう話の流れなのか説明してもらいたいねぇ!?」
唐突に飛躍した話に着いていけなくなり、思わず全力でツッコんだ。
「いいだろ? お前も暇そうだし、たまには身体動かさないと駄目だぜ。という訳で! フラン、こいつ借りてくぜー!」
「……うん。ちゃんと返してね」
「流石に想也を死ぬまで借りやしないぜー」
「僕の人権はどうなっているんだぁああああああ!!」
全力の叫びも虚しく。特に意味はない。だんだんパターン化してきたなぁ、と思いつつも、僕は紅魔館に帰るべく、必死にもがくのだった。
◆◆◆
現在の季節は秋であり、山まで来るとどうしても紅葉が目立つ。そんな中で唐突に、何かの匂いが漂い始めた。
これは……芋?
「……霧雨さん、お芋の匂いしない?」
「お、想也も気付いてたか。私もさっきから気付いてたんだが。……匂いはあっちからするな、行ってみようぜ!」
「うわっ」
僕は今、霧雨さんの箒にぶら下がっている訳で、急に方向転換されると危険だ。せめて一声かけてほしいのだが……。
「って、あぁっ! 貴女方は秋Aさんと秋Bさん!!」
『何その呼び名!?』
例の如く、僕のボケにシンクロツッコミを返す対象。パターンと化してきているこの状態に少しだけうんざりしながら、「だって名前知らないんですもん」と返答。
「ん? 想也、お前、あいつらのこと知ってるのか?」
おいてけぼりになっていた霧雨さんが僕に問う。
「名前は知りませんけど……。紅霧異変の宴会時に僕が出ていったでしょう? その夜に、一晩泊めてもらったんですよ」
「へぇ、あの時か。……あぁ、私はもう、あの時のこと気にしてないからな。変に気にすることないぜ」
「……どーも」
「へへ、気にすんな」と返す霧雨さん。うーん、いい人だ。
それはともかく秋Aさんと秋Bさん。お芋……というか甘い匂いの発生源は秋Aさんのようだ。良い匂いのする女性はモテるらしいので、秋Aさんに「おめでとう」と心の中で拍手をする。
……どういう性質なんだよ、とツッコみたい。
「そうだ秋ABさん」
『略すな!』
「すいません。じゃあ、秋Aさんと秋Bさん。名前教えてください。いつまでも秋AさんBさんじゃなんかやなんで」
秋ABさん方は快く答えてくれた。
「私は秋 穣子」
「私は秋 静葉」
『二人合わせて、秋姉妹!!』
「秋と言ったら私達!」
「いつでもいいよ、会いに来てね!!」
なんか決めポーズを取りながら自己紹介をしてくれた。あー痛い痛い。心が痛い。そこまで目立ちたいのだろうか。
『…………』
「……えっ? ノ、ノーコメント?」
「感想とか、さ。お願いできないかな……?」
穣子さんと静葉さんの少しもじもじしながら上目遣いで頼んでくる姿にぐっ、ときたので、なるべく傷つかないようにフォローしてあげることに。ここまで来て、僕のキャラクターが崩れてきていることに気付く。どうしてこうなってしまったのか。
まぁ、二人が可愛いからいいや。この思考が可笑しいだろおい。
「い、いや。素晴らし過ぎて言葉が出なかったんです。僕、今度人里行ったら、穣子さんと静葉さんのことを色んな人達に紹介しますよ」
「本当っ!?」
「ありがとうっ!」
パァー、と表情を輝かせるお二人。
はぅ、その笑顔が眩しい。僕の紳士設定とか真っ当な人間設定だとかどーでもいいやー、んなもの捨てちまえー。……踏み留まろうね、僕。
そんな中で、霧雨さんが最悪の言葉を発する。
「え? 想也、あんなのを素晴らしいと思ったのか? 私からすれば、あれほど滑稽なものはなかったぜ。……ふふっ、やばい、思い出したら笑いが……ハハハハハッ!!」
「……な、ななな、なんてことを……」
霧雨さんの言葉を聞いた瞬間、二人の綺麗な瞳からハイライトが消えた。ヤンデレ的な瞳である。さ、刺される!?
「……ははは、そーだよね。私達って陰薄いから、どーせこんなことしたって、滑稽なだけだよね」
「そうだね。私達、本当に駄目だもんね。……バイバイ想也くん。君の言ったことは信じることにするよ……」
「あ、ちょ……」
刺されることはなかったけれど、もしかしたらかなり危険かもしれない。貴方だけは信じてる、とか、恋人とかになら言われたいけれど、あんな目が死んでる美少女に言われると恐怖しか感じないのであって……。
「……霧雨さん、行きましょう」
「フヒッ、ハハハ、ハハハハハ! ハー、ハー……。お、おう、行くか! ……ひひ」
「…………」
霧雨さんは違う意味でやばそうだ。