東方事反録   作:静乱

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 月面戦争編突入です。


月面戦争
第一幕 『鈴奈庵』


「……すること、ないや」

 

 早苗さんに帰れと言われたので、一時は帰ろうと思ったけれど、なんとなく人里に降りてきた。お団子目当てだったのだが、都合の悪いことに今日は休業日らしい。不運なことである。

 することがなくなってしまった僕は、相当な虚脱感に襲われ、何が目的という訳でもなく、ただひたすらに人里をぶらついているのだった。

 

「なんか面白いことでもないものか……」

 

 呟いて面白いことが舞い込んでくるのだったら皆苦労しない、とツッコみ、大きな溜息をつく。……帰るしかないのだろうか?

 しかし、折角人里に来たのだから、やっぱり何かやって帰りたいという気持ちがある。というか、何かしないと気が済まない。

 そんな訳で、僕はひたすら歩き続け、何か面白そうな物を探し続けた。

 

 ……ん?

 

「『鈴奈庵』……ね?」

 

 店の名前の横には『貸本屋』と記されていた。字的に本を貸すお店なのだろう。なるほど、図書館チックな物ね。

 古風な感じに僕は興味を覚え、暖簾を潜った。

 

「……すいませーん」

 

「いらっしゃいませー」

 

 出迎えてくれたのは少女。

 飴色の綺麗な髪の毛を鈴の付いた髪留めでツインテールにしており、紅色、薄紅色の市松模様の着物を着ている。スカートは緑……というよりは若草色か? でもって、前述した服装の上にはクリーム色のフリルエプロンを纏っていた。エプロンの右下には、小さく『鈴奈庵』と。胸元には『KOSUZU』と書かれている。

 

 ……うん、何故にここまで観察眼(という名の変態的視線)が働いたか、って言うと、単純にこの子が、僕の好みだったからなんだ。いや、僕の好きな人は小傘ちゃんだよ。それは確定している事実だよ。反対になんてしやしないよ。

 しかし、仮に小傘ちゃんが居なかったとしたらーー又は会っていなかったとしたら。僕はこの子を好きになっていたかもしれない。否めない。

 ……どう足掻いてもロリっぽいです。本当にありがとうございます。

 

「……どうかされましたか? 私の方をじぃっと見て」

 

「え、あっ、何でもないです」

 

「…………?」

 

 僕の返答に首を傾げる店長ちゃん仮。どうやら誤魔化せたようだけれど、かなり不審がられている。危ない。

 というか、先程の思考、完璧に危ない人じゃないか。初対面のいたいけな少女を見つめながら何てこと考えてやがったんだ、僕は。

 

「……えっと、今日はどんな本がお目当てで?」

 

 不審がりながらも業務を果たそうと頑張る店長ちゃんに萌えた。

 ……「君が目当てで来ました!」なんて言えたとしたら、僕はどれだけ楽に生きられるのだろう。どう間違えても言わないけど。

 

「……と、特に目当てはないーーってところでしょうか? 適当に面白そうな本を探してもいいですかね?」

 

 こんな感じに、僕は一般常識に則った事しか言えない。常識人としては最高の模範的回答なんだろうけれど、ここは幻想郷なんだから、もう少しはっちゃけても良いのでは。

 「幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは残酷なことですわ」……なんて、紫が厨二的な発言をしていたし。

 

「はぁい。ごゆっくりどうぞ!」

 

 にこっ、と微笑んで店の奥の机に戻っていく店長ちゃん可愛い。

 店長ちゃんが可愛い、という思考しか現在の僕の脳内にないことに気付き、気を付けないとなぁ、と思いつつも、眼鏡を掛けて本を読み始める店長ちゃんにまた萌えて。あぁ、僕は小傘ちゃんと再開したら萌え死ぬんじゃなかろうか。最悪の死因だなぁーーと思いながら、僕は店内を彷徨き始めるのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あのお客様。店内で寝られちゃうと困りますよぅ」

 

「んぇ!?」

 

 唐突に降りかかった声に驚き、後退すると、頭を強打。星が見えた。痛みに耐えながら目を開くと、そこには店長ちゃんの可愛らしいお顔が。何を言っているか分からないと思うが、僕も何が起こっているのか分からなかった。何か恐ろしい運命の力的なものの片鱗を味わったぜ……。

 はいはい安定ネタ安定ネタ。

 

「え、あ、ん、んん!?」

 

 頭の中ではそれなりに思考が纏まっているのだけど、外見は全く違って、素晴らしい程に混乱していた。

 

「お客様、寝起きは思考能力が働かないのは知っていますけれども、出来れば早く起きてほしいです。もう閉店時間なんですよー」

 

 そう言って、僕に手を差し伸べてくる店長ちゃん。とりあえず店長ちゃんの手を取ると、伝わってくる人肌の温もり&女の子特有、柔らかい手のひらの感触。小傘ちゃんやフランに負けず、劣らないソレは、僕のロリコン魂(仮)に火を付ける。

 いや、抑えますけどね。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「いいえ! お目当ての本は見つかりましたか?」

 

 ……見つかってない。適当に序盤だけ読み漁ってみたけれど、興味を引く物は無く、襲い掛かる眠気に耐え切れずに、寝てしまったんだ。確か。

 

「あー、ごめんなさい。見つかってないです……」

 

「あらら、そうですか。……ふむ、ならアレとかいいかもです。今なら初回特別サービスで安めですよっ♪」

 

 店長ちゃんはそう言うと、ぱたぱたと店の奥に走って行き、数秒すると「これです、コレ!」と言いながら僕に差し出した。……しゅ、週刊少年なんちゃらだと。しかも、表紙には大人気漫画『わそぴーす』の主人公、るひーが描かれているじゃないか。

 ……どうして幻想郷にこんな物が。

 

「外の世界から流れ着く通称『外来本』、その中でもちょっと特異な物なんです。いわゆる『漫画』と呼ばれる読み物が多く描かれているんですよ」

 

 うん、知ってる。知ってるよ店長ちゃん。昔、コンビニで愛読してたもの。つまり立ち読みだよ。

 

「お気に召しましたか?」

 

「あーはっはっは。……幾らでしょうか」

 

 暫く読んでなかったものだから、久しぶりに読んでみたい。

 ……し、そもそもそんな、上目遣いで見つめられて、お気に召さなかったとか言える訳ないじゃあないですか。

 

「! 一週間五百円です!」

 

 ぱぁぁっ、と表情を輝かせ、満面の笑みで僕の質問に答える店長ちゃん。……これ、どのお客さんにもこうなんだろうか? だとしたら、普通にファンクラブとかが出来ていてもそう不思議ではないぞ。

 

「……じゃ、じゃあ、一週間でお願いします。どーぞ五百円」

 

「ありがとうございますっ! ここにご記名をお願いします!」

 

 指示通り、自分の名前を書いた。

 

「『黒橋 想也』様ですね! では、これが商品となります!」

 

 レシート的な物を手動で書き、本と一緒に渡され、ぺこりと一礼する店長ちゃん。僕も釣られて一礼。何故か笑われた。……なんで?

 

「え、どうして笑うんですか?」

 

「あっ、すいません。礼儀のいい方だなー、って思って」

 

「はぁ……」

 

 「明らかに年下の私にも敬語ですし。こんな人、幻想郷には少ないですよ」と付け足す店長ちゃん。……そんなに礼儀いいだろうか、僕。なるべく失礼のないように振る舞っているつもりではあるけれど、だからってそこまで礼儀いいか、と問われれば、そうでもないよなぁ。あくまで主観でしかないけど。

 

「……じゃあ、口調崩してもいいかな、店長ちゃん」

 

「どうぞどうぞ! ……あ、申し遅れました。私は本居 小鈴と言います。お好きにお呼び下さい!」

 

「ありがとう」

 

 感謝を述べると、小鈴ちゃんは「やっぱり礼儀良いですね!」と笑う。……幻想郷って何か怖いな。

 それにしても、可愛らしい名前である。名前に『小』と入ってる辺り特にーー完全に小傘ちゃんの影響じゃないか。

 

「……鈴ちゃんて呼んでもいい?」

 

 そういえば愛称で人を呼んだこと、ないなぁと思って。

 

「えっ? す、鈴ちゃん? いいですけど……」

 

 許可、取得。これからは店長ちゃんもとい本居 小鈴ちゃん改め鈴ちゃんだ。……いつにもなく積極的だな、僕。

 まぁ、でも、可愛いは正義って言葉もあるくらいだし、僕のこの奇行も、きっと許される範囲内ーー略して許容範囲の筈だ。そうであってほしい。

 

「じゃあ、また来るね、鈴ちゃん」

 

「あ。は、はい。またのご来店をお待ちしております、想也さん」

 

 想也さんと呼ばれたことにときめきを感じつつ(ただの変態)僕は鈴ちゃんのお店、『鈴奈庵』を出る。もう外は暗く、山の方に日が沈んでいくのが見えた。早く帰ろう。

 

 

 

 

 

「あ、想也さん。今日はお早いお帰りで何よりです」

 

「夜だけどね、美鈴さん」

 

「あら、想也様。今日は怪我して来なかったんですね。つまらない」

 

「酷いね! 咲夜さん!」

 

「あら、お帰り想也。フランが待ってるわよ」

 

「はい。じゃ、レミリアさん」

 

「……あぁ、想也。そこの本取ってくれる?」

 

「嫌です! 小悪魔さんに頼んでくださいよパチュリーさん!」

 

「私ですか!?」

 

 

 

「ただいま、フラン」

 

「お帰り。今日は早く帰って来てくれて嬉しいよ、想也」

 

 

 

 

 

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