東方事反録   作:静乱

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第二幕 ロケット

 レミリアが図書館を訪れたのは、想也が早苗と再開してから一ヶ月後、真夜中のことだった。既に昼夜逆転している想也はその時間起きていて、ぺらぺらと鈴奈庵から借りてきた本を読んでいる。

 レミリアの存在に気付いた想也は、首を傾げ、声をかける。

 

「どうしたんですかレミリアさん、図書館に来るなんて珍しい」

 

 想也の知る限り、レミリアが図書館を訪れたのは一、二回程。すっかり本に興味がないと思い込んでいた想也だったが、寧ろレミリアは、この図書館に置いてある本ほぼ全てに目を通しているくらいには読書を好んでいる。

 

「私だって本は読むわよ、馬鹿にしてんの? ……今日ここに来たのは、パチェに頼んでおいた物がほぼ完成したようだから、それを見に来たの」

 

「……パチュリーさんに頼んでいた物?」

 

 レミリアの言った言葉ーーの一部を復唱する想也。確かに、最近はあまり図書館に居ずに、どこか違う場所へ行っていたようだけれど……そういえばどこに行ったのかは知らなかった、と想也は指を顎に当てる。

 

「……どこで作ってたんですか? ソレ」

 

「あれ、教えてなかったかしら? ……まぁ、この機会に見せておくのもいいかもね。着いてくれば分かるわよ」

 

 レミリアはとん、と想也の背後に周り、手招きをしながら図書館の奥へと進んでいく。想也は読んでいた本にしおりを挟み、懐に入れると、レミリアの後を追って行った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「……あの、ここ、さっき通りましたけど?」

 

 記憶力にはそれなりに自信がある想也だ。図書館の配置を全て覚えている訳ではないけれど、つい先程通った場所くらいは記憶している。

 そんな問いに、レミリアは振り向くことなく答えた。

 

「えぇ、そうね。だけど、これでいいのよ。ほら、黙って着いて来なさい」

 

「はぁ……」

 

 どこに向かうつもりなのか、そもそもここまで本棚で敷き詰められた部屋のどこに何かを作るスペースがあるのか。想也にはそれが分からない。

 流石に『隠し部屋』なんてものはないだろうし……。

 

(……否、ここは幻想郷。常識外れな世界。妙に大きいこの紅魔館、隠し部屋がある可能性は否めないぞ)

 

 随分と幻想郷に染まってきたものである。

 ……その考察はあながち間違ってもいなかったのだから、面白い。

 

「……ふぅ、到着よ。毎回このルート通るのは疲れるわ」

 

「と、到着? 特に何も……」

 

 と、想也が言いかけたところで。

 想也とレミリアの足元に描かれていた、普段は視認できない『魔法陣』が光輝く。動揺する想也は「どーなってんすかこれ!?」と叫ぶが、レミリアは「落ち着きなさい」としか言わない。

 光は留まることを知らない、どんどん強くなっていき、想也の視界が光に包まれた瞬間ーー

 

 

 

「……おや? へやのようすが……」

 

「普通に言いなさいよ」

 

 光が晴れ、二人は薄暗い空間に居た。よく目を凝らすと、階段があるのが見える。

 混乱しながらも前世の知識を頼りにボケる想也は、きっと芸人としても生きられるのではなかろうか。……まぁ、もうそんな機会は一生ないだろうけれど。

 閑話休題。

 想也は先程の魔法陣、いきなり全く違う空間に飛ばされたことから、とある仮説を立てた。

 

「……これはつまり、ここは隠し部屋的な立ち位置の部屋って訳ですか?」

 

「えぇ、そうよ」

 

 落ち着いて質問する想也に対し、レミリアも落ち着いて返答。想也はそれを聞いて、ふむ……と顎に指を当てた。

 

「……どうしたのかしら」

 

「いや……つまりレミリアさんは、また幻想郷征服を狙っているのかなぁって」

 

「どうしてよ!?」

 

 想也の考察に納得のいかなかったレミリアは凄まじい勢いでツッコむ。彼女も芸人になれそうだが、同じくなる機会はないだろう。

 

「いや、でも、秘密基地って言ったら、悪の親玉が作っているのが定番じゃないですか」

 

 想也の口から謎の超理論が語られた。勿論、レミリアは絶句する。

 

「何をどう考えたら秘密部屋が秘密基地に変換されるのよ! 貴方の思考が全く理解出来ないわっ!」

 

「秘密部屋って言ったら秘密基地でしょう!? レミリアさんこそ何言ってるんですか!」

 

「…………」

 

 『あぁ、今の想也は私では論破不可能だわ』

 悟ったレミリアは、早くも説得を諦めた。というか、よく考えたらあながち間違ってもいない気がしてきたので、肯定しておくことにする。

 

「……まぁ、支配という点では合ってるわね。幻想郷は支配しないけど」

 

「なんだ、そうなんですか」

 

 レミリアがそう言うと、途端に想也のテンションが下がる。……まさか、それはない、と思いながらも、保険を兼ねて、レミリアは想也に問う。

 

「……まさか、幻想郷支配を期待してた訳じゃないわよね」

 

「はは。善良なる紳士の僕が、幻想郷支配なんて面白そう! ……とか思ってる訳がないでしょう」

 

「……そう」

 

 レミリアは自分の考えが正解だと確信した。想也が嘘を吐く時の言い方くらいわかりきっている。

 ……というか、彼は嘘を吐くのが下手なので、あまりに純粋な人間でもない限り騙されることはないだろう。

 

「さて、レミリアさん」

 

「何よ」

 

「この大きな扉はなんでしょうか」

 

「目的地」

 

 単語だけの返答に少し傷つきながら、想也はここが目的地かぁ……と溜息を吐く。一体何が作られているのか、まさか新しい紅茶ーーとかくだらない物だったりしないよな? そんな事を考えていると、レミリアが扉を開く。その先にあったものは……。

 

 

 

「……え、えぇと、ロケット……?」

 

「正解。よくわかったじゃない」

 

 よく分かったじゃない、も何も、形を見れば何となく察しが付く。かなり不格好だけれど、これは紛れもなく、外の世界のロケットをモデルにした物だ。

 想也はそう考えながら、同時に何故レミリアがパチュリーにロケットを作らせていたのかを考察する。……一番否定したい理由しか出てこない。

 

「……月に行くから、とか、そんな理由で作ってるんじゃないですよね」

 

「それ以外に利用方法があるの?」

 

 ほら、宇宙に行きたいから作った、とか普通にあるじゃないですかー……と心の中で思いながら、想也は溜息を吐いた後、一先ずもう一つ質問してみることにした。

 

「どうして月に行くんですか? 別に理由はないでしょうに」

 

 想也が幾ら考えても、レミリア達が月に行きたがる明確な理由は思い付かない。だからきっと、『なんとなく』月旅行に行きたくなったからロケットを作ってた、とか比較的危険じゃなさそうな理由だと思って、そう言ってほしくて質問したのだけど……。

 想也の予想は見事に外れていた。

 

「ちょっと色々あって、妖怪の賢者をぎゃふんと言わせる為に、月を侵略することにしたのよ。その為のロケットよ」

 

「……月を侵略、ねぇ……」

 

 想也は心の中で嘘だろ……、と悪態を吐いた。

 ……因みにこの行動、実際は数ヵ月前に話を持ちかけた八雲 紫(正確にはその式、八雲 藍)に誘導されたものだったのだが、想也に知る由はない。

 

 とりあえず、みすみす知り合いを見捨てる訳にもいかない想也は、レミリアを説得する。

 

「やめといた方がいいです。月は貴女が思ってるより遥かに遠いですし、僕らより遥かに強大です。……知ってるんでしょう? 昔、紫が多数の妖怪を引き連れ月に乗り込み、完全敗北したこと」

 

 真剣な面持で言う想也だったが、レミリアは苦笑する。

 

「大丈夫よ。それは作戦が悪かっただけよ、ちゃんと作戦を立てれば問題はないわ」

 

「……その程度で勝てたら僕も止めませんよ。月の軍勢は幾ら吸血鬼とて勝てる相手じゃない。ただの兵士でさえ強力な武装をしているのに、更にもう一人、格の違う人が一人居る。例え今の幻想郷に住まう妖怪全ての力を結集しても、勝てる相手かどうか……」

 

「……つまり貴方、びびってんの? 月の奴らに」

 

 頷く想也。実際、殺されかけた相手である。びびるーー恐怖するのも仕方がないし……事実、月の実力はそれほどまでに高いのだ。少なくとも、レミリアくらいなら月の兵士が数十人も居れば止められてしまう可能性がある。

 それどころか、月には『綿月 依姫』という化け物が居る。その気になれば一人で幻想郷を半壊滅状態に陥れる事も出来るかもしれない、力を持っている化け物が。そんな相手に恐怖を感じ、そんな相手の居る場所に行きたくないというのは当然だ。

 

「情けないわね。月なんて大したことないわよ、すぐに落とせるわ」

 

「……本当に行くんですか」

 

「……そう言ってるでしょ? 耳あんの?」

 

「……そーすか」

 

 あんま気が進まないんだけどなぁ……と呟きながら屈伸する想也。レミリアはその行動に疑問を覚えながらも、想也を警戒する。

 警戒した直後、想也は唐突に仕掛けた。

 

「仕方ないので、全力で潰して、暫く再起不能にしてやります。ごめんなさい」

 

「中々大口叩くじゃない。……吸血鬼、レミリア・スカーレットに戦いを挑んだこと。後悔するのだな」

 

 

 

 

 

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