東方事反録   作:静乱

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第三幕 『運命』には逆らえず

(……あれ)

 

 と。

 違和感を感じた時には、もう終わっていた。

 

 追撃のグングニルが首筋に突きつけられ、既にチェスで言う『チェック』の状況。今の想也には覆すどころか、何をすることも不可能で、最早勝負は決していた。

 想也が仕掛けて、レミリアがそれを弾き、グングニルを突きつける。僅か数秒にも満たないーーそれこそ一瞬の出来事だった。

 

「全力で潰すんじゃなかったのかい? 想也」

 

 グングニルを想也の首筋にほんの少しだけ押し付け、レミリアはいつもの子供らしい声なんかじゃなく、覇気のある声色で、想也を威圧する。

 

「……あー、はい。そーっすね」

 

 余裕を装って軽く返答するが、しかしこの状況だ。

 前述した通り、今の想也にはこの状況を打開することは不可能である。一応、右手に剣を持ってはいるけれど……想也が少しでも抵抗しようとすれば、首筋のグングニルが突き刺さるーーことはないにしても、意識を狩り取られるだろう。

 

「これが想也の全力なのか? だとしたら相当弱くなったものだな」

 

「……まぁ、一応『今の』全力は出しているつもりですけど」

 

 『今の』全力。

 レミリアにはただの言い訳に聞こえたけれど、実際のところ、これほどまでに想也が敗北した理由の一因を簡潔に表した言葉は恐らくない。

 

 だって、今の想也は『ただの人間』なのだから。

 

 

 

 想也は確かに努力をしてきた。能力を使わずとも、普通の人間に比べれば圧倒的な実力を持っている……けれども。あくまでも彼は人間で、人間の身体能力には、やはり限界というものが存在するのだった。

 

 博麗 霊夢や霧雨 魔理沙、十六夜 咲夜は人間だけれど、彼女らはそれぞれ『博麗の巫女』だったり、努力して『魔法使い』になっていたり、生まれつき時間を操作する『力』を持っていたりと、ただの人間とは違うところがある。

 しかし。

 想也は元々、現代を生きた一般人だ。若干『異常』であったとはいえーーしがない元学生の本来のスペックは、人間の域を出ない。出るはずがない。出ることが出来ない。

 

 だからこその能力。

 人間の限界を知った……否、知ってしまった想也は、戦闘時にのみ、能力を行使することで妖怪の身体能力を会得し戦っていた。こうでもしないと、強大過ぎる相手には勝利できないから。

 逆に言えば、能力を使っていない想也は妖怪達からすれば貧弱なことこの上ない。

 

 

 ……つまり結局、何が言いたいのか、というと。

 

 『今の想也は能力を使うことが出来ない』

 

 ……ということだ。

 原因は不明。つい先程まで使用できたはずなのに、一瞬の内に能力は発動しなくなってしまった。想也はそれに混乱し、それにより生じた隙を突かれ敗北した。……まぁ、能力を使えないのだから、どの道早いか遅いかの違いだっただろうけれど。

 

 ……結局、最初から想也は。

 レミリアをーー『運命』を止めることは出来なかったのだ。

 

「……そう。じゃあ、貴方を暫く動けない程度に痛めつけるけれど、いいわよね」

 

「……嫌と言ったら?」

 

「拒否権はないわ」

 

「……お好きにどーぞ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 彼が目を覚ましたのは、案の定というかなんというか、紅魔館の自室ーーのベッドだった。目を開き、部屋を見渡した彼の視界の端に移ったのは、心配そうな顔をしているフランドール。

 

「……おはよー、フラン」

 

 ぎこちなく苦笑しながら、挨拶してみせる。

 

「うん、おはよう。……大丈夫?」

 

 不安そうに問うフランドール。そんなフランドールに「大丈夫大丈夫」と返し、上半身を起こして指を鳴らす。

 

「能力を使えば元通りだよ。心配いらない」

 

 瞬間。彼の傷はみるみると回復していき、数秒で最初からなかっちかのようになくなってしまった。先程とは違い、能力を完璧に使いこなしているーーように見える。

 

「……さて。これからどーしようかな。とりあえず此処には居られないし、出ていくっていうのは確定かねぇ」

 

 レミリアの月侵略計画を邪魔すると正面から宣言した以上、敵地とも言えるこの紅魔館に居座る理由もはなく、況してや利点もない。彼が(少なくとも)一時的に此処を離れなければならないのは確定事項である。

 

「……お姉さまから事情は聞いたよ。お姉さまが月に行くのを止めようとして、負けちゃったんでしょ?」

 

「まぁね。概ねその通りかな」

 

 あまり悔しそうな素振りを見せないことに、フランドールは少し疑問を持ち、追求することにした。

 

「……悔しくないの? お姉さまを止めたかったのに、そのタイミングを逃すどころか、無様に負けちゃったって聞いたよ?」

 

 落ち込んでるなら無理しなくてもいいよ、とフランドール。しかし、その質問に対し、彼は苦笑しながらそうでもないよ、と軽く答える。というのも、彼は確かに負けたけれど、しかし、レミリアを止める手段が他にない訳ではないのだ。

 

「まだ止めるチャンスはあるし、最悪レミリアさんが月に行ったとしても、そこでどうにかすればいいからね。一度の失敗くらいならまだ取り返しがつくよ」

 

「……そっか」

 

 確かにそうだよね、とフランドールは納得した。

 

 少しだけ間をおいた後、さて、と何かに区切りをつけ、彼はベッドの上で立ち上がる。そのまま窓を開いて、フランドールに振り返った。

 

「んじゃ。暫くは帰って来ないけれど、必ず僕は帰って来るから、気長に待ってなよ」

 

「……うん。行ってらっしゃい」

 

 フランドールの返事を聞くと、彼はとんっ、とジャンプして、そのまま紅魔館の庭に着地。咲夜や美鈴に見つからないよう、慎重かつ大胆な軌道を取りながら、紅魔館の敷地を出て行った。

 

 

 

 数十秒後、部屋にレミリアが入ってきた。

 

「……想也は?」

 

「どこか行ったよ」

 

 はぁ!? と、驚きを隠さずにいられないレミリア。それもそのはず、レミリアは、元々見張り役としてフランドールをこの部屋に居させたのだ。……本人が想也を見ていたいと申し出たから、という理由もあるけれど。

 

「ちょっ、フラン!? 逃げないよう見張っていてって言ったじゃないっ!」

 

「逃げないよう見張ってたよ。見張ってたよ」

 

「……あぁ、私の言い方が悪かったわ。うん。フラン、お仕事お疲れ様……」

 

 レミリアはフランドールを労うと、はぁ……と溜息を吐きながら部屋を出ていく。部屋には一人、フランドールが残された。

 

 

 

 

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