東方事反録   作:静乱

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第九幕 依姫VS魔理沙

「先手はもらうぜ」

 

「どうぞ」

 

 次鋒、霧雨 魔理沙。

 先手をもらった魔理沙は箒に跨がり飛翔すると、白いエプロン(仮)のポケットから一枚のスペルカードを取り出し、発動させる。

 

「『スターダストレヴァリエ』」

 

 宣言と同時、魔理沙の周囲に星形の弾幕が発生し、依姫めがけ飛んでいく。パワーに関しては魔理沙の代名詞ーー『マスタースパーク』に劣るけれど、複雑さで言えば、『スターダストレヴァリエ』は『マスタースパーク』を遥かに凌駕している。

 普通の相手に放てば、充分決め手になりうるスペルだが……。

 

「……止まった」

 

 依姫には通用しない。

 依姫に直撃する寸前で、『スターダストレヴァリエ』は完全に停止した。それまでのスピードや、動きが、まるでなかったかの如く。完全に停止してしまっている。

 

「貴女の『星』は瞬いていない」

 

 呆然としている魔理沙に向かって、依姫が言う。

 

「瞬かない星の光の軌道は完全な直線。等速度の攻撃は加速度系において止まっているに等しいのです。止まっているのであれば、弾幕は弾幕としての意味を成さない」

 

 月の都では大気が薄い。

 当然だ。そもそも、月には本来、大気などなかったのだから。人間ーー今の月人が人工的に作り出さなければ、今も月は、人が住める環境ではなかっただろう。

 

 閑話休題。

 

 星が瞬いて見えるのは大気の揺らぎである。地球を大気が覆っているからこそ、我ら人間は生きることができ、瞬く星を観測することができる。

 ……しかし、仮に大気が薄かったら。

 その場合、星は殆ど瞬かない。大気が薄いということは、必然的に大気が揺らぐことも少なくなるのだから。

 

 依姫の言う通り、瞬かない星の光の軌道は完全な直線だ。

『直線に降り注ぐ星の光』

 それは速度が一定な運動ーー所謂、等速度運動。

 等速度の攻撃は、言い方を変えれば『加速しない運動』である。つまり、月の都で見える星は加速しない……止まっているのだ。

 『スターダストレヴァリエ』ーーそのまま翻訳すれば『星屑幻想』。この弾幕は『星』だ。月の戦闘では『星』は使い物にならない……悪く言えば役立たずである。

 

「……意味は判らないが、確かにお前の周りでは、私の弾幕は止まっているな」

 

 けど。

 魔理沙は、ここで区切りをつけた。

 

「『星』が通じないなら。私は『星』以外を放つだけだぜ。『イベントホライズン』」

 

 『イベントホライズン』

 『スターダストレヴァリエ』の強化版といえるスペル。

 弾幕の形は、『スターダストレヴァリエ』と変わりない星形だ。先程同様、止まると思われたがーーしかし、『イベントホライズン』が止まることはなく、依姫は冷静に刀で弾く。

 一応、『スターダストレヴァリエ』の強化版だから、密度も速度も上がっているのだけど……それものともせず、一歩も動かずに『イベントホライズン』を弾き続ける。あっという間にスペルブレイク、『イベントホライズン』は終了した。

 

「……うーん」

 

 分かりきっていたことではあるが。

 ここで魔理沙は、改めて思う。

 

(……ぶっちゃけ、勝算がない)

 

 いつも勝ち気な魔理沙も、今回ばかり弱音を吐いたーーそもそも、魔理沙は戦闘開始前から依姫との実力差は理解している。他に良い作戦もなかったし、とりあえず『真っ黒くん』の作戦に乗ったが……仮に霊夢が戦うまでにある程度消費させられたとしても、依姫には勝てないと思っている。

 レベルが違い過ぎるし、経験の差もありすぎる。

 

「貴女の見る星空は、こうも寂しいものですか?」

 

「……はっ。これで寂しいとか言えるお前が異常だぜ」

 

 気付くと目の前に居た依姫に驚きながら、魔理沙は悪態を吐く。

 それを聞いた依姫はふぅ、と一息つくと、刀を振り上げた。

 

「『天津甕星』よ。大気に遮られない本来の星の輝きを、この者たちに見せつけよ」

 

 響く言霊。

 輝き始める刀の切っ先。

 収まらない輝きは、魔理沙の視界を奪い、とうとう魔理沙には、白い光しか見えなくなる……。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

『マスタースパーク』

 魔理沙の代名詞にして、切り札のスペル。

 極太のレーザーが直線上の相手を粉砕するソレは、比較的見切られやすい軌道でありながら、どんな相手に対しても大抵は勝負を決める一手となっている。

 今回ーー現在進行形の対依姫戦においてもそれは変わらない。幾ら月人最強とも言える依姫といえど、『マスタースパーク』を食らえば大ダメージは必死である。

 

 だからこそ魔理沙は、『マスタースパーク』を温存した戦いを組み立てていた。

 確かに『マスタースパーク』は単調だ。弾速こそ速いものの、直線にしか飛ばない為に、多用すればどれだけ大きな隙を狙っても、相当な確率で避けられる。

 ……けれど、この依姫戦では『マスタースパーク』を見せていないどころか、依姫と戦うことさえも初めてだ。初見であれば、インパクトの大きい『マスタースパーク』は被弾しやすい類いに入る。だからこその温存戦。戦いを有利に運ぶ為の策。

 

 ーー加えて、情報においても魔理沙は有利に立っている。

 先程咲夜が戦ってくれたお陰で、依姫の能力はある程度把握している。……勿論、沢山の神を降ろすことができる訳だから、完璧な対策を講じることは出来ていないが、それでも、能力や戦い方を知っている、というだけでかなりのアドバンテージがあるのだ。

 ……だから、この戦い。

 有利不利だけを見れば、圧倒的に魔理沙が有利なのだが。

 

 

 

 ……依姫はそこまで簡単な相手ではない。

 先程放たれた『天津甕星』の力で、魔理沙は勢いよく後方ーー幻想チームが見学している辺りまで吹き飛ばされた。激しく尻餅を打つ。

 

「いつっ! ……くっそ」

 

 舌打ちをしながら魔理沙は立ち上がる。

 立ち上がり、少し考えた後、

 

「えぇい、もういいっ!!」

 

 と叫ぶと、懐に手を入れ、マジックアイテム『ミニ八卦炉』を取り出し、ガシッ、と強く握り締めた後、依姫へと向けた。

 

「出し惜しみしても意味がない。小細工抜きで撃ってやるぜ!」

 

 ある程度撃つタイミングを計っていた魔理沙だが、このままではいつまでたってもそのタイミングは来ない。なら今撃つ。そう判断した魔理沙は、空気を変えるのも兼ね、『マスタースパーク』発射の準備にかかる。

 掲げたミニ八卦炉に光が集まっていく。

 莫大なエネルギーが、小さなミニ八卦炉の中で渦巻く。

 やがてソレは一つの『レーザー』となり、放たれる。

 

「光の速さより速いものはこの世に存在しない」

 

 少なくとも現在は、であるけれど。

 光は『物質を光より加速させられないから』一番速いのだから、元々光より速いものーー仮名として『タキオン』と名付けられているーーが発見されれば、今までの常識も魔理沙の発言も覆る。

 ……まぁ、今はまだ発見されていないのだから、こんな話をしても仕方がないのだが。

 兎に角、現在、この世で一番速いのは『光』だ。

 魔理沙の発言は間違っていない。だら、依姫はミニ八卦炉から目を離さず、勿論、他の攻撃にも対応出来るように構える。

 

「幾らお前とて、光を捉えることは難しいだろ?」

 

「……どうかしらね」

 

 曖昧な回答で真実を濁す。

 その回答を聞くと、魔理沙はふっ、と笑い、高らかに宣言する。

 

「じゃ、いくぜ? ……『マスタースパーク』」

 

 きゅいん、なんて音と共に、ミニ八卦炉を中心として発生したのは、魔理沙が何日もかけて作成し、その後も幾度となく改良されてきた魔法陣ーー言わば、魔理沙の努力の結晶。

 それはレーザー……『マスタースパーク』なり、依姫に向かって飛んでいく。

 

「……………………」

 

 依姫は、動じなかった。

 

 

 

 

 

「……まぁ、概ね予想通り、ってとこか」

 

 『マスタースパーク』によって発生した砂塵が晴れ、魔理沙の視界に映ったのはーー残念ながら『マスタースパーク』によって倒れた依姫ではなく。

 刀を手に持ち、余裕そうに佇む依姫だった。

 

「水を斬るのと、光を斬るのと。どちらの方が容易いかと問われれば、私は『光を斬る方』と答えるわ」

 

 にこっ、と微笑み、依姫は言う。

 それに対し、うわー、なんか腹立つぜ……と思う魔理沙だったが、まぁいいか、とあっという間に割り切ると、手に持っていたミニ八卦炉を。

 

 ……二つに割った。

 

「あ、霧雨さんがミニ八卦炉壊した!」

 

「……黙ってみてろ」

 

 ここで魔理沙の見せ場を妨害するような行為を平気で行った『真っ黒くん』だったが、魔理沙は最低限の会話でそれをスルーした。

 スルースキルは大事である。酷く大事なことである。

 

「……いやぁ、『ミニ八卦炉・改』ーー早々にお披露目することになるとは。驚きだぜ」

 

 やり直し。

 にやり、と心底嬉しそうに笑い。魔理沙は両手を前方に突き出した。

 先程の構えにもう一方の腕が加わっただけ……のように見えるけれど、先程は発射口が一つだったのに対し、今回は二つ。同じようで全く違う構えを前に、一度『マスタースパーク』を見た依姫も警戒せざるを得ない。

 

「じゃ、いくぜ。奥の手の、更に奥の手。『ダブルスパーク』ッッ!!」

 

 放たれたのは、先程撃った『マスタースパーク』……×2。火力調整は全くされておらず、純粋に威力が二倍になっているものの、反動も二倍。魔理沙は勢いよく後方に吹き飛ばされる。

 ……つまり、この一撃にかけているのだろう。

 

「覚悟しやがれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 吹き飛ばされながら魔理沙は叫ぶ。

 その叫びを微かに聞きながら、依姫は迫る『ダブルスパーク』を見据え、刀を強く握り締め、今までと同様、『神降ろし』を開始する。

 

「『石凝姥命』よ。三種の神器の一つ、八咫鏡の霊威を今再び見せよ!」

 

 ーー現れるは、美しき女神。

 名前の意味的には老人であるとされているが、そんなものを感じさせない程に、神々しく、美しき神である。

 その手に携えているのは『八咫鏡』。有名な『岩戸隠れ』の際に造られた物だ。全てを跳ね返すことが出来ると言われる、三種の神器である。

 

 ……と、いうか、跳ね返した。

 片方の『マスタースパーク』は依姫が斬り、もう一方は『八咫鏡』で反射された。

 

「……ちょっ、うわぁぁぁ!?」

 

 反射した『マスタースパーク』は、魔理沙に直撃した。

 

 

 

 そんな感じで、依姫VS魔理沙。ウィナー、依姫。

 

「ありゃー。随分と呆気ない終わりだね霧雨さん。ドンマイ!」

 

 ぷしゅー、と煙を吐きながら倒れている魔理沙を見ながら『真っ黒くん』は言った。

 全く慰めているように感じられない声である。

 

「じゃ、次はレミリアさんね。がんば!」

 

 そして、心配もしていないようだった。

 

 

 

 

 

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