STAGE-1 宣告
「今度あんたの裏が出てきて、幻想郷に害を及ぼしたならその瞬間、私たちはあんたごと裏を消すわ。……理解しておいて」
目が覚めた途端、博麗さんは、僕にそう言った。
寝起きは意識がはっきりしていないことが殆どの僕なのだが、何故だかこの時は妙に意識がしゃきっとしていてーー博麗さんの、一見意味不明な言葉も、即座に理解することができていて。
そして、受け入れることも、できていた。
「はい、分かりました」
その返答に、博麗さんは少し驚いていた。
僕が混乱する可能性が高いとでも考えていたのだろうか。
だったら最初からしっかりと説明をすればいいのでは? と言いたくなるのだけれど……まぁ、そういうところが、彼女らしさなのだろう。
『博麗 霊夢らしさ』
「その時が来たら、どうぞ遠慮なく。僕ごと、あいつを消してください」
そして、きっと。
こうやって僕が、すぐに消えることを受け入れられたのも。
それは、僕らしさなのだろう。
それは、黒橋 想也らしさ、なのだろう。
もうすぐ僕は消える。
早めに皆とさようならをしておいた方がいいのかな。
◆◆◆
長い間、眠っていたようである。
具体的には月面戦争が終息してから約半年ーー異変的なものが二つほど発生、解決するくらい眠っていたようだ。どう考えたって睡眠時間が多すぎるのだけれど、身体への異常は全くと言っていいほど無いようなので、この際無駄に長い睡眠時間の件は、長期休暇が貰えたから冬眠してた、ということにしてしまうとしよう。
……それは別に重要事項でも何でもなくて。
僕が今整理すべきことは、僕の住むところが変わった、ということ。
そのままの意味だ。僕の住む場所は紅魔館から博麗神社に変わった。理由は簡単であるーー僕の監視のため。
今の僕は、いつどこで『ボク』に乗っ取られても可笑しくない壊れかけの人形。それはイコールで、いつ幻想郷に害を及ぼすか分からない、ということになる。
そんな奴をそこら辺に放っておく訳にはいかない……当然の如くそう考えた紫、藍さん、博麗さんは、考えた末に、僕を博麗さんに監視させることにしたそうだ。確かに博麗さんの実力なら、いつ僕が『ボク』に乗っ取られたとしても、上手く対応することができるだろう。まさに適任、というやつだ。
一瞬「手っ取り早いのは僕を幻想郷の外へと追い出すことなのでは」と考えたが、よく考えてみればあいつは能力が使える。【自分が幻想郷に居ない事実】を反対にしてしまえば、あいつは戻ってきてしまう。やはり完全に消し去る以外、あいつから幻想郷を守る方法はないのだろう。
『貴方が生き残る方法を考えてみるわ。安心して待ってなさい』
紫が言ってくれたけれど、そんなもの、ないと思う。
僕と『ボク』は表と裏。全く同じようで全く違うし、全く違うようで全く同じ。僕が消えれば『ボク』も消えて、『ボク』が消えれば僕も消える。つまりは一心同体ーーどう足掻こうとも、片方だけを消すことは不可能なのだ。
僕は、絶対に消えるのだ。
「……ふふ」
なるほど、これが侵食の影響なのかな?
今までは吐き気を催すくらいあいつを嫌悪して、あいつが僕の裏だなんて認めようともしていなかったのに、今はもう、平気であいつのことを僕の裏とか言っている。
愉快愉快。
「……と。どーでもいいか」
どうせ消えるのだから。
色々考えても意味はない。時間の無駄である。
さっさと起きて、顔を洗ってシャキッとして、博麗さん手作りの朝食でも食べて、恋愛フラグを建築したりとか、馬鹿なことをするとしよう。ちょっとくらいふざけたって、許してもらえるだろうし。
「おはよーございまぁす」
そんな訳で、居間に繋がる襖を全力で開けた。
バスーン、と今まで聴いたこともないような擬音が響きながらも、僕は博麗神社エリア居間への進出を果たす。博麗さんも僕の居間進出を喜んでくれたのか、ズコーッと、これまたアニメのような転び方を実行してくださった。中々ノリが素晴らしい。これなら芸人としてもやっていけそうだ。
「やぁやぁ博麗さん! やはり貴女、僕の眼鏡にかなうお方のようですね!」
「どうしてあんたに目利きされなくちゃならないってのよっ!」
どうやらツッコミも一級品のご様子。
これはもう、本格的に芸能界にご招待しなければならないかもしれない。ツンデレ脇巫女美少女芸人、その名も博麗 霊夢。これは売れる! 芸人だけじゃなくて、あっち方面のお仕事でも充分に活躍できそうだ!
「……どうやら体調はバッチリのようね」
「はい!」
身体の重みが取れた感じがする。
疲労が溜まっていて、たくさん眠ったことによってその疲労が取れたとか、そういう訳ではないと思うのだけど、兎に角、身体が軽いのだ。それこそ、身体がないのではないか、と錯覚を起こす程に。今なら遥か空の彼方へと飛んで行けそうである。……いやまぁ、普通に飛べるけれど。
「ま、それならいいわ。朝食はあるから、ちゃちゃっと食べなさい」
「あ、はい」
促されたので机を見てみると、確かにそこには、どうやら出来立てらしい朝食が二人分置かれていた。献立はお米にお魚、味噌汁とかなりオーソドッグスなものだが、どうやら一つ一つの素材はかなり良いものが揃っている様子。流石自然がいっぱいの幻想郷である、料理が輝いて見える! まるで宝石ッ……!
短く纏める。超美味しそう。
「この世の食ざ以下略。いただきますっ!」
手を合わせ、高々と宣言。随分と久しぶりのような気がする朝食を一口一口味わいながら、僕は箸を進めるのだった。
そんな感じで朝食を食べ終わり、さぁ何をしよっかなー、と考え始めたら、博麗さんが微笑しつつ、こちらを見つめ始めた。一応博麗さんは超絶美少女なので、そんな風にされたら嫌でもドキッとしそうになるのだけど、博麗さんがこういう笑い方をするタイミングは相当限られてしまっている。
限られてしまっている、というか、僕は博麗さんのこんな笑みを、それ以外のタイミングで見たことがない。
「じゃ、お宝探しに行くわよ。十五秒で準備してきなさいよね☆」
「拒否権は無いんですね分かります」
つまりこういうこと。
未だ僕は、博麗さんの純粋な笑みを見たことがない。
そして多分、これからもない。
◆◆◆
美味しい朝食の後に待っていたのはお宝探しの手伝いだった。
利益は十割博麗さんの物で、残った物が僕に入ってくるらしい。なんだかとんでもなく可笑しかった気がするのだけれど、そこはきっと、触れてはならないものなのだろう。指摘しようとしたら、博麗さんの綺麗なお顔が鬼神と化したから。
さて、お宝探し、ということだが。
どうやら最近、幻想郷上空にて謎の巨大船の目撃情報が相次いでいるらしい。そんな噂を小耳に挟んだ博麗さんは、その船から強烈なお宝の匂いを感じ取り、ちょっと探しに行ってみようかなー、と思っていたのだとか。
そんなところへ、ちょうど僕が起床。
「こき使ってやろうと思ったの☆」
「ざけんな脇巫女」
僕を秘密道具か何かと思っているのか。
……能力が能力であるため、あながち秘密道具という表現も間違っていない、というところが少々悔しいというか、僕の苛立ちを更に加速させる。
というかそもそも、なぜ僕と博麗さんは普通に話しているのだ?
博麗さんは今度『ボク』が出てきたら僕ごと『ボク』を消す、と僕に言っている。もっとこう、ちょっとした、気まずい感じの空気になって然るべきなのではないだろうか?
それとも、ただ単純に僕が考えすぎているだけなのだろうか?
『黒橋 想也の人間関係 博麗 霊夢との関係』発売決定なのだろうか?
……答えは不明。
全く分からない。
だから、考えるのを止めよう。
「……で? 僕はどーすりゃいいんすか?」
「船が今どこを飛んでいるのかを教えてほしいの。それさえ分かれば、船のお宝はこの私のもんよ!」
「……へい」
断ったらきっと殴られる。
拒否することなんてできるはずがなく、僕は能力を発動させた。
【例の船の位置が分からない事実】を反対に。
「診断結果をインストール中です……。……完了。あちらです」
機械の真似。棒読みで言ってみた。
僕の脳天に握り拳が落ちた。
「ふざけてんの?」
「ふざけてないっすよ! 機械の真似してるだけです!」
「しなくていいわ」
そう言って、再び博麗さんは僕の頭を叩く。
んな理不尽な! と反論したくなるのだが、声が喉の辺りまで上がってきていたところで博麗さんの鬼の形相を視認。無理矢理に吸い込んで、発言するのをやめる。
……ともかく、僕の役目はこれで終わりだ。
帰ろう。博麗神社でゆっくりしよう。
「何言ってるの? あんたの監視が私の役目なんだから、あんたは私に着いてこなくちゃ」
「その理屈は可笑しいぜ鬼巫女」
反論する気も起きないくらいの超絶理論。
実際には少しツッコンでいるが、それ以上、ツッコミを放つ気にはなれなかったし、説得もする気が起きない。こういう時の博麗さんは多分というか九分九厘、九分九厘というか絶対、説得することが不可能だということは、少し前に知っていたから尚更である。
故に、すぐ諦める感じで。
僕は博麗さんと共に、お宝とやらを探しに行くのでした。まる。
今回のよーやく。
僕、起きる。
博麗さんに頭を叩かれる。
お宝探しへれっつごー。