その後。
霧雨さん、東風谷さんらと遭遇。行動を共にすることとなった。
「いやー、久しいな、想也。半年くらいか?」
「えぇと......そうですね。おおよそそのくらいかと」
『ボク』とは会っていただろうけれど、僕とは会っていないはず。
つまり、正真正銘、僕と霧雨さんは半年ぶりの再開と言うわけだ。
「そして東風谷さんはもっと会っていなかったですよね」
「そうですね生ゴミ」
凄まじくナチュラルな罵倒である。
彼女の麗しき笑顔から放たれたソレは、心が痛むどころか逆に気持ちよくなってしまう程に、東風谷さんの罵倒はナチュラルかつ、スタイリッシュであった。ブラボー、まさにブラボー。こんな罵倒ならもっと言ってくださっても構わない、寧ろもっと言ってほしいくらいだ。
......おおっと。心を読んでいるかもしれない誰かに言っておくが、僕は決して、東風谷さんのスタイリッシュ罵倒で気持ちよくなるマゾヒストではない――先程のはただの例、ちょっとした例えなのだ。僕はマゾヒストではなく、サディストでもない『ロリコン』であることを、しっかりと理解しておいていただきたい。
「ちっ」
「ねぇ今なんで舌打ちしたの!? ねぇ、なんで!?」
「いえ......そんな周知の事実を今言ったところで全く意味はないでしょう?」
「保険かけといてよかった!」
幻想郷の住民は心を読める、これ常識。
普通の人間ならそんなこと耐えられないのだろうが、僕は既に普通の人間ではない――さとりさんと数百年ほど漫才を繰り広げた僕の心読まれ耐性を舐めてもらっては困る。心を読まれた時のための保険かけ、その後に間髪入れずに放つツッコミ技術等々......磨きに磨いた僕のそれは、常人の遥か上を行くのだ。
「そんな技術、必要性は皆無のように思えるのですけれど」
「知ってる? そのツッコミはね、しちゃいけないものなの」
いや、勿論、そんな決まりはないのだけど。
まぁ、そんな久しぶりに再開したお二人との会話はさておき。
ワンパターンになってきた区切りにうんざりしながらも、僕らはつい先程に頭上を通り越していった例の巨大船の追跡を開始したのでした、まる。
正直、まさか本当に存在しているとは思っていなかった。
「さっすが! 想也は能力だけは優秀ね!」
「だな」
「ですね」
「揃いも揃ってひでぇよあんたら」
今に始まったことではないのだが。
因みにツッコミは無視された。悲しくなんてない。
嘘を交えた地の文を展開し、少量の涙をなんとか堪えながら、僕は前方を物凄い勢いで飛んでいく博霧東、もとい信号機さんたちをどうにか追いかける。どうやら彼女ら、船の中にあるであろうお宝に目が眩み潜在能力が覚醒、一時的に飛行スピードが格段に上がっているようだ――いつもは裏表のない表情の博麗さんも、格好いい霧雨さんも、ツンツンしてる東風谷さんも、全員が全員、眼を少女漫画の如く煌めかせ、まだ見ぬ財宝を想像し頬を緩ませている。
......『頬を緩ませている』と言っても、それは可愛らしい笑顔にはなっていない。
全員、物欲にまみれたゲスい笑顔だ。
「あんたら! お宝は全部、私の物だかんね!」
「何を言う霊夢! 宝は私のもんだぜ?」
「お二人とも何を言ってらっしゃいますか。お宝は諏訪子様神奈子様、そして私の物ですよ?」
醜い争いである。
「そーだなぁ、僕は」
混ざろうとしてみた。
『無し!』
混ぜてすらくれなかった。
「僕が居なかったら船見つけられなかったくせに!」
......なぁーんて。
僕が居ようが居まいが、本当は変わらなかったのだろうけれど。
同じだ。遅いか早いかの違いだけで、僕が
居れば楽になる、言わば、課金アイテムのような存在。それが、僕な訳で。
即ち、僕の価値というものは、その程度のものに過ぎないのだ。
(............)
ただでさえ、その程度なのに。
現在はそれに加わって、『ボク』、なんて要らないオプションが付属してしまってる。
僕の価値大暴落! ってところか。
「ハハ......マジで存在価値ねーじゃん、僕」
前を進む三人には聞こえないよう。
小さく、か細く。僕は呟いた。
呟いた、ということは、慰めてもらいたかったのかもしれない。
「君の存在価値はあるよ」なんて、優しいことを、言ってもらいたかったのかもしれない――かもしれない、というだけで、本当に言ってもらいたかったのか、という真実は、他人は愚か僕にも分からないのだけれど。
◆◆◆
「これ、何?」
「未確認飛行物体――所謂『UFO』ですね」
「へぇ。その割には、こうやって私たちに確認されちゃってるけどな」
ツンツン、ツンツン。
妖精を蹴散らしたら突如として出現した未確認飛行物体、略してUFOは、信号機こと博麗さん霧雨さん東風谷さんの興味を引くには十分過ぎる物であった。三人は当初の目的であった巨大船の追跡を一瞬で忘れ去り、今は捕まえたUFOをひたすらつつきまくっている。見事に目的が脱線してしまった。......もしやこれ、あの巨大船が放った足止め用のトラップなのだろうか? だとしたら、あの船にかなりの策士が乗っている、ということになる――偶然という線も十分に有り得るけれど。
......諸葛孔明でも、乗っていたりして。
常識に囚われない幻想郷だし、有り得なくはないかもしれない。
「色も三種類あるし、面白いわね」
「ですね。......私、緑集めます」
「そ。じゃ、私は赤集めるわ」
「じゃあ私は青か? ちっ、黄色がありゃよかったんだがな」
「どれも集められない僕の気持ちを考えてください」
集めたい訳ではない――仲間外れにされるのが嫌なだけだ。
「......あ、船、見失ったわね」
『あっ』
「気付くのが遅いよね」
ツッコんだら、ギロリ、と睨まれた。あまりの恐怖に肩を震わせる。
女の子に睨まれて怖がる男、僕。自分で言っておいて、なんだか悲しくなった。
「ま、想也居るから問題ないわね」
「僕の扱いはイコールで秘密道具なんだね」
もう、慣れた。
探知により判明した情報を博麗さんに告げる――。
「あ、ナズさんだ」
「ん? ......あぁ、君か」
『............え?』
久しぶりに見た凛々しいお顔、あんど、大きなネズ耳。
ネズ耳の方は現代でも何度か見たことがある気がするが、それ以上は考えてはいけない、という神のお告げが僕を止めようとしてくるので、僕は反抗しようとしたけれど全く意味はなく、それ以上現代で見たネズ耳のことは考えなくなったのでした。めでたしめでたし。
尚、大半の『めでたしめでたし』はあまりめでたくない。常識だぜ。
「......お、おやおやぁ? 僕は幻覚をみているのかな?」
まずは自分を疑うことから始めた。
僕は『ボク』に侵食されているのだから、信じられないような出来事はまずあいつが見せる幻覚であると判断してもいいと思う――ぬか喜びをして、それが真実でなかった時の絶望は計り知れない。これからは、嬉しいことが起きた際にはまず幻覚か何かであることを疑おうそうしよう。
心に強く刻んだところで、僕は一度目を擦る。ナズさんは消えない。
目を瞑り、五つ数えてから開く。ナズさんは消えない。
頬を思い切りつねり、東風谷さんに全力で殴ってもらう。痛い。ナズさんは消えない。
念のため、能力で【僕に幻覚がかかっている事実】を反対に。......ナズさんは、消えない。
何をしても、ナズさんは消えなかった。
即ち、本物。
「な、ナズさんだ! ナズさん、生きてたんだ!」
「勝手に私を殺さないでもらえるかい!?」
このキレのあるツッコミ。やはり本物のナズさんだ。
THE・ツッコミ役。ナズーリンさんが帰ってきたんだ!
「......えぇと、鼠?」
と、ここでおいてけぼりを食らっていた信号機組が我に帰り、その中を代表して東風谷さんが呟いた。
そんな呟きをこの僕は見逃さない、聞き逃さない。瞬時に反応する。
「そう、彼女は小さな賢将、ナズーリンさん! 彼女はその手に持つダウザーで物を探すことが出来るのだ! 因みに決め台詞は『鼠を舐めてると死ぬよ?』――現代人の東風谷さんならば、その言葉の本当の意味が分かるでしょう?」
「......悔しいですけど分かってしまいました」
心底悔しそうに拳を握りしめる東風谷さん。
どうしてこんなことで悔しがるのか僕には分からないけれど、なんとなく、東風谷さんは「負けた......」という感じの空気になっている。では、この勝負(?)は僕の勝利、ということになるのだろうか。だとしたら、何気に初勝利ということになる気がする。
初勝利であると分かった瞬間、嬉しいっ! という風に僕の気分が良くなり、「勝ったぞぉぉ!」と叫びだしたくなるが、しかしそんなことをすれば、東風谷さんの怒りを買うことになるのは必至であろう。たまには自分を抑えなければならない時もあるのだ――父さんから言われたような言われてないような、とんでもなくどうでもいい言葉をふと思い出しつつ、溢れそうになる喜びを、どうにか心の中に抑え込もうとする。
「......ふひっ」
結論から言うと無理だった。
自分を抑えるのが相当下手くそな僕が、溢れそうになるほどの喜びを自分の心の中にだけ留めることなど出来るはずもなく、抑えきれなかった喜びはちょっとしたどや顔となって外に出てきてしまう。勿論、そんなちょっとしたことだって、東風谷さんの怒りを買うには十分なくらいの価値はある訳で――出来ればあってほしくなかったけれど、現実はそこまで甘いものではないのだ。
「調子に乗らないでくださいね屑鉄」
「ドS東風谷さんって新しくね?」
めき。
骨が何本か逝ったな、コレ。
そんなどーでもいい話はここまでにしておいて。
ナズさんは、今何をしているの? と聞いてみた。
「......聖の封印を解く、と言ったら、君はどうするんだい?」
「そりゃあ、協力せざるを得ないね」
即答だった。