DIOの娘がSCに混ざってお父様に会いに行く話 作:チョモランマ
1987年 春
関東地方で一足早く3月のうちに咲いた桜は、どうにか4月の第一週目を持ちこたえ、多くの小中高校の入学式を彩った。この私、ドリスにとってもそうである。
本日は、特に記念すべきでもない高校の入学式の日だった。
家から距離が近いというだけの理由で選んだ、この地域ではそれなりに程度の低い公立高校。入学を記念するどころか「あーあ」とでも嘆息したくなるようなものだが、桜並木を花びらが舞う中新たな学び舎に向かうのだと思えばいささか風情も感じられる。(このドリス、5歳まではアメリカに暮らしていたものだが、流石にその後12年も日本に居ればこのような風流も解そうというものだ)
いずれにせよ気温も丁度良く、なかなかに晴れやかな日である。
試験を受けるために一度だけ通った高校への道を、私は一人歩いていた。
「おい」
少し強めの風が吹いて、また桜が舞い、髪が乱れた。
手鏡を取り出して整える。風で舞ったものが付いたのか、母譲りとされている私の黒髪に薄桃色の花びらがついていた。これもまた風流というものか。
手鏡を懐にしまい、また歩き出す。
「コラ」
と、その矢先。並木道の脇に立っていた大男が腕を伸ばしてきて私の頭をわしづかみにした。
今整えたばかりの髪を乱され、私は気分を害した。
「何をする」
「何はこっちのセリフだ」
180cmを超す上背に筋肉質な肉体を備えているその男は、それだけ見ると到底ミドルティーンには見えないが、一応私と同い年の、今年度から高校一年生になる男である。彼は私を学校までエスコートするという使命を与えられている。
男は私の怒りを意に介さず、背をかがめて正面から私を睨み付けてきた。
「てめーわざとゆっくり歩いてんのか」
「別に?」
「ならとっとと歩け」
「いやだ」
「………」
このやりとりは二度目だった。
彼は歩く速さの違いを不満に思っているらしかった。大男の彼に対して、私は非常に遺憾な事に日本人の平均を下回る程度の身長しかないのだから、速度が変わってくるのは当然なのだが。
「いい加減にしやがれ…入学式についてくるってのをやめさせるだけでも相当手こずったんだ。これでお前と別行動だったってバレでもすりゃお袋がなんて言うか判ったもんじゃねー」
彼は私のすぐ隣の家の住人で、いわゆる幼馴染という関係にあたる。母親同士が特に仲が良く、気をきかせた彼の母が、私の初登校を補佐するようにと息子に命じたらしい。
その心遣いは私にとっては別にありがたくもなんともないんだがな。
だいたいエスコートと言っても、実際のところ彼は私のしばらく前を一人で歩いているだけだ。そんなことだから私がついてきていないのに気付かないのだが、どうしても私の隣を歩くわけにはいかないらしい。
「初日から女と二人っきりで登校なんてしてみろ。いい笑いもんだぜ」とのことである。いわゆる硬派というやつだ。実に下らぬ。
こいつも図体はそれなりにでかくなったものだが、なかなかどうして、まだまだ幼稚な部分がある。
「じゃあ私の後ろをついてくればいいんじゃないかな?」
「なおさら冗談じゃねーぞ」
彼は渋い顔をした。
…この大男が私の歩く速さに合わせ、つかず離れずを維持して背後からついてくる。確かにその絵面は少し危険だった。私もごめん被る。
「もう諦めたらどう?」
「ふざけてんのか」
「承太郎の口からは否定の言葉しか出てこないね。生きてて楽しい?」
「一事が万事みたいに言うんじゃねえ!」
近頃はアウトローぶって人を畏怖させるような言動を好むようになったが、根本的に律儀なところは変わりない奴である。
昔からこの男はからかい甲斐がある。
「ははは。最近私は承太郎が笑っているところを見た覚えがないな。しかめっ面ばかりしていると幸運も友達も女も逃げていくよ?」
「………チッ」
もう少し彼で暇つぶしができるかと思ったが 彼は私に口で勝つことを諦めたのか、あるいは軽口に飽きたのか「やれやれだぜ…」と言って学生帽を被りなおして歩き出してしまった。
まったく気の短いことである。
ふいに、彼が振り返る。
「おら、祥子(さちこ)。行くぞ」
また一陣の風が吹いて桜が舞う。
学ランのポケットに手を突っ込み、春風のなか振り返るその姿は、中々絵になっていた。
見てくれのみに限って言えば、お父様ほどではないが、まあそれなりに良い男になったものである。
このドリスには二つの名がある。
お父様がくれたドリスという名と、母がくれた祥子という名だ。
このドリスには1年間だけお父様と過ごした記憶がある。私が生まれてからお父様が失踪するまでの1年間だ。
それは私にとって何よりも大事なもので、今なお忘れることのない輝かしい記憶である。
このドリスは超能力を持っている。
その副産物として、私は生まれたその瞬間から明確な意識を持ち、両親の会話をある程度理解できる知性を有していた。お父様のことを覚えていられるのもこのためである。
いずれ、私はお父様を探すために旅に出るつもりだ。この超能力を使えば、それはさほど無理なことではない筈だ。
本当は義務教育を終えてすぐに旅立ちたかったのだが、流石に15歳の身空で単身世界に出るとなると母が難色を示したので、もう3年間だけ日本で親孝行をする予定だ。
この祥子・ドリス・一条は、そんな高校一年生だ。