ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

104 / 245
いやぁ、やっぱり最初こいつにして良かったですね。
皆さんの食いつきが良かったです(笑)

こいつが一番インパクトあって最初にしやすかったというのが一番の理由です。

賢者に関しては唐突に組み込まれています。いつどこでどの賢者が登場するのか……楽しみにお待ちください。
そんなにがっつり扱うか扱わないかは、出会い方にも寄りますが。


純粋悪

 濃厚な血の匂いを身に纏う青年の登場に、警戒せざるを得ない状況となる。

 

 青年が徐に指を鳴らす。目の前に幾何学模様が描かれた――魔術の類いだ。発動の直前に大きく後方に跳んだのだが、雷のようなモノが放たれて広範囲に渡り破壊が巻き起こった。石畳の街路が粉砕され衝撃によってより飛ばされてしまうが、空中で身を捻って体勢を立て直し着地する。……いきなりなんなんだこいつは。

 

「へぇ? なかなかやるね」

 

 あっさり殺せると思っていたのか、青年は少し感心したように言った。

 

「……てめえ、いきなりなにしやがんだよ。出会ったら即殺し合いみたいな関係でもねぇだろうが」

「そうだね。でもオレはキミの幸福な『音』が聴きたいんだ」

 

 なんだよその『音』ってのは。クソ、訳がわからねぇ。行く先々でトラブルに巻き込まれるのはあいつらの領分だろうが。

 

「……チッ。俺はその家の商人に用があって来ただけだっての。お前が殺したんだろ?」

「ああ。偶々通りかかったんだが、どんな『音』を奏でてくれるのか気になってね。キミも聴いてみるかい?」

 

 俺は舌打ちして尋ねる。ヤツはあっさりと頷いて、再び指を鳴らす。すると突然小さな巻き貝が現れヤツの手の中に落ちた。

 

「耳を当てて聴いてご覧よ。いいアルモニーを保存できたと思うんだ」

「今さっき殺されかけて近づくヤツがあるかよ。聴かせたいんなら投げて寄越せ」

 

 会話は成立している。彼は肩を竦めると巻き貝をゆっくりと投げて寄越してきた。……なにかが入っているようなことはない、か。そういえばアウギュステで小耳に挟んだんだが、波のさざめきを巻き貝に録音できるとか聞いた気がするな。あれと同じようになんらかの方法で巻き貝に『音』を保存してるってことか。

 意識はヤツから外さず、耳に巻き貝を近づけて『音』を聴いてみる。ヤツがタイミングを見て指を鳴らし、「ルジストル」と呟くのが聞こえた。やはり攻撃か、と身構えるが違ったようだ。

 

 ――骨が折れるような鈍い音に、液体の滴る音。悲鳴と絶叫。液体混じりのモノが落ちるような音。

 

「…………趣味が悪ぃな。人を殺した時の音かよ」

 

 俺は顔を歪めて巻き貝をやや強めに放り投げて返却する。

 今の音を聞く限り、こいつは巻き貝に「人を殺した時に発生した音」を保存して収集していると思われる。クソ親父も大概狂ったヤバいヤツだと思うが、こいつもこいつで狂っていやがるな。

 

「どちらかと言うとナニカが壊れる音が好きなんだ。人間は特に、ね。これを聴くと、皆顔を青褪めて逃げ出そうとするんだけど。キミは違うんだ?」

 

 少しだけ嬉しそうに笑う。その逃げたヤツも追って殺したんだろうな、とは思うが。

 

「どうやらお前は野放しにしておくのはちょっとマズいヤツみたいだからなぁ。ここで始末しとくのも悪くない」

「ふっ、ハハハッ! いいじゃないか! なんとなく、キミは他の人とは違う……甘美な『音』が出ると思ったんだ!」

 

 俺が逃げずに戦うとわかってか、ヤツは嬉しそうに笑い出し両腕を大仰に広げる。……精々短い余生を楽しんどけ。そんなに壊れる音が聴きたいってんなら、存分に聴かせてやるよ。てめえの身体が壊れる音をなぁ。

 

「……ってなったら一つしかねぇか。――【レスラー】」

 

 俺は本気で、ヤツを殺しにかかる。

 格闘得意の『ジョブ』にして、最強の肉体を誇る『ジョブ』。身体能力が格段に上がるClassⅣ、EXⅡの中でも身体能力という点では他の追随を許さない無二の『ジョブ』。

 

 それが【レスラー】だ。

 

 この『ジョブ』を発動した瞬間全身に力が湧き上がってくるのを感じる。身体能力どころか実際に筋力が盛り上がり、体格が変わってしまったのではないかと錯覚するほどになる。

 服など不要。鋼のように鍛え上げた肉体さえあればいい。最低限のパンツと靴、そして黒いマントのみの恰好だ。頭には覆面を被っており、一度鏡で見てみたが顔の真ん中で、黒と白に色が分かれた覆面になっている。

 

 その覆面の奥で、俺は邪悪に笑った。

 

「俺は悪のレスラー。人体破壊を得意とするレスラーだ。存分に味わえよ外道」

 

 ザンクティンゼルで習得した時にグランと見比べて、姿形はほぼ同じだという結論に至ったのだが。ただ性格は珍しく反対になった。グランは正義のレスラーを自称し、俺は悪のレスラーを自称したためだ。その違いがなんなのかわからなかったが、どうやら『ジョブ』毎に持っている技、アビリティとは別にプロレスの技を使用するようになるのだ。ただ俺が【レスラー】になった場合は実際のプロレスには使えないような非道な技も使うようになるのだが。

 

「珍妙と呼ぶに相応しいな。まぁいい。オレに、キミの『音』を聴かせてくれ!!」

 

 珍妙なのは自覚している。だがまぁ『ジョブ』の恰好は変えられないので昔にいた英雄を恨む他ない。

 

 ヤツは指を鳴らして魔術を展開する。それに対して俺は、一直線に走り出した。【レスラー】の身体能力は随一だ。見たところ魔術を使うタイプなので、肉弾戦は緩いはず。しかもプロレスではリングというロープに囲まれたステージ上で戦うので、その中で如何に早く相手の懐に潜り込むかも重要である。

 

「っ!?」

 

 故に、【レスラー】の突進力は全ての『ジョブ』の中で最高最速。突き出された右手を掻い潜って懐に入った。ヤツが驚いているのが見える。

 

「ふんッ!」

 

 俺は青年の腰を掴み、力任せに上へ放り投げる。ちゃんと、頭が下になるように。

 

「うおぉ?」

 

 緊張感のない声が発せられた。これから起こることを知らないからだろう。俺は跳躍して逆さになった青年の腰を両手で掴む。そして、

 

「人間ダンク!」

 

 重力に任せて急降下しその勢いのままヤツの頭を地面に叩きつけた。昔ClassⅣのグランにボコボコにされた時があったが、その時の【ベルセルク】よりも数段筋力が高い【レスラー】がこれをやればどうなるかは明白だ。

 ごしゃりと嫌な音が聞こえ地面が陥没する。陥没した地面には血塗れて潰れたヤツの頭があった。

 

「……ふん。他愛ない」

 

 俺は吐き捨てて地面に青年を倒し放置すると踵を返した。

 こいつはどうやら快楽殺人鬼の類いなので始末しても問題はないと思われる。これまでも何人か殺していそうな口振りだったので、指名手配とかされているかもしれない。後でシェロカルテに聞いてみるか。

 

 と思っていたのだが。

 

「あはははっ! 今のはイイ『音』だった! まさかオレの壊れる音がこんなに甘美だったなんてッ!!」

 

 おぞましいほど歓びに満ちた声が聞こえて、素早く振り返る。そこには血に濡れてはいたが青年が恍惚とした表情で立っている。……嘘だろこいつ。結構強めにいったんだが。

 

「……あらゆる意味で気持ち悪ぃな、お前」

 

 俺はただの魔術が使えるだけの殺人鬼でないとわかり、警戒して身構える。……だがそれなりに頑丈なのか、さっきのでも殺せていない。

 

「く、ははっ! 酷いな。……オレの壊れる『音』もいいが、キミの壊れる『音』も聴いてみたい。これは本気で戦うしかないみたいだよ――タワー」

 

 ヤツの呼び声に応えるように、巨大な影が出現する。そいつは黒い壁のような身体に蒼い線の入った巨人だった。俺が見てきたモノの中ではゴーレムやコロッサスに近いだろうか。分厚く強大な姿が顕現すると周囲に強烈な威圧感が撒き散らされる。

 

「まさか、星晶獣か? なんでこんなとこに……」

 

 あれがただの魔物であるはずがない。超常の、神にも等しき存在。最近はそいつらとばかり会っているから以前のような畏怖はないが、それでも存在自体が異常と言えるモノのはずだ。

 

「よくわかったね。こいつはタワー。そんでオレはタワーの契約者ってわけだ」

「契約者だと?」

「そう。利害の一致でね。言っておくがタワーの一撃は強力だ。イイ『音』を奏でてくれるんだよ」

 

 契約の内容とかはどうでもいい。星晶獣と契約した人間、ということはこれから行こうとしているアルビオンの城主と同じモノということだ。アルビオンの城主となった者は星晶獣シュヴァリエと契約する。契約ってのが具体的にどういうモノなのかは置いておいて。

 

「だけど一つ問題があって、タワーが本気を出すと島が割れてしまうんだ。もしキミが落ちたりしたらキミの『音』が聴こえないだろう? だから、キミを招待するとしよう」

 

 なにを言っているのか半分も理解できなかった。

 ヤツはローブのポケットから一枚のカードを取り出すと掲げて見せる。【レスラー】は所詮近接専用なので手出しできず、警戒する以外にできることがなかった。ヤツはまた指を鳴らす。するとカードが光を放ち始める。目晦ましかとも思ったがすぐ収まって視界が回復する。

 

「……なんだ、ここ」

 

 見ると景色が一変していた。さっきまで寂れた街の中にいたというのに、今は赤い荒野に佇んでいる。

 

「ここはタワーが見た、実際にあった記憶の中。空の民と星の民が争った覇空戦争の記憶。ほら、そこで空の民が戦っているだろう?」

 

 青年が指差した方向には、確かに人がいる。大勢の人が強大な星晶獣を相手に戦っている光景だった。今俺達のいる場所が丘の上だったからかよく戦況が見える。あまり芳しくはないようだ。人側が押されている。

 

「……それを信じろと?」

「どちらでも。キミが信じようと信じまいと、事実は変わらない。それより、ここならある程度融通が利くから、存分に戦う場所としては都合がいいんだ」

「そうかい」

 

 ここがどういう世界なのかはよくわからない。魔法でできる範疇を超えているとしか思えないが、星晶獣の力だと言われてしまえば納得する他ない。あとはこの世界が幻覚なのか、実際に世界として存在しているのかを見極めたいところだが。そんなことしてる余裕はなさそうだ。

 

「さぁ戦おうか。オレが負けてもオレの壊れる『音』が聴ける。キミが負けてもキミの壊れる『音』が聴ける。いいじゃないか、最高の勝負になる!!」

「俺からしてみりゃいい迷惑だがな」

 

 興奮しきりなヤツの様子に辟易しつつ、こうなったらここから出してもらうためにも戦う他ないと判断する。

 もう絶対敵わない相手だと頭と心と身体に叩き込んでやるしか、こいつから逃げ出す方法はないだろう。それ以外の道は俺が敗北し、死んで『音』になるかしかない。

 

「面倒だが、仕方がない。徹底的に破壊してやるよ」

「是非やってみてくれ。キミが壊れなければ、ね」

 

 言い合ってから、俺は最速で突っ込むことにした。タワーという星晶獣がどんな能力を持っているかわからない今、先手必勝、一発で契約者たるあの野郎をぐちゃぐちゃにしてやればいいと思っての行動だ。

 【レスラー】の飛び抜けた身体能力を生かして突っ込んでいく。しかしヤツはそれを見越していたのか俺の動きが捉えられていなくてもいいとばかりに右手から魔術を放った。火や水などではなく破壊を齎す魔術のようだ。俺は腕を交差して防御姿勢を取り、魔術に対してそのまま突っ込んだ。ヤツの口元に笑みが浮かぶ。おそらく俺の壊れる『音』が聴けると思ってのことだろう。当然直撃して身体が軋み激痛が襲ってくる。だがその程度で【レスラー】の肉体は敗れない。

 

「なにっ!?」

 

 流石のこいつも真正面から耐え抜かれたことはなかったらしい。俺は構わず驚いた表情のヤツに全力のタックルをかました。直撃した箇所の骨は粉砕され、ヤツの身体は呆気なく宙を舞う。どしゃりと地面に落ちたヤツの左腕はおかしな方向に曲がり、折れた肋骨が肺に刺さりでもしたのか苦しげに呼吸して血を吐き倒れ伏す。

 俺はそう思って腕組みをし仁王立ちして青年を見下ろす。

 

 【グラップラー】から連なる格闘しか得意武器のない『ジョブ』はガントレットや爪など拳に装備する武器を装着することは可能だが、基本的に己の肉体こそが武器である。それがClassⅣともなれば、その肉体は武器程度ではなく兵器とさえ言っても過言ではない。

 

「が、ははっ……ごふっ! イイ! 実にイイッ! キミの齎す『音』は格別だ! さぁ、今度はキミの壊れる『音』を聴かせてくれ! ――タワー!!」

 

 青年が恍惚に顔を歪め心底嬉しそうに笑い、佇んでいた巨人に指示を飛ばす。

 タワーはその巨大な豪腕を振り被り、青年が使っていた魔術のような蒼い雷を拳に纏わせた。……どうする? 避けるか? いや避けられるような一撃なのか? あいつはタワーの一撃を島を割るほどだと言った。つまり避けても余波を受けてしまう可能性がある。なによりタワーの攻撃を受けられないと思われたらあいつに諦めてもらうという目論見が達成できない可能性が出てくる。

 クソ、仕方ねぇか。

 

 俺は内心で毒づいて足を踏ん張り両手を挙げて迎え撃つ構えを取った。

 

「ははっ! 無駄だ、タワーの一撃に耐えられた人間はいない! さぁキミのアルモニーを聴かせてくれ!」

 

 青年はタワーの力を信頼しているのかこれからのことの興奮が声に大きく出ていた。

 かなり傷が治っている。魔術ではなく自然と再生していっているようだ。

 

 俺は構わずタワーの拳を両手で受け止める。直撃の衝撃で掌の皮が消し飛んだ。血が飛んでくるが無視して全身に力を込める。足と腕の筋肉が一層膨らんだ気がした。余波で覆面が弾け飛び、マントも吹き飛んでしまう。受け止め切れなかった衝撃が周囲の地面に亀裂を生み大きく陥没させた。力を入れすぎたのか衝撃を受けたせいか腕から出血し、それでも力を入れ続けてタワーの拳を受け止める。

 

「あぁ……! 『音』が聴こえる! キミの壊れていく『音』が――やんだ?」

 

 興奮に満ちた青年の声は、疑問によって萎んでいく。

 なんとか、俺は耐え切ってみせた。身体に力は入る。全身が痛いが意識ははっきりしている。なら問題ない。しかもこの状態なら、攻撃を受けた直後の今ならあれができる。

 

「……ナイフハンド・」

 

 俺は交差していた腕の内左腕を解いて振りかぶる。皮の剥けた拳を握るのは痛いが構わずぎゅっと握り締めて渾身を宿した。

 

「ストライクッ!!!」

 

 全体重を乗せて、タワーの拳に己の拳を叩きつける。

 

「――――!」

 

 タワーは腕ごと押し返されバランスを崩し、ボロボロと破片を零して後退する。加えてタワーの腕は捻じ曲がっており、少なくとも一時は使えない状態になって力なくぶら下がった。

 

「……」

 

 ヤツはその光景を、タワーの一撃が返された瞬間を、ぽかんとして眺めていた。

 

 俺は口の中に溜まった血を集めてぷっと地面に吐き捨て構えを解く。

 

「【レスラー】嘗めんなよ、てめえら」

 

 怪我はしているがまだ戦える。ボキボキと拳を鳴らしニヤリと笑った。

 

「倒せるモノならやってみやがれ」

 

 悪に相応しい態度。その力で畏怖を与え、正義を砕く残虐な心の象徴。

 それが俺の【レスラー】だ。

 

「……くははっ、あははははははっ!!!」

 

 青年は身体を震わせたかと思うと、大声で笑い始めた。

 

「まさかタワーでも壊し切れないなんて、思いもしなかった。キミ、凄くイイよ。……これはオレの負け、かな」

「随分潔いな」

「今のオレにキミを壊すだけの力はないとわかった。それで充分さ。それに、なぁタワー」

 

 ヤツは爽やかな笑顔を浮かべて契約している星晶獣を向いた。見るとタワーが()()()()()()()()拳を振り被っている。

 

「あ?」

「タワーの契約者は、負けたらそれまで壊してきたモノと同じことを、タワーにされるのさ。キミが教えてくれたことだろう? オレ自身の奏でる『音』は、最高に甘美なんだって」

 

 言って、ヤツはタワーの拳を恍惚として受け入れる。直撃するとロベリアの身体が内側から破裂した。タワーが拳を引くと光が辺りを包み込み確実に死んだヤツの身体が徐々に治っていく。

 

「悪いが邪魔しないでくれよ。オレが『音』にしてきた人数を考えても、これはずっと、長い間続くだろう。つまりその間オレはオレ自身が壊れる甘美な『音』を味わい尽くせるってことなんだ!」

「邪魔しねぇよ。自己満足できるんだったらそうしとけ」

「ああ。タワーもオレと同じ、壊すのが好きな星晶獣でね。タワーも、オレを何度も壊し続けられて幸せなんじゃないかな」

「そうかい。末永くお幸せに」

 

 だったら俺を巻き込むんじゃねぇよ、と思わないでもない。だが俺が倒さなかったらこいつはずっとどこかで人を殺し続けてたんだろうな。……また野放しにされることになったらどうすりゃいいんだよ。いや、そうなったら今度は“蒼穹"の連中に押しつけよう。うん、そうしよう。

 

「また会うことがあったら、今度はキミの力になろう。オレに最高の幸せを教えてくれたキミの力になりたいんだ」

「考えとく。できれば二度と会いたくねぇよ」

「そうかい? 近い内に会えると思うけど。まぁいいや。ありがとう、オレを壊してくれて」

「……いいからさっさと帰せよ」

 

 こいつのありがとうはよくある「止められない殺人衝動を止めてくれてありがとう」ではなく、本当に「タワーに今まで壊してきた分壊され続ける幸せを教えてくれてありがとう」なのが救えない。救う気もねぇが。

 

「わかってるよ。じゃあまた近い内に。タワーのカードは渡しておくよ」

「二度と会わないしいらねぇよ」

 

 しつこい青年に顔を顰めて『ジョブ』を解除する。

 

「ふふっ。タワーの契約者、ロベリアだ。また会おう黒衣の少年」

 

 青年――ロベリアは確信があるかのように笑うと、最後にそう名乗った。俺の身体が光に包まれ元の世界に帰っていく。当然よろしくする気がないので名乗らない。顔を覚えられてしまったようだが空の世界は広いので会わない可能性が高いだろう。というかさっさと空域を越えよう。

 

「……はぁ。トラブル体質はグランとジータだけで充分だっての」

 

 俺は戻ってきてロベリアの姿がないことに安堵にため息を吐く。ふとローブのポケットに手を突っ込むといつの間にかカードが入っていた。取り出して眺めてみると、タワーの描かれたカードのようだ。……捨ててもいつの間にか手元に戻ってくるとかありそう。一応持っとくか。これがある限り、旅をしているオーキスやアポロがあいつと出会う心配は減りそうだし。あいつらが狙われるなら、俺が引き受けた方が幾分気持ちは楽になるか。

 

「……めんどくせ」

 

 俺は言って、家に入り依頼主の死亡を確認してから一応盗賊の殲滅に向かった。

 疲労はしていたがさっくりと終わった。なにせ遠くからアジトを【ウォーロック】渾身の魔法で吹っ飛ばしたんだからな。人質がどうとかは知らない。少なくとも俺が遠距離特化の【ハウンドドッグ】で見た限りいなかったのでまとめて吹っ飛ばしてやった。慌てて出てきたところを【ハウンドドッグ】で狙撃すればさっくり始末できた。崩壊したアジトに残って様子を窺っていたヤツらは好都合だともう一発魔法をぶち込んでやったし、反応がなくなってからアジトを回って生き残りがいないかを確認して回った。

 その後シェロカルテの関係者に、「殺人鬼が依頼主夫婦を殺した直後に遭遇して撃退したこと」と「盗賊を一人残らず始末したこと」を伝えた。仕方ないと報酬を渡してくれたので今日は宿に泊まって明日、アルビオンに向かおう。

 

 念のため、星晶獣との契約に関しても話を聞いてみるとするかな。




ロベリアとかアオイドスとかバアルとかローアインとか、喋り方が特徴的なヤツは難しい。っぽくなかったらすみません。次回登場する時までに勉強し直しておきます。

本当は「エレガンスに振る舞えよ? はしたないぜ」も言わせたかったのですが言うチャンスがなくなってしました。

因みにわかっている方も多いとは思いますが、一応補足しておきます。
ロベリアさんとタワーさんは全然本気ではありません。

この作品に登場させる時本気で戦ってる感を出す時はアビリティを行使したり奥義を撃ったりさせます。それが全くありませんので、ロベリアは通常攻撃しかしていないという認識になります。
タワーは召喚効果同様、パンチが段々と強くなっていきます。なので一発目は一番弱いパンチ、ということですね。あと雷起こしたりもできるみたいなので、全く本気ではありません。ただしタワーが強すぎてロベリアが繰り返し放たれた後の本気の一撃がどんなモノなのか知らないという裏設定があるので、まさかタワーの一撃を受けるなんて、という驚きがあるという感じですね。

ダナンの幸運は二つ。
真っ先にロベリアに一撃入れて自分が壊れる音を聴かせ負けてもいいやと思わせたこと。
そして【レスラー】が超強いこと。
以上ですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。