ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ロベリアさんのウォーミングアップ、如何でしたでしょうか。おそらく物足りないと思った方が多いと思います。安心してください、再会が楽しみですね。

ちょっとした急展開、お許しください。


世界を手にする

 アルビオンに向かった。シェロカルテと自分の名前を告げると難なく城主の下へ通された、と城主代理の人のようだったが。

 

「今城主のヴィーラ様はとある騎空団に席を置いております。星晶獣シュヴァリエとの契約は切れておりませんので、今は私が代理を務めています」

 

 とのことだった。

 なんとなく“蒼穹”なんだろうなぁ、と思ってしまったのは俺だけだろうか。あいつらどんだけ各国の要人抱えれば気が済むんだ。

 

「本題は簡単だ。シュヴァリエの持つ空図の欠片が欲しい。それはヴィーラ様とやらに直接会わなければ不可能か?」

「いいえ。シュヴァリエの加護が島を覆っている限り、この島でも受け取ることができるかと思います。後程ご案内しますね」

 

 良かった、受け取れるようだった。

 

「あともう一つ、わかればでいいんだが星晶獣と人が契約するってのは、具体的にどういうことなんだ?」

 

 俺は城主代理の男性に尋ねる。

 

「星晶獣との契約について、ですか。実際に契約したヴィーラ様なら具体的な答えを出せるかもしれませんが、私では抽象的なお話になってしまいますがそれでも?」

「ああ、問題ない」

 

 元々具体的な返答を期待しての質問ではない。頷いて先を促す。

 

「では。まず星晶獣シュヴァリエと契約した者は、星晶獣シュヴァリエに力を借りることができます。ただしこれにはデメリットが存在し、力を借りれば借りるほど、より強い力を使えば使うほど侵食されていきます。これは人よりも星晶獣の存在の方が強いからだと言われていますが。侵食と一口に言っても精神に影響が出る者や、肉体に影響が出る者などケースは様々だと聞きます」

 

 ふむ、と考え込む。ロベリアは精神に異常は持っているが、あれはなんというかタワーに侵食されて、という感じはなかった。つまりあいつは侵食が少ないかあまり影響しない。元々狂ったヤツで、タワーも壊すの大好きみたいな発言はしていたから、気が合って契約したみたいな感じなのだろうか。

 

「契約は基本的に、人が星晶獣の力を借りる代わりに、星晶獣が人になにかを求めるという構図になるでしょう。一方的ではなく双方の合意の下交わされるモノと思っていただければ。星晶獣が求めるモノは大半精神的な要求になるかと思います。シュヴァリエもそうですからね。これは力を貸す上で精神に影響を及ぼさない、言ってしまえば気の合う人を選びたいということだと思われます」

 

 それは納得がいく。ロベリアとタワーもその類いだろう。

 

「加えて本来ならシュヴァリエがこの島を守る星晶獣であるためヴィーラ様はこのアルビオンから出られないはずだったのですが。それが変わったのはおそらくヴィーラ様の心境が、シュヴァリエに影響を及ぼしたからでしょう。星晶獣は生物兵器として覇空戦争の折星の民によって使われましたが、装置とは異なります。彼らにも感情があり思考を持っています。……という触りくらいでしょうか、私に語れるのは」

 

 城主代理は少し申し訳なさそうに話を区切った。別に謝るようなことでもない。概要がわかっただけでも儲けモノだ。なにせ人と契約している星晶獣の話を聞くことなんて早々ないからな。

 

「いや、概要だけでも充分だ。もし城主様に会うようなことがあれば、実際契約してみてどうかって話を聞いてみることにするよ」

 

 俺は言って、城主代理の人に案内してもらいシュヴァリエから空図の欠片を受け取った。

 それからシェロカルテの商会に例の売り上げから差し引くという名義で小型の騎空艇をレンタルし、霧に包まれた島を目指した。小型騎空艇くらいなら操縦はできる。免許とか資格は持っていない。安全運転第一でのろのろと進んでいった。実際に操縦してみると、ザンツのおっちゃんの腕の良さがよぉくわかる。だって凄ぇ揺れるんだもん。

 

 誰もいないと思っていたら顔色が悪く透けた姿の住人がそれなりに出迎えてくれた。幽霊の住む島なようだ。この島に縁のあるセレストという星晶獣の力によって現世に残っているらしい。実はもう一人セレストの力で残っていたのではない幽霊がいたそうなのだが、とある騎空団に入ってしまったらしい。“蒼穹”だろ絶対。もういいよこの流れは。

 と思いつつも幽霊の住人に歓迎してもらい、お礼に料理を振る舞って昇天させかけつつ過ごした結果、セレストにお目通りさせてもらい難なく空図の欠片を手に入れた。……なんか今までで一番平和に過ごせた気がする。相手は幽霊だったが。

 

 次はガロンゾだ。確かここで既に黒騎士が秩序の騎空団に幽閉され、フリーシアに連れられたオルキスとあの連中が遭遇したんだったか。騎空艇作りを司る、言ってしまえば船大工の星晶獣ノアが関わっててんやわんやだったらしい、と聞いたことがあったような気がする。因みにそのノアとやらも今や“蒼穹”の一員だ。なにやってんだあいつらはホントに。

 ここの星晶獣はミスラ。フリーシアに連れ去られていたが返還されており、今では平和なモノだ。その能力は誓約。口約束でも絶対遵守させるという星晶獣である。そんな星晶獣のいる島だからか、この島では契約書や請求書なんかを書かない。書かなくてもミスラの加護によって遵守されるからだ。

 

 さてどうやって会うかだが、ミスラ縁の場所を聞いて回って会うことができた。意外と簡単に済んだので良かった。そもそも戦いが本分の星晶獣でないからかすんなり空図の欠片を渡してくれる。フリーシアに付き合わされて辟易しているのかもしれない。マリス化させられたりフリーシアの誓約を遵守するために何度も再生させたりしていたみたいだしな。面倒事は極力避けたいと思っている可能性もある。

 ミスラは身体が歯車みたいになっているので表情とか感情は一切読み取れないのだが。

 

 ということで、なんだかんだすぐにあいつらの持っている空図の欠片の個数に追いついてしまった。……これでまだ一人しか仲間になってくれそうなヤツ見つけられてないって、ヤバいんじゃないか? やっぱ十人とか高い目標にしなくて良かった。六人ぐらいにしよう。ロベリアは絶対いらん。

 あいつらはポート・ブリーズ群島でラカムと出会い、バルツ公国でイオと出会い、アウギュステ列島でオイゲンと出会い、ルーマシー群島でロゼッタと出会っている。どんな強運なんだろうかと思いつつも、あいつらが既に問題を解決した島に行ってもあまり仲間は得られないか、と納得しておく。問題なく平和に過ごしている連中が残っているんだろうからな。

 

 この後はリーシャとモニカに連れられてアマルティア島へ向かい、そこで俺も合流した。ユグドラシル・マリスによって敗北した時は別れたが再度アマルティア島へ行き、続いてザンクティンゼルへ向かったという。それから俺達の救助に来て、その直後も別れたが後はもう帝都アガスティアに攻め込むだけだ。

 

「これからどうすっかな」

 

 俺はアマルティア島のある方角の端の方まで来て呟いた。これまではあいつらの軌跡を追ってきたが、これからは自分で考えて各島々を回らなければならない。

 とりあえずは考えていたエルステ王国かな。王都メフォラシュだ。

 

 旅の最中でも噂は耳に入ってきたが、王国を建て直そうと色々頑張っているらしい。表立って動いているのはオルキス女王、アダム宰相。この二人だそうだ。執拗な他国への侵略などもやめたエルステ王国は、各国との信頼を持つため積極的に関わりを持ちつつ内政を整えているという。目覚めて間もないだろうに次々と動いているのは流石王族か。いや、十年前に魂が身体から離れたとはいえ意識はあったそうだから、先々のことを考えて色々政策を練っていたのかもしれない。オーキスの魂のために別の器をアダムに創らせていたくらいだから、可能性はある。十年間一人だったら余程暇だろうしな。もし元の身体に戻れてエルステ王国が復活できたらこういうことをしよう、というのを頭に思い描いていたのかもしれない。

 

 まぁそんな憶測はいい。とりあえずメフォラシュに向かうか? いや、おそらく“蒼穹”も空図の欠片がメフォラシュにあるであろうことは予想するはず。ということは一旦“蒼穹”の連中がどこで手に入れたかを、道筋から探った後に行った方がいいか? あいつらと同じ場所に行けば大抵の空図は手に入るわけだし。卑怯な考え方だが効率はいい。

 

「じゃあまだ見ぬ島へ向かうか? とりあえずは“蒼穹”の動向を知るべきかな。あいつらの存在は目立つし情報は簡単に集まる」

 

 今最も注目されている騎空団と言ってもいい。なにせヤバいヤツしかいないからな。

 となると一旦街に戻って“蒼穹”が今どこにいるか、どこへ向かったのかという情報を仕入れる。で、宛てがなければ王都メフォラシュに行ってオルキス女王にデウス・エクス・マキナから空図の欠片をくれるよう口添えしてもらい、それまでに“蒼穹”の騎空団が聞いたことのない島に行っていたという情報が入ったらそこに空図を持つ星晶獣がいる可能性を考えてそこを目指す。空図の欠片を集め終えたら空域内で仲間探し、とこんな流れでいいか。流石に騎空艇を持たずに空域を越えるのは至難の業だ。せめて騎空艇を手に入れるまでは空域内を彷徨っていよう。

 

 というわけで。

 

「“蒼穹”の騎空団? あー、なんだっけな。確かダイダロイトベルトの方に向かったって聞いた気がするんだが」

「違ぇって。“蒼穹”は今メフォラシュに向かってるところだ。ダイダロイトベルトはもう離れたんだよ」

「いやいや。メフォラシュからまたアガスティアの方に行ったのも見かけたって聞いたぜ? つい三日前のことだ」

「お前ら情報が遅すぎんだよ。“蒼穹”の騎空団はもうダイダロイドベルトにもメフォラシュにもアガスティアにもいねぇ。極寒の地ノース・ヴァストに向かったのが今日最新の情報だ」

 

 お前ら耳早すぎ。いや情報通ならこれくらい普通なんだろうか。それともあいつらがそれだけ注目されてるってことか。おそらくどっちもだな。

 一応音楽の祭典で会ったが、あれから何日も経っている。あいつらの悪運なら次から次へと問題に遭遇していてもおかしくはない。

 

 行ったことのない場所はダイダロイトベルトとノース・ヴァストか。それからの動向も仕入れて空域を越えたっていう噂が立ったらそれらを回れば空図の欠片が手に入る可能性が高いということになる。軌跡を辿るだけでいいってのは楽だな。今後は自分達で行き先を決めなきゃいけないし、最初は甘えさせてもらうとしよう。

 

「チッ。ならこんな情報はどうだ? “蒼穹”がダイダロイトベルトに行く直前、なんとあの七曜の騎士が争ってたって話だ。雲は割れダイダロイトベルトの星晶獣にも影響があったって話だぜ」

「そんなら俺だって。“蒼穹”がメフォラシュとアガスティアへ行ったのは今話題のエルステ王国を巡る陰謀に巻き込まれたって話だ」

「結成する前も話題に事欠かなかったが、結成してからも話題だな」

「そりゃそうだろ。話題の騎空団サマにはなんせ、十天衆や各国の要人が入ってるんだからな」

 

 笑い合う酒場の情報通共。……今や世界が注目する騎空団ってわけか。俺はそこまでになりたいとは思ってねぇが、弱小騎空団だとは言われないようにしたいところだな。

 

「いい情報をありがとう」

 

 とりあえずあいつらの動向は掴めた。そんなに重要な話題はなく一般的に出回ってるような情報ではあったが、それで充分だ。これ以上細かい情報が欲しければ場所を変えてやり取りすることになるだろう。

 俺は一人につき一万ルピずつ渡して立ち去った。

 

 行き先は決まったな。メフォラシュ、ダイダロイトベルト、ノース・ヴァスト。必要ならアガスティアにも行くだろうが、とりあえずの行き先はその三つになりそうだ。

 ガロンゾから出ている定期船を確認し、それら三つの行き先に行けるかどうかを調べる。……メフォラシュしかねぇや。少なくともこの島から出ている船で残り二つには行けないか。ならメフォラシュに行くかとメフォラシュ行きの定期船が出ている港に向かう。道中盗賊がいたのでゼオから貰ったムラマサで刈り取っていき、ちょっと正規の道を外れた人気のない場所を歩いた。

 

「……あん?」

 

 その時、ゴロゴロと上空で嫌な音が鳴り出したかと思うと雨が降り出し始めた。

 さっきまでは晴れていたというのに。空を見上げてみれば黒雲が渦を巻いて広がっていくところだった。……なんだ? こんな天候聞いたことがねぇぞ? しかも渦の中心が俺のほぼ真上になっている。嫌な予感しかしない。

 

 バリバリと落雷が発生する。雨風も強くなってきて僅かな間でびしょびしょになってしまった。

 

「……」

 

 不意に渦の中心から気配を感じた。人ではない、ナニカの気配だ。ただの魔物という気配ではない。明らかに強大な――そう、例えば星晶獣のような気配が伝わってくる。

 

 パキン。

 

 俺の頭上の空間に亀裂が入る。亀裂は徐々に大きくなっていき、割れたかと思うと黒い円のようなモノが現れた。淵が光り輝く様は滅多に起こらないと言われる日食にも似ている。

 

 そして遂に、()()()は現れた。

 

 姿形は巨大な人。ただし全身が黒くて顔に部位がなくのっぺりとしている。身体つきを見る限り筋肉隆々の男性といった姿だ。そいつの周囲を草の蔦らしきモノが回っており、金の動物を連れ立っていた。

 ともすればタワーよりも強大な力を感じる。俺が今まで会ってきた中では、それこそアーカーシャが近いかもしれない。あんな世界を滅ぼせるような星晶獣が何体もいるとは思えないが、それほど強い星晶獣に思えた。

 

「――時は満ちた。あえて形容するならば、オレは胎動する世界そのモノ。オレの契約者たり得る者よ」

 

 そいつから声が聞こえてくる。やはり男性の声音だ。……なにを言ってやがるのか、全く以って理解できん。いや、名前名乗って俺に声をかけてきただけか? だとしても意味はわからない。

 

「……なに、言ってんだてめえ」

「頭の回りが悪いのか、はたまた理解が追いついていないのか」

「どっちかって言うと後者だ。いきなり現れて契約者だのと抜かされて理解しろって方が無理だろうが。なぁ、胎動する世界さんよぉ」

 

 言葉に嘲りを感じたので普段通りを意識して返す。

 

「オレ達『アーカルムシリーズ』の目的はこの世を創った創造神を駆逐し新たな世界を創造すること。しかしオレの目的を阻む、蒼の少女と赤き竜を連れた者達がいる。ヤツらは強い。オレと言えど人の契約者を必要とするほどにな。故に、ここにいる」

 

 簡潔な説明をしてくれた。一方的ではあるが対話する余地は残っているらしい。残念ながら俺でもアーカーシャと同等の星晶獣を一人で相手する気はない。戦いになったら死ぬだろう。

 だが向こうも対話による接触を試みているようだ。なら戦わず場を収めることだって不可能ではないはず。

 

 というか蒼の少女と赤き竜を連れたヤツって“蒼穹”の騎空団じゃねぇか。あいつらなにやってんだよ。だがまぁあいつらぐらいでなければこいつを打倒するなんて無理なのかもしれない。いつ戦ったのかは知らないが、少なくともアーカーシャとの戦いが終わった後のことだろう。俺がいなくても、多分あいつらならアーカーシャを倒せただろうし、強い仲間を大勢増やしている。その時一緒にいたかどうかはさておき、間違っても負けることはないだろう。

 

「つまり、あいつらに負けて焦ったからより力を使えるように契約者候補である俺の下に来たってか。神を殺すなんて戯言ほざく割りに、随分とショボいなぁ」

「否定も肯定も不要。創造神を駆逐し新世界を創造する。その目的のためならオレはどんな手段でも使おう。その障害になり得る者達を排除するために契約者が必要なら探す。それだけのことだ」

 

 俺の煽りも通用しない。……しかし聞くとなんつうか、人間臭いヤツだな。

 

「話し方は兎も角、目的への執着と言うか信念と言うか、そういうのは人間っぽいな。星晶獣なんだろ?」

「そうだ。オレは星の民が創りしつまらぬ傀儡。完全なる星の民は、オレに学ぶ力を与えた。学ぶ力とは、空の民に宿る力。破壊と再生を繰り返し、進化する力。しかしそれは同時に未熟であり続けるということだ。完全である星の民とは真逆の性質。星の民はオレの自我の進化を予見できなかった。創られ、操られ、支配される存在から、固定された運命から逃れようと自我を覚醒させたのがオレ達アーカルムシリーズの星晶獣だ」

 

 難しい言葉を使ってはいるが、要約すると「オレはお前達人と同じように考える力を持っていて、自我が芽生えている。その自我に従って星の民の支配を脱しようとしているのだ。あと同じような星晶獣がいっぱいいるよ」という感じか。

 とはいえバアルと関わりのある俺からしてみれば、自我を持った星晶獣なんてそう珍しいことではないんじゃないかと思ってしまうが、自我のない星晶獣の方が多いのだろう。俺が知っているのはあくまで一例だ。

 

「……お前の話は大体わかった」

 

 こいつの意思は聞いた。だがそれと俺が契約者になることはまた別の話だ。

 

「じゃあ、なんで俺なんだ? 俺は別にこの世界に不満持ってるわけじゃねぇぞ?」

 

 星晶獣との契約についてはアルビオンで聞いたが、その時の話を踏まえると契約者はできれば星晶獣と意見の合う人物がいいとされている。俺は別にこの世界に嫌気が差しているわけでもないし、新世界創造という言葉に魅力を感じない。精神に影響が及ぶんだとしたらご免被りたいところだ。

 

「新世界を創造すれば今ある世界も、世界にある無数の命も消える。それを許容できるかどうかは重要だ」

「俺にそれができるってか? ……昔なら兎も角、今はどうだろうな」

「無論オレ達とお前、お前の連れていきたい者達を連れ立つことは可能だ。共に新世界を臨むのなら、だが」

 

 俺が選んだヤツらは連れていけるってか。流石に俺に都合が良すぎる気もするな。俺を利用するために嘘を吐いている可能性もあるが、契約者候補が少なくて自分の目的を達成するためにどうしても契約したいという可能性も捨て切れない。

 

「なるほどな。じゃあ契約者としては、この世界を守りたいと思ってさえいなければ問題ないってことか」

「然り」

 

 胎動する世界はのっぺりとした顔を頷かせる。……それなら俺が選ばれたということにも納得がいく部分も出てくるか。

 

「だが、その程度の条件ならこの広い空の世界のどこにでもいるだろ? 俺である必要性はない」

「オレは世界を創り変えるだけの力を持っているが、その力を十全に扱える人間は多くない。神とは万物を創造する者。オレの創造神に足る力を使うには、不得意のない素質が必要だ」

「魔法の属性とかって話か。確かに神になるとか豪語しといて契約者が火属性にしか適性なくて火しか創れなかったら問題か」

 

 その点で言えば、俺は適任と言える。なにせこいつの言う通り不得意がない。どんな武器も魔法も、使いこなすだけの素質が備わっている。そういう意味では『ジョブ』持ちであることが一つの指標になりそうだが、残念ながら既に“蒼穹"の団長二人とは敵対関係にあるようだ。となれば俺に声をかけるしかない、か。

 いや。それでもまだ候補はいるはずだ。

 

「だがそれだけじゃあ俺に声をかけた理由になり切らないな。破滅を望みそうで、俺と同じで不得意のない才能、『ジョブ』を持ったヤツが一人いる。俺のクソ親父なら、お前の言う条件にぴったりだろ?」

「否。ヤツは不適任だ。協力を取りつけるのは容易いだろうが、目的達成寸前でオレが殺されかねない。なにより新世界にヤツを連れていく真似は避けた方がいいと判断できる」

 

 星晶獣にも嫌われてんなあいつ。というか知ってるのか。候補を挙げていく上で知ったのかもしれないが。

 

「そうかよ。だが『ジョブ』を持ってなくても不得意のないヤツは、全空を探せばいるはずだ」

「いはするが今の世を切り捨てられる者は他にいない。また、オレと契約するには他のアーカルムシリーズ十体と契約した賢者達を従えなければならない。その点お前は既に一人従えている」

「あん?」

「そのカードが証拠だ」

 

 胎動する世界が告げると、俺のローブの右ポケットに入っているタワーの描かれたカードが熱を持って光り出す。……あいつかよ。

 

「十人いる他の賢者を従えられる者を、オレは契約者としよう」

「お断りだ。あんなヤツばっかの連中と付き合ってられるか」

 

 胎動する世界の契約者になるための条件は挙げられた。だが俺はそれならと即答する。……あんなクソ親父と同類の匂いがする野郎を味方につけて堪るか。二度と会いたくねぇって心から思ってんだぞ。あんなのが後九人もいるんだったら関わり合いになるのはご免だ。断固拒否するしかねぇ。

 

「そうか? タワーは随分とお前を気に入っていたようだが」

「傍迷惑にも程があんだろ」

「拳を真正面から受け止めた人など初めて見たからだろう。それに感謝もしているようだ。今がとても楽しいと。あの天災を従わせられるのなら、他の賢者も問題ない」

 

 ロベリアとタワーは余程気が合うのか。妙なヤツに好かれたもんだと思う。

 その口振りだと一番厄介なヤツと一番最初に出会ったことになるんだが。俺もグラン達のこと言えないかもしれん。

 

「お前にはオレのカードを渡しておく。これは仮の契約のようなモノで、オレの力の一端が使えるだろう。残る九枚のカードを集めていくことで使えるオレの力が増えていくようになる」

「へぇ? で、お前の力ってのは?」

 

 肝心なところはそこだ。世界を創り変えるなんて大層なことを言っているが、実際にどう駆使すればいいのかはわからない。

 

「オレの力は創造。この世界にあるモノを創り変えることも、無から有を創ることも、有を無に帰すことも可能」

「便利だな。とはいえ十分の一じゃ大したことはできねぇ、か」

「そうだ。お前がオレの力を使うことでオレはこの世界の仕組みを知り、新たな世界を創る礎にできる。お前はオレの力を手にする」

「力を使っていくことでも利があんのか。で、その創造ってのはどうやってやればいい?」

「直感、若しくは想像する。例えばこの雲もオレが想像し、創造したモノだ」

 

 登場の演出だったのかよこの雨。おかげでびしょ濡れだよ。

 頭に浮かべたことを実現できる能力、というようなモノのようだ。想像力がモノを言う能力のようなのでしっかり使い心地を考えていくべきだろう。

 

「全てのカードを揃えるがいい。その時は、契約を交わしお前の力となろう」

「利用し合うの間違いだろ。……ま、一応覚えとくよ」

 

 力が手に入るのなら一考の余地がある。加えて真偽は兎も角連れていきたいヤツは新世界とやらに行かせてくれるらしい。なら俺としては問題ない。

 だがもし嘘で戦うとなった場合にあいつを倒し、最悪俺を殺せるだけの準備は確保しておきたいところだ。

 

「そうか。オレのことはワールドと呼ぶがいい。では、さらばだ。オレの契約者よ」

 

 胎動する世界――ワールドと名乗った星晶獣はそう告げて、黒い輪に吸い込まれるように姿を消した。……妙なことになってきたな。

 

 ヤツがいなくなると不自然なほど急激に晴れていく。どうやら本当に登場のための演出だったらしい。

 妙なことにはなってしまったが、今一度反芻して考えると悪くない条件ではある。あいつはおそらく将来グランやジータと戦うことも考えて俺を契約者に選んだのだろう。俺の素質があいつらに対抗できるとわかって。

 

 世界を相手にするという点で言えば、空の世界の敵を自称するロキでもいいような気はする。だがあいつは星の民なので、胎動する世界的に星の民に縛られるのが変わりないため嫌なのかもしれない。

 

「……もしものための準備をして、運良く他九人の賢者に会えたら真の契約を結ぶか。折角向こうから目をつけてくれたんだ。利用するだけ利用してもいいかもしれねぇな」

 

 向こうも俺を利用する気だし、俺が利用しようとすることも見越しているだろう。なら俺だって精いっぱい利用してやればいい。

 それに、

 

「十人ってんなら丁度十天衆にぶつけられそうだしな。精々利用させてもらうとするかね」

 

 俺は笑って、ずぶ濡れの衣服を乾かしてから移動し、エルステ王国王都メフォラシュ行きの定期船に乗り込むのだった。




というわけで、一応最強の能力を手にするフラグが立ちました。

まぁこうでもしないとビィもいるのでグランジータに勝てないっすよ……。

因みに。
本編でもちょっと触れましたが、今“蒼穹”は白風の境へ向かっている最中です。
あと一緒に旅を始め――いやちょっと旅したけど全然資金足らねぇわ、となった結果またバラバラになっています。空図の欠片の話をザンクティンゼルでした後、アマルティアに行ってリーシャと再会し、と暁の空編の序盤と同じような流れを辿っています。
本当はダナンがメフォラシュでイチャイチャしている時に逡巡の夜させようかとも思ったのですが、ちょっとタイミング的に難しかったので中断したという裏事情があったりします。

というか暁の空編って短くないですか? 日付的に短い期間で色々起こりまくってるんじゃないですかね。おかげで黄金の空編は五十話分いかないかもしれません。
今のストックで佳境っすよ。

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