しかし昨日からグラブルフェスが始まっていますね。私? 家でPCにずっと向かってましたがなにか?
ぐらちゃん生放送ではナルメアの新情報が満載でしたね。クリスマスバージョンの発表とか、VSで追加キャラとしての参戦とか。
これはVS買う意欲が高まってしまう……。元々格ゲーが苦手なので玉髄に金払う気分だったのですが(笑)
ベリアルとかバブさんとかも追加されるそうで、彼らが敵として出てくるのでなかなかストーリー的な楽しみも見えてきましたよね。
明日出る情報の中には年末の追加リミキャラと来年のネズミ闇干支キャラと思われるヤツの発表とかが予想されるので楽しみです。
会場行った方はお疲れ様です。私はようつべで観てましたが、明日も一緒に楽しみましょう。
ザンツの人生が変わったのは、二十歳の頃だった。
「クソッ! なんだってこんな嵐に!」
父の跡を継ぎ島と島を行き来する定期船の操縦士になった彼は、しかしまだまだ若輩者ということもあってあまり信用されず客が少ないまま日々金をあまり持っていない人達を乗せて中型の騎空挺を飛ばしていた。
島と島の連絡手段があまりなかった時代のため、航路上の天候などは遠目から見て問題なさそうかどうかで判断する。今日もいつも通り問題ない天候だったはずなのだ。
だというのに、彼の船は今嵐に見舞われていた。
空を色濃く覆う黒雲から雷が雨のように降り注ぐ。帆に当たって燃えたら墜落の道しかない。
驚くべきは船を操縦する彼の腕だ。ゴーグルをして目を雨から守りつつ空が光った瞬間に方向転換をして落雷から逃れる。そんな芸当ができる操舵士が世にどれほどいるのだろうか。
「お、おい! 無事着けるんだろうな!?」
「知りませんよ! こっちだって必死に操縦してるんです!」
客の一人が不安そうな声を上げてくるが、彼はそれどころではない。一歩間違えれば死ぬかもしれない最中なのだ。クレームなんて気にしている場合ではなかった。
しかし限界はある。
落雷が遂に甲板へと直撃した。あっという間に火の手が上がる。
「きゃあっ! ひ、火が……!」
彼の船は木造だ。嵐の中のため全焼はないが、多少燃え広がる可能性がある。
「こっちは手が離せないんです! なにか、布で叩くとかして消火してください! この船が落ちたら全員一緒に死にますよ!」
ザンツは舵を握り必死に呼びかける。彼にできることは客に指示を出し、操舵して無事嵐を抜けることだ。
彼の呼びかけに、火の近くにいた女性ははっとして自分の上着を脱ぎ捨て火を払おうとする。しかし振り被った女性の手を後ろから近づいてきていた男が掴み、女性が戸惑っている間に服をそっと奪い取ってしまう。
「女性にそんなことは、させられない。ここは俺に任せて船室の中へ」
なら最初からお前が率先して消せよ、とツッコまれそうなモノだが。後々彼に聞いてみたところ「シャツ一枚しか着てなかったからな。俺の刺激的な身体を見せてしまっては問題だ。女は一つの船に一人と決めている」とのことだった。ちょっとなに言っているか理解できなかったのは言うまでもない。
ザンツは操舵に集中していたため声だけしか聞こえていなかったが、男は彼と同年代ぐらいで鍛え抜かれた肉体をしていた。顔も良く歯を見せて笑う彼に女性は見蕩れている。
男は女性の上着を使って火消しを行い、その後焦げ目のついてしまった上着の代わりを島に着いたら購入するために街を回る約束を取りつけていた。そこまで狙ってのことなのだろうか。
ザンツは後ろでこんな大変な時になにやってんだとは思いながらも落雷を避けて進む。とはいえ落雷が多すぎた。異常気象とも取れる雷の雨に、父親譲りの操舵技術を持った彼も辟易し始めていた。
そんな時、甲高い鳴き声が空に響き渡る。巨大な鳥類の鳴き声のようだ。
一際大きい雷が落ちたかと思うとその中から雷で出来た体長十メートルはあろうかという巨大な鳥が姿を現した。
「サンダーバードじゃねぇか! 道理で雷が多いわけだ!」
空域内を彷徨う特殊な魔物。身体が雷で出来ているために通常の攻撃を無効化し、むしろ触れれば感電する。雷雲を引き連れて飛翔するため雲の流れなどの気象からでは予測し得ない突発的な異常気象を引き起こすのだ。
そんな魔物が今、ザンツの船の真正面に現れてしまった。突撃されれば大型の騎空挺であっても全焼しかねないエネルギーを秘めているため、取れる行動は逃げの一手しかなかった。
サンダーバードは一種の天災とすら呼ばれているのだ。
しかしいくら操舵の腕がいいとはいえ、騎空挺の出せる最高速度は鳥のそれに大きく劣る。それも相手が特殊な魔物ともなれば逃げるだけ無駄と言えた。
だが諦めるという性分ではない。
「全速前進! しっかり捕まっててくださいよ!」
ザンツはむしろ速度を上げてサンダーバードの方へと突っ込んでいく。
「ま、待ってくれ! サンダーバードになんて突っ込んだら死んでしまう!」
「サンダーバードに出会ったら突っ込まなくても死ぬので一緒です!」
「えぇ!? じゃあなんで自分から突っ込んで……」
ザンツの言葉に驚く乗客は、彼が笑っていることに気づいた。この窮地を前に、彼の操舵士本能が滾っているらしい。そしてその様子を、興味深げに見ている男がいた。
「貴重品だがここで使ってやる! くらえ、防電玉!」
錬金術の開祖と呼ばれる錬金術師が考案したとされるアイテムの一つで、ザンツが持っているとっておきの一つでもある。その名の通り雷を防ぐ効果を持つ障壁を築く。その玉を上空に向かって放り投げると障壁が展開され激しくなる落雷を防いだ。
障壁の効力が速攻、最短でサンダーバードから離れる。そういう目論見だったのだが。
サンダーバードは気が立っているのか、放電で船を落とせないと見るや自ら突進してきた。
「嘘だろ!?」
ザンツであってもサンダーバードの突進を避けることは不可能。障壁はエネルギー量が桁違いな本体の突進に呆気なく消えてしまう。
眩い体躯が接近してきて一貫の終わりを予感させられた。
……死ぬ――!
半ば確信に近い予感。それでも目を逸らさず操舵をやめなかったのが彼の性質を現している。
しかし。
「ふんッ!」
男がサンダーバードの前に躍り出て、その身体を
「「「はっ!?」」」
思わずザンツや他の乗客達の声がハモる。サンダーバードは強烈な拳を受けて吹き飛び、船から逸れて離れていった。
……雷を殴った!? いや、違ぇ。あいつ魔力を拳に纏わせていやがった。
ザンツはあり得ない事象を見て愕然とするが思いの外冷静に思考が回り答えを導き出す。操舵をしながらも甲板で仁王立ちする、雷の衝撃で上のシャツが吹き飛んだ彼と同年代ぐらいの男を見る。焦げ跡のついた肉体には鍛え抜かれた筋肉が光っていた。
一瞬呆然とする甲板だったが、今見た出来事を頭が理解し、乗客から黄色い悲鳴が上がる。しかし当の本人は一切動かない。不思議に思って近づいた乗客が、彼が気絶していると知り大慌てになる頃には嵐を抜けていた。
なんとか無事島へと辿り着いたザンツの船は、嵐に見舞われたが特に咎められることはなかった。それはおそらくサンダーバードを撃退してみせた彼の功績だろう。
不思議なヤツだった、とは思いながらも関わることはないだろうと思っていた。嵐のせいで船の修理が多少必要になったため一週間ほど滞在することになったのだが。
「やっと見つけた」
乗客の駄賃と修理費用を差し引いても赤字だな、と請求書を見て頭を掻いているところに声をかけられた。誰かと思ってみればサンダーバードを撃退した男だ。
「おう、あんたか。サンダーバードをぶん殴った時の怪我はもういいのか?」
忘れるわけもない。というか一週間滞在している中で噂に聞くことも多かった。
「ああ。それより、いい操舵の腕してるよな。ただの定期船の操舵士で終わるのは勿体ねぇ」
「ん?」
彼の言葉を怪訝に思い眉を寄せる。
「どうだ? いっちょ俺と、空の世界を旅してみないか?」
「……は?」
彼の誘いに、ザンツは呆然とした。
確かに空を旅する騎空士はいる。空域を跨いで拠点を持つ秩序の騎空団も存在している。だが航路の確保されていない島や未踏の地が多いため空域を越えなくとも危険は多い。
「……なんで俺が?」
「お前の操舵の腕に惚れた。落雷を見てから避けるなんて芸当、並みの操舵士じゃできねぇ」
「……」
飾り気のない率直な称賛に少し居心地が悪くなる。
「俺はもっと広い空を旅してこのファータ・グランデ空域外すら股にかける男だ。まだ見ぬ冒険やロマンが待ってるなんて、心躍るだろ?」
彼はいい笑顔で言った。ザンツは間違いなく彼がバカだと悟る。しかし得てして、天才よりバカの方が好まれる。
「……ご免だ。俺はしがない定期船の操舵士。危険な旅なんてしてられねぇよ」
「嘘吐け。お前、笑ってたじゃねぇか」
「――」
彼が即座に否定したことに、言葉を詰まらせてしまう。
そう、ザンツはあの時、天災とされるサンダーバードと遭遇した瞬間笑ったのだ。まるで困難に立ち向かうのが楽しくて堪らないとばかりに。
「だから、俺と来い。俺はこれから仲間を集めて騎空団を作り、空を旅する。未知の宝庫に飛び込むようなモンだ。――楽しくなりそうだろ?」
彼はまた笑った。ともすればうんと頷いてしまいそうなほどの魅力が備わっている。異性を魅了するモノではなく、人を魅せる笑顔だった。
しかし。
「……って、まだ仲間もいねぇのかよ!」
よくよく言葉を反芻してツッコんだ。
「そうだ。何分島を出たばかりだからな」
「そんなんで騎空団やるとかよく言えたな」
「やると決めたらやる。俺は俺のやりたいことを貫くだけだ」
「……そうかよ」
呆れればいいのか。ザンツはため息を漏らしつつも自分の胸の内でワクワクが踊っているのを自覚した。
「いいぜ、ついていってやるよ。ちゃんと楽しめればいいんだがな」
「当然だ」
だから、彼に興味が湧いたということもあり申し出を受けることにした。
「俺はザンツ。操舵士だ。あんたは?」
ザンツは目の前の男がどこまでやれるのかを試す意味も含めて組むことにして、拳を突き出す。
「イングヴェイ。それが俺の名だ」
彼――イングヴェイはそう告げて拳を突き合わせた。
「俺についてこい。一緒にこの空を制覇してやろうぜ」
「大口は実際制覇してから叩くんだな。まぁ、上等だ」
こうして彼らは出会った。これがいずれ伝説となる『伊達と酔狂の騎空団』始まりだった。
それからは瞬く間に時が過ぎていく。
ザンツの定期船で島を回りつつ資金と仲間を集め。
金が集まったところでカッコいい中型騎空挺を購入し。
仲間が五人を超えたところで改めて『伊達と酔狂の騎空団』を結成し。
更に勢いを増す中で数々の伝説を残し。
未開の地すら踏破し団長の女癖の悪さの恩恵で七曜の騎士が加わったことで空域すら越えてその活躍を全空に轟かせた。
その途中でザンツがとある女性に一目惚れしてなんとかハートを射止めたり、イングヴェイやザンツと同年代が中心となった騎空団と戦友になったり。
毎日が楽しいの連続で、いつしかそれはかけがえのないモノとなっていく。
しかしそんなかけがえのない旅路も、十年ほどで終わりを迎えてしまった。
楽しい日々が永遠に続くと思ってすらいた時、唐突に
ファータ・グランデ空域の中でも荒廃した空域と呼ばれる地域の近く。瘴流域に程近い場所でのことだった。
一度荒廃した空域に挑み、命からがら帰ってきたこともある彼らには慢心ではない自信があった。
例え瘴流域の近くで酷い嵐に見舞われようと、一切退くことなく目的地へ向かう。
しかしそんな彼らの勇み足が生んだのか、突き進む騎空艇の船底をなにかが叩いた。
「チッ! なんだ!? なにが起きた!?」
「クソッ! 団長、一時離脱する!」
「おう」
困惑する団員。ザンツは全く持って予想だにしていなかった事態に、一旦態勢を立て直すことを提案した。
『伊達と酔狂の騎空団』は大きくなりすぎてしまったため、最初に買った中型騎空挺では部屋が足りなくなってしまっている。なので中型騎空挺を追加で五隻買うまでになっていたのだが、攻撃があったのは団長やザンツの乗っている本船とも呼べる騎空挺だった。
「ザンツ! 下になんかいるってよ!」
「はあ!? こんな場所になにがいるって――」
他の船の団員から伝え聞いたらしい声に、船の下になにかいると言われても到底理解が及ばない。十年空を旅してきた彼らであっても聞いたことのない事態だった。
困惑し方向転換をしてなんとか得体の知れないモノから逃れようと動く最中も船底が叩かれる。なにかをぶつけられているのは間違いない。
「攻撃はできねぇのか?」
「無理だ! 銃は届くが傷一つつけられねぇ!」
なんとか攻撃しようにも対抗することができない。逃げるしかない。
だが逃げるよりも早く、船に綻びが生まれた。
「クソッ! 船体が軋んでやがる! てめえ戻ったら覚えとけよ! うちの騎空挺傷つけてくれた礼はしてやるからなぁ!」
ザンツは十年旅を共にしてきた相棒が壊されそうになっていることを受けて毒づく。
しかしそれは負け惜しみにしかならなかった。
衝撃がやんだかと思うと、一番の衝撃に船体が浮き上がり破壊音が響いて船底から甲板まで甲殻に覆われた触手が貫いてきた。
ザンツは呆然として声を上げることすらできない。
なんの偶然か、触手はザンツのすぐ右を上がってきたのだ。意識が持っていかれ一瞬で視界が赤く染まった。身体に力が入らず甲板に倒れ込む。
「ザンツ!!」
彼の名前を呼んだのは誰だったろうか。ザンツは自分の右腕が触手に持っていかれたことを意識する間もなく、意識を失ってしまう。
目覚めた彼を待っていたのは、右腕を失ったという事実ともう舵を握ることが難しいという現実だった。
騎空挺の操舵は片腕でできるようなモノではない。無事だった他の騎空挺に運ばれ治療を受けた彼の顔は、死人のようだったという。
信じたくはなかった。もう騎空挺の操舵ができないなんて。だが受け止めるしかない。『伊達と酔狂の騎空団』がこんなところで終わる騎空団でないと、誰よりも知っている彼は自ら身を引くことを決意した。
「……悪ぃな、団長。俺はもうダメみたいだ。俺と船は墜ちた。新しい操舵士を探して、頑張ってくれ」
本人はできるだけ笑って、普段通りに言ったつもりだったが。誰よりも騎空挺を愛し仲間達を乗せて空を飛ぶことを生き甲斐としてきた彼を知っているからこそ、見ての通り悲痛な状態よりも酷いとわかってしまった。
「いや、いい」
イングヴェイは団長としての決断を、団員と話し合って決めた決断を、彼へと告げる。
「俺はお前の操縦する騎空挺以外に乗る気はねぇ。だから、『伊達と酔狂の騎空団』はここで終わりだ」
きっぱりとした口調だった。ザンツにとってそれは、最高の賛辞であり同時に最悪の呪いとなる。
なんとか食ってかかろうとするが、揺るぎない様子にがっくりと項垂れる他なかった。
そして旅を終えた『伊達と酔狂の騎空団』は帰還する。
本船と操舵士の右腕を失ったことと、突然の『伊達と酔狂の騎空団』の解散。この二つは瞬く間に広まり関連性があるモノと噂された。
つまり、『伊達と酔狂の騎空団』を解散させた原因は本船操舵士のザンツである。
という結論が出回ったのだ。そういった噂は人を責める方へと変わっていき、ザンツのせいで『伊達と酔狂の騎空団』が解散したという風評となる。彼の騎空団の活躍は全空で楽しみにしている者がいるほどだったのだが、それが解散した原因が彼だという噂が立ったこともあり、ザンツは腕のいい操舵士として有名だったこともあって一気に石を投げつけられる人生へと転落していった。
旅の中で出会った嫁といつも帰ってきて聞かせていた旅の話を楽しみにしてくれた息子はザンツの変貌振りに驚いてはいたが温かく迎えてくれた。
しかし、それを拒んだのは彼自身だった。
相棒とも言える船と操舵士人生を奪われたという虚無感。
毎晩襲ってくるあるはずのない右腕の痛み。
街へ出ればヒソヒソと自分を中傷する声が聞こえ、あまつさえ石を投げつけられる。
酒を煽っても変わらず自分を蝕んでいくそれらに苦悩し、また気持ちを入れ替えることもできずに日々を過ごしていた。
結果として、精神的に追い詰められた彼は酒を飲んでモノに当たるようになり、遂には家族にも当たるようになっていった。
そんなことが続きなんとか宥めようとしてくれた妻の手を払っていけば、愛想を尽かされて当然だ。
ある日妻は息子を連れて家を出て行ってしまった。
彼が一人になってようやく精神が安定し始めたのは、騎空団解散から十年後のことだった。
その後家を捨て素性を隠して旅をする中で、ある研究者と出会う。
それが彼の人生の二度目の転機。
実験も兼ねて義手を作らせてくれないかという申し出を受けたのだ。
今のままでは生き甲斐もなく、しかし義手があればまた舵を握れるかもしれないと希望に縋るように、彼は申し出を受けて義手を手に入れた。
それから彼は中型騎空挺ではなく、フリーの小型騎空挺の操縦士として生計を立てるようになる。一言妻と息子に謝ろうとも思ったのだが、家を出て別の島に移る時に乗せていた騎空挺が墜落して死亡したとの情報を知ってしまう。
もう余生を過ごす他ないと決めて、それならと最期までせめて操舵士でいようと小型騎空艇を操縦し続けた。
元々未開の地からすら生還したような操舵士だ。小型騎空挺の操縦技術は超一流であり、素性を隠し乗客と関わり合いを持たないままフリーとしてやっていく中で有名になっていった。
そんな生活を始めたばかりの頃に、ファータ・グランデ空域を担当する七曜の騎士、黒騎士が現れる。そしてその黒騎士の専用騎空挺として契約を結んで欲しいと打診を受けたのだ。客と付き合いのない姿勢と操縦技術がいいという理由で採用され、まぁ光栄だし金払いがいいから受けるかというようなモノだったのだが。
ある時に、聞いてしまったのだ。
『伊達と酔狂の騎空団』として空を駆けた時に他の騎空団にいたオイゲンが、今また空の旅をしているということを。そしていつも乗せていた黒騎士がそのオイゲンの娘であることを。
十年くらい徹底して客の話に興味を持たず情報を漏らしてこなかったザンツではあったが、流石に耳を疑い興味を引かれてしまった。
アウギュステにいる妻が流行り病にかかってその治す方法を探すために方々を駆け回っていたという噂は聞いていた。更に妻の死に間に合わず、治療法を見つけて戻った時には娘もおらず妻の遺灰しか残っていなかったという。それが現在から十五年ほど前のことか。
そんな彼が再び旅をし始めた理由は、おそらく娘である黒騎士が原因だろうとは思っているが。
同年代のオイゲンが進もうとしているのだから、自分も過去に向き合わなければならないのではないか。
そう感じて、昔の団員伝手に聞いたかつての騎空挺のある場所を聞き、そこへ行くと決めたのだ。
そして道半ばで倒れた相棒を再び空に戻してやる。それを、願ったのだ。