「ほへぇ、強いねぇ全く」
動き出してからどれくらい時間が経っただろうか。
俺達が出入りに使った廃工場の最奥で、グラン達一行は機械の兵士のような姿をした星晶獣コロッサスと戦っていた。
それまでにコロッサスを起動させたバルツ公国を代表するザカ大公が操られているらしく、その弟子らしい少女が必死に説得しようとしたり。それでもザカ大公が正気に戻らないと見るや戦って目を覚まさせてやる! 的な流れになったりしていた。
その様子を「若いっていいねぇ」と思いながらこっそり眺めている俺。
ヤツらが戦っている広い場所の上にある廊下の奥に身を隠している状態だ。まだ連中の前に姿を現していないのは、コロッサスをヤツらが倒した後に登場して“ご挨拶”する予定だからだ。いきなり登場した方がインパクト強いから、とはドランクの言い分だったか。まぁ俺も印象に残る登場の仕方は悪くないと思う。なにせ俺の能力と因縁ありそうな相手だしな。
黒騎士の傍にはヤツらをここまで誘導したスツルムとドランクが立っている。オルキスは黒騎士の後ろで待機している状態だ。なにやら、無感情な少女にしか見えない彼女にも役目があるらしい。詳しくは聞いていない。
「あまり顔を出すなよ」
黒騎士に小声で注意されるが、俺としては貴重な他のヤツの戦闘を観れる機会だ。是非観察しておきたい。
「わかってる。だがいい機会なんでしっかり観ておきたいんだよ」
言って戦闘の観察に集中する。
コロッサスという星晶獣は、生物兵器としての姿ではなく完全な機械の姿をしている。黒い重厚な鎧に身を包んだ巨人、に見えなくもない。右手に持った巨大な剣の威力は抜群で、直撃を受ければ人が即死するぐらいの威力は秘めているはずだ。正直相対したくない相手と言える。しかも鎧というか外殻のせいで攻撃も通りづらい。厄介な相手だ。
対するグラン達は、俺が昨日見かけた少女ジータを含めて六人と一匹。事前に誰がどんなヤツかは説明を受けていた。
銀を基調とした鎧に身を包み青のマントを羽織る長髪の美女はカタリナと言うらしい。毅然とした様子で剣を振るう姿は正しく騎士。黒騎士曰く、彼女は元エルステ帝国軍中尉だそうだ。戦っている様子を見るに、防御、回復、攻撃とそつなくこなすタイプだな。見た目はまだ二十代だが、若くして中尉に上り詰めただけはある。
お次は銃を持った男だ。こちらも銀の鎧を着込んでいるが、先に言った通り銃を手に戦う。僅かに顎鬚を生やした黒髪の兄ちゃんだ。操舵士をやっているらしい。咥え煙草をしながら銃をぶっ放している。コロッサスの堅い鎧を貫通するほどではないが、前衛が攻撃されそうになった時顔に弾丸を当てて注意を逸らすなど、的確な射撃を行っている。今回決定打にはならないだろうが、彼の腕前は確かだと充分伝わってきた。
そしてさっき言った大公の弟子らしき少女。俺やグランよりも幼い少女だ。長い金髪を二つに結った褐色肌を持つ少女は、年齢に見合う小柄な体躯で杖を振るい魔法を使って攻撃している。回復もできるようで、ドランクより若いことを考えると将来有望なのは間違いなかった。俺も魔法を学び始めた身だから、少女の歳であそこまで自在に魔法を使えるというのがどれほどの才能か少し理解する。
グランとジータを除けばあと一人と一匹。その二人は後ろの方で戦闘を眺めているだけだった。一匹と呼ぶ方は羽の生えた赤いトカゲ……か? グランとジータと同じ故郷で過ごしたと聞いたが、なんとあのトカゲは人の言葉を話すらしい。びっくりトカゲだ。
もう一人の非戦闘員らしき少女は、白いワンピースを着た蒼髪の少女だ。魔法使いの少女と同じくらいの歳で、子供と言って差し支えない。
グランは今『ジョブ』で言う【ファイター】で戦っている。俺が見たところ元から【ファイター】なんだろう。俺の【シーフ】と同じ感じだ。なんの偶然か、青いパーカーの上に胸当てをしていて、その恰好だけを見ると俺が【ファイター】になった時そっくりだ。色は違うけどな。茶色い髪を振り乱して前衛を務めている。カタリナや操舵士の兄ちゃんと比べるとやや勢い任せの戦い方には見えるが、それなりに形にはなっているように思う。未熟者という点では俺と同じようなもんかな。
ジータも【ファイター】だ。彼女もグランと同じくデフォルトが【ファイター】らしく、昨日会った恰好と同じだった。勇ましく剣を振るいグランと共に前衛を務める姿は、昨日俺と楽しくお喋りしていたのと同一人物とは思えない。
さて、どうやってコロッサスを倒す気なのかねぇ。
俺は傍観者として、戦いの行く末を見守るのだった。
「グラン!」
ジータの緊迫した声が室内に木霊する。コロッサスの剣が真上から迫っていた。攻撃し着地したばかりのグランを狙って。
「させるかよ!」
剣を見上げたグランの顔が引き攣る中、銃声が一つ響いて横から刃へと弾丸が命中し軌道を逸らした。
「ありがとう、ラカム!」
無事回避できたグランは援護してくれた仲間に礼を言って、剣を振り切った後のコロッサスへと迫り剣を叩きつける。しかし彼の一撃では傷を負わせることができず、あえなく後退した。それは別で攻撃を仕かけていたジータも同じだ。
「くっ!」
「このままじゃ倒せない……っ!」
「どうする、グラン、ジータ! このままじゃ埒が明かねぇぞ!」
一旦距離を取る二人に、後ろからラカムが声をかける。カタリナとイオがそれぞれを回復させ、仕切り直す。
「こうなったら一斉攻撃で倒すしかない。でもそれにはあいつの動きを止めないと」
「それならあたしがやるわ」
グランの呟きを幼い魔法使いが拾う。
「イオちゃんが?」
「うん。あたしは師匠の弟子だもん。動きを止めるくらい余裕なんだから!」
ジータの不安そうな声を振り払うように強がって見せるが、イオの足は震えていた。それでも勇気を振り絞っているのだと悟った彼女は優しげに微笑んで、
「わかった。じゃあお願いするね」
勇気の後押しをした。
「グラン、アレお願い」
「わかった。――《氷晶杖》!」
ジータの声に応えたグランが右手を突き出しなにかを呼ぶ。すると光が手の前に現れて虹の結晶が出現する。更に結晶が四散して、一つの杖が姿を現した。それを掴み取り、
「ジータ」
彼女へと放る。それを受け取った彼女は杖を握り締めた。
「【ウィザード】」
そして杖を扱うことのできる『ジョブ』、魔法攻撃を得意とする『ジョブ』へと姿を変えた。黒いとんがり帽子に黒いマントを羽織った姿だ。腰に魔導書らしき本を提げている。
「来い――《輝剣クラウ・ソラス》!」
グランはまた武器を呼び出した。彼はそのまま剣を使うようだ。同じように出現させた剣は、透明な水色の刃を持つ両刃の剣だった。それを両手でしっかりと握り締めたグランは真っ直ぐにコロッサスを見上げる。
その横でジータは魔力を練り上げていた。
「よっしゃ! 俺が牽制する! 次は任せたぜガキンチョ!」
「ガキンチョって呼ばないで!」
ラカムが威勢良く言って、右手に構えた銃の銃身に火を収縮させる。
「――いくぜ。覚悟はできてんだろうな! バニッシュ・ピアーズ!」
渾身の一発が文字通り特大の火炎となって放たれる。流石のコロッサスも直撃を受けて怯みよろめいた。その隙に、
「あたしの魔法で師匠を笑顔にするんだから! これがあたしの本領発揮よ! エレメンタルガスト!」
イオが続く。杖を両手で思い切り地面に突き立てるようにして凍える冷気の魔法を放ちコロッサスの足下を凍てつかせた。凍らされてはコロッサスも動きを止めるしかない。しかし残る三人が飛び出そうとした時、体勢を崩した上で凍らされた不安定な体勢であっても右手の剣をできる限りの渾身で振り下ろした。
「くっ! 二人共、後は任せたぞ!」
苦し紛れな反撃であっても直撃を受ければ身体が爆散する。カタリナはコロッサスの剣の前で足を止めると二人を先に行かせた。そこで立ち止まらなかった二人は、おそらく彼女を信頼しているのだろう。
「我が奥義、お見せしよう! アイシクル・ネイル!」
凛とした声と共に剣を構えると、青の大きな剣が出現した。手に持つ剣を振るって青の剣をぶつけ、もう一振りすると二本目の青の剣が出現して一本目と交差するように剣をぶつかる。それでもまだ押される中、最後の一押しとばかりに突きを放ち他二本よりも大きな青の剣を放った。
そしてコロッサスの剣が弾かれる。代わりに相殺した衝撃を受けてカタリナの身体が後方へ飛んだ。
だがコロッサスは武器を持った腕を弾かれもう抵抗する手がない。
「グラン!」
「ああ!」
そこへグランとジータが飛び込んだ。
「行っけぇ! フローズンヴィジョン!」
「これでトドメだ! ノーブル・エクスキューション!」
ジータが手に持った杖を振るって特大の氷塊を頭上から落とした。
グランが剣を両手で握って上段に掲げ、剣から光の柱が発生したかと思うとそのまま振り下ろした。
二人の強烈な攻撃を受けたコロッサスは背中から倒れる。そして二度と動くことはなかった。
「コロッサスが……なぜだ。我らが悲願……」
コロッサスを起動された大柄のドラフ、ザカ大公が倒れたコロッサスを信じられない様子で眺めている。
「やった!」
「ああ、皆のおかげだ!」
無事コロッサスを打倒したグラン達は呑気に喜んでいた。しかし長い間使われていなかったからか、先の戦闘が激しかったからか、地下全体が大きく揺れる。
「く、崩れるぞ!」
屈んでやり過ごし天井からの落下物に注意する一行だが、落下物は彼らのところへ落ちていかなかった。そう、大公の頭上から落ちてきている。
「し、師匠!」
イオが悲痛な叫びを上げるも誰も彼を助けるには間に合わない、かに思えた。
落下してきた瓦礫を、なんとか上体を起こしたコロッサスの腕が防いでいた。
「こ、コロッサス……。そんな身体でなぜ儂を守って……」
ザカ大公が呆然とする中、それが最後の力だったのかコロッサスが力尽き倒れる。
「師匠!」
ザカ大公の無事を喜んでか、イオが駆け寄って抱き着く。もう彼に、抵抗する気力はないようだった。
「――コロッサス。あなたの想い、私が連れていきます」
優しい声が聞こえる。動かなくなったコロッサスから光が玉となった飛び出し、光を放つ蒼の少女へと吸い込まれていった。
「まぁ、こんなものか。面白いものが見られた。それに免じて帝国への不義は不問としよう」
そんな黒騎士の言葉に、俺はそういやこいつ帝国軍事顧問とかやってたな、と思うくらいだった。
「黒騎士!」
グラン達はこちらへと敵意を向けてくる。さてそろそろ俺の出番かね。
「案ずるな。今日は手出しをする気はない。私はな」
そう言って黒騎士が俺の方を見てきたタイミングで、俺は悠々と奥へ続く通路から歩み出る。
「あっ」
俺の顔を見てか、ジータが声を上げていた。
「よっ」
俺もこの場面にはそぐわないだろうが、にっこりと笑顔を浮かべて軽く手を挙げる。
「知り合い?」
「えと、ううん。昨日街の武器屋の前で話しただけだけど」
「ホントな。昨日はまさかあんたがジータだとは思ってなかったぜ」
本当に偶然中の偶然ってヤツだった。
「まぁいいや。あんたがジータってことはそいつがグランってことでいいんだよな?」
俺は二階の手すりからパーカーを着た少年を指差す。
「え、ああ、うん。僕がグランだけど」
戸惑ったようにそいつは頷いた。……真っ直ぐで、穢れを知らない目をしてやがる。きっと育ちがいいんだろうな、俺と違って。
「そうかいそうかい。実は俺が用あるのはてめえでな」
俺は言いながら手すりに足をかけてドランクに目で合図する。
「僕?」
「ああ、っと」
俺は跳んで手すりを越え一階へと下りる。
「ちょっと戦ってみたくてな。喧嘩売りに来たんだ」
俺の言葉を受けて、グランは怪訝そうに眉を寄せた。
「おい坊主、いきなり出てきてなに言ってんだ?」
ラカムが警戒するように銃を向けてきた。
「あー……。やっぱ普通に出てきたら乗ってくれねぇか。まぁそうだよな、操られたザカ大公の弟子さんの話聞いて手伝うようなお人好しだもんな。じゃあしゃあねぇ。――ドランク、頼んだ」
「はいはい、っと。人遣い荒いよね、君も」
俺の声に合わせてドランクが魔法を放つ基点となる玉を、少し離れた位置にいる大公とイオのいる方へと放る。
「な、なにを」
「わかってるだろ、人質だよ。てめえ以外が手を出したら、あの二人を殺す。戦わなくても殺す。どうだ、お前みたいなヤツはやる気出る状況だろ?」
「ふざけるな!」
俺の口にした言葉に対してグランが怒鳴ってくる。明らかな敵意が宿っていた。……そうこなくっちゃな。
「同感だグラン。おいクソガキ。調子乗るなよ。てめえのどたまぶち抜くぐらいできるんだぞ、こっちだって」
「そりゃこの距離ならな。ただ兄ちゃんはいい人そうだし、万が一にもあの二人を攻撃される可能性があるんなら脅しにしかなんねぇだろ?」
「チッ。そりゃてめえも一緒だろうが」
苛立たしげなラカムに対して、ああと少し納得する。
そういや俺はグランやジータと同じ年ぐらいに見えるだろう。いくら黒騎士とつるんでいるとしても仲間の少年少女と同じ年頃なら子供扱いされるのも当然か。
「……いや、違ぇよ」
俺は笑みを引っ込めて感情を表から消し、左腰に提げた銃を手に取ってそのまま二人の方へ向けると、躊躇いなく引き鉄を引いた。が、もちろん威嚇なので数センチ離れた位置を通り過ぎただけだったが。それでも効果はあったようだ。
「てめえ……!」
「次は当てる。そこにいる二人と同じ感性持ってると思うなよ、兄ちゃん」
今度はきちんと照準を合わせてやると、ラカムは大人しく銃を下げてくれた。
「……なんで、そうまでして僕と戦いたいんだ」
「その答えはこれから見せてやるよ」
俺はそう言って銃を提げ直し右腰にある剣の柄へと手をかける。
「ほら構えろ。お前がやる気にならないと、誰が死ぬかわかんねぇぞ?」
「……わかった。その代わり、他の皆には手を出すな」
怒りを滲ませて俺を睨んでくる。……いい目になってきたな。
「わかってるよ。俺はお前と戦えればそれでいいだけだ。もちろん、他のヤツが手を出さなければ、の話だがな」
「ああ。皆、手は出さないで」
グランが腰の剣に手をかけて一歩進み出る。
「し、しかし……!」
「安心しろ、騎士の姉ちゃん。別に俺はこいつを殺す気もねぇし、そんな力もねぇ。本当にただ手合わせしたいだけなんだよ。やり方については謝るが」
「……」
一応釘は刺しておく。敵の言うことなんて信じないだろうが。今もほら、怪訝そうな顔してるし。
「さて、そろそろやるか」
「……」
グランは剣を抜いて中段に真っ直ぐ構える。そんな真面目なヤツの虚を突くのは、俺の得意分野だ。しかも初見ともなれば尚更だ。
「いくぜ、グラン。驚いて呆けるなよ」
俺の声に一層強く剣の握るのを見ながら、
「【ファイター】」
俺が静かに呟くと対峙しているヤツと同じような恰好へ変化する。黒いパーカーに黒いズボン。胸当てだけは灰色だった。
「なっ!?」
俺も他に使えるヤツがいると知った時は驚いたが、それは相手も同じだ。信じられないモノを見たような顔で俺を見てくる。その隙に剣を抜いて駆け出した。
「呆けるなっつったろ!」
言いながら剣にオーラを纏わせ技の威力を大幅に上げる、
「ウェポンバースト!」
を発動する。
「う、ウェポンバースト!」
俺がなにをしようとしているのか察したらしく、戸惑いながらも同じように剣へとオーラを纏わせてきた。
そして接近してほぼ同時に、
「「テンペストブレード!」」
技を放った。
剣の一振りに合わせて竜巻が発生し、相手を切り刻まんと進む。偶然にも同じ技だったがためにぶつかり合って相殺された。
奥義と呼ばれる必殺の一撃を秘めた技は互角。戦いの途中で武器を呼び出したあれがなければやっぱりそんな実力差はないか。
「どうしたよ! そんなもんか?」
相殺後に接近して鍔迫り合いに持ち込む。
「くっ! どうして僕達と同じ『ジョブ』の力を」
「そんなもん俺が聞きてぇよ。俺も俺以外が持ってるなんて思わなかったんでな!」
鍔迫り合いは分が悪いみたいだ。どうやらこいつの方が俺より力が強い。
俺は剣から力を抜いて横に避ける。グランがそのまま前につんのめったところを右手で手首を掴んで前へと引っ張り足をかける。相手の勢いを利用したまま投げ飛ばした。
「ぐっ!」
「ほら立てよ、同じ力持ってんなら早々やられねぇだろ? それともこの隙に仲間撃たねぇと本気出さないのか?」
「やめろ!」
グランは激昂して立ち上がり、突っ込んでくる。それを受けつつ、
「そうだ。てめえの本気を見せてみろ!」
俺はちょくちょくグランを挑発しながら、しばらく戦い続けた。
グランの性格通りなのか愚直な剣は見切りやすく、油断ならないとはいえ窮地にはならなかった。代わりに俺はヤツを翻弄するように手足を使ったり剣を放り投げて逆の手で斬りつけたりと変則的な動きをしていた。剣技なんて小綺麗なもんじゃないが、今本気で殺し合えば俺が勝てる、かもしれないな。
そろそろ実力も見れたし終わるかと思っていたら、
「テンペストブレード!」
横槍が入った。竜巻が巻き起こり俺は切り傷をつけられ後退させられる。……クソッ。ジータか!
「ドランク!」
「ライトウォール!」
俺が二人を襲わせる前に、カタリナが宝玉と二人の間に障壁を展開する。示し合わせてやがったな。なら仕方ない。俺だって別に他のヤツは良かったんだけどな。
俺は密かに【ファイター】を解除して左腰の銃を手に取る。
「ドランク、そのまま二人を殺せ!」
俺は偽の指示を出しながら蒼の少女ルリアへと銃口を向けた。
「カタリナさん、すぐに二人を!」
「違う! 狙いはルリアちゃん!」
グランが素直に二人を見て、ジータが俺の行動に気づき声を上げるがもう遅い。腹部目がけて引き鉄を引いた。が、聞こえた銃声は
俺の撃った弾はルリアを襲う途中で別方向から来た弾丸に軌道を逸らされ、あらぬ方向へと飛んでいった。
「間一髪だったな」
肩に銃を担いで呟くのは、この中で唯一銃を主武器とするラカムだった。
「神業かよ、凄ぇな」
俺は驚愕の一発に称賛しか出てこない。ただこれでは勝負どころではないな。
「ダナン。そろそろいいか?」
黒騎士もそう思ったのか俺を呼んだ。
「ああ。悪いな、グラン。俺の我が儘に付き合ってもらって。またいつか会った時は殺し合いになるかもしれねぇし、続きはそん時だな。じゃあな」
俺は黒騎士に返事しつつ、できるだけ警戒心を抱かせないように明るく挨拶して銃をしまい駆け出す。
全力で走ってコロッサスを踏み台に壁へと跳躍し、更にその壁を蹴る形で二階の手すり下の床に手をかける。離れた足に勢いをつけて回し足が上がってくるタイミングで手を離した。俺の身体は上に飛び一回転して足から手すりの上に着地する。
「よっ、と」
「ひゅーっ。カッコいい登り方!」
「茶化すなよ。むざむざ防がれやがって」
「痛いとこ突くなぁ」
全然反省した様子がねぇ。こいつがこんなんだからいけると思われたんじゃないだろうか。
「悪くはなかったがまだ足りない。彼女を取り戻すにはまだ、な」
黒騎士が独りごちていた。彼女って誰だ?
「ではまた。……ルリア。そしてその主グランよ再会を楽しみにしている」
「……楽しみ」
黒騎士の横にオルキスが並び一行を見下ろす。どうやら別れの挨拶をするみたいだ。
「二人と因縁あるみたいだし、俺も次会う時を楽しみにしてるよ」
ひらひらと手を振ってグランとジータに別れを告げる。
「じゃあね。アディオース!」
「勝負は、次まで預ける」
ふざけたドランクに続きスツルムも告げたことで、俺達は踵を返しその場から立ち去った。
「おい! ちょっと待てよ!」
ラカムが呼び止めてくるが、無視だ。
そして入ってきた廃工場の入り口から出てきた。
「いやぁ、悪いな。お前らも俺の我が儘に付き合ってもらちゃって」
「ホントだよ〜。ってかさ、あれだと僕達まで極悪人だと思われるんだけど」
「いやお前らは割りと悪人だろうが。善人だと思ってたのか? その胡散臭さで?」
「胡散臭さってなに? ねぇスツルム殿酷くない?」
「確かにな。お前の顔は信用ならない」
「そっち!?」
スツルムにも肯定されて、本気でショックを受けたらしいドランクが肩を落とす。
「煩いぞ。さっさと戻って次の準備だ」
「え〜。そろそろ休暇欲しいんですけどボスぅ〜」
「黙れ刺すぞ」
「え、いやボスに刺されたら死んじゃいますねぇ」
スツルムと黒騎士では加減のし方が違う。地力もかなり違う。魔法による防御ごと多分イカれる。
「黙って従えってことだろ」
「ああ」
スツルムの要約に肯定する黒騎士。
「……ねぇダナン君。うちの女性陣ちょっと怖すぎない?」
「……なに言ってんだ。女なんて成長して逞しくなったらこんなもんだろ」
ドランクの耳打ちに小声で返していると、黒騎士がこちらを振り返った。
「なにか言ったか?」
「「いいえなんでもありません」」
思いの外強い気迫に、俺達は揃って姿勢を正すしかないのだった。