今日更新された新章は読みました。アウライ・グランデ大空域は気になっているところですからね。ただこれからのストーリー更新は大分間が空くそうなのでどうしようかというところ。とりあえず次の幕間で時間稼ぎをするしかないか? 次の幕間では『空蒼』を書こうと思っていますが、がっつり書く予定なので長くなるかもですね。ただまぁあくまで予定ですが。
船の墓場。
文字通りといった印象を受ける島だった。
墓場と言う割りには空が晴れているので明るい時間帯なら墓場というような陰惨な印象を受けることはない。
だが上陸する直前からわかっていたことではあるが、島中に船の残骸が積まれている。大型から小型まで漏れなく残骸、モノ言わぬ骸と成り果てた様子だ。俺はザンツの言う騎空挺の姿を知らないので上陸後彼についていくしかない。
上陸自体も相当厳しいモノで、少しでもズレれば今島にあるのと同じように俺達まで残骸となってしまうだろう。しかも全方位からの気流で船の残骸が集まってくる、という特性上島の周りに遮蔽物が出来てしまっていることが多いので、上陸も難しい。そこをザンツは僅かな間を抜けて上陸、気流に乗った勢いを地面を滑りながら殺して着陸させた。思いっきり揺れたので珍しく乗り心地最悪だったが、腕前のほどは流石と言うべきか。
周囲に集まっていく都合上、上陸さえしてしまえば足場が悪いというわけではない。島の中央の方なら住める可能性もあるが、何分この島は風が強かった。ティアマトでもいるんじゃないかってくらいの風が吹き荒れており、好き好んで住みたい場所だとは思わないだろう。あと作物が育たない。あと物資が届けられない。近くまで来て物資の入った貨物を気流に乗せて持っていくくらいだろうか。
島に上陸するとカードの放つ熱がより強くなっていた。やはりここに誰かいるみたいだ。
だが風の吹く音が聞こえるくらいで人の気配はない。……どっかの誰かさんみたいにいきなり襲いかかってこなきゃいいんだがな。
一人目が一人目だっただけに警戒せざるを得ない。一応俺も鍛えてきて気配には敏感になっているはずだが、なかなか遭遇することはない。カードの熱が強いままなので結構近くにはいると思うんだがな。
ザンツが目で自分の船を探しながら歩いていくのについていく。半壊した船が並ぶ中を歩いていく彼の心境は如何なモノか。もう修復不可能なほどの残骸と成り果てている可能性もあるので、そうなったら心が折れる可能性もある。なにより俺も騎空挺が手に入らない。できれば全面的に協力してやりたいところだが。
「……こいつだ」
ザンツがある時に立ち止まった。俺は彼の見つめる先を追って、その騎空挺を視界に入れる。
中型の騎空挺が横たわっている。損壊が激しくマストも折れた状態で、地面に着いた側の側面がボロボロになっている。だがその騎空挺が持つ風格はちっとも衰えていなかった。壊れていて尚ゾッとさせる歴戦の風格。思わず見入ってしまう。
「……まだ、魂は死んじゃいねぇってか」
ザンツも同じようなことを思ったのだろうか。彼は苦笑してそっと騎空挺に触れた。そこにどんな想いが込められているかは、他人では察することができない。少なくとも万感の思いではあるのだろう。
「こいつが、俺達が乗っていた騎空挺、アルトランテ。今一流の騎空挺職人と呼ばれているようなヤツらが結集して作り上げた、人が作った騎空挺の中での最高傑作と言っていい騎空挺だ。もちろん、身内贔屓が入ってることは否定しねぇけどな」
ザンツは少し嬉しそうに言った。
「ただ酷ぇ傷だ。修復不可能な傷を受けてねぇか確認するのが先だが、時間はかかりそうだな。坊主は適当にその辺を見ていてくれ。どうやら数日前に上陸した小型騎空挺があるみたいだし、もしかしたら生存者がいるかもしれねぇ。もし生きてたなら脱出を条件に協力してもらえるかもしれないだろ」
「おう。……ってか小型騎空挺なんてあったか?」
「ああ。俺達が上陸したところの近くにな。素人が操縦したんだか、乗り捨てたんだか知らねぇが船の残骸に突っ込んでやがったしな。真新しいからここ数日前ってところだろ。人の気配はなかったから既に生きてない可能性も高いが、念のためな」
「わかった。ザンツも船に気を取られて不意を打たれたりするなよ」
「おう」
小型騎空挺を奪って逃げられる可能性もあったが、ザンツが降りる直前でごちゃごちゃやっていたのと、物資を全て持ち出していた。おそらく盗難対策はしているのだろう。
もし賢者なのだとしたらClassⅣにも匹敵しかねない強さを持っているはずだ。もしかしたらもっと強い可能性もある。俺でも油断はできない。ザンツのおっちゃんが対峙したら確実に倒されるだろう。いくら元『伊達と酔狂の騎空団』団員だからと言っても年齢による衰えはあるだろうしな。
俺はザンツの方を気にしつつ、島を回ることにした。金目のモノは奪っておこうとか考えていない。
しばらく回っていて、いやぁ豊作だったとほくほくでザンツのいるところへ戻ったのだが。
「……」
ずーんという音が聞こえてきそうなほど落ち込んだ様子のザンツの小さな背中があるだけだった。結局賢者とは遭遇していない。おそらく向こうもこちらの様子を窺っているのだろう。カードの熱が若干弱くなったり強くなったりしているので、俺に近づかれないよう一定の距離を保とうとしているということになる。まぁ機会があれば接触してくるだろう。島を出る前にはなんとかしたいところではあるんだけどな。
「どうした?」
流石に声をかけざるを得ない。
「……いや、アルトランテなんだがな? 竜骨が逝っちまってたんだ。これじゃ直せねぇ」
ザンツは昔の話をしていた時よりも生気のない声で答えてくれた。答えるくらいの自我はあるらしい。
「竜骨?」
「そうだ。竜骨ってのは人体で言う背骨部分。騎空挺を構成する上でなくてはならない部分になる。それを取り換えちまったら、こいつはこいつじゃなくなる。それはもう、別の船なんだ」
ザンツの辛気臭い説明を聞き、事態は思っていたよりも悪いのだと判断する。……背骨が折れた騎空挺、か。ザンツの言う通りなんだとしたらもうアルトランテとしては空を飛ぶことができないということになる。
「……クソッ。まだこいつは死んでねぇってのに……」
悔しそうに言って、地面に胡坐を掻いたまま拳を打ちつける。なんとかしてやりたいが、俺じゃ無理か。流石に竜骨を直すなんて真似ができるわけねぇ……いや、待てよ?
もしかして、ワールドの力ならできるんじゃねぇか?
俺はふと思い至って顎に手を当て考え込む。
ワールドの力なら直せる。いや正確には直すんじゃなくて創り変えるんだが。折れた竜骨を素材に、折れていない竜骨に創り変えることが可能なんじゃないか?
俺はそう思って、アルトランテに歩み寄って触れる。
こうするとワールドの能力に付随する効果として、モノの分析が行われるようなのだ。おそらく新たな世界を創る時に今の世界を元にして創り直すからだろうとは思うのだが。これによって竜骨を創り直しアルトランテを修復することが可能かと導き出す――不可、か。これは魔力不足と言うより俺が使えるワールドの能力の度合いによる影響だろう。今の俺では船一隻に影響を及ぼすような創造は不可能ということか。竜骨だけなら可能なのかもしれないが、竜骨が折れて歪んだ船体まで修復しなければならないのでそうなると結果的に船体の全てを直す必要が出てしまうようだ。
「――困ってるみたいだね」
そこに女性の声が聞こえてきた。ローブのポケットにあるカードが熱く反応している。俺は振り返って声の主を見た。
銀髪のツインテールに赤い双眸をしたエルーンの女性だ。胸元の大きく開いたレオタード状の黒い衣服の上に、以前見かけたロベリアと同じデザインの、赤いケープのついた紺色のローブを羽織っている。高いヒールを履いているせいもあって俺より目線が高かった。
間違いなく美人だ。うちの仲間達も美男美女が多いのだが、そんなヤツらを見慣れている俺でも確かに目を惹かれるモノがあった。
「誰だ、あんた」
ザンツが警戒したように身構える。とはいえ立ち上がる気力はないのか座ったままだ。
「警戒しないで欲しいな。実はその、小型騎空挺に乗って別のところに行こうとしてたところで気流に乗ってそのまま、って感じだったんだ。着陸失敗して小型騎空挺も壊れちゃったからどうしようかと思ってたんだけど、まさかこんなところに人が来るなんてね」
賢者の彼女は朗らかな態度を崩さない。
「脱出するなら一緒に乗せてって欲しいなっていうのと、その代わりにちょっと手助けしてあげようかなって」
彼女はそう言ってちらりと俺を見てきた。……なるほど。話を聞いていて、俺がワールドの力でなんとかしようとしてることを知って交換条件を出してきたってわけか。そして俺とザンツからしてみれば、断れない。
「なに言ってやがる……?」
ただしザンツには俺の細かい事情まで伝えていないので、なにがなんだかわかっていない様子だ。
「……まぁ、交渉ってほどの余地はねぇな。断る理由がない」
わかっている俺は彼女を見据えてそう言った。
「良かった。はい、これ」
女性は一枚のカードをこちらに投げてくる。受け取ると、タワーとはまた違った絵柄が描かれている。おそらくこの絵柄が彼女と契約している星晶獣なのだろう。
「しょうがねぇか。脱出以外に、俺にできることなら頼みくらいは聞いてやるよ」
俺は言って、彼女に背を向けアルトランテに向き直る。もう一度騎空挺に手で触れて分析を行い、今度は修復可能になっていることを確認した。カードを入手すればすぐに力が解放されていくらしい。今回は前回と違って信頼を得たわけじゃないが、向こうも脱出するのが最優先と考えればいい取引か。
船全体の構造を把握。竜骨含む骨組みの欠損を確認。骨組みの修復を行うことで発生する歪みの修正箇所を提示。船体の破損部位を構造。折れたマストを基にマストを修正可能。
目を閉じれば脳裏に船の全体図が浮かび上がってくる。そして騎空挺を直すために必要な情報が頭に浮かんできた。便利な能力だ。彼女の渡してくれたカードのおかげで船全体を創り直すことが可能になった。俺の魔力も少し余るので足りない部分を同じ素材で補完しておこう。
そうすると頭の中に完全なアルトランテの姿が浮かび上がった。
ワールド最大の能力、
今ある船体が力によって全て金の粒子と変わる。
「お、おい! なにしてんだよ!?」
「邪魔しちゃダメよ。折角の機会なんだから」
慌てたようなザンツを、近くから声がする彼女が止めてくれたようだ。俺は集中して金の粒子を操り、俺の身体からも魔力を粒子として放出して、騎空挺アルトランテを構築させていく。
……さぁ、騎空挺アルトランテ。休憩時間は終わりだ。次は俺達を乗せて飛んでくれよ。
片面がほとんどなくなっていて傾いていた船体を補完して真っ直ぐに立たせ、ほとんど完全な状態で構築していった。
「……嘘、だろ……?」
ザンツの呆然とした声が聞こえる。出来上がった騎空挺に手で触れて分析し、以前と変わりない風格と魂があることを確認した。
「……よし。これでまぁマシになっただろ。とりあえずは飛べるはずだ。もちろん、腐った板やなんかは戻すだけの力がなかったから後で直す必要はあるだろうけどな。だがこれで、騎空挺アルトランテは飛べる」
俺は言ってザンツを振り返る――と俺より体格のいいおっさんが抱き着いてきた。
「マジかよ! 坊主凄ぇな! なんだったんだよ今の!」
先程とは打って変わって歓喜に満ちた声だった。
「痛ぇ、っての」
俺は言って、強めに腹部を殴りつけた。
「ぐふっ!? ……おい。割りと本気で殴りやがったな」
慌てて離れたザンツは腹部を押さえて呻いている。
「流石に疲れたんだ。喜んでないでちゃんと直ってるか確認してやれ。あとすぐに飛べるかどうかもな。それができてから、喜べよ」
「お、おう。そうだったな」
彼に「こいつ凄ぇドライだな」という目を向けられてしまう。だがぬか喜びさせてしまうよりはいいだろう。ちゃんと直っているとは思うが、操舵士から見てもそうかというところはまだ不安が残る。なにせあまり駆使したことのない能力だからな。ちゃんとできているかどうかは不明なのだ。
「良かったね、騎空挺が直って」
俺が小型騎空挺の方に戻って一眠りしようかと思っていると、賢者の彼女が声をかけてきた。
「ああ。あんたのおかげでな」
「どういたしまして」
彼女はにっこりと笑う。俺の行く先を遮るように佇んでいて、避けて進んでいいモノかと考えた。
「魔力を消耗しすぎて疲れたし、寝に行っていいか? 詳しい話とかも聞きたいところなんだが、流石に面倒だ」
「うん。一緒に行ってもいい? ここに着いてからあんまり眠れなくて」
「そこまで信用できるかどうかは別だが、まぁいいか。操縦できないように細工してるみたいだったし、俺を殺すつもりなら今狙えばそれで終わる」
「あはは、警戒心が強いんだね」
「初対面ならこれくらい普通だろ。ほら行くぞ、信用されたいなら大人しくしてろよ」
「はーい」
苦笑する彼女を連れて、乗ってきた小型騎空挺のところへ向かう。……うん、壊されてるとかもないか。扉を開けて中に入り、ローブを脱ぎ捨て固い胸当てを外してベッドに飛び込む。
「お疲れ様。……そういえばさっき頼みくらいなら聞いてくれるって言ってたけど、例えばどんなことならいいの?」
眠いというのに話しかけてきた。それほど気になること、だと思っておこう。
「……俺にできる範囲でのことなら、なんでも。やりたくないことはやらないけどな。あとできれば、あんたがやりたいことだったらいいな。その方が俺も手伝いやすい」
「私の、やりたいこと……?」
「ああ。なんかあるだろ。じゃあ俺はもう寝るからな」
「あ、うん」
少しだけ彼女の様子が変わったことには気づいていたが、疲労もギリギリだ。俺はとりあえず明日にしようと考えて意識を落としていった。