ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ちょい長めです。独自解釈を含みます。

感想で言ってくださった方がいましたが、
賢者は全員闇が深いか過去が重いです。ご注意ください。


悪魔の囁き

 目が覚めて最初に感じたのは匂いだった。

 

 甘い花の香りが鼻腔をつく。ん? と思って顔を顰めて目を開ければ、そこには自分の腕を枕にした恰好で銀髪のエルーンが寝転がっていた。じっとこちらを見てきていたのですぐに目が合ってしまう。目が合うとにっこり微笑んできた。……なぜベッドに。

 しかもロベリアと共通だったローブを脱いでいる姿のため扇情的だ。もしかしなくても誘っているのではと思いそうになるが、流石にオーキスやアポロに申し訳ないので浮ついた気持ちにはならなかった。

 

「……なんでいんだよ」

「だってベッドが一つしかないでしょ?」

 

 なんてこともないように言われてしまった。真意は全く読めないが、こんなことで絆される俺ではない。

 

「……まぁいい。早く退け、船の方見に行くぞ。ザンツのおっさんは?」

「私が寝るまで戻ってこなかったよ? 多分夜通し作業してるんじゃないかな」

 

 俺が言うと彼女はベッドから起き上がって軽く髪を整えかけてあったローブを羽織る。俺も起き上がって魔法を使い身体を清めた。彼女がじっと見てきたので同じ魔法をかけてやる。

 

「ありがと」

 

 そう言って笑う彼女は魅力的ではあったが、この程度では心が揺るがない。「どういたしまして」と適当に答えてから胸当てとローブを装着した。

 

「あっ。そういえば自己紹介がまだだったね。私はフラウ。知ってるとは思うけど、アーカルムシリーズの星晶獣デビルと契約した賢者の一人よ」

 

 思い出したように名乗る。彼女に今のところあいつみたいなトチ狂った様子は見受けられないが、さてどうなのか。あまり深入りはしない方が身のためのような気はするが、しっかりと協力を取りつけるならちゃんとした信頼を得る必要がある。……いやロベリアはもういいんだが。

 

「そうか。俺はダナン。ワールドの契約者候補だ」

 

 契約者、と断言できるような立場ではない。運がいい方だとは思うのだが今はまだ十人中二人としか遭遇できていない。先は長いのだ。

 

「うん、知ってる」

 

 彼女は頷いた。フラウはどうやら、ロベリアよりは話が通じるらしい。折角なので色々と賢者などについて話を聞いてみるとしようか。

 

「色々、賢者やなんかについて聞いてもいいか? 一人目は話の通じるようなヤツじゃなくってな」

「へぇ、そうなんだ。いいよ、ワールドの契約者なら多分隠し事をしなくてもいいだろうからね」

 

 フラウの答えで二つのことがわかった。

 まず、賢者全員がどうなのかは置いておいて、少なくともフラウはロベリアと面識がない。あんなヤツがいたら流石に覚えているだろう。集まりはないと考えた方がいいのかもしれない。

 次に、賢者に関係する者だけの機密情報がある。まぁこれは当然か。賢者という特定の相手と契約することで力を得ているなら、おそらくワールドの目的に従うような形で動いているのだろうが。なんらかの意味があるのだとは思う。

 

「賢者は十人いるって聞いたんだが、他の賢者との関わりはあるのか?」

「ううん。私が賢者やアーカルムシリーズで関係がある他の子は、精々ワールドぐらい。彼は他のアーカルムシリーズを従えている立場だから。残念だけど他の賢者の情報はないよ」

 

 これは先程聞いた印象とほとんど一緒か。連絡を取り合っているなら居場所を教えてもらうとかができたんだけどな。

 

「じゃあどうやって俺がワールドと契約しようとしてるってわかったんだ?」

「それはデビルを通じて、ワールドが契約者候補を見つけたっていう連絡をしてくるからよ。デビルはワールドと連絡を取り合うことができるみたい。だからタワーとその契約者があなたを推したっていう情報がワールドに伝わったんでしょうね」

「なるほどなぁ」

 

 ワールドはやはり他のアーカルムシリーズより上に位置しているようだ。だが俺はワールドと連絡を取り合う方法がない。賢者の居場所もわかりそうなモノだが、それを教える気はないのだろう。賢者と巡り合う運も必要ってことだと思っておくしかない。

 

「それにしても、本当に運がいいのねあなたって」

 

 そんなことを言ってフラウが一歩俺に近づいてくる。

 

「そうか?」

「うん。だって本当に、こんな場所で人に会うなんて思ってなかったもの。しかもそれが例のワールドの契約者だなんて。ねぇ、これって運命だと思わない?」

 

 前屈みになってこちらを覗き込んでくる。

 

「そんな大層なことじゃないだろ」

 

 俺は彼女の方を見ずに呆れたような声を出した。

 

「ただの偶然だ」

「ただの偶然にしてはできすぎてると思うの。人っ子一人いなくて、食糧も数日で尽きて、もうこのまま独りで餓死するしかないんだって思い始めてた時に来てくれて。しかもそれがワールドの契約者だなんて」

 

 ふふ、とフラウは嬉しそうに微笑む。そう考えれば確かに彼女の態度にも納得がいく部分もある。だが少し都合がいいような気がしなくもない。

 

「偶然も偶然だろ。ほら着くぞ」

 

 俺は言って真面目に取り合わず少し足早に騎空挺アルトランテの方へと向かう。

 

「……この方法じゃダメみたい。次は、どうすればいいと思う?」

 

 フラウが小声で誰かと話している声が聞こえた、気がした。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「ザンツー? おーい?」

 

 アルトランテの下へ行くとおっさんの姿がなかったので、声をかけているかどうか確認する。

 

「おーう。ここだここー」

 

 上から声が降ってきて見上げると、ザンツが手を振っているのが見えた。

 

「そんなとこにいたのかよ」

「悪い悪い。テンション上がってついつい徹夜しちまった」

 

 悪びれず笑うおっさんの顔は晴れやかだ。どうやら船の様子は問題ないようだ。

 

「で、騎空挺はどうだった?」

 

 俺が尋ねると、ザンツは笑みを深めて語ってくれる。

 

「坊主のおかげか竜骨は新品同然だし、大まかな骨組みは無事みてぇだ。破損してた部分も問題ない。ただまぁ所々腐ってたり直ってねぇ部屋があったりするし、錆びついた部分も取り換えねぇといけねぇ。メンテは必要だがちょっと飛ぶくらいならできるだろうぜ」

 

 流石に今の俺では完全復活とまではいかなかった。だが人が作ったモノなら人が直せるだろう。ガロンゾの職人達に任せればいいか。

 

「ならさっさと出航準備だ。騎空挺直すんなら、ガロンゾに向かう必要があるだろ」

「おう、そうだな。動力部もなんとか生きてるから、いつでも出発可能だぜ、団長」

 

 彼はにかっと笑って言ってくる。……よし。これで騎空艇と操舵士は確保できたも同然だな。

 

「じゃあ準備してくれ。小型騎空挺も持ち帰るんだろ? 運び込まないとな」

「おう。ちょっと手伝ってくれるか?」

「わかってるよ」

 

 これから俺の団の騎空挺になるかもしれない船だ。手伝うのは吝かでもない。

 

「あ、ごめん。ちょっと彼を借りてもいい?」

 

 しかし、そこにフラウが口を挟んできた。

 

「ん? ……おう、わかった。頑張れよ、ダナン」

 

 なにを勘繰ったのか、ザンツはニヤニヤしながら俺にそんなことを言ってきた。……なに想像したんだか、あのおっさんは。

 呆れつつもどういうつもりだという視線をフラウに送る。彼女は目を合わせて微笑むと、

 

「ちょっと来て。二人きりになりたいの」

 

 彼女は誘うように手招きする。怪訝に思いながらも断りはしない。本心が聞けるならそれに越したことはないからだ。賢者はかなり強いみたいだが、渡り合うくらいの実力は持っているだろう。

 彼女についていくとアルトランテと小型騎空挺から離れた位置で立ち止まった。少し開けた場所だ。

 

「……あなたはなんでワールドとの契約を受け入れたの? ワールドの目的は自分に都合のいい世界に創り変えること。契約者なんて自分の目的を達成するための道具としか考えていないようなヤツよ。それとも彼の目的を知らないだけ?」

 

 フラウは振り返ると妙に真剣な顔で尋ねてきた。……ふむ。どういう腹づもりかは知らないが、隠すようなことでもないか。

 

「俺はあいつの目的に賛同も否定もしねぇよ。俺だって世界のことなんかどうだっていいし、この世界が消滅しても構わない。ただまぁ、一部生きていて欲しいヤツらはいるから、そいつらのことは守るつもりではいるけどな」

「ふぅん。もしかしてワールドにその人達だけは新世界に連れていってやるとでも言われた? だとしたら嘘だよ。ワールドは都合のいいことを言うだけで、実際には行わない」

「ま、だろうな。あいつが自分の目的に協力してくれた契約者とはいえ義理立てをするとは思ってねぇ」

「だったら……」

「そん時は俺がワールドを殺す。または俺ごとワールドを殺す手筈を整える」

 

 なぜ急にこんな話を、と思わないでもなかったが正直に答えてやった。俺の答えにフラウが少し驚いて目を見開く。

 

「……なんでそこまでするの?」

「色々と事情があってな。星晶獣でも利用しなきゃ俺はこの先詰むかもしれねぇ。だったら利用させてもらうさ。あいつが俺を利用するってつもりならな」

「……そう」

 

 オーキスやアポロには狙われる事情がある。彼女達を狙うヤツを撃退し続けるためには、もっと力が必要だ。俺はなにせ、弱いからな。

 

「――本当に残念。あなたが素直に堕ちてくれればこんなことする必要はなかったのに」

 

 あん? と聞き返す前にフラウが動いた。瞬く間に接近し脚を振り被っている。……チッ。そうきたか。

 

 俺は咄嗟に後方へ跳び回避する。しかしあまりの速さに彼女の爪先が鼻を掠めた。細脚から放たれたとは思えないほどの威力なのか突風とも思える衝撃が来て目を細める。

 

「へぇ? 凄いね。今のを避けるんだ」

 

 フラウは軽やかに着地して感心したように言ってくる。……今の動き、ただ者じゃねぇな。とりあえずヒール履いたヤツの動きじゃねぇぞ。これは苦戦しそうだ。

 

「……だから言ってるだろ、俺はまだあんたを信用してないって。で、なんのつもりだ? 俺を殺したらワールドさんに怒られるんじゃねぇの?」

 

 俺は腰を低くして身構えつつ括りつけているパラゾニウムを手に取った。

 

「大丈夫、殺すつもりはないから。ただちょっと、力づくで言うこと聞かせようっていうだけ」

「それでも充分だと思うんだがな。……俺に言うこと聞かせてなにさせるつもりだ?」

「ワールドの力を使って、小さくてもいいから私の言う世界を創らせる。どうせワールドは私達の要望なんて聞いてくれない。だったらその契約者を手駒にすればいいってこと」

「なるほど。それでやたら誘惑してきたってわけか」

 

 納得がいった。道理で都合がいいと思ったんだ。まぁ、今までの経験が俺を押し留めてくれていた部分もあるだろうが。

 戦闘となることを考えて肩に担いでいた革袋を下ろす。

 

「……じゃあしょうがねぇか。全力で抵抗させてもらうぜ。俺は賢者も利用させてもらいたいんでな。悪いがその頼みは聞いてやれねぇなぁ」

「そう。じゃあしょうがないね。ちょっと痛いけど許して……ねっ!」

 

 主張は決裂した。フラウは言いながら地面にヒビが入るほど強く踏み込んで瞬時に距離を詰めてくる。

 

「バニッシュ」

 

 蹴りが当たる直前で彼女の背後に移動しパラゾニウムを首筋目がけて振るった。しかし身を屈めて回避され、脚を戻して振り向き様に回し蹴りを放ってくる。脚の長さを考えスウェーでギリギリ避けてみせると彼女が楽しそうに笑うのが見えた。

 

「あはっ! いいわ、あなた。私の蹴りを見切れるなんて!」

 

 戦闘狂のような歪んだ楽しさではない。ただ純粋に戦うことが楽しいのだと言うように笑い、更に攻撃を苛烈化していく。回避に専念することでなんとか直撃を逸らすことはできたが、防御しても受けた腕が痺れるくらいの威力は持っていた。途中踵落としをしてきたのだが、その踵落としを受けた地面が陥没したくらいだ。一撃でも諸に受けたら負けと見ていい。

 しかし、直撃はしていなくてもこちらの体力を削ってくる。

 

「……チッ」

 

 五分もしない内に、俺は傷を増やし呼吸を乱していた。

 

「うん、あなた強いんだね。でももうおしまい」

 

 フラウは苛烈な攻撃を仕かけてきていたというのに全く息を切らしていない。反撃の隙もなかったので傷一つない状態だ。あれでも結構強かったと思うのだが、おそらくまだ本気じゃないってところか。俺をうっかり殺してしまわないようにある程度手加減していると思われる。

 

「はぁ……。ホント、賢者ってのは一筋縄ではいかねぇな」

 

 俺は言って構えを解きパラゾニウムを腰にしまう。

 

「諦める気になってくれた?」

 

 フラウは悠然と微笑む。だからこそ、俺はニヤリと笑ってやった。

 

「バカ言え。これからだろうが。いくら鍛えてるとはいえ、流石に『ジョブ』なしじゃこれが限界だしな」

「……?」

 

 『ジョブ』を使わずともどれだけ戦えるようになったのか、を試す意味もあったのだが賢者は強いので手も足も出なかった。しかもまだロベリアのように星晶獣が手を出してきていない。ここから更に強くなるということを考えるともうここらが限界だろう。

 

「いくぜ、【オーガ】」

 

 俺は言って『ジョブ』を発動する。ClassⅢだ。ClassⅣの【レスラー】でもいいんだが、あれはどちらかというとパワーに重きを置いた『ジョブ』だ。彼女のような速い相手には【オーガ】くらいの身軽な『ジョブ』の方が戦いやすい。

 

「……」

 

 フラウは衣装の変わった俺を怪訝に思ったのか警戒するように目を細めていた。そこへ、俺は一気に接近し拳を突き出す。

 

「っ……!」

 

 不意を突く形になったはずだが回避される。それでも驚かすことはできたようなのでそれでいい。

 

「このっ!」

 

 フラウは体勢を即座に立て直して蹴りを放ってくる。俺もそれに合わせて蹴りを放ち、思い切りぶつけてやった。どちらかが弾かれることもなく、蹴り同士がぶつかり合い一瞬停止する。

 

「……やるわね」

「そりゃどうも」

 

 一言交わしてから、フラウはどうやら余計に楽しくなったのか、攻撃を激化してきた。『ジョブ』なしでも一応見えてはいて、それがClassⅢになったことで身体が追いついていき対応することができている。蹴りを受ければ地面が大きく陥没するほどの威力でも充分に戦えている。

 互いに傷を増やし、互角の戦いを繰り広げていた。

 

「あはっ。本当に凄い。私、全力なのに。互角だなんて。ワールドの契約者に選ばれたのは伊達じゃないってことね」

 

 フラウは心底楽しそうに笑う。邪気のない純粋な笑みだった。

 

「でも次は、勝てないと思うよ? 今の内に降参しといたら?」

「聞かないってわかってるだろ」

「……そうだね。でも本当に、これならあなたが勝つ道理がなくなるから」

 

 フラウは首に提げた赤い宝石が埋め込まれたようなアクセサリーに触れる。

 

「私とあなたは互角みたいだけど、決定的に違う点がある。それはあなたがワールドと本当の契約を結べていなくて、私がデビルの契約者ということ。……最後通告よ。大人しく従って」

 

 彼女の触れている首飾りから赤い光が零れている。……いよいよか。

 

「上等だ、かかってこい。お前がなにをしようと、俺はそれを超える」

 

 勝算はあまりないが、いつも通り不敵に笑って答えた。誰かの言いなりで動くなんて俺らしくもない。旅を邪魔させるわけにはいかねぇんだ。なら、徹底抗戦といくしかないだろう。

 

「そっか、残念。じゃあお望み通り、私達の力で相手をしてあげる。――来て、デビル!!」

 

 フラウは少しだけ寂しそうな顔をすると、自らと契約している星晶獣を呼ぶ。

 首飾りの光が強くなり、虚空に魔方陣が描かれた。その魔方陣から巨大な黒い腕が出現する。魔方陣五つの内四つは腕が出てきて、残り一つに本体と思われる身体部分があった。魔方陣から上体だけを出し腕の先を魔方陣に入れたままの恰好となっている。本体を見るに、悪魔と呼ぶのが適切だろうか。黒い身体に捩じれた角を持つ異形。顔部分は赤くヒビ割れたようになっているだけだった。

 

 デビルを放った炎がフラウの両脚に纏われる。彼女自身も強化されるようだ。

 

 ふと彼女の姿が消えたかと思うと、眼前で脚を振るフラウの姿があった。……クソ、目で追えてねぇ……!

 なんとか腕を掲げて防御したが、そんなことは無駄だとばかりに吹っ飛ばされ、周りにあった騎空挺の残骸に突っ込んでいった。

 

「……ごほっ、ぐっ」

 

 咳き込んで吐血し、一撃で折れて焼け爛れた右腕を確認して彼女の蹴りの威力を悟る。……クソ、一撃でこれとか俺が回復使えなかったら確実に死んでるぞ。

 

 『ジョブ』をClassⅣの【セージ】に変えて回復させ一旦解除する。……いや文句言いたくはねぇけど【セージ】で人前に出るの嫌なんだよ。しかしどうするかな。ClassⅣを使うのは確実としてもどの『ジョブ』ならあいつに対抗できる?

 

「まだ無事みたいだね」

 

 しかし俺には考える時間すら与えられない。俺が突っ込んで開けた穴の方にフラウが佇んでいた。デビルも彼女についてきている。

 

「……はっ。余裕はねぇよ、残念だがな」

「それでも生きてるってだけで凄いと思うよ。それに、傷も治ってる」

「そうかよ。バニッシュ」

 

 俺は即座に移動し革袋の下へ行く。俺が普段持っているのは銃と短剣だけだ。他は入れてあるので取りに行く必要がある。……対抗できそうなのは、同じく肉弾戦を得意とする【レスラー】。だが【レスラー】はダメージを受けながらカウンターをするタイプだ。あの一撃の重さと軽やかな動きを考えるとカウンターができるかどうか、またカウンターが当たるかどうかという懸念が残る。

 となると他の『ジョブ』がいいのだが。

 

「【ウォーロック】」

 

 俺は考えた末に最初ジータが獲得した魔法中心の『ジョブ』を発動する。グランとあまり服装に変わりがなく、黒いとんがり帽子にマントという恰好だ。

 手には取り出したブルースフィアを持っている。

 

「また新しい姿? 面白いね、ダナンって」

「僕としても不思議に思ってるんだけど。因みに君のそのデビルって、前に遭遇したタワーとは違って魔方陣から出てるよね。それは悪魔が召喚されるモノとしての認識があるからなのかな?」

「……? 衣装だけじゃなくて性格も変わるの? 変な能力」

 

 口調が変わり普段俺が興味のないことでも口にしてしまう。【ウォーロック】は魔法に関連する興味を持つ。そのせいで戦闘中余計なお喋りがあるのがあまり好ましくないと思っている。

 

「さてと、次はこんなのでいこうかな」

 

 俺は言って、ブルースフィアを掲げフラウに向けて落雷を引き起こす。

 

「デビル!」

 

 フラウの声に呼応してデビルが一本の腕を上に向け雷を受けた。

 

「やるね。じゃあ、どんどんいくよ?」

 

 俺は魔法を次から次へと放っていく。火焔弾を放ち、氷塊を落とし、地面を盛り上がらせて挟み、風の刃で斬りつける。片手間に自分の周囲に不可視の障壁を作っておけば、フラウは一気に俺へと攻撃を届かせることができず、また動こうにも魔法が次々と放たれているため対処に追われる。フラウの速さを考えた上で魔法を使っているので逃げ道を狭め確実に当たるところで高威力の魔法を叩き込むような戦い方をしていた。

 立ち回りのおかげもあってか戦えている状態だったが、フラウは迫り来る魔法を蹴りで打ち落としながら火炎を滾らせて舞っている。その表情は心から楽しそうに見える。それだけは嘘偽りない彼女の本心だと思えた。

 

「ふふっ! やっぱり楽しい……! 正真正銘の本気、いくよ!」

 

 わざわざ宣言してくる辺り、俺となぜ戦っているかも忘れてしまっていそうだ。

 

「来なよ。受けてあげる」

 

 俺が言うと、フラウは高揚したように髪の毛を逆立てる。

 

「いいね! これを受けられたらあなたの勝ちでいいよ。――全てを焼き尽くす悪魔の業火よ! この私の力となれ!」

 

 フラウは言うと大きく跳び上がる。いつの間にか腕を出していたデビルがフラウの全身を自らの炎で包んでいく。灼熱の炎に大気が揺れ、俺の口の中も乾いていった。そのまま上空から噴射する炎で加速をして突っ込んでくる。

 

「パワーコンフラグレーションッ!!!」

 

 直前で左脚を高々と掲げ、渾身の踵落としを叩き込んできた。

 

「……【スパルタ】。ファランクス」

 

 俺は相殺ではなく防御を選択。

 兜に胴を覆う鎧。籠手に脚甲と完全防備。にしては袖がないのだが、全身を黒い鎧で包んでいる。兜の頭に鶏冠のような飾りがあり、マントを羽織っていた。それらは灰色だ。武器は持っていなくとも衣装と一緒に大きな丸い盾が右手に現れる。それさえあれば攻撃を受けるには充分だ。盾を掲げ障壁を展開する。

 

 直後フラウの渾身が叩きつけられた。

 

 爆ぜるような轟音が響き呆気なく障壁が砕け散る。フラウの踵が盾に当たり細脚とは思えないほど重い衝撃が襲いかかってくる。視界が業火で真っ白に染まり全身を炎が焼き焦がした――。

 

 それでも尚、俺は意識を保てていた。

 

「……ふふっ。本当に耐えちゃった」

 

 地面は大きく抉られ残った部分も融解してぐつぐつと赤く煮立っている。そこに疲労した様子で佇むフラウは驚いたように、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

 

「……耐えたってほど立派なモンじゃねぇだろ」

 

 俺は乾き切った喉で掠れた声を発し、腕を下ろす。『ジョブ』は自然と解除された。

 

「ううん。凄いよ、あなたは。まさかデビルの力を借りてまで倒せないなんてね」

「このまま続けてたら俺の負けだったろうが」

 

 吐き捨てつつ、傷を治すために【セージ】になる。

 

「えっ? なにその兎耳。可愛いね」

 

 フラウが興味を示してカチューシャについた耳を触ろうと手を伸ばしてきた。……だから嫌なんだ。

 

「ふふ、ありがとう。ヒールオール」

 

 柔らかく微笑して回復を唱えてフラウごと回復を行う。フラウから身を引きつつ『ジョブ』を解除した。

 

「あっ……」

 

 触れなくて残念そうな顔をし手を引っ込める。【セージ】の恰好は兎耳のカチューシャにスーツとマントという恰好なのだが、グランとジータは色が白で俺が黒となっている。

 

「なんで私も回復したの? 殺すつもりはなかったけど、半殺しぐらいにはするつもりだったんだよ?」

「俺はお前ら賢者に協力を取りつけるのが目的の一つだからな。それに、お前は戦いが楽しくて仕方がないという顔だった。とりあえず、今のところそれだけは本心だとわかったからな。その分の信用だと思ってくれ」

 

 俺を誘惑してきたのは手駒にするための演技だとしても、今の戦いは本心から楽しんでいた。それこそ俺に勝って目的を達成することすら忘れて。

 

「……そっか。なんだ、結局デビルの言う通りにしても上手くいかなかったのね」

「ああ、途中誰かと話してたみたいだったのはデビルと会話してたからなのか」

「聞かれてたんだ。そう、私はデビルの言う通りにあなたを誘惑しようとしていた。デビル達はワールドに創られた星晶獣らしいから絶対服従なんだって。でも私を通してあなたを手駒にすればワールドを意のままに操れる。そう思ったんでしょうね」

「ふぅん」

 

 なるほど、悪知恵が働くと言うか。

 

「で、お前の目的は?」

「私? 私の目的は言ったでしょ? 私に都合のいい世界を創ってもらうこと。……この世界は醜いもの。ならそんな醜いモノのない世界に、私は行ってみたい」

 

 神妙な表情でフラウは言った。彼女がそう思うに至る経緯は知らないが、そう思うだけのなにかがあったのだと察することくらいはできた。

 まぁ俺も人のことは言えない。なにせ貧しいクソみたいな場所で育ってきた身だからな。今もそう思っていないのは優しさに出会ったか、そうでないかの違いくらいなモノだ。

 

「それには賛成だな。この世界には醜いモノが多い」

 

 フラウは肯定されるとは思っていなかったのか、少し驚いたような顔で俺を見てきた。

 

「俺の育った街はマフィアが牛耳っててな。目に入って気に入らなければ殺され、目に入って売り物になりそうなら奴隷として売り出される。いいモノは全てマフィアのモノになり、俺みたいな雑魚は腐ったゴミか虫やなんかを漁るだけ。そんなところで育ってきたんだ。別にこの世界が綺麗とは思わねぇよ」

「そう、なんだ。でも私と違って世界を創り変えて欲しいとは思ってないみたいだけど、それはなんでなの?」

「……世界が醜いだけじゃないと、知っちまったからな。ここには優しさがあるんだって知った。だから俺は、世界を創り変えてこの世界を消すことには完全に賛同できない」

「へぇ? もしかして、それが私の誘惑に乗らなかった理由?」

 

 俺が言うとフラウは面白がるように尋ねてきた。

 

「まぁ、そんな感じだ」

「ふぅん。私、一応なにもしなくても男の人から声をかけられることが多いくらいなんだけど?」

「それは外見の話だろ。俺は、その人の内面に救われたんだ。ただ見た目がいいだけのヤツに靡いたら……多分処されるな」

 

 言っていて特にオーキスとアポロからお仕置きされる様を浮かべそうになり、身を縮込ませる。あいつら怒らせたらヤバい。命が危うくなる。

 

「そうなんだ。意外と尻に敷かれるタイプなのね」

「煩ぇよ」

 

 尻に敷かれるとかじゃなくて、あいつら怖いんだ。特に怒らせると。実際にはナルメアがあれなのだが彼女も同様である。

 

「……あなたになら、いいかな」

「ん?」

 

 ぽつりと呟いたフラウの顔を見やると、彼女は少しだけ柔らかな表情をしていた。

 

「私の昔の話。信用してもらうには、自分を出すのが一番でしょ?」

「まぁ、な。だがそうやって俺の同情を誘う策という可能性も否定できないな」

「ふふっ、そうだね。でも話すよ。私がただ、聞いて欲しいだけの話だから」

 

 そう言ってフラウは、自分の過去について語った。

 

 彼女を語る上で必須なのが、彼女が持つ圧倒的な力と圧倒的な魅力だそうだ。

 デビルを呼ぶ前の、今の俺のClassⅢと互角なのが彼女単体の力だそうな。だとしたら相当な力だろう。それこそ、一般人に紛れ込んでいたら異常と思われても仕方がない。本気の踵落とし一発で地面が陥没するなんて、一般市民に紛れていたら畏怖される可能性も高いだろう。実際、彼女はそうだった。

 そして二つ目の魅力。これは万人に好かれる魅力ではなく、男を誘う類いの魅力のようだ。最近は普段フードを被って顔を隠しているそうだが、素顔を晒していると男が言い寄ってきて仕方がないらしい。まぁそれは俺も男なので理解はできる。

 

 問題だったのは、彼女の魅力が同じ女性には通じないという点だったのだろうか。例えば彼氏ができても彼女を見ればふらふらとついていく。そんなことが繰り返されれば嫉妬を買うのは当然の流れだ。力も強く男を魅了する美貌を持つ、なんていい嫉妬の的だろう。結果として彼女は心ない言葉を投げかけられ、両親からも化け物と呼ばれてしまう。男共はそんなことどうでもいいとばかりに彼女の身体を欲した。

 フラウはそんな彼らの嫉妬などの感情を、全て受け入れたという。なぜなら彼女はそんなことを言ってくるヤツらであっても愛していたから。

 

 だが彼女が受け入れることもあって、「あの子あんな罵倒されてるのに変わりなく話しかけてくるのよキモーい」と言われ始めるといったことも起こったようだ。まぁ、だったら嫌がってやめてと叫べば良かったのかと言われたらそうではないのだろう。

 人というのは自分の上にいる者を引き摺り下ろし、自分の下にして優越感を得ることに快感を覚える生き物だ。素直に嫌がったら嫌がったで調子に乗って苛烈化するだろう。どうにかするには戦うか、逃げるかするしかない。

 彼女は受け入れたから、なにも変わらなかった。

 

 しかしそんなフラウにも一人だけ友と呼べる人物がいたらしい。彼女を遠ざけず、罵倒せず、対等として見てくれる友達が。

 だがそんな彼女もある日突然いなくなってしまう。

 

 話を聞いた限りでは「あなたのせいよ!」とかそんなことを言われたらしい。どうなったかはフラウの知るところではないので話を聞いた俺の推測になるが、その友達は殺されたか逃げ出したかのどちらかだろうとは思っている。

 前者は簡単だ。極上のフラウを最底辺に落としたいのにその友達がいるせいで心が保たれてしまう。だからその友達を殺した。殺すつもりがあったかどうかはわからないが、結果的に殺された。

 後者はフラウの友達だからという理由で嫌がらせを受けていたのが嫌になった可能性。フラウはその友達がいることで心の支えにしていたようだが、その友達に果たしてフラウから見たその子と同じような存在がいたのだろうか。いなかったのだとしたら、辛くなって逃げた可能性はある。あと嫌がらせを受け続けた結果「フラウのせいで私がこんな目に」と思ってしまう自分が嫌になったとか。

 まぁそれは本当に友達だったらの場合だ。フラウがそう思っているだけの可能性も、なくはないからな。

 

 唯一の友達がいなくなり、変わらず周りから罵倒され下卑た欲望を向けられていたところに、デビルは干渉してきたらしい。

 

「……友達がいなくなって、弱っていたとはいえ私は悪魔の囁きに耳を傾けてしまった。『私は悪くない』、『私を認めてくれない世界が悪い』って」

 

 そう陰りのある表情で語るフラウ。

 

「いや、俺も多分そうやって言うぞ」

「え?」

 

 デビルは利用するためだったのかもしれないが、その言葉自体が間違っているとは思わない。

 

「フラウはただそこにいただけだ。周りがとやかく言ってきやがったのが悪い。フラウが悪いってんなら、それは生まれたこと自体を否定することになるからな。それは違う。そんな人間は、いない」

 

 俺はやけに強調するように告げた。……生まれてきたことが間違い、か。もしかして俺は、()()()()()()のか?

 

「ありがと、優しいんだね」

 

 フラウに声をかけられ頭に引っかかったことを振り払う。

 

「そんなんじゃねぇよ。ま、とりあえず俺もデビルと同じようなことを言わせてもらうが、周りが悪いんだから遠慮しなくていい。普通に紛れて生きるより、自分本意に生きた方が楽しいだろ。向かってくるモノには容赦しない、いいじゃねぇか。俺は優しくねぇからな。敵は殺すし、手段は選ばない。世界は醜いんだから、それでいいんだよ」

「……本当に、悪魔の囁きみたい。私のやること肯定して」

「ただ一つだけ、デビルの言いなりになるのはいただけねぇな」

「うん、わかってる。ダナンの言う通り、自分のやりたいことに従おうかなって思ってるよ」

「ならいい。精々道違えるなよ。俺は別に賢者からカードを得ろとは言われてるが、ワールドの目的を手伝えとは言われてないからな。星晶獣よりか、お前ら賢者の味方って言い方の方が正しいだろ」

 

 ロベリアの味方はしないが。

 

「そっか。じゃあ今思いついたことお願いしてもいいんだ?」

「早速か? まぁ、できないことじゃないならいいが」

 

 俺が言うと、フラウは持ち前の身体能力でか素早く接近してくる。ヒールの関係で彼女の方が少しだけ高いため接近されると男を魅了する美貌が目の前に来る。その程度で俺の心は乱されない、が心臓には悪いので半歩下がる。しかし彼女も半歩進んだため距離が変わらなかった。できるだけ仰け反りつつ尋ねる。

 

「……なんのつもりだ?」

「純粋にあなたの力になりたい、って思っただけよ」

「なら近づく必要はないだろ……」

「ふふ。ここまでしても他の人と同じような欲望が見えないっていうことを確認したかったの」

「……そうかよ」

 

 少し脱力して構わず下がろうとしたのだが、脱力したのがいけなかったのか彼女に素早く抱き着かれてしまう。

 

「っ……」

 

 俺の胸板に潰され形を変える柔らかな膨らみと背中に回された細い腕、そして誘うような甘い花の香りが身体を硬直させる。

 

「……誘惑したのはデビルに言われたからだけど、本当に心細かったんだ。誰もいないこの島に不時着して、ここで独りで死ぬしかないんだって思ってた。でもデビルのカードが光り出して、あなたが来るのがわかったの。しかも乗ってきた小型騎空挺を壊さず着地させるんだもの。これはもう縋るしかないって思って」

 

 誘惑してきた時とは違う、本心からの言葉に聞こえた。

 

「自分のやりたいことって言われて、デビルの言いなりになってる自分に疑問を持ったんだ。言いなりになるのはもう終わり。自分のやりたいようにするね。あなたのおかげで見つめ直すことができた。ありがとう」

 

 今までよりも優しく聞こえる声音で言った。

 

「それを言うのに、わざわざ抱き着く必要はないだろ」

「男なら誰もが欲しがる魅惑の肢体なのに?」

「そう見られるのが嫌だって聞いたばかりだぞ?」

「そうだね。でも私って、実は寂しがり屋だから。あなたが来てくれた時凄く嬉しかったんだ。だからその、あなたともっと一緒にいたいなって」

 

 そう耳元で囁いてくるフラウの表情は見えないが、それこそ悪魔の囁きのようだった。誘惑しているのではないかと思ってしまうほど甘美な響きだ。これまでのが演技だったと考えるべきか、それとも本心だと考えるべきか迷うところだ。

 

「あなたになら、全部をあげてもいいと思うの」

 

 花の匂いも相俟って正直理性が揺らぎそうだった。グランだったら鼻血を噴いているかもしれない。

 

「……そっか」

 

 とりあえず答えに困窮したので頭を撫でてやった。

 

「な、なに?」

「いや、寂しがり屋のフラウを慰めてやろうかと。あと誤魔化せるかなって」

「……もう」

「まぁ、本当にそれがお前の望みだってんなら考えるが、それがデビルに言われたことだったり、過去、そうだったから俺にもそうすればいいんだろうと思ってのことだったりしたら受け入れられないな」

「……」

 

 俺がそう告げると、彼女は少し黙ってしまった。確実にそう言えるかの自信はないのだろう。

 

「悩め悩め。それが自分で道を決めるってことだ」

「……私の方が年上だと思うんだけど」

「言うだけなら年齢は関係ねぇよ。自分を貫いて周りから忌避されて、それから言いなりになってきたヤツと比べられてもなってことだ」

「そっか……」

 

 俺の言葉に、フラウは抱き着く力を緩めて身体を離す。

 

 ――が、気を緩めた隙を狙って一気に近づいてきた。

 

 また強くなった花の匂いと唇に伝わる柔らかな感触に否応なく身体が硬直してしまう。……なんで不意打ちが好きなんだ。

 

「……ふふっ」

 

 しばらくして離れてくれたが、首に回した手は解いてくれない。

 

「自分から、なんて初めてだけど悪くないわね。顔熱いけど、本当に悪くない」

 

 フラウは上機嫌に微笑んだ。本人の言う通り頬は上気していて笑顔も含めて魅力を更に上げているようにも思えた。

 

「言っておくけど私、こういうことしかあなたを喜ばせる方法がわからないの。今まで周りにいた男はそんなんだったから。だから、精いっぱい頑張ろうと思うわ」

「……はぁ。ったく、また文句言われるなこれは」

「拒まないんだ?」

「拒んでショック受けて賢者であるお前の協力を得られなくなるなら、お前がいいなら受け入れた方が利点が大きいだろ」

「冷めてるんだ。でも、だからこそなんでしょうね」

 

 ふふ、と微笑んだフラウは少し妖しげに笑う。

 

「……どうする? このまま続き、しちゃう?」

 

 あろうことか外で誘惑してきやがった。まぁここなら他にいるのは一人だから恥ずかしいもなにもないとは思うのだが。

 俺はフラウの美貌から視線を外し遠くのあらぬ方向を見る。

 

「……いや、あそこで出歯亀してるおっさんがいるからな」

「えっ? あっ……」

 

 俺の言葉に、今気づいたらしくフラウも同じ方を向いて気恥ずかしさからか頰を染める。おっさんは俺と彼女が見ていることに気づいたのか甲板の縁に姿を隠した。

 

「……別に私は、それでもいいよ? わざとバレるようにすることで、こいつは俺のモノだって周りに知らしめることができるらしいし」

「俺にそんな趣味はねぇよ。ほら行くぞ、サボってるってことはもう色々終わったんだろうしな」

「うん」

 

 手を外させ歩き出すと、フラウは大人しく従った。彼女も無理強いする気はないのだろう。

 

「流石、団長ってのはやっぱ手が早いな」

 

 騎空挺の下へ行くとザンツが朗らかに茶化してきた。

 

「そんなんじゃねぇよ」

「嘘吐け。隠さなくていいんだぜ、なにせ俺の前団長なんか行く先々で女作ってたからな。むしろそれが普通っつうか、懐かしいっつうか」

 

 彼はそう言って笑う。……そういや『伊達と酔狂の騎空団』の団長って、百人の女がいるとかいう伝説があるんだったな。そんなヤツの騎空団にいればむしろそれが普通という感覚にもなるか。というより団長ならそれくらいしねぇとな、という感じなのかもしれない。

 残念ながら俺の近くに誰か一人と純愛することを推奨するヤツはいないらしい。

 

 ……助けてリーシャ。




一応の注釈。

フラウさんは元肉○器説があり、本作ではそれを採用しています。
簡単に言うと「ぐへへ、俺達とイイコトしようぜ~」も含めて愛しているからという理由で全て受け入れた、という文面からの推測ですね。

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