ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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オリしかない話。ゼオ君に続き、もう一人仲間にします。

あと今日のガチャでクリスマスナルメアが引けました。毎日更新が突如途絶えたらそういうことだと思ってください。


ツキカゲ城

 カラクト島。

 ファータ・グランデ空域にある島の一つで、そこの建築形式は特殊となっている。

 

 なんでもこの島の領主が極東から来たらしく、私財を投じて島全体を造り変えていったのだとか。

 その結果、小型騎空挺で上陸した俺達を、俺からしてみれば異様な街並みが出迎えてくれる。

 

「で、あれが例のオロチってヤツがいるツキカゲ城か」

 

 俺は港からでも見える大きな建物を仰いだ。

 城と言われるとぱっと思いつく建物はなかったが、確かに城のように大きく権力を誇示する建物ではあるが、その建築形式は全く異なっているようだ。出で立ちからして違う。これが極東で言うところの城なのか、と感心するくらいだ。

 

「極東の城ってのはどれもあンな感じなンだぜ。懐かしいモンだな、もう十年は帰ってねェし」

 

 同行しているゼオが目を細めて言った。そういやこいつは極東出身なんだったな。

 

「へぇ、珍しい建物の形ね。皆ゼオと同じような和装を着てる」

 

 普段通りの少し扇情的な恰好だからと言うより本人の持つ魅力によってか視線を集中させるフラウが呟く。

 

「俺が来た頃はまだまだ城も建築途中だった気がするし、新鮮だぜ」

 

 かつて各地を回ったザンツも感心しているようだ。

 港はそれなりに賑わっている。どうやら観光に来る人も多いようで、港周辺の町も栄えているようだ。土産屋や、それこそ和服を売っている店なんかもある。

 

「ふぅん。じゃあ折角だし、和服着てから町で聞き込みしてみるか。オロチってヤツの情報も聞きたいし」

「賛成。じゃあ行きましょ。とことん付き合ってもらうから」

「おい、引っ張るなよ」

 

 団長という立場も考え俺が当面の指示を出すと、フラウが言って俺の手を取り駆け足で和服屋の方に向かう。行先は結局同じなので引っ張る必要はないと思うんだが。

 

「……流石大将だぜ」

「……あいつらイチャイチャしてんなぁ。若いっていいぜ」

 

 後ろから二人の声が聞こえたような気がしたが、俺はそれからフラウの和服選びに付き合わされてそれどころじゃなかった。

 

 結局、数時間かけてフラウが選んだのは赤い和服だった。なんでも俺の反応が一番良かったらしい。……そんなに反応変えてたつもりはないんだけどな。まぁ本人も気に入ってるならいいか。

 俺は無難に黒一色の和服。ゼオは元々和服だし、ザンツは紺色の和服を着ていた。着替えているザンツを見ると生の腕と義手の接合部が生々しく見えてしまうため、更衣室が個室になっているのは有り難いだろう。

 

 その本人はと言えば、煙管なんかを買って極東由来の酒なんかを買っている。煙管は兎も角酒は後にしとけよと思わなくもない。

 

「じゃあ聞き込み開始だ。オロチってヤツの情報を集めてくれ。できればどうやったら会えるかがあるといいな」

 

 集まった他の三人にそう指示をする。手分けした方が早いということで分かれて情報収集をすることにしたのだが。

 

「あっちのお土産屋さんを見に行きましょ」

 

 とフラウに手を引かれてしまった。

 

「だから引っ張るなって。というか情報収集をだな……」

「もちろんそれもするけど、折角来たんだから楽しまないと」

 

 本来の目的は別なのだから真面目に聞き込みを行いたいところはあるのだが、彼女の無邪気な笑顔を見ていると少しくらいはいいかと思ってしまう。もしかしたら俺も彼女の魅力にやられているのかもしれない。

 

「……はぁ、しょうがねぇ。情報収集が基本だからな」

「うん、わかってる。ほら行こ」

 

 というわけで、結局フラウと町を回ることになってしまった。最近こればかりのような気がする。……オーキスにどやされそうだな。

 そんなことを考えながらもフラウと二人で町を回った。彼女がいると聞き込みがスムーズにいっていい。特に男性相手に、だったのは少し複雑だったが。まぁ彼女も聞き出したら聞き出したらでわざわざ目の前で必要以上にイチャついてみせるのだから人が悪い。本人としては執拗に迫られるのを避けるためなのだろうが、そうなると俺が睨まれることになるのは少しだけ面倒だ。

 

「ねぇ彼女。一人? だったら俺達と一緒に行かない?」

「絶対楽しいと思うんだよねぇ」

 

 かと言って、少し屋台から買ってきたら絡まれているのは流石と言えばいいのか呆れればいいのか。

 カラクト島にも俺が考案したパイ屋の屋台があったので店員特別価格で購入してきたのだが。戻ってきてみれば、チャラ男っぽい見た目の男二人がフラウに絡んでいた。相手が凄く嫌そうな顔をしていることに気づいてないんだろうか。いや、こういう自分勝手なヤツらに絡まれるのがフラウってことなのか。

 

「連れがいるの。悪いけど他を当たって」

 

 俺が以前言った時のように、最初はあしらおうとしてくれているみたいだ。

 

「連れ? まぁいいじゃん。俺らと一緒の方が絶対楽しいって」

「そーそー。ほら行こうぜ」

 

 男の一人がフラウの手首を掴んだ。フラウの顔が一層険しくなり、左脚を引く動作が見える。

 

「いい加減にして!」

 

 怒りの声と共に、彼女の蹴り上げた爪先が手首を掴んでいる男の股間にめり込んだ。俺もそれに合わせてもう片方の男の股間を後ろから蹴り上げる。

 

「「こぱぁ!?」」

 

 奇妙な悲鳴を上げて道端に蹲る男二人。

 

「あ、ダナン」

 

 フラウは男が蹲ったことで俺の姿を認め、打って変わって顔を綻ばせる。

 

「おう。……いや、なんつうか流石だよな。少しだけと思ってたんだが」

「ずっと前からこうだから慣れてきちゃった。……そう思うなら一緒に歩いてこ」

 

 少しでも目を離せばすぐにこうなるモノなのだろう。俺がもう少し気をつけておくべきだったかと悔やまれる。彼女は気にしていなさそうに言うと、パイを掲げる俺の右腕に抱き着くようにして並んだ。

 

「わかったよ、あいつらと合流するまでな」

「うん」

 

 少しだけなら大丈夫、と思ったのは俺だ。ほんのちょっと後ろめたかったので了承し、それから他の二人と合流するまで腕を組んで歩いていた。

 

「大将とフラウの姐さんだろ、柄の悪い男共を撃沈して回ってたのってよ」

「そこかしこで噂聞くぜ。随分派手にやってたみたいだな」

 

 とは昼頃に合流したゼオとザンツの言葉である。どうやら既に噂になっていたらしい。そういえば最後の方は向こうにしつこくナンパしてくるヤツがいるんですよ、とか耳打ちされてたな。結局フラウの魅力に抗えなかった男達が手出ししてきて喧嘩になったり土下座させたりしていた。

 そんなことが何回が続くもんだから有名にもなるか。フラウは美人だしな。そういう意味でも目立つだろう。

 

「そうか。とりあえず、情報交換といくか」

 

 俺は適当な食事処に向かい、四人でテーブルを囲み極東料理に舌鼓を打つ。

 

「まずは俺からだ。ツキカゲ城ってのはこの島に移り住んだ極東の領主の一族が納めていた城だったみてぇだが、三年ぐらい前に今のオロチってヤツが領主の一族を皆殺しにしてなり替わったんだと。前領主がいいヤツだったみてぇだから不満は上がってるみてぇだな」

「それは私達も聞いたわ。でもオロチも別に民を虐げてるわけじゃないから生活に変わりがなくて良かった、ってことくらい」

 

 ザンツの情報にフラウが頷く。彼女と一緒に行動していた俺もその情報は聞いていて、いい領主から変わったのは嫌だが変わったからと言って重税や強制労働があるわけじゃないから構わないという話だった。

 

「オレも同じようなこと聞いたぜ。けどよォ、オロチってヤツに会うにはツキカゲ城に行きゃいいンだとよ。『俺様を殺せるヤツは大歓迎だ』みてェなこと言ってやがるらしい」

 

 ゼオが別の情報を口にする。それも聞いたな。オロチは実力至上主義らしく、領主一族を皆殺しにした後「俺様がこれから領主だ! 文句があるヤツはかかってこい! 欲しけりゃくれてやる! もちろん俺様を殺せたらの話だがなぁ!」と宣言したとのことだ。戦闘狂も大概にしてくれ、と思うモノだが。

 

「私達も似たようなモノね。領主一族は子供から親戚に至るまで全員殺害され、元家臣がそれを確認したそうよ。領主になったのも領主の座を賭けると言えば強者と戦えるから、って。随分な戦闘狂みたい」

「だな。領主になってから来た挑戦者は誰彼構わず勝負を引き受けて、腕自慢共を倒してるって話だ。負けたヤツの首は城下町の真ん中に飾るんだとよ。趣味悪いことで」

 

 港町だから噂話程度なのかと、最初に聞いた時はそう思っていた。だが実際に生首が飾られているのを見た、オロチが放置しているが故に治安の悪くなっていった城下町から逃げてきた人から話を聞いたので間違いなさそうだ。

 その全てが強いヤツと戦いたいため、だという話なので相当狂ったヤツなのだろう。

 

「まぁ会う方法がわかって、それが簡単だって言うなら行けば済む話なんだが、問題は行ったら殺し合いになるってところか。これは仲間にすんのは難しいかもな。重度の戦闘狂なんていても仕方ねぇし」

「流石にこればっかりは背中で語れとは言えねぇよな。俺も厳しいと思うぜ。実際に会うまで、なんて言わなくても大体わかる」

「だよなァ。どうすンだよ、大将」

 

 ザンツもゼオも仲間にできるとは思っていないようだ。

 なにせどちらかが死ぬまで勝負する、というルールだけは設けているようなヤツだ。殺さず「今お前は死んだ。だから新たな生として俺についてこい」みたいなことはできないと見ていいだろう。

 

「……とりあえず、城行くか。ダメそうだったら殺っちまおう」

 

 俺はそう結論を出した。その言葉にザンツは呆れた顔をし、ゼオはにかっと歯を見せて笑う。フラウは微笑んで見守るような仕草だ。

 

「それでこそ大将だぜ」

「それがどういう意味なのかは置いておいて、昼飯食ったら城下町の方に行くぞ。そこの様子を見ながら話を聞いて、ここで聞いた話が本当かどうか確かめる。……本当は仲間が欲しかったんだが、まぁこういうこともあるさ」

 

 俺は言って肩を竦め、適度に昼食を取ってから城下町へ向かうことにした。

 

 で、

 

「……ンだこりゃあ……」

 

 口をあんぐりと開けて呆然とするゼオを責められない。かく言う俺も驚いているところだった。

 

 なにせ城下町は荒れ果てていたのだから。

 

 城下町は等間隔で通りが分けられており、上空から見れば綺麗な網目状になっていると言われている。そこにある建物はもちろん極東風で昔は観光地として栄えたのだと言うが。

 今ではそんな栄えた様子は一切なく、道端で塀を背凭れに人が座り込んでいるような場所だった。その塀も壊れた箇所があり修理されていない。

 

「きひっ! おい今日も相手してくれよぉ!」

 

 入口の脇で男が女の服を引っ張って服を脱がそうとしている。言葉を聞く限り日常的に無理矢理襲っているのだろう。

 俺がなにかをする前に、フラウが動いた。

 彼女は素早く男に接近すると持ち前の蹴りを男の脇腹に見舞う。確実に骨盤が砕け散ったような男が聞こえ、男は彼方まで吹っ飛んでいった。あれは死んだな、そう確信できる高さだ。

 

 助けられた女の方はフラウに対してぺこりと頭を下げ足早に去ってしまう。礼はしたいが見返りを求められても困るからだろうか。

 

「ごめん、勝手しちゃって」

「いいぜ、フラウの姐さんがやらなきゃオレがやってた」

「そうだな。それよりこの状況を見るに、人に話を聞ける状態じゃねぇな。さっきのヤツみたいな連中が蔓延ってるなら治安は最悪、統治してないどころか衛兵なんかもいねぇってことになる」

 

 手分けするのはやめた方がいいかと思い、四人一塊りになって城下町を練り歩いた。それでもフラウを狙うヤツは多かったのだが逐一対処していった。

 

「ごめんね、問題を引き寄せちゃって」

「別にいい。それより離れんなよ。数が多くて面倒だ」

「うん。じゃあ腕組むね」

「それは意味合いが違うだろ……。それよりやっぱまともなヤツはいねぇな」

 

 フラウは嬉しそうな顔で抱き着いてきて、振り解くのが躊躇われた。話を変えることにする。

 

「ああ。飯や金を与えたって引き出せる情報はなさそうだ。城近くならまだマシだといいんだがな」

「オレァ別にこの辺でもいいけどな。血を啜らせるのに持ってこいだ」

 

 ザンツとゼオはそれぞれの意見を口にする。俺としてはザンツの意見に賛成だ。町を回っても荒れ果てていてもうまともなヤツは残っていなさそうという結論が出るだけだった。

 

「じゃあ城に近づくぞ。そのまま乗り込むかどうかはその時に決める」

 

 割りと行き当たりばったりになったが、件のツキカゲ城に向かう。

 ツキカゲ城正面には大きな広場があり、そこには槍で貫かれた頭蓋骨が飾られていた。

 

「うお、趣味悪ぃな」

「おう。こりゃ一回殺した後に火葬してからもう一回刺し直してンぜ。変わったオブジェクトの趣味があるみてェだな」

 

 ゼオの言う通り頭蓋骨は焼けている。おそらく飾りつけるために生首を燃やしたのだろう。おそらく挑戦者の頭蓋骨だ。……ロベリアと似たタイプか? じゃあ加入はしなくていいな。

 

「……こういう時って怖ーい、とか言って抱き着いた方がいいの?」

 

 一人だけ観点が明らかにおかしいな?

 

「いや、お前がそんなこと始めたらデビルの指示かと思っちまうかもな」

「じゃあやめとく。演技なんてせず、私のままで落としたいから」

 

 ふふ、と意味深に笑うフラウから目を逸らす。それ以上見ていると魅了されてしまいそうな笑顔だった。

 

「乗り込むかどうか、だが」

 

 ツキカゲ城を見上げる。アガスティアのタワーとまではいかないが充分高い建物だ。正面からは一本道になって城の門へと繋がっている。遠目からでは見えなかったが城の周囲を雑木林が囲っていて、城とは聞いていたが特に兵士の類いは見当たらなかった。だが違うのは、この城周りだけ妙に綺麗だということか。

 あれだけ城下町が荒れているのにここが無事ってことは、守ってるヤツがいるはずだ。オロチは城の最上階で待ち続けていると聞いたので、おそらく家臣やなんかはいるはず。

 

「やめとくか。まずは周りの雑木林から確認しよう。秘密の抜け穴とかで一気にオロチのとこ行けるかもしれねぇし」

「了解、団長。城内部の状況も確認したいし、いきなり乗り込まないのには賛成だ」

 

 ザンツのおっさんも城だけ綺麗だということに、オロチ以外の人がどう過ごしているかなどを気にしているようだ。

 

「大将の決め事に従うぜ」

「私も異論はないよ」

 

 二人の了承も得られたので、城の周囲にある雑木林に足を進めた、のだが。

 

「うおっ!?」

 

 しばらく行ったところでザンツがずぼっと落とし穴に嵌まってしまった。なんとか腕を引っかけて落ち切っていない状態だが、カッコ悪いことには変わりない。

 

「「「……」」」

 

 俺達三人はなにやってんだおっさん、というジト目を向けてしまう。

 

「す、すまん。引き上げてくれ」

 

 ザンツもカッコ悪いことは自覚しているのか申し訳なさそうだ。

 俺とゼオで片方ずつ腕を持ってせーので引き上げる。引き上げてから穴の底を確認すると無数の槍が先端を向けていた。落ちていたら即死だったろう。

 

「……な、なんだってんだよ……。危うく死ぬとこだったじゃねぇか」

 

 ザンツも俺の視線を追ってか穴の底を見て肝を冷やしたようだ。その時、めきめきめき……っ! と木がへし折れるような音が聞こえてきた。なんだと思って音のした方を見ると、フラウの右足にかかった縄と繋がっている木が折れて倒れているところだった。……見ても状況が理解できねぇんだが?

 

「それ、なにやったんだ?」

「多分自動で足に縄をかけて宙吊りにする仕かけだと思う。引っ張られるのに対抗したら木の方が折れちゃったみたい」

 

 フラウはどうやら力ずくで罠を突破してしまったらしい。

 

「罠が敷き詰められた場所、か。宝でもあれば割りに合うんだがなぁ」

「引き返さねぇのかよ」

「ザンツのおやっさんは鈍臭ェなァ。即死の罠もあるみてェだから気ィつけろよ」

「お、おう」

 

 ゼオがおそらく善意で忠告している。しかしザンツは何回りも年下のヤツにそんなことを言われるのはショックなのか「……俺も歳か」と遠い目をしていた。

 

「ま、気をつけて進んでこうぜ。オロチの弱みとか握れるんなら強請れるだろうしな」

「お前は笑顔でなんて悪どいこと言ってんだよ」

「流石は大将だぜ」

 

 と呑気に罠だらけの雑木林を探索しようとしていたのだが。

 

「オロチに関わるのはやめておけ」

 

 静かな声が聞こえてきた。俺達四人の声ではない。降ってきた声に顔を上げると、どうやっているのか木の枝から逆さに立ったような姿勢の少年がいた。全身黒ずくめで、側頭部から伸びている耳があるので間違いなくエルーンだ。目にかかるような長さの灰色の髪に黄色い瞳。表情はなくただじっと俺達を見ている。

 逆さで立つという異様に、彼が胸の前に持っていっている左手の形。人差し指と中指を揃えて立てるあれは俺の『ジョブ』にも似たようなモノがある。

 

「……お前、忍者だな?」

 

 俺は確信を持って尋ねた。彼との視線が交差する。




そういやちゃんとした忍者っていなくね? というところから思いついたキャラクター。

十天衆で言うならシス枠かな。

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