ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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メリークリスマス。イヴですが。

今現在全く書けていませんが、クリスマス番外編でも書こうかな……(自ら追いつめていくスタイル)

時系列ガン無視のクリスマス番外編が出来上がったら、明日の更新は唐突なクリスマスの話になると思います。
滅多に言っていませんが、クリスマス番外編が読みたい! などいただけますと燃料になります。


月影衆頭領

 突如現れ警告してきた黒ずくめの少年に、俺は忍者かと尋ねる。すると少年の無表情が僅かに動いた。

 

「忍者を知っているか。ただ者ではないな」

「それは偶然だな」

 

 偶々『ジョブ』の一つにあったから、という理由で知っているだけだ。影に生き影に死ぬ忍びの者。となれば吹聴されている以外での情報は極端に減ってしまう。

 

「ならば確かめさせてもらうとしよう。お前達がオロチに挑むに相応しいのか」

 

 彼はそう言うと腰の後ろに持っていた忍者刀を逆手に抜き放つ。

 

「――月影衆頭領、レラクル。参る」

 

 静かに名乗りを上げると、消えたかと思うほどの速度で俺に向かって突っ込んできた。どうやら最初の狙いは俺らしい。

 

「大将に手出しさせっかよォ!」

 

 しかしゼオが二刀を抜いて躍り出て、少年へと攻撃する。空中で身動きが取れないはずだったのだが、器用に身を翻して避けながら刀身を踏んで軽やかに跳び上がる。

 

「この野郎!」

 

 逃したゼオが悔しそうに怒鳴る。刀を振る速度が変わっていなかったので、余程上手いのだろう。

 

「悪いがちょっと退いてくれや」

 

 俺を超えて着地した少年にザンツが殴りかかる。しかし完全に見切られてしまいとんと押されて体勢を崩し、落とし穴に嵌まりそうになる。

 

「うぉ!? またかよ!」

 

 なんとか耐えたが自力で上がってくるのは時間がかかるだろう。それにこの様子を見るとあいつは罠の位置をわかっているらしい。それにさっきザンツが落とし穴に呆気なく嵌まったのを見ていて、そこに押したのだろう。

 

「ふっ!」

 

 今度はフラウが蹴りを放つ。動きとしては向こうの方が早いが、それを威力によって補うつもりらしい。その目論見は成功したのか、避けられはしたが風圧で体勢が乱れている。その後も蹴りを続けて放つが捉え切れていない。フラウでさえ攻撃を当てられないとなると相当な強さだな。いや、ザンツは兎も角残り二人は更に強化できるから、そうなったら勝てるのだろうが。

 

「影分身の術」

 

 レラクルは一旦距離を取ると印を結んで忍術を発動した。ぼんと白い煙が彼の傍で上がるとレラクルが増えた。

 

「おぉ、凄ェな」

 

 二人に増えた敵に、なぜかゼオが喜んでいる。

 

「影手裏剣」

 

 レラクルは分身と同時に黒い手裏剣をいくつも投げてくる。俺を狙ってではなくフラウとゼオそれぞれにだった。そうして牽制した上で二人同時に俺へと距離を詰めていく。そこを銃弾の乱れ撃ちが襲った。

 

「なんの活躍もしねぇのはご免だ」

 

 ザンツが落とし穴に落ちないよう縁に捕まりながら右腕から銃身を出して射撃したらしい。不意打ちは見事当たったかと思えたが、白い煙と共に丸太へと姿を変えてしまう。

 

「変わり身の術」

 

 静かな声が聞こえたかと思うと、俺の頭上に忍者刀を構えたレラクルが迫っていた。

 

「じゃあこっちも【忍者】」

 

 俺は折角だからと【忍者】の『ジョブ』を発動しイクサバを逆手に持つ。頭上のレラクルの表情が見てわかるくらいには変わった。

 

「まさか同じ忍者とは……。ならば加減は無用。我が月影衆に代々伝わる奥義、とく受けよ。――忍刀・鎌鼬」

 

 レラクルは空中から更に加速するとおそらく彼のトップスピードと思われる速度で高速移動しながら刀を振るって斬撃を飛ばしてくる。それに合わせて自身でも攻撃を仕かけてくる様は、さながら斬撃の嵐だ。

 

「無双閃」

 

 それらを、俺は火焔の一太刀で一掃した。奥義を放ったレラクルは分身だったらしく白い煙となって消えてしまう。

 

「我が奥義を破るか。だがこれには対応できまい。――忍刀・鎌鼬」

 

 奥義を放った直後の俺の後ろに現れたレラクルの、おそらく本体が同じ奥義を使ってきた。ゼオや【侍】とは違うやり方だが、分身とそれぞれで奥義を撃てるらしい。なかなかやるヤツのようだ。

 

「だが、甘いな」

 

 俺は再び襲いかかってきたレラクルの動きを見切り、イクサバの奥義後で強力になった拳を叩き込む。直接は当たらなくても渾身の一撃を放てば風圧によって巻き込み吹き飛ばせた。

 

「くっ……」

 

 レラクルは軽やかに動くため地面にしっかり踏ん張っていないこともあってか吹き飛び、木に激突した。

 

「……負けたか」

 

 レラクルはその場で座り込みこちらを見上げてくる。

 

「なるほど、お前達ならあのオロチを倒せるかもしれない」

 

 彼はそう言って武器を納めた。折角話を聞けそうなヤツに出会えたんだ、利用しない手はない。ゼオがザンツを引っ張り上げて救出し、フラウも警戒を解いて近づいてくる。

 

「お前、オロチのなんだ? 城の周囲を警戒する忍者だって言うなら様をつけるはずだろ?」

 

 罠を張り巡らし侵入者を警戒しているなら家臣だと思うが、こいつからは表面上の敬意すらも感じられない。

 

「……」

 

 レラクルは少し視線を外した後、観念したように嘆息した。

 

「僕は前領主様の警護を務めていた忍の一人だ。オロチがやってくる直前で逃がされ、こうして無様に生き延びている。以来ずっとここに息を潜ませてヤツを殺す機会を窺っていた」

「それを信じる根拠がねぇな。協力してオロチを倒そう、から目前で後ろからなんてのはご免だ」

 

 レラクルの言葉にザンツが告げる。こういう現実的なところは嫌いじゃない。どこかの誰かさんと一緒だと夢見がちすぎて居心地が悪いんだ。

 しかし彼の語る状況に、一つ違和感はあった。

 

「わかっている。もちろん信じて欲しいとは思うが強要する気はない。なにより、ヤツを殺すのは僕だ。それを邪魔はさせない」

 

 無表情の奥に確かな意思を宿して俺達を見据える。復讐というか仇討ちか、と思いゼオの方を見る。彼は真剣な顔でレラクルを見ていた。

 

「だから、共闘してくれとは頼まない。僕がオロチと戦う時に、露払いを頼みたい」

「露払い? オロチとは一騎討ちできるんじゃないのか?」

「そういう報せを出しているが、実際にはオロチの強さに惚れ込んだ輩が護衛についていて、自分達を倒せなければオロチ様に敵うはずもない、と立ちはだかる」

 

 それは初耳だ。

 

「オロチもそれを黙認しているため、オロチの下まで辿り着いたとしても疲弊した状態の可能性が高いということだ。手も足も出ずオロチに負ける、とは思っていないが取り巻きを相手にした後では勝ち目が薄くなる」

「それまで温存するために協力しろと?」

「そうだ。今は返すモノがないが、義理には応じるのが忍だ。いつか必ず返す」

 

 なるほど。大体の事情はわかった。それが本当かどうかは目を見ればわかる、とまでは言わないが。少なくともオロチってヤツよりは良さそうだ。折角恩を返してくれるって言ってることだし、こいつにしよう。

 

「よし、じゃあ俺の騎空団に入れ」

「なに?」

 

 俺の誘いにレラクルの目が僅かに細められた。

 

「実は、元々腕の立つヤツを仲間に引き入れようと思ってオロチを訪ねる予定だったんだ。予想以上にヤバいヤツだったから適当に倒して帰ろうと思ってたんだがな。丁度いい、お前なら問題ないだろう」

「……。構わないが」

 

 彼は少し微妙な顔をしているようだったが、頷いてくれた。よし、これで団員の確保という目的も達成できそうだ。しかもゼオに続き刀使いだ。これは六人集められるかもしれない。闇っぽいから最悪ナルメアを含めるという案はできなくなってしまうが、まぁいいだろう。

 

「そうと決めたら早速いくか。準備運動には丁度良かっただろ? オロチ、倒しに行くぞ」

 

 俺は言って四人を連れて雑木林を出てツキカゲ城の正面に回る。途中ザンツがまた罠にかかるんじゃないかと思ったが、レラクルは罠の位置を全て記憶しているらしく避けて通ることができた。

 

「そういやツキカゲ城とアンタの月影衆って関連してそうなンだが、なンか関係あンのか?」

 

 城を見上げてゼオがふと思いついたらしく疑問を口にする。

 

「ああ。僕達月影衆とツキカゲ城は、由来が同じだ。ツキカゲ城の一番高い屋根に三日月と遠吠えするように仰け反った鼬の装飾がある。それらは前領主の一族が極東にいた頃から関わりのあった星晶獣ツキカゲを現しているらしい」

「へぇ、星晶獣の」

「月影衆はそんな星晶獣ツキカゲの加護を得た、領主一族の護衛集団だ。……今では僕しかいないがな」

 

 由来が同じだから同じ言葉を使っている、ということらしい。しかし星晶獣と関係を築いた一族か。滅んでしまったのが惜しいな。アルビオンと同じような形態だったかはわからないが、ワールドと契約しようとしている身なので参考にしたかった。

 

「レラクルって言ったっけか? お前さん、まだなんか隠してることがあるんじゃねぇか?」

 

 門の前まで来てザンツが尋ねる。

 

「いよいよ乗り込むってんだ。すっきりさせておいた方がいいと思うんだがな」

「僕もお前達について深くは知らない。これ以上の詮索は無用だ」

「そうかい」

 

 互いに深入りせずにいこう、というスタンスのようだ。おそらくザンツも俺と同じ疑問に行き当たっているのだろうが、まぁ本人が語る気がないなら仕方ないか。

 

「お、鍵かかってンぜ。どうする? 斬るか?」

「いや、折角だ。フラウ」

「なに?」

「蹴破れ」

 

 どうせなら派手な乗り込みにしようと、フラウにそう命じる。

 

「わかった。皆、下がってて」

 

 フラウが一歩進み出て、他四人が一歩下がる。

 その後、フラウの左脚でしなり大きな門の中央を蹴りつけた。鍵部分が粉砕され、門を固定している金具も取れてしまった結果、門は中へと吹っ飛んでいく。

 

「ぐわぁ!」

「な、なんだぁ!?」

 

 中に人がいたのか悲鳴が聞こえてくる。下敷きになったヤツもいるようだ。門を蹴破り中が見えるようになったので、和服を着た男達が何人かいるのがわかった。

 

「な、なんだてめえら!」

「ここをオロチ様が治めるツキカゲ城と知っての狼藉か!?」

 

 狼狽え警戒して武器に手をかける下っ端共。

 

「ああ。そのオロチってクソ野郎に喧嘩を売りに来たんだ。文句あるならかかってこいよ」

 

 俺が代表して宣言してやる。

 

「たった五人で乗り込んでくるなんざ上等だ!」

「やるぞ、皆殺しの、晒し首だぁ!」

「女は残せよ! 上玉だぜ!」

 

 口々に叫んで雑魚がわらわらと湧いてくる。どうやらそれなりにカリスマ(?)があるらしい。烏合の衆とはいえここまで人が集まっているとはな。

 

「レラクル。城の破壊は?」

「極力控えてくれ。前領主様の大切な城だ」

「わかった。じゃあ城はあんまり壊さず、好きに暴れろ。殲滅だ」

 

 俺は団員達に指示を出し、自分も銃を抜いて下っ端を撃っていく。

 

「ハハッ! 盛り上げてくれンぜ!」

 

 ゼオは二刀を抜き遠距離武器を持っている敵から刀を飛ばして攻撃していく。

 ザンツは右の拳が鈍器なので殴りつければほぼ即死、そうでなくとも仕込まれた銃で撃つことで敵を減らしていく。

 フラウは一番寄ってきていた敵が多かったのだが、一蹴りで一掃していた。

 

「……強いな」

「さっき戦った通りな。まぁあの時は加減してただろうが。小手調べの意味が強かっただろ、お互いに」

「そう、だな」

 

 相手に容赦さえしなければ問題なく無双できる戦力だと思う。ただオロチとやらは別だろう。本気で殺しにかかる必要がある。

 

「よし、がんがん行くぞ。襲いかかってくるヤツは一人残らずぶっ倒せ」

「了解、大将!」

「団長が物騒すぎるぜ。気楽に言ってくれるしよ」

「向かってくる相手に容赦しなくていいのは楽でいいわ」

 

 ということで、レラクルと俺もほぼ見ているだけでツキカゲ城を上がっていったのだった。


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