クリスマス当日に書いて間に合わなかったヤツです……。
一応イヴの話になっています。
予告通りダナン以外ではオーキス、アポロ、スツルム、ドランク、オルキス、アダムが登場人物となっています。
クリスマス。
それはサンタクロースという赤服の老人が一夜の内に良い子達へプレゼントを配って回る日、らしい。
俺としてはそんな素性の知れない爺さんから貰ったプレゼントなんて怪しすぎていらないんだが、そういう懸念はないらしい。
理由は簡単、サンタクロースは一般的には謎の老人なのだが、実在が確認されているから。
老人なので色々と年齢的な身体トラブルに見舞われてプレゼント配りが難しくなり、騎空士に助力を求めるなどの行動が世に知らしめる結果となった、という経緯があるようだ。
「……雪、降ってる」
宿泊している宿屋の中から、窓際に立つオーキスは外を眺めて呟いた。ゴーレムなので凍える心配はなさそうだが、薄着で少女を連れ回すのはいらぬ誤解を受けそうなので、温かい恰好をさせている。
まだ室内なので今は普段の服装に厚いブーツぐらいのモノだ。外に出る時はマフラーにダッフルコートと厚着をする。
「雪か。久し振りというわけではないが、こうしてのんびり見たのは何年振りだろうな」
室内では相変わらずノースリーブなアポロさんである。とはいえセーターなのは冬らしさではあるのだが。いくら暖房が効いているとはいえそこまで拘るモノなのかは甚だ疑問である。外出の時はちゃんと上を着る。袖もあるヤツだ。白のセーターの上に黒のコートを羽織るような恰好だったか。
「いやぁ、最近寒かったからね~。雪も降るんじゃないかと思ってたんだよ~」
ドランクは逆に室内だというのに着込んでいる。既に上着を羽織りぬくぬくとした恰好だ。それはそれで暑いような気もするんだが。
「だからって厚着しすぎだ。暑苦しい」
相変わらずドランクに厳しいスツルム。彼女は暑がりなのか薄着だ。上がシャツ一枚という恰好である。とはいえ外出する時にはカーディガンに上着を着込むので暖かそうではある。
「雪なんて初めて見るんだがなぁ。寒いし歩きづらそうだ」
俺の恰好は普通だ。黒いシャツに黒いズボン。外に出る時はフードつきのコートを着てマフラーを巻き、手袋を嵌める。完全防備だ。
「……アポロ。雪だるま作る」
「私か?」
「……ん。アポロと一緒に遊ぶ」
「そうか、まぁ今日くらいはいいだろう」
オーキスは折角雪が降り積もったなら、とアポロを誘って外で雪だるまとやらを作るようだ。二人は外出用の恰好に手袋をして宿を出ていった。どんなのを作る、とか話し合っている二人の様子を見るとオーキスが無事でいることが良かったと思える。
「無事で良かったねぇ、オーキスちゃん」
「ああ。オルキスも戻って、雇い主も憑き物が取れたみたいだ」
どうやら傭兵二人も同じようなことを思っていたらしい。
「二人は行かないのか?」
「僕達は雪だるまって歳でもないからね~。夜パーティしようと思ってるから、その材料とかを買いに行くつもりだよ~」
「そうだな。あとはプレゼントか」
二人も二人で色々と考えれているらしい。
「プレゼント、ってあれか? サンタクロースとやらが配るとかいう」
「そうだよ~。ダナンはクリスマス初めてなんだっけ?」
「ああ。今までは縁がなかったからな」
生きるために人を騙すような子供だったので、現れないのも仕方がないと思うのだが。なによりあの場所では弱い俺がいいモノを持っていたらより強い大人に奪われるだけだ。
「そうか。もしかして、プレゼントを用意してないのか?」
「うん?」
スツルムが首を傾げるのに合わせて、俺も首を傾げる。……プレゼントってサンタが勝手に配ってるんじゃないのか?
「あ~、やっぱりだねぇ。そんなことだろうと思ったよ~」
「どういう意味だ?」
「そのまんまの意味だよ~。クリスマスにはプレゼントを贈る風習があるんだ~」
「サンタからも貰えるのにか?」
「まぁね~。でもサンタは子供にしか配らないから、大人だと貰えないでしょ~。だから大切な人達にプレゼントするっていう日でもあるんだ~」
「なるほど、そういうことか」
要はクリスマスというイベントを利用した市場の活性化だ。あとはなにかに理由をつけてプレゼントを贈りたがるのが人の習性でもある。
「僕もね、毎年スツルム殿にプレゼントしてるんだよ~。ね、スツルム殿?」
「お前のプレゼントは奇をてらいすぎて使い道がないんだ。もっとマシなのにしろ」
「え~。面白いと思ってるのに~」
「土偶とかを贈りつけるのは嫌がらせかなにかだろう。……置き場所に困るんだ」
「え、なになにスツルム殿。僕が贈ったプレゼントちゃんと取ってくれてるの――痛ってぇ!」
「う、煩い。あたしは貰い物を捨てるような薄情じゃないだけだ!」
ドランクがニヤニヤし始めたのを、スツルムが照れ隠しに剣で刺していた。いやあの照れ隠しは痛いんだよ。最近食らってないが全然物足りないとは思わない。そこをあいつは自ら刺されにいってるからなぁ。傍から見てると割り込めないくらい仲良しなんじゃないだろうか、この二人。
「……しかし、プレゼントかぁ」
そんな二人を眺めつつ言われたことについて考えを巡らせる。
贈り物なんてしたことがない気がするなぁ。俺は元々なにも持ってないヤツだったってのもあるが、誰かから貰うことはあっても自分からあげたことなんて今までにあったか? 非常に怪しいところだ。
「クリスマスはサンタからプレゼントが貰える子供のイベントでもあるんだけど、プレゼントを大切な人にあげるイベントでもあるからねぇ。ダナンもまだ買ってないなら、渡したい人にプレゼントを選ぶといいよ~」
ぷすぷすと刺された箇所を撫でながらドランクが言ってきた。
「ああ、そうだな」
「あ、因みに~。僕は今日の夜ダナンが腕を奮って料理してくれるならそれでいいかな~」
「あたしもそれでいい。今夜のメインは鍋にするぞ」
「はいはい。宿屋の許可は取っとけよ」
「もう取ってあるんだよねぇ」
「俺に許可取る前にかよ。まぁいいけどさ」
とは言うが、二人にもなにかプレゼントは考えてやろう。料理なら他の二人も食べるだろうし、そうなると不公平だ。街を見て回って考えるかな。
「仕方ねぇ。クリスマスメニューを作るための勉強も兼ねて、街回ってくるか」
「楽しみにしてるよ~」
「ああ。ローストチキンは必ず作ってくれ」
「はいよ」
二人に言って、身支度を整えるときちんと財布を持って宿を出る。
「……ダナン。どっか行く?」
外でせっせと雪玉を転がし大きくしていたオーキスが顔を上げて尋ねてくる。
「ああ。ちょっと買い物にな。今夜はクリスマス仕様の料理を作ってくれって言われてるから」
「……っ。楽しみにしてる。いっぱい食べる」
「はいはい」
食に素直なオーキスの反応に微笑みを返しつつ、俺は一人街を歩くことにした。
クリスマスだからと朝からイルミネーションに彩られた街並みが見える。街の中央、交差する大通りの真ん中には飾りつけられた大きな樹木があった。紐にライトを取りつけたようなヤツを撒きつけ、頂点には星が輝いている。目立つので待ち合わせ場所にも最適なのか、カップルが多いようだ。大切な人に贈り物を、というならそうか。カップルのイベントでもあるのか。
「となると二人を誘った方がいいのかね」
マフラーに埋めた口の中でぼそりと呟きつつ、街を散策していく。
考えられる流れとしては、街を歩いた後に夜景の見える場所で夕食を食べてそのまま流れでプレゼント。が一番妥当かね。とはいえ今夜はもう飯を作る約束をしてしまったのでその流れは作れない。とはいえ二人きりでプレゼントを渡すくらいならタイミングを見計らえば問題ないだろう。最悪二人に協力してもらえばいいだけだしな。
「さてどんなモノを渡すべきか……」
贈り物なんてしたことがないのでよくわからない。とはいえ普段身に着けているモノやなんかだと有り難いかな? 俺が貰って嬉しいモノは……武器だが。流石にそれが該当するヤツなんてそれこそグランかジータくらいのモノだろう。例えば冬の防寒具とか、普段の靴とかアクセサリー。それくらいなら新しいモノに替えるだけだと考えれば問題ないだろう。
ならアポロはなんだろうか。普段は鎧とレオタードのイメージしかないんだが。最近は私服が増えてきているとはいえ、そうなるとノースリーブになる。アクセサリーでなんか選んでみるかな。夏祭りで見たイヤリングしてるのは珍しくもあったが良かったと思うし。
オーキスは髪留めかな。普段同じモノを使ってるし、替えてもいいんじゃないかと思う。
ドランク……はイメージがないな。無難なヤツで見繕おう。
スツルムは肉、刺すのイメージだな。肉は今夜ご馳走してやるし、刺すイメージから贈り物なんて浮かばねぇよ。武器は俺が貰って嬉しいヤツだし、装備品は常日頃から整えるようにしているだろうからな。他は、あれか。豹柄だな。スツルムが胸元につけているヤツ。肉食だからなのかあれの主張が強いんだよ。だからきっと好きなはず。冬でも使える豹柄のマントでも買ってやるか? ちょっと高そうだが。
色々と考えながら、プレゼントの売っている店を回りながら四人へのプレゼントを選んでいく。その最中他にも渡しておいた方が良さそうなヤツの分も確保しようと考える。考えながら店を巡っていたら三時間も経過していた。ある程度目処がついたので良かったが、まだ買えていない。クリスマスの料理も全然知らない。また午後に回るとしよう。
昼飯をどうするかは、一旦宿に戻ってから決めるとしようか。
戻ると宿屋の前に三段重ねの雪だるまが鎮座していた。枝を刺して腕を、炭で目と口を、人参で鼻を作り帽子を被せて一応の完成形にはなっているようだ。それなりに大きいので一番上の雪玉はオーキスが届かなくてアポロが載せたんだろうか、と思うと感慨深い気持ちになる。
宿屋の扉を開けて中に入り、オーキスとアポロに雪だるま見たぞーと言おうかと思ったのだが。
「……ダナン。おかえり」
蒼髪をツインテールにして猫のぬいぐるみを抱えた少女が、無表情に言ってくる。……?
「なんでここにいるんだ、
俺は首を傾げて尋ねた。すると少女の無表情が呆気なく崩れる。
「……残念。すぐにバレた」
ひょっこりと俺の前にいる少女とほとんど全く同じ姿をした少女が机の下から這い出てくる。厨房に続く扉からアポロ、ドランク、スツルム、アダムが姿を現した。
「ね、すぐにバレちゃった」
俺を出迎えた方は茶目っ気で少し舌を出す。
「流石はダナンさんですね。人とゴーレムという違い以外はなく、関節は隠していたはずですが」
防寒着の一切がない普段通りの恰好なアダムがそう告げてくる。
「なに言ってんだ、俺がオーキスを見間違えるはずがないだろ」
「……っ」
俺の呆れた言葉に、オーキスが目を僅かに見開く。
「……ん。信じてた」
そのまま近寄ってきゅっと抱き着いてくる。
「だ、ダナンさんは私のことも見抜ける?」
「見抜けるんじゃないか、ほぼ一緒だし」
「むぅ」
見抜けることには肯定したはずなのだが、オルキスは頬を膨らませてしまった。
「で、なんでいるんだ?」
肝心なことに答えてもらっていなかったので聞き直す。
「オルキス様がどうしても雪を見たいとおっしゃったので。偶の休暇です」
「うん。メフォラシュって砂漠だから雪が降らなくって。折角のクリスマスだしちょっとくらいってお願いしたんだ」
そういう事情らしい。
「それでこの島に来たのか。妙な偶然だな」
「あ、それはメフォラシュに来てたシェロカルテさんが、『それならいい出会いがありそうなオススメの島があるんですよ~』って」
「あいつの仕業かよ。まぁオルキスとしてもオーキスやアポロに再会できて良かったろうし、別にいいか」
「うんっ」
恰好が普段のオーキスなのだが、満面の笑みを浮かべて頷いた。少し違和感というか、これじゃない感はある。
「……エルステは大丈夫?」
「うん。ポンメルン元帥が頑張ってくれてるから」
「オルキス女王陛下自らポンメルン元帥に瞳を潤ませながらお願いして許可を取ったのです。元帥は家族に謝っていましたがね」
「ね、年末には戻るので大目に見て欲しいなぁって」
オルキスがポンメルンに目を潤ませながら「クリスマスに休暇が欲しいんです!」と懇願した結果ポンメルンは「やれやれ、仕方ありませんねぇ」と渋々ながらも受け入れた後に家族へクリスマスが一緒に過ごせなくなったことを通信中に顔も見えないのにぺこぺこと頭を下げて謝っている姿が想像できた。
「じゃあ夜食べてくか? 俺が料理作るんだが」
「食べる! ……あっ」
俺が尋ねると、嬉しそうに食いついて照れたように頬を染めた。
「……仕方ない、ダナンの料理は世界一」
「評価が高すぎてむしろ怖いんだが」
オーキスがこくんと頷くのにツッコみつつ、ぽんぽんとオルキスの頭を撫でる。
「陛下のために、頑張って作ってやるとするか」
「うんっ!」
オルキスは子供のように目を輝かせていた。なぜかオーキスがむすっとした表情になってしまう。
「……オルキスとイチャイチャしちゃダメ」
そしてオルキスを撫でていた手を掴むと俺の隣に移動した。
「お、オーキスばっかり狡い」
「……オルキスより仲いい証拠」
俺の手を握って胸を張るオーキスと、反して唇を尖らせるオルキス。
「いいから席に着け。昼食の時間だ」
アポロが注意したことで睨み合いをやめて席に着く二人。喧嘩するからか二人を隣にして座らせるようだ。俺は端でアポロの隣だった。
「……こっそりアポロが隣にいる」
目敏いオーキスが指摘するが、アポロの鉄面皮は剥がれない。
「ああ。お前達が争っている間にな」
堂々と言い放った彼女にオーキスが歯噛みする。
「いやぁ、でも意外だったよねぇ。まさかボスがダナンを、なんて」
ドランクはニヤニヤと尋ねる。
「そうか? ルーマシーでの件があるからな、私としては妥当だったのだが」
「ってことはあの時僕が残ってたらワンチャン痛ってぇ!」
「ないな」
「ああ、ないな」
「二人して否定しなくもいいんじゃない?」
ドランクが軽口を言ってスツルムに刺される。
変わらないやり取りがなんだか懐かしく感じられてしまう。
しかしアダムとオルキスまで来たとなると用意するプレゼントが増えるな。料理も増えるし。
というわけで食事が終わったらすぐ料理のためと言って街へ繰り出した。オルキスは折角だからオーキスとお揃いにしてやろう。髪留めはあまり使わないかもしれないが。デザインは一緒でも色が違うとかにしようかな。姉妹っぽいし。
アダム……正直思いつかんぞ。まぁ欲しいモノなんてないだろうし適当でいいか。成人男性にプレゼントする上位に来ていそうな手帳と万年筆。万年筆でも贈ってやろうか。ゴーレムだから記憶力が良くて手帳は必要ないかもしれないし。
六人へのプレゼントと決めた俺は下見した店に入って実物を見て細かいデザインとかを確認して購入していく。六人以外のヤツにも遭遇したらプレゼントしてやろうとは思っている。更に四つほど購入しておいた。
残りの時間でクリスマス定番料理を探す。スツルムが言っていたローストチキンは外せない。あとはなんだろうか。鍋もするって言ってたが、それはあの二人が材料を買うらしいのでいいか。ついでだからケーキも作ってやろう。サンタの飾りがついたヤツ。こういうのはこの日のために予約するモノだろうから、自分で作った方が手っ取り早い。
残りは街を見て回って適当に選んでいった。
午後四時。俺は食材などを持って宿屋に戻ってきていた。
「おっ、戻ってきたね~」
なぜか室内でチェスに興じているオーキスとオルキスがいつつ、室内はクリスマス仕様なのか飾りつけされていた。それを他の面子で手伝っているのは、貸し切りだからなのか。
「おう。鍋の食材も切ってやるが、厨房の方か?」
「そうだよ~。今宿の人達に用意してもらってるとこ~」
「わかった。いっぱい用意してやるから、楽しみにしとけよ」
「……わくわく」
てなわけで、俺も厨房に入っていく。
「あ、すみません。厨房お借りしますね」
「ええ、どうぞ。今代の“シェフ”の腕前が見られるなんて光栄ですから」
完全にこっちが借りている立場だというのに畏まられると居心地がちょっと悪い。まぁ見たいって言うならお礼としちゃあれなんだが存分に見せてやるとしよう。
さぁ、二時間でたくさん料理を作ってやるぞ。
俺は存分に料理ができる機会が訪れたことで、ニヤリとした笑みを浮かべてしまった。
◇◆◇◆◇◆
メインに鍋、周りを俺の料理で囲んだクリスマスパーティーは大いに盛り上がった。
満腹にはならないようにオーキスとオルキスが処理しつつ舌鼓を打った後が、クリスマスの本番だ。
「ほい、これが俺が作ったクリスマスケーキだ」
厨房で作っていたケーキを運び込み、机の上に置く。
「……おぉ」
「美味しそう……!」
俺のケーキに食いしん坊二人が食いついた。
三段重ねの巨大なケーキだ。変にデコレーションはせず、生クリームの白色で城のように彩ってある。チョコなどにはせず、ただひたすらにスポンジと生クリームの出来だけを追い求めた逸品だ。
「……オルキスより、いっぱい食べる」
「私だっていっぱい食べるもん」
「喧嘩するならなしな」
「「ごめんなさい」」
食いしん坊二人の言い合いを先手打って止めて、ケーキを分けていく。まぁ大半は二人に食べてもらうことになるからいっぱい食べるのはいいんだけどな。
「美味しい~! 食べてく端から口の中で溶けてくよ~!」
「ああ。甘い物をもっと食べたいと思ったのは初めてかもしれないな」
「甘すぎる気もするが、紅茶と合っていいな」
「……どんどん食べる」
「たくさん食べれるっ」
「オルキス様、虫歯になりますので程々にお願いしますね」
反応は様々だったが気に入ってくれたようだ。俺も味見は済ませているが、皆で食べるのがいい。ケーキだしな。
ケーキも食べ終えて食休み、というところで。
「それじゃ~折角だし、プレゼント交換といっちゃう~?」
ドランクがいつもの軽い調子で言い出した。
「……ん。ちゃんと用意してある」
「ああ、問題ない」
「私も来てからアダムと一緒に街を回ってきてますので」
「俺も問題ねぇよ」
どうやら全員準備は終えているようだ。
「じゃあ適当に配ってこうね~」
特に順番とかの縛りはつけないらしい。まぁ俺もその方が楽だ。
「じゃあほれ、ドランクにはこの手帳だ。超無難だろ? 使うか知らんけどな」
「へぇ~? じゃあ折角だから日記でもつけてみよっかな~。スツルム殿にその日何回刺されたとか! 痛ってぇ!?」
「余計なことを数えるよりもっと考えることがあるだろ。ダナン、これはあたしからだ」
言った傍から刺されたドランクに代わり、スツルムが俺にプレゼントを手渡してくる。包みに入っていないのでなにかはすぐにわかった。包丁だ。
「お前が料理が好きだからな」
「おぉ、有り難い。じゃあこれがお返しだ」
実際とてもいい贈り物だ。非常に嬉しい。というわけで俺が選んだ豹柄のマントを渡す。
「実はアポロとお揃いだったりする」
「おぉ、そうか。有り難く使わせてもらう」
というわけで、ドランクと交換する予定だったが先にスツルムとしてしまった。
「僕からは、じゃーん! お鍋~。料理に最適。というかいくつか鍋自体に機能がついててね~」
「おぉ! これ俺が欲しかったヤツだ。ありがとな」
「……思ってたより純粋な笑顔で眩しいよ」
ドランクが改めて差し出してきたのは、以前見かけて欲しいとは思っていたが当時金がなくて泣く泣く諦めた高性能鍋だった。とても嬉しい。
これでドランクとも交換を終えた。次は誰にしようかと悩んでいると、
「ダナンさん。これ、私達から」
オルキスとアダムが声をかけてくる。二人で選んだモノを代表してオルキスが手渡してきた。ラッピングされたプレゼントだ。
「開けていいか?」
「うん」
さて二人がくれるのはどんなモノなのかと気になり、許可を貰ってから開けてみる。
「これは、羽根ペンと手帳か。これ結構いいヤツじゃないか? 特に羽根ペンの方」
「ええ。オルキス様が選んだ選りすぐりの逸品です。あなたには恩がありますので、これくらいは」
「是非それを使って美味しいレシピを考えてねっ」
それが狙いかこの食いしん坊め。
「わかったよ、ありがとな」
礼を言って代わりに俺が用意したプレゼントを渡す。
まずはアダムに買ったそれなりに高い万年筆を。
「ありがとうございます。丁度、執務に使っていた筆記用具が消耗していたところだったので」
アダムは普段と変わらない冷静さで受け取り礼を言ってきた。世辞かどうかはわからないが、あって困るようなモノではないのでいいだろう。
「オルキスにはこれだ。後で渡すオーキスのとお揃いなんだけどな」
「あ、ありがとうっ」
オルキスに用意していた赤い髪留めを渡す。ラッピングはそこそこにしていた。……渡す時に見えていた方が期待が上がりすぎなくていいかなと思ってのことだ。
「……お揃いと聞いて」
喜び早速アダムにつけてもらおうとするオルキスを他所に、オーキスが声をかけてくる。
「ああ、オルキスとお揃いの髪留めだ」
「……ん。嬉しい。つけて?」
オーキスへのプレゼントを渡すと、手早く開けて青い髪留めを俺に渡してくる。仕方がないのでツインテールの片方を外して髪を括り直してやった。
偶然にもというか、オルキスは右側でオーキスは左側につけている。
「……オルキスとお揃いは、嬉しい」
「ふふっ、そうだね」
顔を見合わせて笑う二人は本当の姉妹のようだ。
「あ、僕もお揃いの手袋なんだよね~」
「あたしもお揃いにしていたな」
「私達が選んだのもお揃いでしたね」
「私もお揃いにしてしまったな」
なんと他の全員からお揃いのプレゼントを渡されていた。皆考えることは一緒ということらしい。各自からプレゼントされたお揃いのアイテムを身に着けると、服装は兎も角左右対称の恰好になってしまった。まるで双子だ。
「……双子みたい」
「そうだね」
顔を見合わせて鏡を見ているようなお互いの姿にくすりと笑っている。……いやまぁ、年齢を考えると親子ぐらいの差があるんだけどな。
「……ダナン。プレゼントは、後で渡す」
「ああ、わかった」
どうやらこの場では渡さないらしい。良かった、年上にはあげないってことなのかと思った。まぁ子供だから貰うだけでも許されるんだが。
で、あと渡してないのはアポロだけか。
「アポロ、プレゼントはこれだ。あんま高いモノじゃないんだが」
「気にするな。お前から貰ったモノならなんでも嬉しい」
それはちょっと照れるな。
ともあれプレゼントを手渡す。開けたアポロが掲げて眺めると、銀の装飾が照明を反射して光る。
「これは、ネックレスか」
「ああ。いつかの祭りの時イヤリングつけてただろ? それが似合ってたし、こういうのもいいかと思ってな」
「そうか、ありがとう」
以前は滅多に見られなかった笑顔を向けられると、まだちょっと慣れないが。喜んでくれたならいいか。
「私のプレゼントは後で渡そう。少し大きくてな」
「わかった、楽しみにしてるな」
アポロもオーキスと同じく後での渡しになるようだ。大きい、か。なんだろうな、さっぱり見当がつかん。
「アポロにはこれあげるね。前はつけてたでしょ?」
オルキスのアポロへの贈り物は眼鏡だった。どうやら幼い頃は身につけていたらしい。
という具合にそれぞれ配っていくと、渡っていないのはオーキスから俺、アポロから俺、スツルムとドランクが互いにという状態だった。まぁそれぞれ渡したいタイミングというのはあると思うので、そこは好きにやればいいと思う。俺も二人からのプレゼントは純粋に楽しみだ。
しかし一旦パーティーはお開きにした。後は個人でタイミングを見るということだろう。パーティーをなんだかんだ仕切っていたドランクもまだスツルムに渡していないので、二人きりで渡すらしい。……いや、あいつのことだから多分色恋とかはないんだろうな、とは思うんだが。
食後のコーヒーやなんかを淹れつつのんびりと過ごしていた。
オーキスとアポロが早めに風呂に入ろうとして、折角だからとオルキスが一緒になり、ついでにスツルムも連れていかれた。そこにドランクが「じゃあ僕も~」と言われて鉄拳と刺突を食らったのは完全なおまけだ。入浴場は男女が分かれているので別に待つ必要はなかったのだが、俺は食器洗いの手伝いやなんかの関係で結局上がってくるのを待つことになった。アポロは準備があるとかでそそくさと部屋の方に行ってしまう。
「……お風呂上がって、少ししたらダナンの部屋入ってきて」
オーキスは湯上りの火照った身体を近づけて耳元でそう告げてきた。きっと他に聞かせないためだと思う。まぁなにが待っているのか全くわからないので、とりあえず頷くことしかできない。
俺はのんびりと風呂に浸かり、上がってから身体を冷まして部屋に向かうことにした。俺が泊まっている部屋、ということである程度予想が立てられなくもないのだが、ここはなにも知らないフリをして入っていくのがいいだろう。
なにが待っていようと受け止める。俺が男の器だ、多分。
というわけで意を決し扉を開ける――赤いリボンで頭から爪先までぐるぐる巻きになったオーキスがいた。
「オーキス!?」
流石にそのまま受け止めるのは無理だった。隙間なくぐるぐる巻きになっているが、リボンの間からツインテールだけはぴょこんと出ている。音は聞こえているのか目元まで巻きつけているせいで見ていないだろうに、両手を前に伸ばしてよたよたと歩いている。
「全く、なにやってんだよ……」
苦笑して屈みオーキスを抱き止めると、結び目のある後頭部から解いて顔を露わにさせる。
「……苦しかった」
「だろうなぁ」
ホントに、なにやってんだか。
苦笑してリボンを解いていると、傍目からでも薄々わかってはいたが全裸の上にリボンを巻きつけていたらしい。解いていくと色々見えそうになってしまうが、長いリボンが適度に隠してくれた。
「で、なにやってたんだ?」
こっそり扉が閉まっていることを確認して、裸の上にリボンを纏ったオーキスに尋ねる。
「……プレゼントは、私」
それはわかる。
「じゃあなんで息できないくらいぐるぐるにしてたんだよ」
「……読んだ本に、寒いから風邪引くってお布団をかけられないようにしましょうって」
それで全身に巻きつけるのは多分違う。どういう本かは知らないが、少なくとも書いている人の意図とは違うと思う。多分だけど部屋を温めるとか服はちゃんと着るとかそんな感じだと思う。
「オーキスはゴーレムなんだから風邪引かないし、その心配はないだろ?」
「……そう、だった」
さも今思いついたという表情だ。……全くもう。
とりあえずリボンは解けた。適当に纏っているような恰好になる。
「……それで、クリスマスプレゼントは?」
「うん?」
聞き返すとオーキスは少しだけ熱っぽい瞳で、頬を染めて俺を見上げてくる。
「……クリスマスプレゼントは、私。受け取ってくれる?」
オーキスはなにかを期待するようにじっと見つめてきた。……そう言われると、断れないな。まぁ別に断ろうと思っていたわけではないんだが。
「ああ、受け取るよ」
「……一生、大切にして」
「ああ、大切にする」
オーキスの身体を抱き寄せてやると、彼女も俺の背中に腕を回してくる。
「――そういうことなら私も混ぜてもらおう」
左側から聞き覚えのある声が、と思って二人してそちらを向くと置いてあった巨大なプレゼントボックスの蓋を持ち上げるようにサンタ衣装のアポロが出てきていた。……いやなんでそこに。ってかその恰好は?
箱から出てきたアポロはサンタの衣装だった。だが胸元は大きくはだけているし、ミニスカと呼ぶには少しギリギリすぎる丈だ。サンタ帽子を被った彼女の首元には俺が今日渡したネックレスが提げられている。少し輪が大きいせいか装飾の部分が胸元に乗っかっていた。……と、そこまで目で追ってオーキスが脇腹を抓ってくる。
露出度の激しい衣装に加えてアポロの持つ抜群のスタイルなので、かなり目のやり場に困る恰好だ。
「実は箱を置いて私も『プレゼントは私だ』をやろうと思ったのだが、その途中でオーキスが来てな。思わず隠れてしまった」
「……全然気づかなかった」
そこは気づけよ。俺はまぁ、オーキスが衝撃的すぎて完全に視界から外れてたんだが。
「というわけで、私からのプレゼントだ。受け取れ」
「命令形かよ」
「オーキスのは受け取って、私からのは受け取れないとは言うまい?」
「まぁ、な」
「……むぅ。私は、負けない。アポロより凄いプレゼントする」
「甘いな、オーキス。私は負けず嫌いだ」
「……知ってる。でも勝つ」
いや、勝ちも負けもないと思うんだけどな?
「……はぁ、まぁいいや。二人のプレゼント、堪能させてもらうよ」
俺は諦めて嘆息し、苦笑いを浮かべる。
この後、二人のクリスマスプレゼントをたくさん堪能した。
◇◆◇◆◇◆
一方、宿屋のロビーに残ったスツルムとドランク。
「ねぇ、スツルム殿~」
「なんだ」
オルキスとアダムはそれぞれ部屋に行っており、アポロとオーキスとダナンも部屋に行った。宿の従業員も今はいない。つまり二人きりである。
「スツルム殿にプレゼントがあるんだよね~」
「ああ、あたしもだ。……だが交換の時に渡せば良かったんじゃないか?」
「それはスツルム殿もでしょ~?」
「あたしはお前が避けてるように見えたから、それに合わせただけだ」
流石に長年コンビを組んでいるだけあって互いのことはよくわかっているらしい。
「そっかぁ。実はねぇ、明日クリスマスだし、一緒にどっか行こうかと思ってね~」
「一緒に? ……なんだかんだ一緒にいるだろ」
「それはそうなんだけど~。実はどうしても欲しい限定品があるんだよね~」
「なんだそれ」
「サンタとトナカイの衣装で行くと貰えるんだけど。お願い~、スツルム殿~」
「……まさかそのプレゼントって」
「うん、サンタ衣装痛ってぇ!」
満面の笑みで答えたドランクをスツルムは無言で刺した。
「なんであたしが」
「スツルム殿しか頼める人いなくってね~。カップル限定って言うからダナンには頼めないし」
「カッ……!? バカかお前!」
「痛っ! 痛いってスツルム殿!」
頬を染めたスツルムがぐさぐさとドランクを刺し続ける。話が進まないとなんとか間合いから逃れた。
「そんなに怒らないでってば、スツルム殿。他に頼める相手がいないんだよ~」
ドランクは頭を下げて両手を合わせ頼み込む。珍しく真摯な様子に、無碍に断ることはできなかった。
「……ま、まぁ他に予定はないからな」
「助かるよスツルム殿~」
「調子に乗るな」
歓喜を示すために抱き着こうとしたのは喉元に切っ先を突きつけられてしまったが。
「あたしはこれだ。最近激闘が多くていくつか減っただろ」
話題を切り替えるために、スツルムは自分が用意したプレゼントを渡す。それは袋に入れられた三つの宝珠だった。
「ありがと~」
実用的な贈り物だった。ガンダルヴァに踏み潰されたり弾かれて空の底に落っことしたりしていたので、有り難いプレゼントだった。
因みに。
翌日サンタ衣装のスツルムとトナカイ衣装のドランクが街を歩いていたのだが。
「ねぇねぇスツルム殿~。カップル限定だし手とか繋いじゃう?」
「二人で一つの飲み物飲むんだって~、あれやってみない~?」
とドランクがからかい続けた結果。
ダナンから貰った手帳の「スツルム殿に刺された回数」が初日から三桁を突破したらしい。