ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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間に合ったーーーーっ!!!

いやクリスマスには間に合ってないんですけどね。
……ギリギリになったのは新サクラ大戦をやってたせいですごめんなさい。



因みに私は昨日仕事納めでした。年末年始もお仕事の方はお疲れ様です。

私のフェス初日はSSR運が良かったのにムーンとエレメントが基本でしたね。唯一の当たりはあの、水属性の刻印の数で属性攻撃力が上がっていく石です。水のサブ石しか捗ってねぇっす……。

あ、あと今日ガイゼンボーガさん取りました。次はまったりハーゼちゃん取りに行く予定です。


EX:クリスマス

 今日はクリスマス当日。イヴに仲間達プラスオルキスとアダムと過ごしたので、他のヤツに会えないかと街を回っているところだ。

 

 街を回っていれば一番最初に会えるのは、決まって神出鬼没な商人だ。

 

「よっ、シェロカルテ」

 

 俺は寒いというのに露店を出しているシェロカルテを見つけた。普段の服装ではなく、サンタ服を着込んでいる。そういうところも商売には必要なのだろう。

 

「ダナンさん~。メリークリスマスです~」

 

 にっこりといつも通りの笑顔で応えてくれる。

 

「当日になっちまったが、一応クリスマスプレゼントだ」

 

 俺はいつも世話になっている礼として彼女に用意したプレゼントを渡す――書類を。

 

「これは……パイの新作レシピじゃないですか~。新年限定用に、バレンタイン限定用まで先取りして、流石ですね~」

「ああ。しばらく会えなくなることも考えてな。あといくつか案もまとめてある」

「ありがとうございます~。でも、これだと仕事上だけの関係って感じで寂しいですね~」

 

 礼を言って、しかし彼女は眉尻を下げる。

 

「ははっ、冗談に決まってるだろ。クリスマス版は出せなかったから、おまけだ。本命はこっち」

 

 笑って言い、改めてプレゼントを渡す。クリスマス限定の付箋だ。

 

「付箋ですか~」

「ああ。お前なら適当に買えるだろうが、あっても困らないだろうからな」

「はい~。有り難く使わせていただきますね~」

「おう」

「じゃあ私からはこれを~」

 

 渡すだけで終わるかと思ったが、そこは商人。シェロカルテもごそごそと漁って包装された袋を渡してくれる。

 

「これは?」

()()スマスに最高級の()をプレゼント~。うぷぷ~」

「……まさかそれを言うためだけに用意したのか?」

 

 久々に彼女のダジャレを聞いた気がする。思わずジト目になってしまった。

 

「それもありますけど、パイの中身に使えないかな~と思いまして~。次にブームが来るんじゃないかと睨んでるんですよ~」

「へぇ。じゃあ有り難く、色々と使わせてもらうかな」

「是非~。栗は焼いても煮ても美味しいですから、色々試してみるといいですよ~」

「ああ、ありがとな」

「いえいえ~」

 

 思わぬプレゼントもあったが渡せて良かった。いつも世話になってるから、礼はしたかったんだよな。

 

 シェロカルテにプレゼントを渡した後、また街をぶらぶらしていると丁度いい連中に遭遇した。

 

「あっ、ダナン君」

 

 “蒼穹”の連中だ。グラン、ジータ、ビィ、ルリア、カタリナ、ラカム、イオ、オイゲン、ロゼッタがいる。皆クリスマス衣装なので、こいつらもこいつらで楽しんでいるのだろう。

 

「よう」

 

 片手を挙げて応える。ホントに丁度いいな。

 

「ほれ、ジータ」

「えっ?」

 

 俺は渡そうと思っていたプレゼントをジータに投げ渡す。申し訳程度にリボンが括りつけられた武器の製造過程が記された書物だ。

 

「あ、これ発行部数が少なくて買えなかったヤツだ」

「なら丁度良かった。俺からのクリスマスプレゼントだ。偶々売ってたんでな」

「ありがとう、嬉しいよ」

 

 女の子へのプレゼントとしてそれはどうなんだ、というツッコミは受けつけない。あくまで俺とジータはそういう関係じゃないからな。

 

「あれ、僕のは?」

「ねぇよ」

 

 素知らぬ顔で首を傾げるグランを切り捨てる。

 

「えぇ……」

「ジータ以外にやるわけねぇだろ」

 

 そんなに関わりねぇんだから。グランにはやりたくないし。

 

「えっ……!?」

「あら、大胆ね」

「うん?」

 

 ジータが顔を赤くしてロゼッタはからかうように微笑む。……思い返すと確かにそれっぽい発言ではあったかもしれん。

 

「あー……。お前らの中ではって話だけどな」

「あ、うん。だよね……あはは」

 

 ジータは勘違いしてしまった自分が恥ずかしいとばかりに頬を掻いて笑った。

 

「あ、そうだ。私もダナン君に渡そうと思ってたのがあったんだ」

 

 そう言って話題転換をすると彼女は一つの杖を取り出した。先端がクリスマスの飾りのようになっているためクリスマス仕様の武器に見える。

 

「これ、今私とグランが使ってる『ジョブ』のClass0に該当する【サンタクロース】の解放武器なんだ」

 

 ジータの口から驚きの情報が飛び出した。謎のClass0というのも俺は全く聞いたことがない。

 

「なんだ? その、Class0ってのは」

「うーん……。あえて言うなら『どのClassにも該当しない』ってことなのかな? 今のところそれ自体になにか能力があるわけじゃなくて、解放しても『ジョブ』を使った時にその姿になれるくらいしか効果ないし」

「うん。僕も後は水着とユカタヴィラぐらいしかないからあんまり情報はないんだけど」

「へぇ」

 

 そんなのがあるのか。というか俺のユカタヴィラはなぜ解放されてないんだ。

 

「あ、でも解放されたのはそれ持った時だから、特定の武器を持って姿が変わらないとClass0は解放されないのかも」

 

 まぁ、それなら一応理由になるか。とはいえ戦闘に効果ないんだったら季節感味わうためでしか使えないだろうけどな。

 

「まぁ、そういうことなら有り難く貰っておくな」

 

 言って杖を受け取る。すると『ジョブ』を変えた時のように俺の姿が変わった。

 グランが着ているような赤のガウンだったが、俺の方が少し丈が長いようだ。色は黒くなっていなかったが細かいデザインが違う。逆に言えばそれくらいの違いでしかなかった。

 

「やっぱりちょっと違うね」

「そうだな。あと俺も【ユカタヴィラ】が解放されたわ。ありがとな、ジータ」

「ううん、喜んでくれたなら良かった」

 

 思わぬ『ジョブ』の解放があったが、そこでジータ達とは別れることにした。色々団員達にプレゼントを配らなければならないらしい。まぁ二百人全員に配るってなったらそりゃ忙しいよな。

 

 続いては誰に遭遇するかと思ったら、

 

「あ、ダナン。いいところに」

 

 サンタ衣装のリーシャと遭遇した。当然の如く下はミニスカートで、上も胸元を開け臍を出している。……お前それ寒くないのかとツッコみたくなるような恰好だ。

 

「なんて恰好してんだ……遂に痴女に目覚めたか?」

「ち、違います! これは秩序の騎空団の見回りで、盛り上がりは壊さないようにと……」

 

 頬を染めてそう言い訳した。だからって着るヤツがあるかよ。……選んだのは秩序の団員だな。リーシャのこの姿が見たかったんだろう。秩序乱すような恰好させてどうするんだよ。

 

「そ、それに……」

 

 リーシャはちらちらと俺の方を窺いながら、

 

「ダナンがいるって聞いて、見せたくて……」

 

 上目遣いで一言。破壊力はあるがもうわざとやってるんじゃないかと思うくらいなので段々と慣れてきた気がする。

 

「はいはい。可愛い可愛い」

「……なんか雑じゃないですか?」

「いや、もうお前のその上目遣いにも慣れつつある」

「そう言われましても……」

 

 リーシャはちょっと困ったような顔になる。こいつ、ずっと無自覚で続けてるのか。それはそれで凄いな。

 

「で、あれか? そのサンタ姿の私がクリスマスプレゼントです、とか言い出すパターンか?」

 

 既に何回かやっているんだが。

 

「えっ!? ち、違いますよ! 私はその、クリスマスをダナンと一緒に回りたかっただけで」

 

 それはそれで恥ずかしいこと言ってる気が。

 

「そっか。じゃあ、回るか? 折角会ったんだしな」

「っ……。は、はい」

 

 少しずつ、リーシャも歩み寄ってきているようだ。もうそろそろ俺も心の準備をしないといけないのかも、しれない。

 と思っていたらリーシャが手を掴んできた。俺が視線をそこに向けると、我に返ったのかぱっと手を放す。……それくらいなら、別にいいか。

 

「手、繋ぐんだろ」

 

 今度は俺から手を差し伸べる。上目遣いで頬を染め、恐る恐るといった風に俺の手を握り、嬉しそうにはにかんだ。そういうとこだ、そういうとこ。

 

「行くか。見てて行きたいところとかあったか?」

「あ、はい。えっと……」

 

 ということで、リーシャと二人でクリスマス一色の街を練り歩いた。手を繋ぎお互いサンタ衣装で歩いているので、傍目から見ればカップルに見えるんだろうか。まぁ、リーシャは楽しそうで気づいていないしわざわざ指摘してやる必要もないか。こいつはちょっと不憫に思えてきたから、少しは優しくしてやろうかと思ってたんだったわ。

 今はまぁ、二人きりの時間を楽しむとするかな。

 

 というわけでカップル限定の商品が売っている店に入ってみようと思ったのだが。……スツルムとドランクがいたので遠慮しておいた。あいつらの邪魔をしちゃ悪い。まさかあの二人がそういう関係だったなんて……。プレゼントもきっと二人きりのタイミングで渡したんだろうなぁ。なんだかんだでイチャイチャしてたしなあいつらも。うん、そっとしておこう。

 

 結局別の店で二人昼食を済ませることにした。それからはそういやプレゼントを渡していなかったと思い出し、少し人気のない場所に向かう。見回せば人がいるかな、といったくらいの場所だ。クリスマスの喧騒からは少し外れて、ベンチがありのんびりできるのがいい。

 

「ここは?」

「まぁ、プレゼントを渡してなくて、タイミングをどうしようかと思ったんでな」

「あ、私にプレゼントですか?」

 

 ベンチに腰かけて、期待してくれているのかそわそわとし出すリーシャ。リーシャへのプレゼントは結構重めだ。手軽なモノとは一味違う。一応アクセサリーではあるんだが、付き合いの長い恋人でもないヤツにあげる代物ではないと思う。

 

「ああ、開けてみてくれ」

 

 促して少しだけ高そうな箱を開けてもらう。

 

「これって……」

 

 箱は片側を持ち上げて開くようになっていたため、中身を覗いてリーシャは目を丸くする。

 中身はそこそこの値段がした指輪だ。俺はあまりそういうのに詳しくはないのだが、多分「付き合いの浅い彼氏に贈って欲しくないプレゼントランキング」上位になる贈り物になるだろう。

 とはいえそんなに宝石が乗った重いモノではなく、オシャレとして装着できるようなデザインとなってはいると思う。俺にはセンスがないので勧められた中から選んだのだが、氷の結晶の周りに羽根の飾りがあしらわれている。氷の結晶は水晶のような色をしていた。

 

「……綺麗」

「そこそこ奮発したからな」

 

 我ながららしくない贈り物だとは思っている。ただリーシャにあげるのはアクセサリーにしようと思っていたが、イヤリングはこの間アポロがつけていて、ネックレスは今回渡したし、髪飾りも他と被るし、そうなるとブレスレットとどっちかって感じになったんだが。ブレスレットだとチャラチャラしてリーシャっぽくない気がしたので、こっちにしたというわけだ。値段が全てではないのだが、値段だけで言えば今回のプレゼントの中で一番かもしれない。

 

「も、貰っていいんですか?」

「ああ。そのために買ったんだしな」

 

 俺の言葉に、リーシャは指輪を摘み上げるときゅっと手の中に大切そうに握り込んではにかんだ。

 

「ありがとうございます。凄く、嬉しいです」

「喜んでくれたなら良かったよ」

 

 心から嬉しそうな笑顔を見ていると、贈ったこっちも嬉しくなってくる。渡した甲斐があったというモノだ。

 

「その、つけてもらってもいいですか?」

 

 こちらを窺うような上目遣いで尋ねてくる。リーシャの差し出した指輪を受け取り、

 

「ああ、いいぞ。手を出してくれ」

 

 左手を差し出して右手で指輪を持つ。

 リーシャは左手を俺の手の上に乗せてきた。角度から考えて薬指に入れるような形だ。左手の薬指って……いやまぁ、薬指の大きさに合うヤツを選んだのは俺なんだが。

 

「なんだ、左手の薬指につけて欲しいのか?」

 

 また無自覚天然の発動かと思ってからかうように告げてやる。だが顔を真っ赤にしても否定はしてなかった。

 

「……はい、欲しいです。ダメ、ですか?」

 

 リーシャはいじらしい表情でこちらを見上げてくる。やはりと言うべきか破壊力は凄まじい。

 

 だから俺は、素早く右手を取って薬指に指輪を嵌めてやった。

 

「あっ……」

 

 彼女は少し残念そうな声を上げる。俺はリーシャの耳元に顔を寄せて囁いた。

 

「……お預けだ。その時が来たら、もっといい指輪買ってやるよ」

「っ……」

 

 高ければいいというわけではないが、安くていいという理由にはならない。なによりもっとちゃんとすべきだろう。

 

「……わ、わかりました。その時が来るように、頑張ります……」

 

 リーシャの顔はMAXまで赤かった。もう少しからかったら目を回してしまいそうだ。

 

「……き、今日はその、一歩にします」

 

 か細い声でそう言ったかと思うと、彼女から密着しそうなほど近づいてきて左頬に柔らかな感触が触れた。キスされたと気づいたのは彼女が離れてからだった。

 

「い、今は、これ以上は、無理です、から」

 

 その言葉を体現するかのように、湯気が出そうなほど真っ赤だ。……いやびっくりだよ。リーシャからとは思わなかった。

 

「……そうか。よく頑張ったな」

 

 少しだけ温かい笑みを浮かべると、今度は俺から近づいて同じく左頬に唇を触れさせる。面白いように身体を硬直させたのがわかった。

 

「お返しだ」

 

 言ってさてどんな顔を、と思い身を引いたのだが。

 

「……きゅう」

 

 目を回して倒れかけてしまう。

 

「あ、おい。リーシャ?」

 

 慌てて抱き止めて呼びかけるが、返事はない。完全に気を失っているようだ。……ほっぺにチューで気絶とか、お前は最初のオーキス未満かよ。精神年齢十歳程度のヤツより初心ってお前……。

 

「……しょうがねぇ。駐屯所かどっかに運んでやるか」

 

 少しは成長したかと思ったが、どうやら本当に少しだけだったらしい。苦笑して【サンタクロース】を解除し俺が着ているコートで包んでやってから抱える。そのままこの島の秩序の騎空団の駐屯所に向かって彼女を送り届けた。

 実は部屋に連れていって添い寝して目覚めた時にからかってやる案もあったのだが、流石にこれ以上は申し訳ない。それに、もう一人プレゼントを渡したい相手がいる。

 

 その人物を探してうろちょろし始める。もしかしたらこの島に来ていないかもしれないので、事前にシェロカルテにでも聞いておくべきだったかと頭を悩ませた。

 駐屯所にコートを忘れてしまったが、取りに戻るほどでもないかと思って買い直すついでに探し回ってみる。同じような黒のコートを買ってしばらく回っていた。

 午後三時くらいだろうか。

 

「あっ、ダナンちゃん」

 

 お目当ての人物を発見した。ナルメアだ。ナルメアは俺を見つけると表情を明るくして駆け寄ってきた。ダッフルコートにマフラーに手袋を寒さ対策はばっちりに見えるが、ブーツの上は生脚だった。コートの裾で下になにも履いていないように見える短さなので、少し寒そうではある。偶に女性って冬でも脚出してる人いるよな。

 

「ああ、ナルメア」

 

 降り積もった雪の上にブーツの足跡を作りながら近づいてきたナルメアに、笑顔を返す。

 

「メリークリスマス、ダナンちゃん」

「ああ。ナルメアもここに来てたんだな」

「うん。クリスマスケーキ作りのお手伝いに。ダナンちゃんは?」

「俺は適当に、雪が降る島に行きたいって言うから」

「そうなんだ。……じゃあ今も他の人と?」

 

 そう尋ねてくるナルメアは少しだけテンションが下がっているように見えなくもない。

 

「いや、今はナルメアを探してたんだ」

「えっ?」

 

 思わぬ言葉だったのか目を丸くしている。

 

「なんつうか、クリスマスプレゼントを買ったはいいがここにいるかどうかもわからなかったからな。会えて良かった」

 

 なんだか照れ臭くって頬を掻き目を逸らした。

 

「ほ、本当?」

「ああ。これ、プレゼントだ」

 

 まだ信じ切れていないのか尋ねてくるナルメアに、しっかりと頷く。見てわかるように顔を輝かせていた。

 俺は用意していたプレゼントを渡す。包装していないのは昨日材料を買って急いで作ったからだ。

 

「これセーター?」

 

 俺が渡したのは折り畳まれた白のセーターだ。なにがいいかと悩みに悩んで……と言うよりか、正直ネタが尽きてしまったのでナルメアなら引かないだろうという考えもあり、手編みのセーターなんてモノを選んでみた。

 

「ああ。これからまだ寒くなるだろうしな」

「ありがとう、大切に使うねダナンちゃん」

 

 にこにこと微笑んでセーターを胸元に抱える。喜んでくれたようで良かった。

 

「あ、私もダナンちゃんにプレゼントしようと思ってたんだ」

 

 彼女はそう言って、セーターを片手で持つと持っていた紙袋を差し出してくる。

 

「俺に?」

「うん。ダナンちゃんに似合うかなって」

 

 受け取り開くと、白い毛糸のなにかが入っていた。取り出してみるとやたらと長い……マフラーのようだ。

 

「マフラーか」

「うん。……えへへ、模様も一緒のお揃いだね」

 

 ナルメアは嬉しそうにはにかんだ。……確かに、よく見てみると編んである模様が一緒だ。色も白だし。

 俺があの模様にしたのは初心者向き、と書かれた一段階上だったからなんだが。

 

「しかし白か。俺にしては珍しい色合いだよな」

「うん。いつも黒ばっかりだから。でも白も似合うと思うよ? 巻いてあげるからお姉さんに貸して」

「ああ」

 

 俺は貰ったマフラーをナルメアに渡す。元々首に巻いている黒のマフラーを解いて手に持った。彼女は長めのマフラーを受け取って俺の首に手を伸ばすが、身長差があるせいか背伸びをしても上手く巻けない。それでも懸命に巻こうとする様子に苦笑して腰を屈めた。

 手が届くといそいそと俺の首にマフラーを巻きつける。かなり長いマフラーなので、首の後ろから巻いて前に垂らした後交差させて後ろに垂らす。屈んでいると地面に先が着いてしまうので立ち上がる。

 

「うん。似合ってるね、白も」

「ありがとう、ナルメア」

 

 純粋にプレゼントは嬉しい。

 

「あ、ダナンちゃん。ちょっと持ってて」

 

 ナルメアはそう言うとなぜかコートを脱ぎ出した。必然的にそれなりの薄着になってしまう。いや、寒いだろうに。と思っていると俺が渡したセーターをその上に着たのでなにをする気かようやくわかった。

 

「よいしょ、っと。これでお揃いだね」

 

 セーターを着込みそう言って笑いかけてくる。少しサイズが小さかったのだろうか、裾が腰ではなく臍辺りになってしまっている。

 

「ちょっと、小さかったかな」

「ちょっとだけね。胸の辺りがキツいかな」

 

 そう言われるとそこを注視してしまう。セーターを大きく押し上げて、裾の足りなくさせる要因になった双丘を。……いや、一応半年も一緒にいたからある程度目測でサイズがわかっていたつもりだったんだが。褒められたモノではないが、観察眼には定評があるし。間違ってはないと思ってたんだけどな。

 

「そうか。サプライズするってのも難しいもんだな」

「気にしないで。凄く嬉しいし」

 

 ナルメアは優しいからそう言ってくれるが、俺は納得ができていない。

 

「まぁでも、次はちゃんとサイズ測ってからにするよ」

「えっ……? 胸のサイズを……?」

「えっ!? い、いやそういう意味じゃ……」

 

 思わぬ返しにわたわたと手を振ってしまう。俺にしては珍しい反応かもしれない。

 

「ふっ、ふふふっ。ダナンちゃんったら慌てちゃっておかしい」

 

 不意にナルメアがくすくすと笑い出して毒気を抜かれる。照れ臭くなって頭の後ろを掻く。

 

「……ナルメアにからかわれるとは思わなかったんだよ」

「ふふっ。そうだね」

 

 やっぱりというか、ナルメアの前だと他のヤツと同じようにはいかないな。俺の中でナルメアの存在が人生に影響を与えた結果だとは思うんだが。

 

「なぁ、ナルメア。折角だし俺と街を回らないか?」

「うん、いいよ。お姉さんと一緒に行こっか。あ、手繋いであげよっか?」

 

 俺の提案にあっさりと頷くと、お姉さんモードを発動して尋ねてくる。……ナルメアとはオーキスやアポロのとは違う感じだが。でもまぁ、俺も多分()()なんだろうな。

 

 そんなことを思いつつ、俺とナルメアは手を繋いで二人街を回っていった。

 

 夕食を食べた後にイルミネーションが綺麗だということで街を歩いて回り、そろそろいい時間になってきたというところだ。

 

「そろそろお開きにするか? 明日に差し支えるのは良くないだろ」

「あ、もうそんな時間なんだ。ダナンちゃんと一緒の時間は過ぎるのが早いなぁ」

「俺も同じだよ。どこの宿泊まってるんだ? 送ってくよ」

 

 ナルメアだけじゃなく、誰かと一緒に過ごす時間は過ぎるのが早く感じる。だがそれも、教えてくれたのはきっと彼女だ。

 

「それなんだけど、あのね?」

「?」

 

 言いづらそうにもじもじとし始めるナルメアに首を傾げる。

 

「……今日、お部屋に行ってもいい?」

 

 っ……!? 頬に朱を差して上目遣い。……この破壊力を一日で二度も知る羽目になるとはな。しかもナルメアは珍しいと思う。少なくとも俺に対しては。

 

「久し振りにダナンちゃんと一緒に寝たいなぁって」

 

 ナルメアがつけ足したことで納得する。別にがっかりはしていない。

 

「まぁ、それくらいならいいぞ」

「ありがとう」

 

 彼女に拾われてからはずっとそんな感じだった気がする。特に身体が動かなかった時期は。されるがままだったしな。

 ということで、急遽俺が泊まっている宿に行くことになった。……オーキス達にバレないようにしないと厄介なことになりそうなので、気配察知を使って超慎重に。部屋に案内してからきちんと鍵をかけておく。夜訪ねて来られたらマズいからな。別にやましいことはないんだが。

 

「歩き回って疲れたから、もう寝ちゃおっか」

「そうだな」

 

 俺も色々あって、昨夜寝不足だったのでその申し出は有り難かった。

 コートを脱ぎ貰ったマフラーを外して室内用の薄着になったところで気づいた。寝間着に着替えるの、どうしようかと。流石にナルメアの前で着替えるのは抵抗がある。まぁ俺は中に着込むタイプではないので薄いシャツ一枚になれるし、そこまで気にする必要はないか。

 

「あ、寝る時どうしよう……」

 

 丁度ナルメアも同じことで悩んでいるようだ。ごそごそと着替えているようだったのでそちらを見ないように気をつける。

 

「……これだと、ちょっと短すぎるかな?」

 

 やがて衣擦れの音はやんだのだが困っている様子だ。どんな格好になったのかと振り返って、

 

「――」

 

 絶句した。

 

 なにせ俺の渡したセーター一枚の恰好だったからだ。ただでさえ裾が短かったので見えてしまった。……紫のちょっと大人っぽいヤツだったな。いやナルメアは確かアポロの一個下だ。充分大人である。いや、すじゃなくて。

 

「……なんで、服がそれだけなんだ?」

 

 俺は顔を手で覆いながら尋ねる。俺も男なので指の隙間を開けてしまうのは性か……。

 

「えっとね、下に履いてたスカートが皺になっちゃうから」

 

 ナルメアはうんしょ、と懸命に裾を下に引っ張って下着を隠そうとしている。おかげで隠れてはいるのだが、ただでさえ短いせいで余計に胸が強調される恰好となってしまっている。あれだ、頭隠して尻隠さずみたいな。下は諦めた方がいいんじゃないだろうか。

 

「そ、そうか。じゃあ仕方ないな」

「うん。じゃあお布団入ろっか」

 

 そう提案されたので大人しく従う。布団を被って見えなくなればそう意識することはないだろう。

 というわけで二人してベッドの上に寝転び布団を被る。見ないようにしながらナルメアのために布団を持ち上げていたので向き合うような恰好となってしまう。……いかんな。俺が意識しすぎている。ナルメアは全くの自然体だ。これが多分俺じゃなくてもこうする……それはそれでダメな気が? というか嫌な気が?

 

 そうこうしている内にナルメアが俺に抱き着いてきた。平常心を取り戻せていないせいで俺の胸板で柔らかく形を変える膨らみに意識が行ってしまう。

 

「えへへ……前もこうやって一緒に寝てたよね」

「……そう、だったな」

 

 二人で暮らしていた時のことだ。その時のことを思い出す彼女の温もりが触れていることで、なぜか浮き足立っていた心が落ち着いていく。よく、眠れそうだ。

 

「おやすみなさい、ダナンちゃん」

「……ああ。おやすみ、ナルメア」

 

 俺も彼女を抱き返して目を閉じる。そうするとすっと意識が落ちていった。

 

「……あの時と同じだけど、ちょっと違うね」

 

 ナルメアの気恥ずかしそうな声が、最後に聞こえてきた気がした。

 

 ……因みに翌日オーキスに見つかってやっぱり揉め事が起きましたとさ。




Class0はアレの伏線です。スキンとかどこで持ってこようかなって思った結果だと言ったらなにが出てくるかわかっちゃうと思いますが。
アレの登場を楽しみにお待ちください。

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