ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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わかっているとは思いますが今回の話はコメディです。

あとヴァルフリートさんの能力は思いつかなかったのでネタ丸出しですごめんなさい……。
シャドバとか神バハとか見てもこう、指揮官的な能力っぽくて本人の書いてないんですもん。真面目そうな感じだけ出てればそれでいいかなって。


それでも父だから

 怒りに燃えるヴァルフリート。

 彼の頭の中では娘をあの手この手で誑かしヴァルフリートがショックを受けているところに娘も拒絶する少年の姿があった。

 

 断じて許してはならない。

 

 娘のためにもここで今始末しておくべきと判断する。

 

「と、父さん? さっきはいいって……」

 

 リーシャとしては父がなぜこんなにも怒っているのか理解できない。

 

「さっき?」

「あ、そうなんです。さっきまで騎空団に入るから退団したいっていう話をしてたところなんですよ」

「へぇ」

 

 リーシャから聞いてダナンは怒りに燃えるヴァルフリートを眺める。彼自身ヴァルフリートを見たことはなかったのだが、状況と彼の顔立ちにリーシャと似た部分があること、そして奥にいるモニカが腹を抱えて笑いを堪えていることから大体の状況を察した。

 

「おい。貴様に娘はやらん。とっとと失せろ」

 

 ヴァルフリートは今までにないくらい激怒した様子だ。近くで整列を保っていた団員がちょっとチビったくらいである。

 しかし相手はダナンだ。

 

「悪いがそれはできない相談だなぁ」

 

 むしろニヤリと笑って挑発する。

 

「リーシャはもう俺の団に入るって決まってるんだ。悪いが貰ってくぜ」

 

 彼は見せつけるようにリーシャを抱き寄せ腰に手を回した。久し振りだというのに距離の近いダナンにリーシャが頰を染めれば、ヴァルフリートの青筋が一つ追加される。……そしてそんな様子を眺めながら笑いを堪えるのに必死なモニカ。おそらく彼女は傍から聞いていて二人の会話がズレていることを察し、擦れ違ったまま進んでいることを知っていたのだ。それもこれもはっきりとした名前を言わずややこしい言い方をするリーシャと、そこを追及せず自分が頭の中で推測した人物像で話を進めようとするヴァルフリートが悪い。もっと根掘り葉掘り聞けば違うとわかったかもしれないというのに。そこに悠々と整列した団員の間を歩いてきた影が見えた時は、もう限界だった。

 

「寄りにも寄ってあの男の息子など……。私は認めん。ここで処刑する」

 

 ゴゴゴ……と怒りのオーラを纏うヴァルフリートが腰の剣に手をかける。過激に見えるが考えていた相手との落差を考えれば当然なのかもしれない。

 

 背中を預け共に旅をした無二の親友と、ことある毎に問題を引き起こし非道な行いすら嬉々として行う敵。

 落差が激しいのは明白だった。

 

「と、父さん……」

 

 旅の途中ジータから聞いた話もあるが、緋色の騎士バラゴナやザンクティンゼルで鍛えてくれた老婆、実際に旅に同行していたロゼッタから聞いた限りでは確かに非人間で唾棄すべき人物だと言える。しかしそれ自体にダナンは関係ない。父親への憧れという枷から解き放たれたリーシャは心からそう思っていた。

 

「……なぁ、リーシャ。折角だし一緒に戦ってみないか?」

「えっ?」

「お前も強くなったんだし、ヴァルフリートにどれだけ食らいつけるようになったか、試してみたくないか?」

 

 ダナンは小声で囁くように提案する。確かに、とリーシャは少し考え込む。ヴァルフリートは身近な強者であるモニカや死闘を繰り広げたガンダルヴァよりも強いことが確実な相手だ。なによりずっと憧れてきた父の背中がどれだけ近づいてきたのか試してみたいところはあった。

 

「事情はなんとなくしかわかってねぇが、ちょっと戦えば多少頭も冷えるだろ」

「……そうですね。わかりました、やりましょう」

 

 話が終わりリーシャは腰の剣を抜いてヴァルフリートを見据える。

 そんな彼女の様子に会話が小声だったせいで内容が聞こえていなかったヴァルフリートは、「あいつは俺達の仲を引き裂こうとしてる悪いヤツだ。だから殺っちまおうぜぐへへへ」と囁いているように見えた。

 

「リーシャに戦わせようとするとは、いい度胸だ。余程私に引導を渡されたいらしい」

「それはこいつが決めることで、俺は口添えくらいしかできねぇよ」

 

 ダナンは担いでいた大きな革袋を下ろし口に手を突っ込んで二本の刀を取り出す。革袋は丁寧に少し離れたところに置いた。

 

「【クリュサオル】」

 

 新たに得たClassⅣの『ジョブ』を発動する。

 黒い鎧に白いマント。二本の刀剣を装備し二刀流で戦う『ジョブ』。

 

「……『ジョブ』か。成功例というわけだな」

 

 ヴァルフリートも能力については知っているらしく、しかも『ジョブ』では最上位であるClassⅣまで至っていることを考えて警戒を強める。

 

「そういうことだ。アーセガル」

 

 ダナンは早速アビリティを使用し二刀を交差させるように斬撃を放つ。しかしヴァルフリートは真上からの一閃で斬撃を切り裂いた。

 

「すみません、父さん。認めてもらいます!」

 

 そこに風を纏い強化したリーシャが突っ込む。風で自身を強化した上に周囲に風を放つことで動きを阻害するのだと理解する。剣を受け止めて僅かに押されたことで実力の成長を感じ取り嬉しく思う。しかしそれとこれとは別だ。

 

「成長したな、リーシャ。だが言ったはずだ」

 

 ヴァルフリートは告げて自身も風を纏うとリーシャの全力を押し返した。

 

「強さは心・技・体の全てを満たすことで得られるモノだ。お前ではまだ、届かない」

「そりゃそうだろ。年季が違う。技と体ってのは時間をかけて練り上げるモノだからな」

 

 言いながら今度はダナンが襲いかかる。二刀による攻撃をヴァルフリートは見切り、しっかりと受ける。

 攻撃の合間を縫うように繰り出される攻撃は正確無比だったが、ダナンもそれを見切ることができていた。

 

 しばらく剣を合わせていて、それなりに人柄が伝わってくるのだが。『ジョブ』によって多少性格に影響が出ている可能性があるとはいえ、まともな剣筋だった。ヤツなら戦っている最中に事前に用意していた団員の生首を放り投げるくらいは平気でやってくるだろう。

 それにリーシャに合わせて攻撃を仕かけてくる様は厄介だ。あの男なら人に合わせるなんて真似するはずもない。それができているという点でヤツとは違うのだと理解させられる。

 

 なにより。

 

 悪人に惚れ込むような育て方はしてきていない。

 

 という自負もあった。娘を騙している悪い男、というよりは娘が惚れたのだから悪人ではないという方が信頼できる考え方でもある。

 

 そういう考えが湧いてくるとヴァルフリートの熱されていた頭は段々と冷めていく。

 

「ふっ!」

 

 リーシャの一閃が鼻先を掠めた。

 彼女の目を見ればわかる。ずっと一緒ではなかったとしても親子だ。彼女は本気だった。彼が父の思うような悪人ではないと思っており、それを父にもわかってもらおうとしている。

 

 少し視線を動かせばヤツの息子がいる。顔立ちに面影は感じるが戦い方からは一切気配を感じない。先入観で判断するのは失礼だったか、と内心で己を恥じた。

 

「……お前達の力はよくわかった。ならば、こちらも全力で応えなければならない」

 

 激怒していた時とは違い冷静な声でそう呟くと二人を剣で大きく押し返す。

 

「強さとは心・技・体の合わさりである。それら全てを戦場で活かし、統合することで強さとなる。そして統合し強化した時私は――通常の三倍の速度で動く」

 

 彼はそう告げた直後、リーシャの眼前に移動した。振り下ろされた剣を彼女が紙一重で避けられたのはほとんど偶然だ。

 

「【剣豪】」

 

 そこに『ジョブ』を変えたダナンがイクサバを握り斬りかかる。それを易々と受け止めると圧倒的な速度で動いた。

 

「無明斬」

 

 しかしダナンも負けじとアビリティを発動し高速移動を行うヴァルフリートの剣についていく。

 

「ほう。咄嗟の判断にしては上出来だ。だがいつまで持つかな?」

 

 彼は『ジョブ』持ちである父親達と空を旅していた。故に【剣豪】の無明斬が短い時間しか使えないことを知っている。

 そして効果が切れた途端についていけなくなりダナンは直撃を受けてしまう。剣の腹で殴ったのは情けか。

 

「……流石に、七曜の騎士ってのは強ぇ。若い頃とんでもねぇ強さだったっていうあいつらの親父の団にいて、更には七曜の騎士だもんな。そりゃそうか」

 

 『ジョブ』を解除し立ち上がったダナンは、何本か骨が逝ったらしく苦しげに息を吐いていた。

 

「ダナン、大丈夫ですか?」

 

 リーシャが彼に駆け寄り回復を唱える。

 

「そろそろ終わりにしてはどうだ、ヴァルフリート団長」

 

 そこで一頻り笑って落ち着いたモニカが止めに入る。

 

「……そうだな。年甲斐もなく熱くなってしまった、すまない」

 

 もう冷静にはなっていたので、ダナンに向けて素直に頭を下げる。

 

「いや、もう慣れた」

 

 しかし彼はあっけらかんと言った。何度かあったため父親の知り合いに会った時は殺されそうになると考えていたところがある。

 

「で、リーシャを迎えに来たんだがダメだったか?」

「ダメじゃないです! 全然、その嬉しいですから」

「そうかい」

 

 素直になったリーシャに優しげな苦笑を向ける様子からは、父親の影が感じられない。あの人を人とも思わない男と重ねるには、少しリーシャを対等に見すぎている。

 

「私もまだまだ未熟ということか」

「というより娘のことに関して耐性がないだけだろう。放任していたツケが回ってきたと思うべきだな」

「モニカ……」

 

 彼女の率直な物言いに、ヴァルフリートは眉を寄せた。

 

「モニカさん、どうして父さんを止めてくれなかったんですか? モニカさんがいれば父さんと戦うようなことには」

「そりゃあれだろ。不器用に擦れ違う親子を見て笑ってたからだ」

「えっ?」

「なに?」

 

 ダナンの言葉に、リーシャとヴァルフリートがほぼ同時に反応した。

 

「いやぁ、すまない。二人の話がかみ合っていないのはわかっていたのだが、明かされた時のヴァルフリート団長の反応が見たくてつい……」

 

 モニカはむしろ笑顔で謝った。

 

「「……モニカ(さん)」」

 

 親子からジト目を貰った彼女は小さく舌を出して(おど)ける。

 

「で、結局なにが食い違ってたんだ?」

「リーシャが秩序の騎空団を辞めて入ろうとしている騎空団が“蒼穹"で、ずっと傍にいたい相手がグランだと思っていたんだ」

「も、モニカさん! ずっとなんて言ってませんよ!」

 

 モニカの説明に、ああと納得するダナン。リーシャは頬を染めていたが、大した差はないように思う。

 

「なるほどなぁ。つまりヴァルフリートは親友の息子が相手だとわかって了承したが、実は俺だったからキレたと。まぁあんたとあいつの関係は知らないが、聞く限り秩序とは程遠い存在だっていうのはわかってるからな」

 

 話の流れを知り、うんうんと頷いて納得を示す。

 

「……でもダナンがそんな風に言われるのは間違っていると思います」

「かもな。だがまぁお前と一緒で、誰の子供かなんてのは一生変わらないモノだからな。そういうレッテルってのはずっとつきまとってくるモノなんだろうよ」

 

 リーシャとしてはダナン本人を見てくれれば、まぁ多分多少はマシだと思ってくれるはずだと思っているのだが。返ってきた彼の言葉は珍しく真面目なモノだった。レッテルというモノについてはよく理解できた。なにせ父親が団長を務める秩序の騎空団に入団した身だ。あれがヴァルフリート団長の一人娘か、と色眼鏡で見られ続けていた。

 

「……ふむ。ヤツとはかなり違うようだ。随分と、いい出会いがあったようだな」

 

 ヴァルフリートは先入観なしに彼を見定めてそう告げる。

 

「まぁな。あんたの娘も、その一人だよ」

「そうか」

 

 彼の言葉を聞き、ヴァルフリートは瞑目する。心を落ち着かせると、意思を固めて目を開いた。

 

「生まれは本人の罪ではない。……リーシャ。後悔はしないな?」

「はい。自分で決めた道です」

 

 娘に問いかけ、真っ直ぐ芯のある答えが返ってきたことに満足して頷く。続いてダナンに目を向けた。

 

「娘を幸せにすると約束できるか?」

 

 父親としての問いにダナンは少し驚いて、頭を掻く。その後神妙な表情で真っ直ぐヴァルフリートを見返した。

 

「……約束なんてできねぇよ。俺にできることは、俺の最善を尽くすことだけだ。なにより、まだ応える気はない」

 

 取り繕うことなく、今の自分の気持ちを誠実に返す。

 

「……そうか。なら娘を大切にしてやってくれ」

「できる限りはな」

 

 煮え切らない様子ではあったが、なにか悩みがあるのだと察した。また彼が悩み人と真剣に向き合うだけの人間性を兼ね備えていることはわかったので、今はそれで充分だと考える。恋は一生続かずいつか途切れることもあるのだ。無理に約束を取りつける必要もない。

 

「……先程の辞令に変更はない。リーシャ。空を旅して得られる経験は、秩序の騎空団にいても得られないことばかりだ。存分に学ぶといい」

「はいっ」

「ただ、もし帰ってきたくなった時は歓迎しよう。いつでも、帰ってくるといい」

「はい。ありがとうございます、父さん」

 

 親子の絆を見せた後、

 

「リーシャ。すまないが先に行ってくれるか? 彼と少し話したい」

「? は、はい」

 

 なんだろうと小首を傾げつつも、大事な話なんだろうと思い最後に深々と頭を下げてから整列した団員の間を歩いていった。団員達は涙ながらにリーシャを見送っている。

 

「……あの男は危険だ。だが私達が当時全員がかりでも討伐しなかったのには、それだけの理由がある。そしてそれは、子供にも引き継がれるだろう。いつか直面することもあるだろう」

「なるようにしかならねぇよ。先のことなんてわからねぇし」

 

 抽象的な忠告は要らないと切り捨てる。

 

「そうだな。だが心するべきだ。好いている女性がいると知れば殺すか犯すかするだろう。なんにせよ、奪うはずだ。そうなりたくないなら精々強くなるがいい。せめて七曜の騎士を一人で倒すくらいには強く、な」

「……わかってるつもりだ。そのために日々頑張っているところだがな」

「そうか。くれぐれも、娘のことは頼んだ」

「ああ、約束する」

 

 ダナンはヴァルフリートと話した後、踵を返してリーシャを駆け足で追いかけた。整列する団員達が血涙を流しそうな形相で睨みつけていた。

 

「行ってしまったな」

「ああ。リーシャにまさか想い人ができているとは、思いもしなかったがな」

「ふふ、そうだろうな。それで団長、重大な用件があるのだろう? 私一人でも問題ない案件か?」

「ああ。モニカなら問題ないだろう。では、中に入ろうか」

 

 リーシャの新たな旅立ちを見送った二人は、ようやく本題に入る。そこでモニカに告げられたヴァルフリートからの指令とは、「ナル・グランデ空域の罪について調べて欲しい」というモノだった。

 

 既に“蒼穹”の主要メンバーは空域を越えており、これからモニカも向かう。更にはダナン達もシェロカルテの依頼により空域を越えることになるため、隣接したナル・グランデ空域に人が集まり始めているのは明白だった。




☆今日のおふざけ☆

リーシャ「あ、あの父さん。実はずっと言いたくて、言い忘れていたことがあるんです」
ヴァルフリート「なんだ?」
リ「父さんって、イジメを受けてるんですか?」
ヴァ「???」
リ「だってあんなダサい兜貰って……」
ヴァ「ダサっ!!?」
リ「黒騎士さんの兜がカッコ良かったのに、父さんの兜って『あの人が父です』って言うのも恥ずかしいくらいダサいじゃないですか」
ヴァ「恥ずかしい!!?」
リ「だからきっと父さんだけ仲間外れにされてるんじゃないかって不安で……」
ヴァ「そ、そんな事実はない」
リ「そうなんですね、良かった。じゃあもしかして趣味……?(白い目)」
ヴァ「し、趣味ではない。だが七曜の騎士は剣と鎧を受け継ぐからな」
リ「そうだったんですね。安心しました」
ヴァ「う、うむ……」
リ「じゃああのダサい馬の兜をつけて私に会うことはしないでくださいね、父親だと思われたくないので。それじゃあいってきます!」
ヴァ「…………カッコいいだろアレ」
モニカ「そのセンスだけは捨てた方がいいと思うのだが」

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