大晦日だろうが元旦だろうが変わらない毎日更新で、お届けします。
要するに暇人ということです。実家にも帰らず一人寂しく過ごしてますよー。
では良いお年を。明日も更新しますけどね。
まさか碧の騎士ヴァルフリートと戦うことになるとは……。
というのが俺の率直な感想だった。
アマルティア島にリーシャがいるそうなので、小型騎空挺で向かいすぐ済むからと俺一人で行ったのだが。
秩序の騎空団団員が道の左右に整列している状態だった。なんだこれ、なにかあるのか? と思っていたのだが庁舎に向かう一本道だったので迂回するのも面倒だとそのまま通ってきたのだが。
すると茶髪のおっさんとリーシャとモニカがなにやら話している様子が見えて、とりあえずリーシャに声をかけたという経緯だ。
そうしたらそのおっさんはリーシャの実の父親である七曜の騎士が一人、碧の騎士ヴァルフリートだった。しかもキレて戦い始めてしまった。いい経験にはなったが正直なにすんだよという気持ちの方が強い。まぁどうやら団を辞めてうちに入るという話をしていたようだ。それとヴァルフリートのセリフを考えると、リーシャがなにか言ったんだろうとはわかったのだが。
とはいえ一応話のわかる人ではあったらしく、戦いの途中から怒りを収めて冷静になってくれたのは良かった。そこで色々とやり取りをした後リーシャと共に小型騎空挺を停めてある港に歩いている。
その途中で、
「……これからはずっと、一緒にいられますね」
と頬を染めて上目遣いに言ってくるモノだから、見ていた団員の何人かが鼻血を噴いていた。
「そうだな。で、今はあれから出会ったヤツらと一緒にいるから、後で紹介するな」
「はい。スツルムさん達はグランさん達と一緒に白風の境に行ったとは聞いてましたけど、他にも仲間ができたんですね」
「ああ、運のいいことにな。と言っても各島を回ったところで得られた仲間は四人だ。……あいつら多分ほとんどの目ぼしいヤツら持っていきやがってるな」
「そう、かもしれませんね」
秩序の騎空団として“蒼穹”のメンバーの洗い出しやなんかも行ったリーシャとしては、その言葉に苦笑するしかない。どんな旅をしたらあそこまで貴重な人材を確保できるのかと思ったほどだ。
「あ、ダナン。その子が団員?」
俺達が小型騎空挺に近づくと、フラウが近寄ってきて自然に腕を絡めてくる。
「なっ!」
その親しげな様子にかリーシャが頬を染めてむっとした顔になる。その様子にフラウは気づいたらしく、勝ち誇った笑みを浮かべた。……挑発してやんなよ。
「……そ、その人とはどういう関係なんですか、ダナン」
リーシャはそのままの顔で俺に尋ねてくる。
「それはもう、特別な関係よ。毎日可愛がってもらっているもの」
フラウは妖しげな笑みを浮かべて空いている手を俺の胸元に這わせる。リーシャはなにを想像したのか耳まで顔を真っ赤にしていた。
こういう場面でリーシャがフラウに敵うことはないだろう、と思ってそろそろ止めようと思ったのだが。
リーシャが俺のもう片方の腕を取って抱き着いてきた。
「……わ、私だって負けるわけにはいかないんです」
傍目から見ると可哀想なほど真っ赤だったが、それでも勇気を振り絞った様子だ。これにはフラウも驚いている。
「……そう。じゃあ今夜は二人で、ね?」
「えっ!? い、いえそういうのはちょっと……。まだ早いと言いますか……」
リーシャは彼女の申し出にあわあわと首を振る。やはりフラウの優位は揺るがないか。
そこに、
「あ、ダナンちゃん――ナニシテルノ?」
たった今到着したらしいナルメアが声をかけてきて、両手に花状態を見てか目から光を消していった。マズいと直感し二人を振り払って彼女の下に行く。
「来てくれたんだな、ありがとう」
「……ダナンちゃん、また知らない女の子と一緒に」
「ナルメア。ほら、そんな顔するなって」
頭を撫でてやって普段のナルメアを取り戻させる。
「……やはりナルメアさんは強いですね」
「……う~ん。難しいね」
二人がなにかを言っている気がしていたが、今は気にしないでおこう。
「無事合流できたか」
ナルメアと一緒に行動していたらしいオクトーとフュンフが近寄ってくる。黒い鎧に白いマントという特徴的な恰好に、置いてけぼりになっていた三人が色めき立つ。
「おいおい、十天衆かよ」
「噂には聞いているが、あれが刀神オクトーか」
「ハハッ。丁度いいぜ」
二人が驚く中、ゼオがオクトーの前に歩み出る。
「む?」
「オレァゼオってンだ。刀使いとしちゃァアンタに会って手合わせしねェ手はねェ」
「俺からも頼むわ。ちょっと相手してやってくれ。話してるから」
「あいわかった。では手合わせするとしようか」
「おう。助かンぜ、大将」
ゼオにとっていい経験になるだろうと思い、俺からも頼んでおく。オクトーの肩に乗っていたフュンフはぴょいと跳び下りた。
「とりあえず紹介からな。オクトーに挑んでるのが、ゼオ」
「ダナンが前に逃がした“野盗皆殺し”のゼオさんですね?」
「ああ。それなりに強いし、気になるなら見てればわかる」
細かい紹介はいいだろう。とりあえず名前さえわかれば。
「で、そこで眠そうにしてるのがレラクル。忍者だ。仕事になればしゃきっとするが、普段はあんな感じだ」
「よろしく頼む」
小型騎空挺の入り口で寝転びながら小さく手を挙げる。いやもうちょっとしゃっきりしろよと思わないでもない。
「で、ザンツ。操舵士だ。おかげで騎空挺の宛てもできた」
「おう、よろしくな嬢ちゃん達」
「もしかして『伊達と酔狂の騎空団』の?」
「おう、よく知ってるな。石は投げないでくれよ?」
「もちろんです。空域を越えるのに、これ以上なく心強い人選だと思いますよ」
「お、おう。……人ができてんなぁ」
「?」
ザンツはおそらく騎空団を解散させたことを言いたかったのだろうが、まぁ生真面目リーシャにそういうのは通用しない。
「次は私ね。私はフラウ。ダナンとはとても親密な仲よ」
とても、という部分を強調する。リーシャとナルメアがむっとした表情になった。まぁ関係としてはあながち間違っていないのが難点だ。フラウの性分もあるだろうが、隙あらばという感じだからな。
「んんっ。私は秩序の騎空団他騎空団特別派遣団員、リーシャです。よろしくお願いしますね」
真面目な彼女は長ったらしい肩書きをすらすらと名乗る。どうやら船団長は降りたらしい。
「わ、私はナルメア。よろしくね?」
続いてナルメアも名乗った。
「そうだ、ナルメア。シェロカルテから紫の騎士と交戦したってのは聞いてたんだが、なんで十天衆と一緒にいたんだ?」
「それは“蒼穹”が資金集めや空図の欠片を集めるために一旦元のメンバーで行動するっていうことになったから、それなら一緒にって誘ってくれたの。二人と色んな島を回りながら色んなことを教えてもらってたんだけど」
「色々って、あれか? ナルメアが使う魔法と刀に関して?」
「う、うん。二人に教わって強くなれたと思うから。これでもっとダナンちゃんの役に立てるね」
邪気のない笑顔が眩しい。……ただでさえ強かったナルメアが、おそらく全空でも最強と思われる魔法と刀の使い手それぞれから教わったって。強くなりすぎるんじゃね?
俺の最初の師匠の強さが留まるところを知らないかもしれない、と思い戦々恐々としていた。他のメンバーももしかして滅茶苦茶強いのでは、と思っているようだ。
「?」
当の本人はこてんと首を傾げて集中した視線に対し不思議そうにしている。
「とりあえず、今のところはこの人数だな。あと他に今どこにいるかわからないアポロとか、“蒼穹”と一緒に空域越えちゃったらしいオーキス、スツルム、ドランクとかいるが」
集めてきた四人に加えて、既に確保していた二人。俺と合わせて今は七人だ。残る四人がいるとしても合計十一人か。……あれ、小型騎空挺で行って全員回収できんのかな。まぁいいか。
「ハハハッ! やっぱ噂話と手合わせは違ェな! 上は高ェぜ!」
「曇りなき眼で上を目指すが良い。剣の高みでまた会おう」
「おうよ!」
短い間だったがゼオの手合わせは終わったようだ。ゼオが楽しそうなので良かった。オクトーから見てもあいつは見所あるみたいだしな。偶然にしても、いいヤツと巡り会えたモンだ。
「じゃあ行くか。最後の空図の欠片だかを取りに、白風の境にな」
俺の言葉に、団員達が一斉に応えた。
「じゃあねー、ナル姉ちゃんー」
「またね、フュンフちゃん」
ナルメアを送り届けに来てくれただけだったようなので、十天衆の二人は早々に立ち去る。手を振り返すナルメアの顔はにっこにこだったので、随分と仲良くなったようだ。まぁ問題のオクトーともいい関係を築いていそうだし、宴の時の行動は悪くなかったのかもしれない。
二人と別れて小型騎空挺に乗り込んだのだが。
「人数多くなってくるとなかなか狭く感じるな」
七人が小型騎空挺に乗ると若干手狭に感じた。黒騎士一行として行動していた時より一人増えた程度なんだがな。ザンツが操縦士だから。ベッドは二段だからまだ寝転んでもスペースはあると思うのだが、ここにあの三人が加わるとなると流石に多すぎだろう。
「操縦士込みで定員十人って触れ込みだったな。空域越えたところでなにがあるかわかんねぇし、まぁなんとかなるだろうよ」
小型騎空挺の持ち主であるザンツがそう言うのであれば構わないのか。
「じゃあ合流したヤツもいることだし、今一度整理するな? 俺達の目的は白風の境で空図の欠片を集めて隣のナル・グランデ空域に乗り込み、シェロカルテの依頼である“蒼穹”のヤツらの生存を確認する。で、同行してたはずの団員三名を確保して離脱。後はあいつらに任せると」
「任せるんですか……。と言うか厄介事に巻き込まれていること前提ですか?」
「いや、あいつらなら巻き込まれてる。絶対」
「確かにそうかもしれませんけど」
リーシャもそう思ってるんじゃねぇかよ。
「ということでとりあえすの行き先は白風の境だ。ザンツ、頼んだ」
「おう。と言いたいところだがちょっと別の島寄らせてもらうぜ」
操縦士の座る席との間の扉を開いたままにして会話を続ける。
「なんでだ?」
「坊主は知らねぇのかもしれねぇが、白風の境ってのは超
流石おっさん。経験と知識を活かして必要なことを伝えてくれる。
「そうか。じゃあしょうがねぇ。行き先は任せるな」
「おう」
ということで、白風の境ではなく近くの島に立ち寄ることとなった。
その道中、ゼオは不意にこんなことを言い出した。
「なァ、大将」
「ん?」
聞き返すとさも当然というような表情で聞いてくる。
「大将の騎空団はなんつうんだ?」
「あん?」
俺は聞かれて初めて、そういや全然考えていなかったなと思い立つ。
「……考えてなかったわ」
「ンだよ。じゃあ今から決めようぜ?」
他も気になるようだったが、俺が決めていないとわかって肩を落とした。……そんな重要か?
「名前っつったってなぁ……」
急に言われても思いつかない。
「例えば『伊達と酔狂の騎空団』なんかは団長のやりたいこと、つまりは伊達と酔狂に付き合う連中の集まりだからそう名づけてたな。団長としては俺のやりたいことをやる騎空団、みたいな意味合いか」
まずザンツが以前いた団を例に挙げる。そう言われると俺のやりたいことについてきてもらう形だから、『伊達と酔狂の騎空団』とも言えなくもない。
「空の秩序を守る騎空団だから、秩序の騎空団。こちらもそのままですよね」
リーシャが兼任する騎空団を挙げる。確かにな。とはいえ俺は別にこれっていう一本筋がないからな。空を旅して“蒼穹”より先に星の島イスタルシアに辿り着く、というくらいか。そうなると“旅空”の騎空団とか“星空”の騎空団とかになりそうだ。なにそのメルヘンチックな名前。
「“十天衆”、は騎空団名だけど同時に称号でもあるのよね。じゃあ参考にならないかな」
フラウは先程会ったからか十天衆を挙げる。そういえばあいつらって十人で一つの騎空団だったな。そういう形もあるのか。だが別に俺達に共通点があるわけでもなく、これからまだ増えるかもしれないので難しいかもしれない。特例ということで彼女の言う通り参考にしない方がいいだろう。
「じゃあグランちゃんとジータちゃんの“蒼穹”の騎空団になぞらえたらどう? ダナンちゃんの騎空団は、あの子達の騎空団のライバルになるんでしょ?」
ナルメアがそう提案してきた。……まぁ確かにそう言ったが、よくよく考えてみると勢いでライバルとか名乗れる規模の相手じゃねぇんだよなぁ。だがあいつらより下ってのはそれはそれで気に食わない。それにもう遅い。ライバルとして宣言したからには、なんとか対抗できるような騎空団にしていきたいモノだ。
「まぁ、そうだな。あいつらより先にイスタルシア行くって宣戦布告した手前、そういう名前でもいいかもな」
とはいえどういう名前にしようかという案があるわけではない。
……青と空の別の字で、“蒼穹”か。青っつうとグランのイメージカラーみたいなところはあるよな。ルリアのイメージカラーでもあるか。あとはカタリナも青のイメージあるかもな。となるとグラン、ルリア、カタリナの反対となると……俺、オーキス、アポロになるか? その三人に共通する色かぁ。って深く考える必要ねぇな。俺はずっと黒ずくめだし、アポロなんかは黒騎士だ。オーキスも黒い衣装を着ることが多い。ってことで黒になるな。
じゃあ後は空の位置か。とはいえ空の反対は地だと思うが、“黒地”はあんまりぴんとこない。そこまで反対にする必要はねぇか。あいつらが空なのだとしたら、俺はなんだろうな。もっと小さくて清々しい印象のない言葉がいい。加えて黒に合わせられる言葉と言えば、俺は一つしか思い当たらなかった。
「“
俺が口にした名前に、ザンツ以外の全員の視線が集中する。
「あんまり表舞台に立つ気はねぇし、大きなことは“蒼穹”の連中にでも任せて適当にやればいい。元々俺は暗躍の方が性に合ってるんだ。だったら、そういう意味合いの名前でもいいだろ」
俺は名づけ理由を並べる。
「ま、いいんじゃねぇの。俺もなんだかんだ表に立ちづらいしな」
「うん、ダナンちゃんらしくていいと思う」
「確かにダナンが団長の騎空団らしいですね」
「いいじゃねェか、大将」
「別になんでもいい」
「あなたの騎空団にぴったりの名前ね」
六人の賛同も得られたので、じゃあこれにしよう。
俺の騎空団は今日から、“黒闇”の騎空団だ。
ダナンの騎空団の命名は、実は番外編『魂の音色を響かせよう』でヒントが出ています。
エイプリルフールのユニット名ですね。
グランプロデュースが「スカイブルー」→“蒼穹”で
ダナンプロデュースが「ダークブラック」→“黒闇”です。
因みに黒を玄にしようかと思ったのですが、遠目から見た字面が玄関と一緒だったのでやめました。