ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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明けましておめでとうございます。
今年もナンダーク・ファンタジーをよろしくお願いします。

三が日でも変わらず更新します。

そういえばグランジータって今どんな感じだったっけ? と思ったので一応記しておきます。
この時は大体二度目のベスティエ島の辺りかな? ギルベルトがバラゴナとアリアを連れて攻め込んできた時ですね。ダナン達がナル・グランデ空域に辿り着くタイミングは決まっているので、大体それくらいかと思います。それかもうちょっと進んでいるかもしれません。


白風の境

 ザンツの進言により防寒装備を一人一式揃えた後、俺達は白風の境を訪れた。

 

「「「寒っ!」」」

 

 何人かが声を揃えて言った。俺もその一人だ。

 

 島の外からも見えていたが、一面の銀世界。俺は雪というモノを初めて見たのだが、そんな感動などあってないようなモノだった。着く前から冷え込んでいたのだが、島に着いて防寒装備を揃えた状態で出てみれば、それでも尚凍えるほど寒かった。

 

「とはいえあんま厚着すんのもマズいんだよな。過酷な環境のせいで魔物共が巨大化してやがるからな。動きが遅くなったらなったらで魔物に殺されかねない」

「マジかよ。まぁだが、魔物なら油断しなけりゃなんとかなる、はずだろ。視界悪いし見失わないよう一まとまりになって動くぞ。想定より苦戦しそうなら俺が足場をなんとかする」

「了解だ。団長がそう言うなら、従うぜ」

 

 ザンツの忠告も考慮し、いざという時はワールドの力でなんとかしようと思っている。まだ検証段階なのでずっと使用するのはやめておきたいところだ。戦闘にも活かせるように色々と考えてはいるのだが、まだ実戦で使ったことはない。

 

「とりあえず山の方に行くか。住んでるヤツがいるとは思えねぇが、ここに星晶獣がいるはずなんだ。情報を集めるために色々歩き回らないとな」

 

 というわけで、俺達は白風の境を探索し始めたのだが。

 

「ハハッ! 強ェ、強ェぞ大将! 手応えのある魔物だ!」

「わかってるよ。さっさと倒せ、ゼオ」

 

 この中では一番の年下になるゼオは動きづらいと言って上の防寒着を脱ぎ捨てると、体長二メートルはある狼の群れに挑んでいった。こいつはアホだからか動きが鈍らない。いや火を灯して多少は熱を確保しているらしい。だがそんな程度で防げる寒さではない。あいつは絶対バカだ。

 

「はっ!」

 

 ナルメアは離れすぎないよう遠くから斬撃を放って魔物を狩っている。もこもこの防寒着を着ているのだが動きは鈍っていないようにすら見える。

 仕事状態となったレラクル、フラウ、リーシャも問題なく動いている。ザンツのおっさんは寒い寒い言いながらも銃で的確に数を減らしていた。

 

 まだ身体が冷え切っていないから問題なく戦えているが、長時間の戦闘と探索は無謀だろう。山に洞窟でもあれば入って暖を取り身体を休められるのだが。

 

「キュイイイィィィィィィ!!」

 

 そこに甲高い鳴き声が聞こえた。山の麓までもう少しという距離だ。

 

「あん?」

 

 顔を上げれば巨大な影が頭上に現れる。……とんでもない大きさの鳥が飛来してきていた。

 

「ハハッ! あいつでけェぞ、大将!」

「なんでお前はテンション上がってるんだよ」

 

 防寒着を着ずに歩くバカが楽しげに笑うので、ついツッコんでしまった。

 全長十メートルは下らない巨体で、翼を広げた幅は二十メートルを超えるだろう。クソ、こんな化け物もいんのかよ。

 

「なぁ、こいつが星晶獣だったりしねぇか?」

「いや、違ぇな。ここの星晶獣は昆虫みたいな姿だ」

「なんだ、会ったことあんのか?」

「まぁな。当時団長が山頂からの景色が見てぇとかで登ってる最中に遭遇したんだよ」

 

 お前らは冒険しすぎだろ。いやまぁ、そのための騎空団なんだろうが。

 

「じゃあこいつは倒していいってことだ。よし、てめえら。今日は焼き鳥だ!」

 

 過酷な環境下で育ってきた鳥肉……引き締まっていて美味いか、それとも大味になっているか。楽しみだ。

 

「それ、オーキスちゃんも言ってそうですね」

 

 リーシャが呆れたように言ってくる。確かに、遭遇していたらそんなことを言っているかもしれない。

 

「いいから、ほら来るよ!」

 

 フラウの声の直後、飛翔したまま巨大怪鳥が突っ込んでくる。俺達は回避を選択したのだが、警告をした張本人は避けなかった。

 

「はぁ!」

 

 真正面に立って構えると、思い切り鳥の顎を蹴り上げたのだ。全力だったのか鳥の身体が一回転したのだが、頭が潰れるようなことはなかった。やはり大きいだけじゃなく強いようだ。

 だがそこを隙と見たナルメアとリーシャが斬りつけ、更に傷を負う。ゼオが飛ばした刀で翼を串刺しにするが、それでも鳥は上空に退避しようと羽ばたいた。

 

「即席だけど、完成だ」

 

 飛ぼうとした鳥の足に細い糸が引っかかり、それが引っ張られることで罠が発動する。地面からせり上がるように出てきた網によって地面に縫いつけられた。

 

「大人しくしてろよっ」

 

 そこをザンツが殴りつけて暴れる鳥を大人しくさせたところで、

 

「【シェフ】」

 

 俺はあまり使いたくない『ジョブ』を発動すると即座に包丁で鳥の首を落とす。そこで完全に動かなくなった。

 

「解除解除、っと。寒いんだよなぁ」

 

 【シェフ】が嫌なのではなく、『ジョブ』自体が環境に適していない。なにせ発動すると衣装が変わってしまうからだ。それは俺の装備を一新した時もそうだったが、どれだけ着込んでも発動したら発動した『ジョブ』に応じた衣装に早替わり。……寒さに強い『ジョブ』とかないんだろうか。こんなところで【レスラー】とか発動したら凍死すんぞ。

 

「ゼオ、元気あり余ってるならそいつ運んでくれ。首はいらん」

「おう!」

 

 俺はゼオに頼んで鳥の死体を引っ張ってもらう。レラクルの設置した網を使えば縄を持つだけで運べるようになっていた。この気温なら血抜きをしなくてもすぐ凍っちまうだろう。仕事中のレラクルはホント役に立つな。

 

「おい、今のって“シェフ"っつったか? ホントお前さん何者だよ……」

 

 ザンツが今の『ジョブ』に驚いて呆れた。

 

「今のは俺がこの間WCCで優勝した時に取得できた『ジョブ』だからな」

「ってことはマジで“シェフ”なのかよ。俺も長く生きちゃいるが、滅多にお目にかかれない料理人だってのに」

「あれ? ということはまだ皆さんに料理振る舞ってなかったんですか?」

 

 ザンツが驚く中、リーシャは首を傾げて言った。……そういえばそうだな。こいつらと会ってからは適当に済ませてたかもしれん。この中で俺の料理を食べたことがあるのは、リーシャと宴の時にナルメアが食べてるかどうかってところか。

 

「ああ。そういやしたことなかったな。じゃあしょうがねぇ、今日の獲物を飛びっきり美味く調理してやるとするか」

「ふふ、ダナンの料理久し振りで、楽しみです」

「あ、デザートはねぇから安心して食えよ。作れるとしてもここじゃあかき氷が精いっぱいだろうが」

「あのことは言わないでください! ……寒いところでわざわざかき氷食べなくてもいいと思いますけど」

「だよな。とりあえず山の麓に洞窟があれば、そこで休憩しよう。まだ余裕があるとしても長時間歩くのは危険だからな」

 

 そう判断し、一直線に山の方に向かいつつ洞窟などがないかと見ていたのだが。

 

「うん? なんだ貴様ら」

 

 青と黄色の軍服を着込んだ男と遭遇してしまった。こんな雪山にどこの国が居住してるんだかと怪訝に思う。

 

「団長! 早くそいつを取り押さえろ!」

 

 しかしザンツがやけに切羽詰まった声を上げたことで、疑問しかなかった状況が一変する。男が驚いて武器を構える前に俺が手首を掴んで押さえ、足を払って雪の積もる地面に倒した。

 

「くっ! 貴様ら……!」

 

 足掻くが、きちんと関節を決めておいたので外すことはできない。

 

「……勢いでやっちまったが、こいつ捕らえて良かったのか?」

「ああ。こいつの軍服は、隣接したナル・グランデ空域の更に向こう、アウライ・グランデ空域を統べるイスタバイオン王国の軍服だ。空域を越えて軍が来てるなんて余程の事態だろうぜ。……アウライ・グランデ空域ってのは真王の居城があるところだ、つったらわかるか?」

「なるほど。じゃあここでこいつらのやってることを暴いて阻止してやれば真王の邪魔ができるかもしれない、と」

「ああ。つっても確信はねぇし、そいつから情報を聞き出すしかねぇだろうな」

「そうか」

 

 ザンツの話を聞き、じゃあこいつに聞いてみようということで行動を開始する。まず頭に被っているヘルムを取った。

 

「な、なにを……!」

「いや、情報を聞くために、ちょっとな。俺はこれからお前が質問に答えない度に装備を剥いでくから、凍死したくなかったら正直に答えろ」

「だ、誰が……!?」

 

 渋ったようなので上の服をまとめて剥いでやった。

 

「ひぃっ! や、やめ……! なんで上全部いきやがった!?」

「立場がわかってねぇようだなぁ」

 

 口の利き方がなっていない男に対し、俺は靴と靴下も脱がせてやった。

 

「あぁ! 冷たい! 寒い! た、助けてくれ! 話す、話すから!」

「よし。じゃあ確認だ。お前はイスタバイオン軍の兵士ってことでいいんだな?」

 

 俺の質問にこくこくと震えるように頷く。

 

「他の仲間は何人いる?」

「じ、十九人だ! 早く、早く服を! このままじゃ死んじまう!」

 

 答えはしたがまだ立場がわかっていないのかそんなことを言ってくる。

 

「……俺も甘くなったもんだ。まさか完全有利なこの状況下で、敵にそんな口を利かれるなんてな」

 

 そう呟き左手を剥き出しの背中に当てると炎を灯した。

 

「あっづぅ! 熱い! 熱い!」

 

 これでは答えられるモノも答えられないので、一旦炎を止める。俺は声から感情を消して淡々と告げた。

 

「まだ立場がわかってねぇみたいだな。てめえは俺になにか請えるような立場か? ガキだからって甘いと思うなよ。十九人いるんなら、お前は殺しても問題ねぇしな」

 

 火傷を負った背中を手で押し込んで痛みを与え、絶対的不利を叩き込む。

 

「……わ、わかりました」

「それでいい。イスタバイオン軍の兵士がこんなとこでなにしてる?」

「そ、それは……」

 

 まだ言い淀む余裕があるらしい。俺は下半身の装備も引ったくってパンツ一丁にさせる。

 

「次、全裸な」

「言う! 言いますから!」

 

 動揺せず淡々と続ける。命乞いをしても響かないとわからせてやることが大切だ。

 

「……イスタバイオン軍の兵士はこの先の瘴流域の中に砦を構えていました。そこにエルーンの傭兵を捕らえたところ蒼の少女と赤き竜を連れた騎空団がここを訪れました。ヤツらはどういうわけか瘴流域を越えて砦を襲い、逃げ果せました。しかしそこで我らを率いていた黄金の騎士様がヤツらに同行していた者に目をつけました。その者はナル・グランデ空域にあったトリッド王国王族の末子。必要だったため元王子を連れ出し、そのためにここにいた里の者達を人質に取っているところです」

 

 一から十まで説明してくれた。大体の事情はわかったので凍死しかけで確かでない頭にしてはわかりやすかったのかもしれない。

 

「そうか。じゃあもう眠っていいぞ」

 

 俺が言って火傷から手を退けそいつを離すと、限界だったのかあっさり意識を手放した。こんなところでパンツ一丁で寝れば死は確実だ。

 

「これで大体の事情はわかったな」

 

 俺が普段の調子で振り返ると、ほとんどが微妙な顔をしていた。ナルメアだけは悲しそうな顔をしている。

 

「こりゃ表舞台に立てねぇわけだなと思ってよ」

「敵に容赦しないところはいいと思うよ?」

「……複雑ですね」

 

 いい顔をしていないのはリーシャとナルメアか。まぁそんなところだろう。

 

「悪いな。俺は本来、容赦しない性質なんだ」

 

 リーシャはある程度知っているだろうということで、ナルメアに向けて告げた。彼女は少し考える素振りを見せると普段の表情に戻り口を開く。

 

「……そっか。でも、知ってたから大丈夫」

「うん?」

「ううん、なんでもない。気にしてないってこと」

 

 今「知ってた」と言ったとは思うんだが、どこで知ったのかが全然見当つかなかった。しかし話す気はないようだ。不思議ではあるが、まぁ失望はされていないようなので、後に置いておこう。

 

「とりあえず情報をまとめよう。イスタバイオン軍はここにいた要人を攫うために一緒にいた人達を人質に取っているらしい。どうするかは団長が決めてくれ」

「俺は助ける方に意見したいがな。元々真王ってヤツは気に入らねぇんでな。どういうつもりなのかは知らねぇが、得体が知れないのは確かだ。なにより空域を越えてこんなところに砦作ってる時点で信用ならねぇだろ」

 

 レラクルの言葉に続いたザンツは吐き捨てるように言った。

 

「助けることに異論はありません」

 

 リーシャが言って他も頷く。となると最終決定は俺がするにしても団員の意見はイスタバイオン軍を倒して人質を助けることか。まぁイスタバイオン軍の兵士を殺っちまったので今更敵対するもなにもないだろう。それに七曜の騎士の一人が欲しがるような要人の知り合いを助けたとなれば恩を売れる。

 

「そうだな。俺も、ドランクのヤツを攫ってくれた礼はたっぷりしてやらねぇといけねぇしなぁ」

 

 ニヤリと笑った。

 ドランクは騎空団に入る予定だ。それはつまり仲間だということ。仲間がやられたなら、報復をしなければならない。存分に、な。

 

「……」

 

 ふと妙な視線を感じて顔を向けると、リーシャがなぜかじっと見つめてきていた。他は苦笑して呆れた様子だというのに。……お前まさか。

 

「確かにダナンのあの顔はある種ゾクゾクするよね」

 

 俺が怪訝な顔をしている理由がわかったのか、フラウがそんなことを言っていた。そこでリーシャに視線が集中し、ようやく本人がはっとする。

 

「え、な、なんですか?」

 

 何事なのかと他の人を見回すくらいだ。

 

「ダナンの悪い顔に見惚れてたんじゃないの、って」

「えっ!? ち、違いますよ。そ、そういうんじゃないですから」

「じゃあなんだって言うの?」

「それはその……久し振りに見たのでつい」

「見惚れちゃった?」

「違いますから!」

 

 リーシャはフラウに詰め寄られて赤面している。……なんだ、もう手遅れな段階までいってなかったのか。良かった良かった。今のところリーシャとナルメアがいることでフラウとの行為も抑制されているし、どこかのおっさんはむしろハーレム推奨の構えなので常識人がいると有り難い。

 とりあえず深く追及してやるのはやめておいて、踵を返した。

 

「よし、じゃあ行くぞ。兵士がいたならおそらくこの近くに人が住める場所があるはずだ。助けるついでに泊めてもらおう」

 

 直近の方針を決め、俺達は住処を探して再び雪山を進むのだった。


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