ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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白風の境にあった里

「お、お前達は一体――ぎゃあ!」

「くっ、敵襲! 敵襲だぐほぁ!」

「た、助けてくれぇ!」

「ひ、ひぃ!」

「つ、捕まったら服を剥がされるぞ! この土地でそんなことされたら即死確定だ!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 そしてその様子を作り出しているのは俺達だ。

 

「す、すみません! あの、一応助けに来たのでそんなに怯えないでもらえますか?」

 

 悲鳴を上げているのはイスタバイオン軍の兵士達。部屋の隅で縮こまっているのが人質になっていた人々だ。リーシャが申し訳なさそうに声をかけたことで、ようやく心を落ち着けてくれた。

 

「手荒な救出で悪いが、手荒なのは向こうも同じだろ?」

 

 俺は言って殴られたような痣のある女性に回復の魔法を使用する。女性は「あ、ありがとうございます」と頭を下げた。少し警戒が解けたように思う。

 

「助けた直後で悪いんだが、休める場所と調理場を貸してもらえないか? あと調味料とかも貰いたい。食料を分けるぐらいはできるんだが」

「は、はい。必要最低限しかありませんが」

 

 里の人の許可が下りたので、俺が存分に料理するとしよう。

 

「あ、ダナンちゃん。手伝おっか?」

「いや、今回はいい。久し振りにナルメアの料理が食べたいところもあるんだが、料理がしたくてうずうずしてるんだ」

「ふふ、そっか。じゃあ楽しみにしてるね」

「ああ」

 

 ナルメアに断りを入れ、久し振りな気もするが料理を開始する。メインディッシュは襲ってきた巨大な鳥だ。軽く焼いてから一口。うむ、美味い。過酷な環境下で凝縮された旨味がある。量も多いし、焼き鳥だけでなく色々な料理を作るとしよう。

 身体が芯から温まるスープなんかもいいだろう。やっぱり料理は考えてると楽しくなってくるな。

 

 久し振りということもあって鼻歌を歌いながら調理を開始した。

雪山だったのであまり期待していなかったのだが、それなりに調味料は充実していた。流石に一から百まではなかったが、その感覚で言うと五十くらいまではある感じだ。野菜などもこの自然環境では育たないだろうに、それなりの数があった。天然の冷凍庫もあるだろうし、食糧は問題ないのかもしれない。となると誰かがここに運び込んでいると考えるべきか。要人を囲っていた場所だし、亡命とかそういう類いだったと考えれば事情を知っている誰かが密かに届けている可能性は高いか。

 

 俺は俺達人数分に加えてとりあえず見かけた人数より少し多いくらいの量を作っておく。一応俺の料理の腕なら泊めてもらう代わりに振る舞っても文句は言われないはずだ。というか言わせない。

 

「ほい、お待ち」

 

 というわけでリビングらしき場所の大テーブルに作った料理の数々を並べた。

 

「おぉ……!」

 

 無邪気に目を輝かせているのはゼオだけだが、他も俺の腕を知らないヤツらは驚いているようだ。

 

「調味料使わせてもらってるのもあるしある程度見えた人数分くらいは作ってある。泊めてもらうお礼と言っちゃなんだが食べてくれ」

「私達の分まで……ありがとうございます」

 

 里の人達も席に着かせて一緒に食事を行う。同じ飯を食えば仲も深まると言うが、あれは今食べている料理という共通の話題が作れるからだと思う。今回は警戒心を解いてくれるようにという狙いもあってだが。

 当然ながら「美味い」と言わせて和気藹々と食事をしていく中で、次第に会話も増えていった。

 

「ところで、あなた方はなぜこんな辺境に?」

 

 おかげで向こうから話題を振ってくれることも増えてきた。

 

「ちょっと空図の欠片を取りに。あとついでに“蒼穹”のヤツらの情報集め、かな」

「空図の欠片を? では星晶獣ディコトムスに。それとその“蒼穹”というのは……」

「今話題の大騎空団でな。今は少人数で動いてるが、赤い小さな竜と蒼髪の少女を連れた双子の団長率いる騎空団だ」

「ああ、それならここに来ましたよ」

 

 よし、現地の人に確認が取れた。イスタバイオン軍もそれっぽいことは言っていたが、信用に値するかと言われれば悩むところだからな。

 

「あの方々は攫われたハル様と一緒に星晶獣ディコトムスから空図の欠片を得ると、イスタバイオン軍が作っていた瘴流域内にある砦に囚われたお仲間を奪取しに行ったそうです。その後はここの山頂に行ってから行方不明と言いますか……。おそらく瘴流域に呑まれて隣のナル・グランデ空域かどこかに行ってしまったのではないかと思われます」

 

 事情を説明してくれた人は苦々しい表情で言った。瘴流域に呑まれた、か。

 

「瘴流域内の砦に行ったってことは瘴流域を越えられるはずなんだろ? じゃあなんで呑まれたんだ?」

「さぁ、そこまでは。ただファータ・グランデ空域の空図の欠片は全部で十個とのことでしたので、ディコトムスの持っているモノを入手すれば通れると言っていたかと」

 

 空図の欠片の必要個数がわかるとは、相当特殊だと思うんだが。空図の欠片自体が伝説や伽話と認識されているくらいだ。相当な事情を抱えた集団なのだろう。

 十個か。ポート・ブリーズ、バルツ、アウギュステ、ルーマシー、アルビオン、霧に包まれた島、ガロンゾ、メフォラシュ、ダイダロイトベルト、そして白風の境。確かに十個だな。ファータ・グランデ空域にも島は多いってのに、よくもまぁ短い期間で空図の欠片がある島を巡れたもんだ。あいつらの強運はヤバいな。俺達だけでやったら倍の時間はかかりそうだが。

 

 しかし本来なら通れるはずの瘴流域に呑まれたということは、なにか瘴流域に関わる者の意思を感じるな。必要な空図の欠片が足りなかったんなら、そもそも瘴流域内に入ることすらできず立ち往生していたはずだ。ということは通れるだけの空図の欠片を持っていながら呑まれたということになる。瘴流域を操るヤツ、か。見当もつかないが、七曜の騎士は真王の力によって瘴流域が通れる。なら真王が瘴流域を操る力を持っていると考えることも可能だ。

 また真王かよ。

 

「なるほどな。とりあえずディコトムスに会うとするか」

「そうですか。星晶獣ディコトムスは山頂付近にいるようなので、そちらを目指せば会えると思います」

「わかった。一晩泊まっても構わないか?」

「はい。助けていただいたお礼もありますし、一部屋に雑魚寝いただく形になりますが」

「ああ、それでいい。むしろこんな寒い場所で建物に入れることが奇跡みたいなもんだからな」

 

 洞窟で一泊、と思っていたくらいだ。ここに泊めてもらえるだけで有り難い。

 

「そう言っていただけると助かります。では客室の一つに案内しますね」

「ああ、頼む」

 

 こんな場所でも客室とかあるのか、と思ったがおそらく余分に部屋は取ってあるのだろう。来客は少ないだろうが、来なかったら生活はできないだろうけどな。

 

 それなりの広さの客室に、予備の布団を合わせて敷き詰めてもらった。縦の敷布団が横に三つ並ぶ幅があったのだが、六つしか布団がないということになり、また誰がどこで寝るかが火種となった。

 

「一緒に寝ましょう、ねぇダナン」

 

 とフラウがしなだれかかってくれば、

 

「ダナンちゃんはお姉さんと一緒がいいよね?」

 

 とナルメアが圧力のある笑顔で手を引く。

 

「ふ、ふしだらなことはダメです! ダナンは端っこの上で、私が隣で見張りますから。下はゼオ君にしますので」

「ちゃっかり隣取ろうとしてるじゃない」

「リーシャちゃん狡い」

「違います、お二人が来ないように見張るためですから」

「でもそれだと誰かが結局二人で入ることになるでしょ? だったら私が一緒に寝てもいいってことよね」

「ダメです。私がいる限り認められません」

 

 リーシャはきっぱりと告げてフラウとナルメアを押し留めている。流石は秩序の申し子。どうせならもっといい思いをさせてやりたいが。

 

「よし。じゃあリーシャ。お前が俺と一緒に寝るか?」

「えっ!?」

 

 からかい混じりに言うとすぐに顔を赤くする。しかしそれだけでは終わらないのがリーシャだった。

 

「……えっと、その、優しく、してくださいね……?」

 

 恥らうように頬を染めて若干俯き気味にそんなことを言ってきた。

 

「ダメに決まってるでしょ」

「リーシャちゃん、さっき私達に言ってたこと思い出して」

 

 当然、先程まで押し留められていた二人がそんなリーシャを切り捨てた。

 

「だ、ダナンが選んだならそれでいいんです」

「今のは話の流れよ。いっつも一緒に寝てる私とがいいよね?」

「ダナンちゃんはお姉さんと一緒に寝たいよね?」

「だ、ダナン。どうなんですか?」

 

 そして最終的には俺の方に来てしまった。……いやどうしろと。

 最近の傾向で言うなら、二人が俺と一緒にいようとするのをリーシャが阻むという構図が多い。まぁ結局朝になったら潜り込まれている率の方が高いのだが。その点で言えば二人を阻む方が多くて結果先を越されがちなリーシャが少ないとも言える。なら偶にはいいだろう。

 

「よし、リーシャにしよう」

「えっ? ほ、ホントにいいんですか?」

「ああ。その二人は結局押し通ることが多いからな。偶にはいいだろ」

 

 ということで、布団が一つ足りない分を補足する方法が決まった。

 

「…………」

 

 結果的に就寝するとなった時、俺とリーシャが左上、左下がフラウで左上の隣がナルメアになった。残りは適当に、ということでザンツが右上、右下がゼオ、真ん中下がレラクルとなる。……実はゼオは寝相がよろしくないので、俺から一番離れたところにさせてもらったという事情がある。鼾の煩いザンツと、寝たら蹴られてもなかなか起きないことに定評があるレラクルで周りを囲っている。

 で、俺の間近にいるリーシャは俺の方を向いた姿勢で寝転がっている。俺もわざと彼女と向き合うように寝ているので、リーシャの顔は耳まで真っ赤だ。そんな彼女を見ていると、どうしても俺の嗜虐心が顔を出してしまう。

 うっかりちょっと近づくと身体を硬直させるのも面白い。

 

「……あ、あんまり近づかれると眠れなくなります」

「ふぅん? まぁ今日は特別に、どんな要望にも応えてやろう」

「ど、どんな……!?」

「ああ。本当になんでもいいぞ。ほら、どうしたい?」

 

 俺からやるのもいいが、言わせるのもまた一興。

 

「…………じゃあ、抱き締めて欲しい、です」

 

 リーシャはしばらく間を取って消え入りそうな声で口にした。

 

「そうか」

 

 しかし折角言わせたのだから言わせるだけでなく叶えてやるのも大事だ。俺は平気なフリをしてリーシャの細い腰の間から腕を通し、抱き寄せる。ほとんど密着した状態になるとリーシャは半分目を回し始めていた。これだからリーシャは。

 

「……やっぱり狡いわ」

「リーシャちゃんだけ狡い」

 

 しかしそうなると近くにいた二人が黙っていない。ナルメアがリーシャの背中を押し上げフラウが俺の肩を引き倒す。そうすることで俺は仰向きになりリーシャを載せる体勢となった。

 

「上はリーシャに譲ってあげる。今日だけね」

「お姉さんと手繋いで寝よっか」

 

 俺はリーシャ、と言ったはずなんだが結局三人共近くにいる状態となった。

 

「……あ、の」

 

 耳元でか細い声が聞こえてきた。

 

「これ、さっきより寝れないんですけど」

「じゃあ降りるか? 無理しなくていいからな」

「リーシャちゃんが退くならお姉さんがそこね?」

「ダメよ、私が載るから」

 

 別に載らなくていいんだが。流石に俺も寝つけない可能性が高いし。

 リーシャがどうするのか待ちの状態だったが、彼女は少し身を捩って体勢を変え俺の身体をきゅっと抱き締めてきた。

 

「……いえ。私は、ここにいます」

 

 恥ずかしさは消えないだろうが、それでもきっぱりと告げる。

 

「そうか」

 

 本人がそう決めたのならそうするしかない。少し顔を動かすだけでリーシャの火照ったすべすべで柔らかい頰に触れた。

 

「じゃあ、このまま寝ような」

「はい」

 

 リーシャにしては勇気を振り絞ったんだ、それに応えてやるくらいはいいだろう。その証拠に二人も静かになった。ただ俺の腕を抱え込むのはやめて欲しい。とはいえ俺が意識しすぎるとリーシャが意識しっ放しで眠れなくなってしまう。目を閉じてできるだけ周りに意識を傾けずじっとする。

 今日は珍しく、普段より高いリーシャの体温を感じながら眠ることになった。

 

 ……俺とフラウがもっと進んだ関係だって言ったらこいつはどんな反応をするんだか。




ダナン君は積極的ですが、私は新サクラ大戦でもサービスシーンがありそうな場面で「いやここで行ったら警察突き出されんじゃね?」と日和るタイプです(ヘタレ
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