ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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あくまで裏に徹しようとするダナン君。
そんなダナン君の前に立ちはだかるのはあの二人です。

またちょっとストーリーの裏感出てきましたね、最近。

あと更新が遅れてから感想が来なくなったので盛り下がっているのかなと思っていたら日間ランキングに乗っていました。……なぜだ。いやまぁ、感想の有無とランキングに関係はないんでしょうけど。
皆様、本当にありがとうございます。


最強の懐刀

 アリアが立ち去り、三人とも別れた後。

 

 俺は待たせておいたヤツらと合流した。

 

「“蒼穹”が到着した」

「わかってる。だからアリアが行ったんだ」

「……また女の名前?」

 

 レラクルの報告に返したら、フラウがトーンの下がった声音で言ってきた。

 

「いや黄金の騎士のことだよ。一々黄金の騎士って呼ぶのが長くて面倒ってだけだ」

「ふぅん? だといいけど」

 

 なぜだろう、最近同じような目を向けられることが増えてきた気がする。

 

「兎に角。俺達は“蒼穹”の前に姿を出さないつもりだから、もし誰かが捕らえてる二人の要人を連れ去ろうとしたら止めるってことで。まぁそれもあいつらがミスったらでいい。さっきの三人も確保に動いてるから、余程のことがなけりゃ連れ去られることはねぇと思うがな」

 

 俺は言って、ドランクから借りた宝珠をレラクルとリーシャとフラウに手渡す。一個は俺の手元に置いておく。

 

「配置は適当でいい。なにかあっても連絡が取れるように宝珠を持ってるヤツの周辺にはいてくれ。レラクルは例外として影分身使って各地に配置。動きがあったら伝えてくれ」

「既にやっている。牢のある方と“蒼穹”が向かった地点に一人ずつ」

「それ以外にも何人か頼む。連携の要だからな」

 

 俺は指示していき、それぞれ団員を配備する。なにやらガイゼンボーガさんが興奮していたが、まぁいい。やる気を出してくれるならな。

 

 しばらく経過し、欠伸が出るのを堪えながら待っていると持っていた宝珠が光を帯びた。

 

『ギルベルトがフォリアを連れて出てきた。あの三人が後を追っている。――“蒼穹”も出てきたようだ。星晶獣と七曜の騎士が、向かったはずだが』

 

 レラクルからの報告だ。どうやらあいつらはレム王国の星晶獣を打倒した上に、待ち受けていた七曜の騎士まで退けてしまったらしい。とはいえ本気の黒騎士にすら勝っていた連中だ。教えの最奥とやらで仲間が強くなったことを考えれば妥当だろう。無論それでもアリアとバラゴナの二人が向かったはずだから、脅威と言う他ない。あの二人を倒すだけの力が、果たして俺達にあるかどうか。アポロがいればまた別だが、今の面子で勝てるのか?

 

『三人がギルベルトと交戦中だ――待て、別方向から妙な三人組が出てきた。白い全身甲冑を着込んだ者と、豪勢な装飾を纏う老いた男と、ドラフの少年だ』

「あん?」

 

 俺は怪訝に思って聞き返す。

 

『白い騎士がこちらを見てい――』

「おい?」

『……影分身が倒された。まさか僕の隠密を見破るとは思わなかった』

「……」

 

 レラクルの隠密は一流だ。俺でも気配を察知できないほどである。それを見破るような白い全身甲冑の騎士……まさかな。

 

「おい、レラクル。どっちの方向だ?」

『倒されたのは、リーシャさんとナルメアさんのいる方向だ』

「……チッ。白い騎士と一緒にいた老人の姿について詳しく教えろ」

『銀髪。頭部の耳からエルーンと思われる。鬚を生やしている』

 

 銀髪のエルーンだと? そういえば確かアポロが言ってたな。

 

 ――白騎士は真王の懐刀だと。

 

 クソ、嫌な予感がする。なによりこの会話を聞けるはずのリーシャから応答がないのが厄介だ。

 

「……レラクル。お前は様子を見続けろ。決して本体が戦おうとはするな」

『……了解』

「ゼオ、フラウ、ガイゼンボーガに伝えろ。もしギルベルトが“蒼穹”からも逃げ果せるようなら、連れ去ったヤツを最優先に足止めしろって」

『わかった。団長はどうする?』

「リーシャとナルメアのところへ向かう。お前はさっきの三人組の方を見ていなくていい。……そいつらはヤバい」

『わかっている。気をつけるといい』

「ああ」

 

 俺は彼と通信してから二人がいるはずの地点へと走った。

 その途中で、宝珠が光り始めたので魔力を込めて通信をすぐ開始させる。

 

『こちらリーシャ! 白い騎士にナルメアさんが――きゃぁ!』

「リーシャ!? おい! ……クソッ!」

 

 切羽詰まった声で、すぐに途切れてしまった。……チッ。遅かったか。

 俺は宝珠をポケットにしまい、そして到着する。

 

「……リーシャ、ナルメア」

 

 俺が到着した時には既に決着していた。

 

 白い全身甲冑の騎士に、老いた男性エルーンに、青褪めた様子のドラフの少年。レラクルが発見した三人組だろう。

 そして彼らの近くにはナルメアとリーシャがそれぞれ血塗れで倒れていた。既に意識はないのか、ぴくりとも動く様子がない。

 

 俺は三人を無視して倒れるナルメアへと歩き、息がないことを確認した。抱え上げてリーシャのところに持っていき、彼女も生きていないことを確かめる。

 

「リヴァイブ」

 

 蘇生を二人に使って生き返らせ、ジータの時のように心肺停止状態になっていないかを確認する。

 

「……けほっ、けほっ」

 

 ナルメアの意識はすぐに戻らなかったが、リーシャは咳き込みながら目を開けた。

 

「……あ、れ? 私……」

 

 戸惑う彼女の頬にそっと手を添える。ちゃんと温かい。

 

「……リーシャ。悪いがナルメアを頼む」

「は、はい……」

 

 それだけ伝えると二人から離れて三人を振り返る。

 

「……ああ、クソ。これは無視できねぇなぁ」

 

 吐いた言葉は自分でもわかるくらいに震えていた。……いや、ここまで来たら取り繕う必要もねぇか。

 

「――バニッシュ。とりあえずてめえから死ね」

 

 俺は瞬時に老人の背後に回ると掌を差し向ける。だが俺が存在ごと消去する前に白い籠手が腕を掴みぶん投げられる。身体を捻って着地したところに白騎士が剣を抜いて迫っていた。

 

「邪魔すんなよ」

 

 俺は剣を避けて手を伸ばし、とんと胸部に触れる。ディコトムスにやったのよりもっと強い衝撃へと創り変えて大きく吹っ飛ばしてやった。

 

「聞いた話じゃ白騎士ってのが七曜の騎士最強だったんだが。大したことねぇな。『ジョブ』使ってねぇ俺に避けられるなんてよ」

 

 言いながら、沸々と湧く怒りを抑えようとする。わざと軽い調子で言えばそれに釣られるだろうと思ってのことだ。

 

「御子の代用品か」

 

 そこで男が口を開いた。

 

「あ?」

 

 眉を寄せて聞き返しつつ白騎士から意識は外さない。ヤツはゆっくりと男の隣に戻ってきていた。

 

「御子ですら二人もいるというのに、その上代用品など不要」

 

 男の言葉の意味はよくわからないが、とりあえずバカにされていることだけはわかった。

 

「初対面で代用品だの偉そうな口利いて、あんた友達いないだろ。護衛が一人だなんて随分と疎かだなぁ、真王陛下?」

 

 真王を名乗るヤツはアリアの父親だと聞いた。髪色と種族が一致し七曜の騎士を従えているというのなら間違いないだろう。

 

「代用品にしては、よく調べている」

「……さっきから代用品代用品と神経を逆撫でするヤツだな。自分が殺されようとしてるっていう自覚が足りねぇらしい」

 

 俺は言って、真王と白騎士を襲う無数の剣拓を想像、創造する。が、白騎士が渾身の一振りで全て薙ぎ払ってしまった。アポロより上と考えればまぁ当然か。

 

「そう簡単に倒せるとは思ってねぇが……まぁ倒せねぇとも思わねぇな」

 

 俺は言って、肩に担いでいた革袋を下ろし口を緩めて武器を取り出す。ブルトガングとイクサバだ。

 

「【クリュサオル】」

 

 ClassⅣの『ジョブ』を発動し二つの武器を構えた。

 

「『ジョブ』か。代用品の分際で忌々しいことだ。親子揃って」

「……」

 

 こいつ俺を煽ってきすぎだろ。一周回って冷静になってきたぞ。

 こいつが言っている代用品ってのは、おそらくグランとジータに対する代用品という意味合いだ。生憎あいつらの代わりなんて死んでもご免だしできるとも思っていない。ってことはあの二人が御子と呼ばれている存在ということになる。しかも親子揃ってということは、おそらくクソ親父も俺がグランとジータの代用品であるのと同様に、双子の父親の代用品だったのだろう。とはいえ代わりがそれぞれ務まるかと言われてしまえばノーと答える他ない。つまり完全な互換ではなく役割や能力的な互換と考えられる。とはいえ能力的にもあいつらの代わりなんて俺に務まるわけもねぇが。

 

「……はぁ。呼び名からして偉そうだとは思ってたが、ここまでとはな。真の王を自称するなんて笑わせやがる」

「私はこの空の正統な支配者だ」

 

 自称じゃないってか。

 

「まぁ、そんなのはどうでもいいか。丁度いいところに出会ったんだ、ちょっと聞きたいんだが――なぁ、真王の座ってどうやったらあんたから奪えるんだ?」

 

 俺は喋っていてある程度落ち着けたので、ニヤリと口端を吊り上げて笑った。途端に白騎士が突っ込んでくる。どうやら感情やなんかは見えないが、怒っているらしい。

 

 白騎士の剣を二本の刀剣を交差し受け止める。鍔迫り合いをしながら雷を落として白騎士の身体にダメージを与え、押し返した。直後にもう一発落雷を叩き込み、白騎士に攻め込んでいく。

 

「それは不要だ。始末して良い」

 

 そこに真王が命令を下す。途端に白騎士の動きが加速した。流石に最強の七曜の騎士だけはあって強い。二刀流の片方で受けられる程度の速度に変わり、しかも一撃の重さは両手分なので押し返される。……チッ。真王の命令がなけりゃ本気を出さないってか。忌々しい野郎だ。

 

「言いなりで従順、そんな駒しか扱えねぇようならてめえに上に立つ才能がないって言ってるのと一緒だろうが。上に立つ気があんなら、清濁併せ呑むぐらいしてみろよ。名ばかりの支配者ほど恥ずかしいモノはねぇな」

 

 真王への挑発ではあるが、同時に白騎士の動揺を誘って隙が生まれないかという試みでもある。だが流石にそこまで未熟ではないらしく太刀筋がブレることはなかった。

 本気になったらしい白騎士相手では、俺一人ではキツいらしい。切り結ぶ内に俺の傷がどんどん増えていった。二刀流とワールドの能力の両立による攻撃も、ワールドの能力での攻撃は当たるが大してダメージが入っている様子ではなかった。これは俺の想像力のなさなのか、持っているカードの枚数による低下なのか、それとも向こうの防御力が高いのか。確かなことは言えないがまだまだ課題は多いらしい。

 

「ぐっ……!」

 

 そして、胸当てが切り裂かれて身体まで傷が通ってしまう。怯んだ俺に対し追撃をするためか、剣を左腰に構えて腰を落としていた。白い光が剣に集まっているのが見える。強力な一撃で、俺を消し飛ばすつもりのようだ。

 

「はっ」

 

 俺は笑い、まずイクサバで無双閃を放ち溜めを妨害する。だがそのままの姿勢が耐えられてしまった。これは防御が高いという認識で良さそうだ。無論本命はもう一発の方なので、ダメージが多少あっただけでも儲けモノだろう。

 

 声を発さず、白騎士は溜め込んだ一撃を解き放つ。辺りを白い光が包み視界すら上手く働かなくなる。

 白騎士の一撃に対抗するのは、やはりこれだろう。

 

「――黒鳳刃・月影」

 

 俺は幾度となく身体で受けた黒騎士の一撃を再現する。

 白騎士が放った白い波動に剣を叩きつけると虚空にヒビが入っていき、砕け散ったところで波動を押し返し闇の奔流が放たれる。

 

 黒と白の一撃が鬩ぎ合い、辺りの建物やなんかを吹き飛ばしていく。……だが、これは押されるな。溜めの短さをイクサバの強化で補う形にしたが、多分カードの枚数が少ないことで再現度が低くなってしまったのだろうと思う。アポロが放った奥義なら相殺どころか押し返していたはずだ。

 

「……チッ」

 

 俺は舌打ちして、闇の奔流を押し返した白の波動に呑まれる――前に『ジョブ』を解きバニッシュで()()()()()()()()()。腰に提げている銃を抜き放ち後頭部目がけて即座に引き鉄を引く。が白騎士に突進されたせいで狙いが外れ頭を掠めるだけに留まった。

 

「……この、彼方まで吹っ飛びやがれ」

 

 俺は右手をなんとか白騎士の鎧に当てて、衝撃を増幅させ吹っ飛ばす。想像の中では空にキラーンと光る星と化す予定だったのだが、それでも街並みに突っ込ませる程度に留まった。

 だが突進のせいで肋骨がおそらく逝っている。真王抹殺には失敗するし、今回は負けだな。

 

「……ここで無駄な時間を費やす必要はない。行くぞ」

 

 真王は俺がただでは死なないと思ったのか、白騎士に告げて踵を返した。即座に駆けつけた白騎士も隣に並ぶ。多少ダメージはあるだろうが、まだまだ余裕だろうな。ドラフの少年は少し戸惑っているようだが、俺に勝ち目が薄いことはわかっているのか二人についていこうとする。

 

「おい、あんたがハル様か?」

「えっ?」

 

 俺はそこで、少年に声をかける。驚いたようにこちらを見てきて「は、はい」と頷いてくれた。

 

「なら一つ伝えておく。白風の境にいた連中は全員無事だ。人質に取られてはいない」

「っ……!」

 

 ハルの顔から血色が戻っていた。そして真王が僅かに歩を止める。だが些事と判断したのか何事もなかったかのように歩いていった。

 

「あ、ありがとうございます」

「連中に頼まれてたが、助けてやれなくて悪いな。後で、頼もしいヤツらが行くと思うから勘弁してくれ」

「は、はい」

 

 俺は言って怪我を押し一緒にいる二人の下へ歩く。

 

「ナルメアの様子は?」

「容態は安定しています。意識がないだけで、すぐ目が覚めると思いますよ」

 

 看てくれていたリーシャに尋ねるとそんな答えが返ってきて、ほっとする。

 

「そうか。ならいい。……ったく。こんなところで真王の野郎と出くわすことになるとはな」

「はい……ナルメアさんを不意打ちとはいえ一撃で倒したという動揺もありましたが、あそこまで強いとは思いませんでした」

「俺もあのまま戦ってたら死んでたな。用事があって助かった。とはいえ、このままじゃ終われねぇよな」

「はい。私も、不甲斐ないままで終わる気はありません」

「そう言えるならそれでいい」

 

 俺はよしよしとリーシャの頭を撫でてやる。

 

「な、なにするんですか?」

「いや、お前真面目だから『手も足も出ず殺されるなんて……』とかって悩みそうだったし」

「……」

「だからそうやって次に繋げられるのはいい変化だなって思ってな」

「……そ、そうですか」

 

 素直に褒めたからかリーシャは照れたように頬を染めている。

 

「……ん、うぅ」

 

 そこでナルメアが呻き目を薄っすらと開ける。と、一度開いてからもう一度目を閉じてしまった。

 

「……ダナンちゃんの撫で撫でがないとお姉さんは目覚めません」

「ふざけてる場合かよ」

 

 仕方のないヤツだった。頭を撫でてやってきちんと体温があることを確認する。

 

「ごめんね、ダナンちゃん。お姉さん、ダナンちゃんのために強くなろうと思ってたのに」

「気にすんな。今回は相手が悪かった。と言ってられない可能性もあるし、これから頑張ればいいだろ」

「うん」

 

 しかしナルメアの不意を突けるとはな。レラクルの影分身を見破ったこともあるが、真っ向からの戦闘も強いが搦め手も得意なのかもしれない。

 

「立てるなら行くぞ。あいつらと合流してギルベルトがどうなったかを聞かねぇと」

 

 言って、二人を連れ自分の回復をし移動を始めるのだった。




リヴァイブができるからと言って二人も殺させてしまった……。
ナルメアは魔改造フラグが立っているというのに。

まぁでも、白騎士は多分それくらいの強敵です。

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